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聖女の旅路

第十三章第21話 アーユトール寺院

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 翌日、私たちはシーナさんの案内でアーユトール寺院にやってきた。ここはなんと、ホワイトムーン王国の王都にある神殿と同じように職業を授かることができるらしい。

 首都でもないのにと疑問に思ったのだが、グリーンクラウド王国には職業を授かることができる神殿が合計で五つあるとのことで、これは五つの国が合併した名残なのだそうだ。

 さて、そんな由緒正しい寺院の門の前ではオレンジ色っぽい黄色の布を体に巻きつけたお坊さんたちが私たちを出迎えてくれた。そのうちの一人がものすごくご高齢で、歩くのも辛そうな様子だ。

 するとシーナさんがその彼を紹介してくれる。

「聖女様、こちらがアーユトール寺院の住職、ルーウォン師です」
「はじめまして。フィーネ・アルジェンタータです」
「ルーウォンと申します。ようこそ、アーユトール寺院へお越しくださいました」

 ルーウォンさんはゆっくりとだが、はっきりとした声で自己紹介をしてくれた。

「さあ、どうぞお入りください」

 ルーウォンさんはやや覚束ない足取りで中へと私たちを案内してくれる。

 寺院の中に入り、最初に目に飛び込んできたのはやたらと金ぴかな尖塔だ。

 お寺というともっとこう、木造でわびさびといった雰囲気を想像していたのだが、どうやらここはそうでもないらしい。

「さあ、段差がありますのでお気を付けください」
「ありがとうございます」

 そう答えたものの、ルーウォンさんが転ばないかのほうが心配だ。周囲のお坊さんたちも心配そうに傍に控えている。

 ひやひやしながら建物の中に入ると、見るからに古そうな壁画が描かれていた。

「……これは四龍王の伝説でしょうか?」
「はい。おっしゃるとおりです。こちらの絵が当時の聖女様を現しております」

 ルーウォンさんの指し示した先には女性らしき絵が描かれているのだが……。

 ええと、どうしてエルフのように耳が尖っているのだろうか?

「あの、当時の聖女様はエルフだったのですか?」

 そう尋ねると、ルーウォンさんもシーナさんも不思議そうな表情でこちらを見てきた。

「そのような話は伝わっておりません。どうしてそう思われたのですか?」
「え? だって、耳が少し尖っているように見えませんか?」

 するとルーウォンさんたちはじっと壁画に描かれた聖女の姿をじっとみる。

「……言われてみれば、そのような気もいたしますね」

 あれれ? どういうこと?

「フィーネ様には尖って見えるのでしょうか?」
「え? クリスさん?」

 振り返ると、クリスさんたちも不思議そうな表情で私のほうを見ている。

 うーん? どういうことだろう?

「私には尖っているように見えるんですが……」

 私がそう答えると、クリスさんたちは困惑したような表情で壁画を見ている。

 ルーちゃんに視線を送るが、ルーちゃんは黙って首を横に振った。どうやら精霊に関係があるというわけでもなさそうだ。

「そうでしたか。聖女様、この壁画は大変古いものです。ですから聖女様だけに見える何か特別な魔法が掛かっているのかもしれませんね」

 ルーウォンさんがゆっくりと穏やかな声でそう言うと、他のお坊さんたちは納得した様子だった。

 うーん? そういうものがあってもおかしくはないが、なんのためにこんな仕掛けがあるのだろうか?

「……当時の聖女がエルフだったとすると、秘匿したい理由があったということでござるか? いや、だとするとなぜフィーネ殿にだけは見えているのでござろうな?」

 シズクさんが難しい表情でそんなことをつぶやいている。

 たしかに疑問ではあるが、シズクさんでも分からないなら仕方がない。

 そのまま壁画の描かれた廊下を進み、私たちは豪華な装飾が施された黄金の祭壇のある部屋へとやってきた。その祭壇の一番上には緑色のガラスでできたあのハゲが鎮座している。そしてこのハゲだが、なんとも豪華な黄金の服を着ている。

「あちらは、ヒスイで作られた我らが神の像でございます」
「あ、はい。そっくりですね」
「「「えっ!?」」」

 私の返事にシーナさんたちが驚きの声を上げる。

「ええとですね。実はこの神様には私が聖女になったときに会ったことがありまして……」
「なんと! 神のお姿をご覧になられカハッ」
「ルーウォン師!」

 興奮しすぎたせいか、ルーウォンさんが苦しそうにしゃがみこんでしまった。

「ああ、ええと、大丈夫ですよ」

 私は鎮静魔法で落ち付けてあげた。するとすぐにルーウォンさんの顔色がみるみる良くなっていく。

「ああ! ルーウォン師! 良かった!」
「聖女様!」
「「「「ありがとうございます!」」」」

 シーナさんとお坊さんたちは口々に私にお礼を言ってくる。

「当然のことをしただけです。それよりも、ルーウォンさんを安静にしてあげてください」
「ははっ!」

 お坊さんたちは大げさに私に向かって頭を下げるのだった。
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