594 / 625
聖女の旅路
第十三章第21話 アーユトール寺院
しおりを挟む
翌日、私たちはシーナさんの案内でアーユトール寺院にやってきた。ここはなんと、ホワイトムーン王国の王都にある神殿と同じように職業を授かることができるらしい。
首都でもないのにと疑問に思ったのだが、グリーンクラウド王国には職業を授かることができる神殿が合計で五つあるとのことで、これは五つの国が合併した名残なのだそうだ。
さて、そんな由緒正しい寺院の門の前ではオレンジ色っぽい黄色の布を体に巻きつけたお坊さんたちが私たちを出迎えてくれた。そのうちの一人がものすごくご高齢で、歩くのも辛そうな様子だ。
するとシーナさんがその彼を紹介してくれる。
「聖女様、こちらがアーユトール寺院の住職、ルーウォン師です」
「はじめまして。フィーネ・アルジェンタータです」
「ルーウォンと申します。ようこそ、アーユトール寺院へお越しくださいました」
ルーウォンさんはゆっくりとだが、はっきりとした声で自己紹介をしてくれた。
「さあ、どうぞお入りください」
ルーウォンさんはやや覚束ない足取りで中へと私たちを案内してくれる。
寺院の中に入り、最初に目に飛び込んできたのはやたらと金ぴかな尖塔だ。
お寺というともっとこう、木造でわびさびといった雰囲気を想像していたのだが、どうやらここはそうでもないらしい。
「さあ、段差がありますのでお気を付けください」
「ありがとうございます」
そう答えたものの、ルーウォンさんが転ばないかのほうが心配だ。周囲のお坊さんたちも心配そうに傍に控えている。
ひやひやしながら建物の中に入ると、見るからに古そうな壁画が描かれていた。
「……これは四龍王の伝説でしょうか?」
「はい。おっしゃるとおりです。こちらの絵が当時の聖女様を現しております」
ルーウォンさんの指し示した先には女性らしき絵が描かれているのだが……。
ええと、どうしてエルフのように耳が尖っているのだろうか?
「あの、当時の聖女様はエルフだったのですか?」
そう尋ねると、ルーウォンさんもシーナさんも不思議そうな表情でこちらを見てきた。
「そのような話は伝わっておりません。どうしてそう思われたのですか?」
「え? だって、耳が少し尖っているように見えませんか?」
するとルーウォンさんたちはじっと壁画に描かれた聖女の姿をじっとみる。
「……言われてみれば、そのような気もいたしますね」
あれれ? どういうこと?
「フィーネ様には尖って見えるのでしょうか?」
「え? クリスさん?」
振り返ると、クリスさんたちも不思議そうな表情で私のほうを見ている。
うーん? どういうことだろう?
「私には尖っているように見えるんですが……」
私がそう答えると、クリスさんたちは困惑したような表情で壁画を見ている。
ルーちゃんに視線を送るが、ルーちゃんは黙って首を横に振った。どうやら精霊に関係があるというわけでもなさそうだ。
「そうでしたか。聖女様、この壁画は大変古いものです。ですから聖女様だけに見える何か特別な魔法が掛かっているのかもしれませんね」
ルーウォンさんがゆっくりと穏やかな声でそう言うと、他のお坊さんたちは納得した様子だった。
うーん? そういうものがあってもおかしくはないが、なんのためにこんな仕掛けがあるのだろうか?
「……当時の聖女がエルフだったとすると、秘匿したい理由があったということでござるか? いや、だとするとなぜフィーネ殿にだけは見えているのでござろうな?」
シズクさんが難しい表情でそんなことを呟いている。
たしかに疑問ではあるが、シズクさんでも分からないなら仕方がない。
そのまま壁画の描かれた廊下を進み、私たちは豪華な装飾が施された黄金の祭壇のある部屋へとやってきた。その祭壇の一番上には緑色のガラスでできたあのハゲが鎮座している。そしてこのハゲだが、なんとも豪華な黄金の服を着ている。
「あちらは、ヒスイで作られた我らが神の像でございます」
「あ、はい。そっくりですね」
「「「えっ!?」」」
私の返事にシーナさんたちが驚きの声を上げる。
「ええとですね。実はこの神様には私が聖女になったときに会ったことがありまして……」
「なんと! 神のお姿をご覧になられカハッ」
「ルーウォン師!」
興奮しすぎたせいか、ルーウォンさんが苦しそうにしゃがみこんでしまった。
「ああ、ええと、大丈夫ですよ」
私は鎮静魔法で落ち付けてあげた。するとすぐにルーウォンさんの顔色がみるみる良くなっていく。
「ああ! ルーウォン師! 良かった!」
「聖女様!」
「「「「ありがとうございます!」」」」
シーナさんとお坊さんたちは口々に私にお礼を言ってくる。
「当然のことをしただけです。それよりも、ルーウォンさんを安静にしてあげてください」
「ははっ!」
お坊さんたちは大げさに私に向かって頭を下げるのだった。
首都でもないのにと疑問に思ったのだが、グリーンクラウド王国には職業を授かることができる神殿が合計で五つあるとのことで、これは五つの国が合併した名残なのだそうだ。
さて、そんな由緒正しい寺院の門の前ではオレンジ色っぽい黄色の布を体に巻きつけたお坊さんたちが私たちを出迎えてくれた。そのうちの一人がものすごくご高齢で、歩くのも辛そうな様子だ。
するとシーナさんがその彼を紹介してくれる。
「聖女様、こちらがアーユトール寺院の住職、ルーウォン師です」
「はじめまして。フィーネ・アルジェンタータです」
「ルーウォンと申します。ようこそ、アーユトール寺院へお越しくださいました」
ルーウォンさんはゆっくりとだが、はっきりとした声で自己紹介をしてくれた。
「さあ、どうぞお入りください」
ルーウォンさんはやや覚束ない足取りで中へと私たちを案内してくれる。
寺院の中に入り、最初に目に飛び込んできたのはやたらと金ぴかな尖塔だ。
お寺というともっとこう、木造でわびさびといった雰囲気を想像していたのだが、どうやらここはそうでもないらしい。
「さあ、段差がありますのでお気を付けください」
「ありがとうございます」
そう答えたものの、ルーウォンさんが転ばないかのほうが心配だ。周囲のお坊さんたちも心配そうに傍に控えている。
ひやひやしながら建物の中に入ると、見るからに古そうな壁画が描かれていた。
「……これは四龍王の伝説でしょうか?」
「はい。おっしゃるとおりです。こちらの絵が当時の聖女様を現しております」
ルーウォンさんの指し示した先には女性らしき絵が描かれているのだが……。
ええと、どうしてエルフのように耳が尖っているのだろうか?
「あの、当時の聖女様はエルフだったのですか?」
そう尋ねると、ルーウォンさんもシーナさんも不思議そうな表情でこちらを見てきた。
「そのような話は伝わっておりません。どうしてそう思われたのですか?」
「え? だって、耳が少し尖っているように見えませんか?」
するとルーウォンさんたちはじっと壁画に描かれた聖女の姿をじっとみる。
「……言われてみれば、そのような気もいたしますね」
あれれ? どういうこと?
「フィーネ様には尖って見えるのでしょうか?」
「え? クリスさん?」
振り返ると、クリスさんたちも不思議そうな表情で私のほうを見ている。
うーん? どういうことだろう?
「私には尖っているように見えるんですが……」
私がそう答えると、クリスさんたちは困惑したような表情で壁画を見ている。
ルーちゃんに視線を送るが、ルーちゃんは黙って首を横に振った。どうやら精霊に関係があるというわけでもなさそうだ。
「そうでしたか。聖女様、この壁画は大変古いものです。ですから聖女様だけに見える何か特別な魔法が掛かっているのかもしれませんね」
ルーウォンさんがゆっくりと穏やかな声でそう言うと、他のお坊さんたちは納得した様子だった。
うーん? そういうものがあってもおかしくはないが、なんのためにこんな仕掛けがあるのだろうか?
「……当時の聖女がエルフだったとすると、秘匿したい理由があったということでござるか? いや、だとするとなぜフィーネ殿にだけは見えているのでござろうな?」
シズクさんが難しい表情でそんなことを呟いている。
たしかに疑問ではあるが、シズクさんでも分からないなら仕方がない。
そのまま壁画の描かれた廊下を進み、私たちは豪華な装飾が施された黄金の祭壇のある部屋へとやってきた。その祭壇の一番上には緑色のガラスでできたあのハゲが鎮座している。そしてこのハゲだが、なんとも豪華な黄金の服を着ている。
「あちらは、ヒスイで作られた我らが神の像でございます」
「あ、はい。そっくりですね」
「「「えっ!?」」」
私の返事にシーナさんたちが驚きの声を上げる。
「ええとですね。実はこの神様には私が聖女になったときに会ったことがありまして……」
「なんと! 神のお姿をご覧になられカハッ」
「ルーウォン師!」
興奮しすぎたせいか、ルーウォンさんが苦しそうにしゃがみこんでしまった。
「ああ、ええと、大丈夫ですよ」
私は鎮静魔法で落ち付けてあげた。するとすぐにルーウォンさんの顔色がみるみる良くなっていく。
「ああ! ルーウォン師! 良かった!」
「聖女様!」
「「「「ありがとうございます!」」」」
シーナさんとお坊さんたちは口々に私にお礼を言ってくる。
「当然のことをしただけです。それよりも、ルーウォンさんを安静にしてあげてください」
「ははっ!」
お坊さんたちは大げさに私に向かって頭を下げるのだった。
0
お気に入りに追加
434
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
余命2か月なので、好きに生きさせていただきます
青の雀
恋愛
公爵令嬢ジャクリーヌは、幼い時に母を亡くし、父の再婚相手とその連れ子の娘から、さんざんイジメられていた。婚約者だった第1王子様との仲も引き裂かれ、連れ子の娘が後釜に落ち着いたのだ。
ここの所、体調が悪く、学園の入学に際し、健康診断を受けに行くと、母と同じ病気だと言われ、しかも余命2か月!
驚いてショックのあまり、その場にぶっ倒れてしまったのだが、どういうわけか前世の記憶を取り戻してしまったのだ。
前世、社畜OLだった美咲は、会社の健康診断に引っかかり、そのまま緊急入院させられることになったのだが、その時に下された診断が余命2日というもの。
どうやって死んだのかわからないが、おそらく2日間も持たなかったのだろう。
あの時の無念を思い、今世こそは、好き放題、やりたい放題して2か月という命を全うしてやる!と心に決める。
前世は、余命2日と言われ、絶望してしまったが、何もやりたいこともできずに、その余裕すら与えられないまま死ぬ羽目になり、未練が残ったまま死んだから、また転生して、今度は2か月も余命があるのなら、今までできなかったことを思い切りしてから、この世を去れば、2度と弱いカラダとして生まれ変わることがないと思う。
アナザーライト公爵家は、元来、魔力量、マナ量ともに多い家柄で、開国以来、王家に仕え、公爵の地位まで上り詰めてきた家柄なのだ。でもジャクリーヌの母とは、一人娘しか生まれず、どうしても男の子が欲しかった父は、再婚してしまうが、再婚相手には、すでに男女の双子を持つ年上のナタリー夫人が選ばれた。
ジャクリーヌが12歳の時であった。ナタリー夫人の連れ子マイケルに魔法の手ほどきをするが、これがまったくの役立たずで、基礎魔法の素養もない。
こうなれば、ジャクリーヌに婿を取り、アナザーライト家を存続させなければ、ご先祖様に顔向けができない。
ジャクリーヌが学園に入った年、どういうわけか父アナザーライト公爵が急死してしまう。家督を継ぐには、直系の人間でなければ、継げない。兄のマイケルは、ジャクリーヌと結婚しようと画策するが、いままで、召使のごとくこき使われていたジャクリーヌがOKするはずもない。
余命2か月と知ってから、ジャクリーヌが家督を継ぎ、継母とその連れ子を追い出すことから始める。
好き勝手にふるまっているうちに、運命が変わっていく
Rは保険です
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない
当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。
だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。
「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」
こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!!
───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。
「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」
そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。
ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。
彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。
一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。
※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる