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人と魔物と魔王と聖女
第九章第14話 魔物の耕す畑
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2021/07/08 誤字を修正しました
=========
私の顔をべとべとにしたハスキーのようなワンちゃんは舌を出し、「はっはっはっ」と息をしながら私を見上げてくる。
「ええと、こんにちは」
「ワン!」
元気よく返事をしてくれたが喋る様子はない。
あれ? この子は喋れないのかな?
「そいつ、話すことはできないんだワン」
「初めのころだったから喋れるようにはならなかったんだバウ」
どうやら顔に出ていたらしい。喋るほうのワンちゃんたちがそう教えてくれた。
「初めのころ、ですか?」
「そうだワン。ボクたちはベルード様に喋れるようにしてもらったんだワン」
「え?」
ベルード!?
ベルードて、もしかしてシルツァの里の近くで瘴気に飲み込まれた村であったあの魔族の剣士のこと?
「お客さんはベルード様を知っているワン?」
「そのベルードが暗い灰色の長髪で、赤みがかった黒い瞳をした魔族の剣士だったら会ったことがありますね」
「それはベルード様だワン。じゃあ、お客さんはベルード様のお友達なんだワン」
「い、いえ。友達と言うわけでは……」
どちらかというとあまり会いたくない相手かもしれない。
私にとってベルードは突然キレる危ないやつという印象しかないのだ。
そりゃあ、適当に詠唱をしたからびっくりしたのかもしれないけどさ。でも、いきなりキレて頭ごなしに怒鳴りつけてくる人、いや魔族は遠慮したい。
「でも、ベルード様の知り合いなら大事なお客さんだワン」
「そうだバウ」
「はぁ」
そんな私をよそに普通の狼っぽいワンちゃんたちは話を進めていく。
「町長のアイリス様は忙しくていつもいないんだワン。だから留守の間はボクたちが守ってるんだワン」
「はぁ」
ベルードの他にアイリスという知らない名前が出てきた。
なるほど。どうやらアイリスタウンというのは町長の名前から取ったのだろう。
魔物の集落、じゃなかった町の町長をしているということはやはり魔族なのだろうか?
「町を案内するんだワン」
「するんだバウ」
「くぅーんくぅーん」
「ええと、よろしくお願いしますね?」
こうして私は三匹のワンちゃんに案内されて村を回ることになったのだった。
◆◇◆
一通り案内されたが、どうやらこの町は山の上から見たのが全景だったらしい。木造の簡素な家が十軒並んだだけの小さな町だ。
規模で考えれば村か集落かといった感じだが、彼らは町といっているので町なのだろう。
それと気になっていた畑なのだが、どうやら彼らは作物を育てようと頑張っているもののうまくいっていないらしい。
だが植物のことであればリーチェの出番だ。リーチェはそばにいるだけでも作物に良い影響を与えるのだから、きっと問題を解決できるはずだ。
それに瘴気の影響があったとしてもそれを取り除くことができる。
そう考えた私は畑の手伝いを申し出た。
するとワンちゃんたちは二つ返事で了承してくれ、頑張って作業をしているという畑に案内してもらえた。
「ここだワン」
「頑張っているけどうまくいかないバウ」
連れてこられた畑では何匹かの魔物たちが働いているようだ。
ミミズにしては大きな魔物、私の太ももくらいの背丈のゴブリン、私の腰くらいの高さのジャイアントポイズントード、私の顔くらいの大きさのバッタの魔物、さらに私の腰くらいの高さのトレントまでいる。
トレントには殺されかけているのでやや恐怖はあるが、ここのトレントは襲ってくるようなことはなさそうだ。
「ワンワン。お客さんが来たんだワン。ベルード様のお友達で、畑に詳しいらしいワン」
「ゴブ? それは頼もしいゴブ」
「こんにちは。フィーネ・アルジェンタータです。ここでは何を育てているんですか?」
「芋ゴブ。でも、うまくいかないんゴブ」
どうやらこの小さいゴブリンがこの畑のリーダーらしい。
「はあ。じゃあ、まずは皆さんがどんなことをしているのかを教えてくれますか?」
「ズー。ぼくは畑を耕す係なんだズー」
ミミズの魔物が元気よく答えてくれた。
語尾のズーはどうかと思うが、ミミズが畑を耕せばさぞかし栄養たっぷりの良い畑になりそうな気がする。
「ゴブ! ゴブは種芋を植える係ゴブ!」
なるほど。小さなリーダーは種蒔き係らしい。たしかに両手の使えるゴブリンがミミズの耕した畑に種芋を植えるのは正しい気がする。
「ゲコ。オレは水をあげる係ゲコ」
そう答えたのは小さいジャイアントポイズントードだ。ええと、カエルは両生類だからってことかな?
「見るゲコ!」
そういってジャイアントポイズントードは口から毒液を吐き出すと畑に撒き散らした。
「あ……」
「どうゲコ? 完璧ゲコ?」
「ええぇ」
たしか、ジャイアントポイズントードの毒液って周りの植物を枯らしていなかったっけ?
「次はオイラだピョン。ボクの役目は生えてきた芽を食べることだピョン」
「は?」
「人間は、余計な葉っぱを切るって聞いたピョン。だからオイラが食べるんだピョン」
「ええぇ」
ええと、全部食べちゃダメなのでは?
「最後はオレッチだっち」
そう言って小さなトレントがとことこと歩み出てきた。どうにも嫌な予感しかない。
「オレッチは畑の養分を吸う係だっち」
「……」
ああ。やっぱり……。
「ええと、どうして養分を吸ってるんですか?」
「オレッチも作物を育てるっち。でも何をしたら良いかわからないから養分を吸うっち!」
「ええぇ」
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私の顔をべとべとにしたハスキーのようなワンちゃんは舌を出し、「はっはっはっ」と息をしながら私を見上げてくる。
「ええと、こんにちは」
「ワン!」
元気よく返事をしてくれたが喋る様子はない。
あれ? この子は喋れないのかな?
「そいつ、話すことはできないんだワン」
「初めのころだったから喋れるようにはならなかったんだバウ」
どうやら顔に出ていたらしい。喋るほうのワンちゃんたちがそう教えてくれた。
「初めのころ、ですか?」
「そうだワン。ボクたちはベルード様に喋れるようにしてもらったんだワン」
「え?」
ベルード!?
ベルードて、もしかしてシルツァの里の近くで瘴気に飲み込まれた村であったあの魔族の剣士のこと?
「お客さんはベルード様を知っているワン?」
「そのベルードが暗い灰色の長髪で、赤みがかった黒い瞳をした魔族の剣士だったら会ったことがありますね」
「それはベルード様だワン。じゃあ、お客さんはベルード様のお友達なんだワン」
「い、いえ。友達と言うわけでは……」
どちらかというとあまり会いたくない相手かもしれない。
私にとってベルードは突然キレる危ないやつという印象しかないのだ。
そりゃあ、適当に詠唱をしたからびっくりしたのかもしれないけどさ。でも、いきなりキレて頭ごなしに怒鳴りつけてくる人、いや魔族は遠慮したい。
「でも、ベルード様の知り合いなら大事なお客さんだワン」
「そうだバウ」
「はぁ」
そんな私をよそに普通の狼っぽいワンちゃんたちは話を進めていく。
「町長のアイリス様は忙しくていつもいないんだワン。だから留守の間はボクたちが守ってるんだワン」
「はぁ」
ベルードの他にアイリスという知らない名前が出てきた。
なるほど。どうやらアイリスタウンというのは町長の名前から取ったのだろう。
魔物の集落、じゃなかった町の町長をしているということはやはり魔族なのだろうか?
「町を案内するんだワン」
「するんだバウ」
「くぅーんくぅーん」
「ええと、よろしくお願いしますね?」
こうして私は三匹のワンちゃんに案内されて村を回ることになったのだった。
◆◇◆
一通り案内されたが、どうやらこの町は山の上から見たのが全景だったらしい。木造の簡素な家が十軒並んだだけの小さな町だ。
規模で考えれば村か集落かといった感じだが、彼らは町といっているので町なのだろう。
それと気になっていた畑なのだが、どうやら彼らは作物を育てようと頑張っているもののうまくいっていないらしい。
だが植物のことであればリーチェの出番だ。リーチェはそばにいるだけでも作物に良い影響を与えるのだから、きっと問題を解決できるはずだ。
それに瘴気の影響があったとしてもそれを取り除くことができる。
そう考えた私は畑の手伝いを申し出た。
するとワンちゃんたちは二つ返事で了承してくれ、頑張って作業をしているという畑に案内してもらえた。
「ここだワン」
「頑張っているけどうまくいかないバウ」
連れてこられた畑では何匹かの魔物たちが働いているようだ。
ミミズにしては大きな魔物、私の太ももくらいの背丈のゴブリン、私の腰くらいの高さのジャイアントポイズントード、私の顔くらいの大きさのバッタの魔物、さらに私の腰くらいの高さのトレントまでいる。
トレントには殺されかけているのでやや恐怖はあるが、ここのトレントは襲ってくるようなことはなさそうだ。
「ワンワン。お客さんが来たんだワン。ベルード様のお友達で、畑に詳しいらしいワン」
「ゴブ? それは頼もしいゴブ」
「こんにちは。フィーネ・アルジェンタータです。ここでは何を育てているんですか?」
「芋ゴブ。でも、うまくいかないんゴブ」
どうやらこの小さいゴブリンがこの畑のリーダーらしい。
「はあ。じゃあ、まずは皆さんがどんなことをしているのかを教えてくれますか?」
「ズー。ぼくは畑を耕す係なんだズー」
ミミズの魔物が元気よく答えてくれた。
語尾のズーはどうかと思うが、ミミズが畑を耕せばさぞかし栄養たっぷりの良い畑になりそうな気がする。
「ゴブ! ゴブは種芋を植える係ゴブ!」
なるほど。小さなリーダーは種蒔き係らしい。たしかに両手の使えるゴブリンがミミズの耕した畑に種芋を植えるのは正しい気がする。
「ゲコ。オレは水をあげる係ゲコ」
そう答えたのは小さいジャイアントポイズントードだ。ええと、カエルは両生類だからってことかな?
「見るゲコ!」
そういってジャイアントポイズントードは口から毒液を吐き出すと畑に撒き散らした。
「あ……」
「どうゲコ? 完璧ゲコ?」
「ええぇ」
たしか、ジャイアントポイズントードの毒液って周りの植物を枯らしていなかったっけ?
「次はオイラだピョン。ボクの役目は生えてきた芽を食べることだピョン」
「は?」
「人間は、余計な葉っぱを切るって聞いたピョン。だからオイラが食べるんだピョン」
「ええぇ」
ええと、全部食べちゃダメなのでは?
「最後はオレッチだっち」
そう言って小さなトレントがとことこと歩み出てきた。どうにも嫌な予感しかない。
「オレッチは畑の養分を吸う係だっち」
「……」
ああ。やっぱり……。
「ええと、どうして養分を吸ってるんですか?」
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「ええぇ」
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