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動乱の故郷
第六章第13話 王都へ
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翌日、私たちは乗合馬車を使って王都を目指すこととなった。カポトリアス辺境伯爵が騎士団で護送してくれると申し出てくれたのだが私たちはそれを固辞した。
断った理由は政治的なもので、私たちがカポトリアス辺境伯爵の庇護下にあると思わせないためだ。それに、護衛騎士としてニコラくんがついてきそうになったのだ。
いくらなんでも 9 歳の子供に守られるほど私たちは弱くないし、どちらかと言えばニコラくんを私たちが守る側だ。
ただ、乗合馬車に乗っているもののその馬車の周りと前後を第五騎士団の皆さんが固めている。名目上は、魔王警報が準警報へと引き上げられたため、街道を走る馬車の安全を守るため、と言うことになっているが実際は私たちの護衛という事なのだろう。
正直そこまでしなくても、とは思うのだが帰れというわけにもいかない。
なんとなく居心地の悪い思いをしながらも私たちは馬車に揺られるのだった。
****
そしてサマルカを出て二度目の峠を越えたところで私たちの乗った馬車は止めらることとなった。
「第五騎士団の諸君、王命により聖女フィーネ・アルジェンタータ様の護送は我々近衛騎士団が責任を持って引き継ぐ」
そうするとこれまで護衛してくれた皆さんも何か敬礼をして引継の儀式のようなことをしている。
「フィーネ様、近衛騎士団がここまで迎えに来るということはまずあり得ません。これは何かあったようです」
「そうなんですか?」
「はい。近衛騎士団の任務は王族と王城、そして要人の警護です。つまり、近衛騎士団は国王陛下とその家族のための騎士団で、王都から出てくることはまずあり得ません」
なるほど。まだまだ王都までは遠いわけだし、確かにそれは異常事態かもしれない。
そんな話をしていると、近衛騎士団の人がこちらへとやってきて跪いた。
「聖女様、国王陛下の命によりお迎えに参上いたしました。近衛騎士団第三護送隊隊長リシャール・ドゥ・フルニエールと申します」
「フィーネ・アルジェンタータです。お勤めご苦労様です」
「それではこちらへ。王都まで我々の馬車にてお送りいたします」
「ありがとうございます」
私はクリスさんのエスコートで馬車を降りるとそのまま手を引かれて近衛騎士団の用意した馬車へと向かう。
正直、誰かの助けを借りなくても馬車は降りられるし自分で歩けるわけだがそういうのが、こういう場ではこれがマナーなのだそうだ。
「そういえば、クリスさんも近衛騎士団でしたっけ?」
「はい。所属はそういうことになっております」
「あの人に敬礼しなくて良いんですか? 隊長ってことは同じ騎士団の偉い人なんじゃないんですか?」
「必要ありません。私はホワイトムーン王国の騎士である前にフィーネ様の騎士です。古来より、聖騎士は聖女にその剣を捧げると決まっており、主を選んだ時点で国を離れるのが習わしです。その私たちを王国に残すために作られたのが近衛騎士団の特務部隊です。特務部隊は国王陛下の命を受けて独自の裁量で自由に行動する独立した騎士の集まりです。ですので私は騎士団の階級社会の外側におります。私が膝をつく必要があるのはフィーネ様以外ですと王族、教皇猊下、そしてシャルロット様に対してのみです」
「そうだったんですね。クリスさん、実は偉かったんですね!」
「……フィーネ様のほうが上なのですよ?」
私が感動してそう言うと、クリスさんに呆れたような表情でそう返されてしまった。
なるほど、確かにクリスさんの主という事になっているし、それに帝国でも皇帝と対等と言われたもんね。
そうか、私、実は偉かったのか。はぁ。階級社会って面倒くさいね。みんな平等のほうが楽でいいと思うんだけどなぁ。
「さ、フィーネ様」
私はクリスさんにエスコートされてホワイトムーン王国の王家の紋章があしらわれた豪華な馬車に乗り込む。先ほどまでの乗合馬車と比べてクッションもふかふかだし内装も豪華だ。
ルーちゃんが何度も座席の上でお尻で跳ねてはクッションの柔らかさを確かめている。
そうこうしているうちに馬車がゆっくりと動き出した。さすが、王家の紋章のついた VIP 用の馬車だ。座席のクッションがしっかりしているおかげもあるが、全体的にスムーズで振動が少なく随分と快適だ。
「王都まではあとどのくらいなんですか?」
「大体一週間といったところでしょう。この先にセムノスという大きな港町があります。そこを出ますとフィーネ様も一度馬車でお通りになった道となります」
「そうなんですか?」
「はい。セムノスの先でザラビアから王都へ向かう街道と合流いたします」
うん? ザラビア? どこだっけ?
そう思っていると表情を読まれてクリスさんが説明してくれた。
「フィーネ様、お忘れかもしれませんがザラビアというのはフィーネ様がシュヴァルツを退治なさってから最初にご逗留された港町で、マッシルーム子爵の治めております」
「え? あ、ああ、ええと、はい。もちろん覚えていますよ。はい」
うん。あの腹筋を殺しに来たキノコ子爵のね。
あ、ヤバい。ちょっと思い出したら笑いがこみあげてきそうに……
「あれ? 姉さまなんで俯いているんですかっ? お腹でもすいたんですか?」
「……いえ……そう、では……なくっ、う、くく」
その様子を見ていたルーちゃんが私の脇腹をつついてきた。
「ぶふっ」
私はこらえきれずに吹き出してしまった。
「あー、なんだかよく分からないけど我慢してましたねっ? えいっ」
「ちょ、ルーちゃん、あは、あははは、ちょ、まって――」
しかし私の必死の抗議も空しくルーちゃんに脇腹攻撃は苛烈さを増していく。
「えいっ、えいっ」
「あ、はは、くふふっ、ちょ、ちょっと、クリスさん! たすけっ、あはは」
「ルミア、ほどほどにな」
「はーいっ」
そんな私たちをシズクさんは微笑ましい物でも見るかのような目で見ていたのだった。
お願いだから助けてよっ!
断った理由は政治的なもので、私たちがカポトリアス辺境伯爵の庇護下にあると思わせないためだ。それに、護衛騎士としてニコラくんがついてきそうになったのだ。
いくらなんでも 9 歳の子供に守られるほど私たちは弱くないし、どちらかと言えばニコラくんを私たちが守る側だ。
ただ、乗合馬車に乗っているもののその馬車の周りと前後を第五騎士団の皆さんが固めている。名目上は、魔王警報が準警報へと引き上げられたため、街道を走る馬車の安全を守るため、と言うことになっているが実際は私たちの護衛という事なのだろう。
正直そこまでしなくても、とは思うのだが帰れというわけにもいかない。
なんとなく居心地の悪い思いをしながらも私たちは馬車に揺られるのだった。
****
そしてサマルカを出て二度目の峠を越えたところで私たちの乗った馬車は止めらることとなった。
「第五騎士団の諸君、王命により聖女フィーネ・アルジェンタータ様の護送は我々近衛騎士団が責任を持って引き継ぐ」
そうするとこれまで護衛してくれた皆さんも何か敬礼をして引継の儀式のようなことをしている。
「フィーネ様、近衛騎士団がここまで迎えに来るということはまずあり得ません。これは何かあったようです」
「そうなんですか?」
「はい。近衛騎士団の任務は王族と王城、そして要人の警護です。つまり、近衛騎士団は国王陛下とその家族のための騎士団で、王都から出てくることはまずあり得ません」
なるほど。まだまだ王都までは遠いわけだし、確かにそれは異常事態かもしれない。
そんな話をしていると、近衛騎士団の人がこちらへとやってきて跪いた。
「聖女様、国王陛下の命によりお迎えに参上いたしました。近衛騎士団第三護送隊隊長リシャール・ドゥ・フルニエールと申します」
「フィーネ・アルジェンタータです。お勤めご苦労様です」
「それではこちらへ。王都まで我々の馬車にてお送りいたします」
「ありがとうございます」
私はクリスさんのエスコートで馬車を降りるとそのまま手を引かれて近衛騎士団の用意した馬車へと向かう。
正直、誰かの助けを借りなくても馬車は降りられるし自分で歩けるわけだがそういうのが、こういう場ではこれがマナーなのだそうだ。
「そういえば、クリスさんも近衛騎士団でしたっけ?」
「はい。所属はそういうことになっております」
「あの人に敬礼しなくて良いんですか? 隊長ってことは同じ騎士団の偉い人なんじゃないんですか?」
「必要ありません。私はホワイトムーン王国の騎士である前にフィーネ様の騎士です。古来より、聖騎士は聖女にその剣を捧げると決まっており、主を選んだ時点で国を離れるのが習わしです。その私たちを王国に残すために作られたのが近衛騎士団の特務部隊です。特務部隊は国王陛下の命を受けて独自の裁量で自由に行動する独立した騎士の集まりです。ですので私は騎士団の階級社会の外側におります。私が膝をつく必要があるのはフィーネ様以外ですと王族、教皇猊下、そしてシャルロット様に対してのみです」
「そうだったんですね。クリスさん、実は偉かったんですね!」
「……フィーネ様のほうが上なのですよ?」
私が感動してそう言うと、クリスさんに呆れたような表情でそう返されてしまった。
なるほど、確かにクリスさんの主という事になっているし、それに帝国でも皇帝と対等と言われたもんね。
そうか、私、実は偉かったのか。はぁ。階級社会って面倒くさいね。みんな平等のほうが楽でいいと思うんだけどなぁ。
「さ、フィーネ様」
私はクリスさんにエスコートされてホワイトムーン王国の王家の紋章があしらわれた豪華な馬車に乗り込む。先ほどまでの乗合馬車と比べてクッションもふかふかだし内装も豪華だ。
ルーちゃんが何度も座席の上でお尻で跳ねてはクッションの柔らかさを確かめている。
そうこうしているうちに馬車がゆっくりと動き出した。さすが、王家の紋章のついた VIP 用の馬車だ。座席のクッションがしっかりしているおかげもあるが、全体的にスムーズで振動が少なく随分と快適だ。
「王都まではあとどのくらいなんですか?」
「大体一週間といったところでしょう。この先にセムノスという大きな港町があります。そこを出ますとフィーネ様も一度馬車でお通りになった道となります」
「そうなんですか?」
「はい。セムノスの先でザラビアから王都へ向かう街道と合流いたします」
うん? ザラビア? どこだっけ?
そう思っていると表情を読まれてクリスさんが説明してくれた。
「フィーネ様、お忘れかもしれませんがザラビアというのはフィーネ様がシュヴァルツを退治なさってから最初にご逗留された港町で、マッシルーム子爵の治めております」
「え? あ、ああ、ええと、はい。もちろん覚えていますよ。はい」
うん。あの腹筋を殺しに来たキノコ子爵のね。
あ、ヤバい。ちょっと思い出したら笑いがこみあげてきそうに……
「あれ? 姉さまなんで俯いているんですかっ? お腹でもすいたんですか?」
「……いえ……そう、では……なくっ、う、くく」
その様子を見ていたルーちゃんが私の脇腹をつついてきた。
「ぶふっ」
私はこらえきれずに吹き出してしまった。
「あー、なんだかよく分からないけど我慢してましたねっ? えいっ」
「ちょ、ルーちゃん、あは、あははは、ちょ、まって――」
しかし私の必死の抗議も空しくルーちゃんに脇腹攻撃は苛烈さを増していく。
「えいっ、えいっ」
「あ、はは、くふふっ、ちょ、ちょっと、クリスさん! たすけっ、あはは」
「ルミア、ほどほどにな」
「はーいっ」
そんな私たちをシズクさんは微笑ましい物でも見るかのような目で見ていたのだった。
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