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#10 Irrésistiblement 〜古い言い回しだけど私は既にあなたのとりこになっていた(4)

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 …で?それが、何だってんだ?


 目の前で重い告白に震えるこの人は、クソみたいな自分を深く愛してくれる、この世で一番大切な人だ。何か言わないと。ここで何か言わないと。


「すみかちゃん!」

「はい…」

「俺が偉そうでわがままで、面倒くさいのは知ってるよね」

「…え?」

「確かに妹のことを思うと辛い。でもおかげで、俺がすべきことがわかったよ」

「貴明さん…」

「だって、俺には2人とも必要なんだ。それならやるこた決まってんだろ。例え神や梨杏と喧嘩してでも、どんな形になっても俺は2人と一緒にいる!もう決めた!」

「貴明さん…たかあ、さ…あなたって…」

 すみかは、涙で言葉にならない。


「どうすればいいかなんてわからない。けど必ずなんとかする。澄香のことは気に病む必要はないよ。だって、あいつも3人一緒にいたいって言うに決まってんだ。俺の妹は、君の想いに縛られるだけの人形じゃない。そんなにひ弱じゃないよ」



 一方、貴明の部屋。1人残された澄香は、2人の強い想いに感応したように叫ぶ。

「お兄ちゃん…私の大切な人…いつまでも一緒にいたい!あなたと一緒にいたい!それが叶うなら何もいらない…」


 その切なる想いはゲートの時空を超えて、すみかに激しくフィードバックする。熱く強大な情念がすみかに流れ込む。すみかは激しい頭痛を覚え、澄香の想いを察知した。

「そうよね。澄香、やっぱりあなたも…」

 澄香の決意を感じ取ったすみかは、覚悟を決めた表情に変わった。貴明はそんな彼女に、こちらも改めて決意を告げる。


「すみかちゃん、もう1回言うよ。俺はわがままで面倒くさいんだ。ちなみに神が味方だなんて思ったことは一度もないので、奴らの言いなりになることもありません!」

「…あなたって…本当に…」

「はは、馬鹿だと言いたいんだろ。でも、馬鹿だからできることもあるんだ!」


 言うなり貴明はがっしりとすみかを抱きしめる。瞬間、ドアが現れて引きずり戻されるのも計算ずくだ。

「私、あなたに会えて幸せ…」

 光に消えゆく貴明に、すみかは言葉で表現できる最大限の想いを吐露した。


「愛してる!愛してる!私は…すみかは一生あなたを愛します。大好きです!」



 部屋に戻った貴明。そこには床に突っ伏してボロボロに泣き崩れている澄香がいた。

「お兄…ちゃん…戻ってくれたの…澄香、1人になるんじゃないかって思って…」

「ったりめえだろ。澄香がいるこの世界が、俺のホームだ」

「おにい…」


 澄香が凄い勢いで貴明の胸に飛び込む。貴明は必死に彼女を抱きしめる。頭を撫でながら、落ち着いた様子で語りかける。


「ごめんな。俺は馬鹿すぎて、お前の気持ちなんてまるで考えてなかった」

「ううん、すみかちゃんは澄香なんでしょ。なんとなく、どこかに自分と同じ人がいるのは感じてた。だからすみかちゃんを愛してくれるのは、私を愛してくれるのと同じ」

「でもさ、澄香は今までずっと妹として…」

「うん。近くにいられて幸せだよ。けど、それと同じくらい寂しかったの」


 澄香が貴明から離れ、深刻な表情に変わる。

「でも私もずるい。結局ずっとみんなを騙してた」

「親も、だよな」

「そう。だから自分の正体がわかった今は、お母さんやお父さんの優しさが辛いの」

「あれ…?俺の妹は優秀だと思ってたけど、意外に頭悪いなあ」

「はい、澄香は救いようがありません」

「違うよ。お前は誰も騙してないし何も悪くないのに、自分をそんなふうに卑下するのが頭悪いって言ってるんだよ。だってお前は突然エクストリームの能力で生み出されて、自分が何者かもわからない不安を抱えたまま、得体の知れない力と戦ってきたんだろ」

「……」


「放り出された世界で、本当の家族もいないまま1人で頑張ってきた。なのに俺みたいな奴を想ってくれるだけでなく、会う人みんなから愛された。そんなの他の誰にできるんだよ」

「違う、私は汚くて忌むべき存在なのがハッキリわかりました。この世の何者でもない…」

「澄香!そんなこと言うな!」


 強い口調に、興奮で強張っていた澄香が一瞬ひるむ。不安と恐怖で震えが止まらないその小さな体を、貴明は改めてきつく抱きしめる。

「もういい、頑張りすぎるな。俺は最初から、いやこれからも一生お前の味方なんだから、死ぬほど甘えていいんだ。お前が甘えないなら、俺がお前に甘えるから結果は同じだぞ?ふふん」


「お兄ちゃん…私の大好きな…」


 澄香は堪えきれず、堰を切ったように慟哭する。


「あああああああああああああ!!!!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい‼︎」


「妹でもそうでなくても関係ない。俺にとって澄香は替えが効かないんだ。それにバンドの連中、紗英や理恵、美優だってお前が大好きなんだ。それは記憶の操作とは関係ないだろ?だいたいだな、俺様を操作しようだなんて100年早えんだよ!ざけんな神!ハハッ!」


「うあああああああああ!お兄ちゃん!お兄ちゃああん!」


 2人は時が止まったように抱きしめ合い、互いの体温で存在のかけがえのなさを確認し合う。残酷な運命に翻弄され、行くあての見えない2人にとっては、誠実な想いだけが今許された精いっぱいのリアルだった。
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