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#6 Your song will fill the air 〜愛しい歌声が思うさまハートに火をつけた(2)
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貴明は重い足取りと重い腹を引きずりながら、澄香とに東急ハンズに入る。澄香は友だちのプレゼントを選ぶため、羽ばたいて飛んで回る勢いであちこち物色していた。
「これ可愛いな…あっこれも!どうしようお兄ちゃん、澄香はもうだめかもしれません」
「ったくよ、女ってのは、女友達のプレゼントにそこまで燃えられるのな」
「本当にわかってないねえ。女の子は愛し合ってるからね。愛する者にプレゼントするのは当然ですよ」
「へいへいそうですか」
「で、お兄ちゃんは誰にプレゼントするの?」
悪い顔で覗き込む澄香に対し、貴明は平静を装う。
「んな相手いるかよ、俺は音楽に情熱の全てを捧げてるの」
「つまんないなー、紗英さんとか可能性ないの?そうだ、ライブに通ってるファンの娘は?」
「ああ、一応会えたよ」
「会ったの⁉︎どうだった、可愛かった?欲情した?」
「可愛かった。いやいきなり欲情はしねえけどね⁉︎」
「ふーん。でも好みだったんでしょ。顔に描いてあるよ」
可愛くて地味で小柄で知的で音楽好き。白い肌にショートカット。オプションでメガネっ娘。確かにすみかの全てが貴明のストライクゾーンだ。さすがに澄香は熟知している。
「そ、そうだ驚け!あの娘の名前さ、すみかっていうんだぜ」
「え?…私と同じ?」
「そう。ひらがなだけどな」
「なら私と同じくらい可愛くて、私と同じくらいお兄ちゃんの好みなんでしょお」
「そう同じくらい可愛い…うわ違う、何しろすみかちゃんは上品だからな」
「一瞬本音が!てか今、どさくさで澄香の評価を相対的にに下げましたね、まいっか、ついにお兄ちゃんにも春が…」
「でもな。向こうは俺とはあまり会いたくないみたいでさ」
「どして?」
「わかんないよ。何もないのに突然泣きそうになって帰っちゃったんだよな」
それを聞いた澄香はしばし無言で、少し悲しそうな表情を浮かべる。
「…澄香?どした?」
「お兄ちゃん。澄香は断言しますが、その人は絶対にお兄ちゃんのことが好きです」
「そうかな。だったらなんで変なとこで帰っちゃうんだよ」
「本当にわかってないねー」
「わかるか!」
「女の子はね、いや男の人もそうかもしれないけど、相手のことを好きになり過ぎると、そのぶん悲しくなる時があるんだよ」
「禅問答か?日本語で頼む」
「お兄ちゃんには一生わからないでしょーねっ!次に会った時は優しくしてあげてね。絶対に責めちゃだめだよ」
「お、おう、別に責めるつもりはないけどさ、わかったよ」
対人関係自体が苦手な貴明に女心などわかるはずもないが、澄香の切なげな表情を見ているうち、貴明はその言葉を信じてみようと思えてきた。
普段は賑やかな兄妹には珍しく、割としっとりした雰囲気に流されたのかもしれない。貴明はアクセサリー売場にあった楽器型のシルバー製チャームを何気なく手にすると、未だかつてない想いが湧いてきた。
「なあ澄香、どれがいい?」
「え、えええええ??まさかお兄ちゃんが私にクリスマスプレゼントを??」
「驚き過ぎだろ腹立つわ。でもこないだの病気でも迷惑かけたしさ、今年は…」
澄香は気のせいか涙目のようにも見える。が、すぐにいつもの調子で、
「みなさーん!この鈍感で冷たくて面倒くさい男が、初めて私にプレゼントしてくれるそうですよー!えー、えー、どれにしようかなあ」
「お前な…いいから早く選べ。でも楽器もこうなると可愛いな」
「全部可愛くて。うーん、ここはやはりお兄ちゃんのキーボードかな、でもカッコいいのは透矢さんのギターだし…レホールだっけこれ?」
その言葉に、貴明はついムキになる。
「そりゃ付け合わせだろ、レスポールだよっ。それより、今はキーボードがバンドの音を作るんだぞ。だからキーボードのがカッコよくて偉い。ギターなんざむしろ飾りだ」
「わあー、面倒くさーい。じゃこれでいい?」
と言って澄香はアップライトピアノ型のチャームを手にするが、
「いや澄香はうるさくて賑やかだから、イメージ的にピアノではないな。こっちだろ」
と、シンセサイザー型のチャームを澄香の掌に乗せた。
「ぶー、板みたーい。ピアノの方が可愛いけど、でもいいや。お兄ちゃんが言うならこれにする」
「板ってお前な、これプロフェット5だぞ。いやオーバーハイムかな?パネルの再現性が甘くて判別しにくいな…まあどっちにしろ名機中の名機だ」
「際限なく面倒くさいからこれにするね。あー/澄香/これが/いいなー」
「テキトーに棒読みすんな!それじゃラッピングを…」
「いいの。カバンにつけて帰るの。だから包装紙とかいいの」
箱や包装紙なんかあったら惜しくて捨てられない…と、澄香はかすかにつぶやいた。
その後ショップ巡りをし、気づいたらもう夕方。結局澄香は10人分はあろうかというプレゼントを買い込み、貴明に寮の入り口までその荷物を持たせて、部屋に帰るところだ。
「お兄ちゃん今日はありがとう。澄香は楽しかったです」
「これから寮で本当のパーティーなんだろ」
「うん、また連絡するね。あっこれ、メリークリスマス!」
澄香は貴明に小さなギフトボックスを手渡す。
「あとで開けてね!」と言いながら寮に入っていく澄香。バッグにつけたシンセのチャームと、ポニーテールが、嬉しそうに同時に揺れた。
澄香と別れ、ギフトボックスを掌で転がしながら帰途につく貴明。妹の言葉に刺激されたからかもしれないが、無性にすみかに会いたくなってきた。
「今頃どうしてんのかな。ま、あんな素敵な人がイブに1人でいるはずないか…」
などと考えつつ、食事のためにいったん池袋駅に戻る。さて飯はどうしようかな、牛丼太郎か…すなっくらんどで立ち食いもいいな。あの怪しいエスニックカレーでクリスマスをデストロイだと考えつつ、地下を歩く。すると真っ白なダウンに身を包み、何かを探すようにキョロキョロしている少女の存在に気づいた。
「これ可愛いな…あっこれも!どうしようお兄ちゃん、澄香はもうだめかもしれません」
「ったくよ、女ってのは、女友達のプレゼントにそこまで燃えられるのな」
「本当にわかってないねえ。女の子は愛し合ってるからね。愛する者にプレゼントするのは当然ですよ」
「へいへいそうですか」
「で、お兄ちゃんは誰にプレゼントするの?」
悪い顔で覗き込む澄香に対し、貴明は平静を装う。
「んな相手いるかよ、俺は音楽に情熱の全てを捧げてるの」
「つまんないなー、紗英さんとか可能性ないの?そうだ、ライブに通ってるファンの娘は?」
「ああ、一応会えたよ」
「会ったの⁉︎どうだった、可愛かった?欲情した?」
「可愛かった。いやいきなり欲情はしねえけどね⁉︎」
「ふーん。でも好みだったんでしょ。顔に描いてあるよ」
可愛くて地味で小柄で知的で音楽好き。白い肌にショートカット。オプションでメガネっ娘。確かにすみかの全てが貴明のストライクゾーンだ。さすがに澄香は熟知している。
「そ、そうだ驚け!あの娘の名前さ、すみかっていうんだぜ」
「え?…私と同じ?」
「そう。ひらがなだけどな」
「なら私と同じくらい可愛くて、私と同じくらいお兄ちゃんの好みなんでしょお」
「そう同じくらい可愛い…うわ違う、何しろすみかちゃんは上品だからな」
「一瞬本音が!てか今、どさくさで澄香の評価を相対的にに下げましたね、まいっか、ついにお兄ちゃんにも春が…」
「でもな。向こうは俺とはあまり会いたくないみたいでさ」
「どして?」
「わかんないよ。何もないのに突然泣きそうになって帰っちゃったんだよな」
それを聞いた澄香はしばし無言で、少し悲しそうな表情を浮かべる。
「…澄香?どした?」
「お兄ちゃん。澄香は断言しますが、その人は絶対にお兄ちゃんのことが好きです」
「そうかな。だったらなんで変なとこで帰っちゃうんだよ」
「本当にわかってないねー」
「わかるか!」
「女の子はね、いや男の人もそうかもしれないけど、相手のことを好きになり過ぎると、そのぶん悲しくなる時があるんだよ」
「禅問答か?日本語で頼む」
「お兄ちゃんには一生わからないでしょーねっ!次に会った時は優しくしてあげてね。絶対に責めちゃだめだよ」
「お、おう、別に責めるつもりはないけどさ、わかったよ」
対人関係自体が苦手な貴明に女心などわかるはずもないが、澄香の切なげな表情を見ているうち、貴明はその言葉を信じてみようと思えてきた。
普段は賑やかな兄妹には珍しく、割としっとりした雰囲気に流されたのかもしれない。貴明はアクセサリー売場にあった楽器型のシルバー製チャームを何気なく手にすると、未だかつてない想いが湧いてきた。
「なあ澄香、どれがいい?」
「え、えええええ??まさかお兄ちゃんが私にクリスマスプレゼントを??」
「驚き過ぎだろ腹立つわ。でもこないだの病気でも迷惑かけたしさ、今年は…」
澄香は気のせいか涙目のようにも見える。が、すぐにいつもの調子で、
「みなさーん!この鈍感で冷たくて面倒くさい男が、初めて私にプレゼントしてくれるそうですよー!えー、えー、どれにしようかなあ」
「お前な…いいから早く選べ。でも楽器もこうなると可愛いな」
「全部可愛くて。うーん、ここはやはりお兄ちゃんのキーボードかな、でもカッコいいのは透矢さんのギターだし…レホールだっけこれ?」
その言葉に、貴明はついムキになる。
「そりゃ付け合わせだろ、レスポールだよっ。それより、今はキーボードがバンドの音を作るんだぞ。だからキーボードのがカッコよくて偉い。ギターなんざむしろ飾りだ」
「わあー、面倒くさーい。じゃこれでいい?」
と言って澄香はアップライトピアノ型のチャームを手にするが、
「いや澄香はうるさくて賑やかだから、イメージ的にピアノではないな。こっちだろ」
と、シンセサイザー型のチャームを澄香の掌に乗せた。
「ぶー、板みたーい。ピアノの方が可愛いけど、でもいいや。お兄ちゃんが言うならこれにする」
「板ってお前な、これプロフェット5だぞ。いやオーバーハイムかな?パネルの再現性が甘くて判別しにくいな…まあどっちにしろ名機中の名機だ」
「際限なく面倒くさいからこれにするね。あー/澄香/これが/いいなー」
「テキトーに棒読みすんな!それじゃラッピングを…」
「いいの。カバンにつけて帰るの。だから包装紙とかいいの」
箱や包装紙なんかあったら惜しくて捨てられない…と、澄香はかすかにつぶやいた。
その後ショップ巡りをし、気づいたらもう夕方。結局澄香は10人分はあろうかというプレゼントを買い込み、貴明に寮の入り口までその荷物を持たせて、部屋に帰るところだ。
「お兄ちゃん今日はありがとう。澄香は楽しかったです」
「これから寮で本当のパーティーなんだろ」
「うん、また連絡するね。あっこれ、メリークリスマス!」
澄香は貴明に小さなギフトボックスを手渡す。
「あとで開けてね!」と言いながら寮に入っていく澄香。バッグにつけたシンセのチャームと、ポニーテールが、嬉しそうに同時に揺れた。
澄香と別れ、ギフトボックスを掌で転がしながら帰途につく貴明。妹の言葉に刺激されたからかもしれないが、無性にすみかに会いたくなってきた。
「今頃どうしてんのかな。ま、あんな素敵な人がイブに1人でいるはずないか…」
などと考えつつ、食事のためにいったん池袋駅に戻る。さて飯はどうしようかな、牛丼太郎か…すなっくらんどで立ち食いもいいな。あの怪しいエスニックカレーでクリスマスをデストロイだと考えつつ、地下を歩く。すると真っ白なダウンに身を包み、何かを探すようにキョロキョロしている少女の存在に気づいた。
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