上 下
9 / 57
第一章

第9話 死霊術士、緊急A級クエストを受けるも美少女魔術師に舐められる

しおりを挟む
 オデットからクエストの説明を受けた俺たちは簡単な仕度をした後、町を出て平原を歩いていた。
 まぁ仕度といっても、ギルドで大槍を一本借りたくらいだけど。

 デスマウンテンとは反対の北の方角へ三十分ほど歩くと、石造りの砦のような建物を発見した。
 太めの円柱型の建物を囲むように人だかりができている。

 あそこが恐らく今日の俺たちの仕事場だろう。

「随分たくさん人がいますね」

 隣を歩くリリスが言った。

「だな……やはりオデットの言っていた通り、難航しているようだな」

 俺たちが受注したA級緊急クエストとは、ずばりあの砦の中にいるリザードキングおよび配下のリザードマンを全滅させることだ。

 リザードキングは堂々たるA級モンスターだ。そして配下のリザードマンでさえB級モンスターとかなり手強い相手であり、その数も未知数。

 くわえてあの砦の地下には人間の人質がいるらしい。人質は冒険者や商人を初め、なんと貴族までいるらしく、それがこのクエストを最も難化させている要因なのだろう。
 人質たちは皆、平原を歩いていたところをリザードマンの集団に襲われ、砦に拉致されたのだということだ。
 リザードキング側が提示する人質の交換条件は凄まじく無茶なものであり、ギルドはそれに応じる気はないとのこと。

 オデットによればここ数日町では行方不明者が続出しており、その原因がどうやら今回のクエストに繋がっているということらしい。
 敵の殲滅も大事だが、人質の救出を最優先にしてくれとのこと。特に人質の一人である貴族はサラマンドの町の有力者の関係者だから死なせるのは絶対にまずいと念を押された。

 相手は何匹いるかもわからないリザードマンの集団だ。
 当然一人二人で解決できる内容ではないため、このクエストは人数不問で冒険者を受け入れている。
 砦の周囲に集まっているのは、このクエストに名乗りを上げた腕自慢の冒険者たちだろう。

 報酬はクエストの貢献度次第だが、うまくいけば今日だけで十万ゴルダは稼げるとオデットは言っていた。
 が、どうなることやら。

「あのー、すいません。今ってどういう状況ですかね?」

 俺は人だかりの中の一人に声をかけた。

「どういうって……どうもこうもないわよ。手出しできなくて膠着状態ってやつね」

 黒い帽子と黒ローブに身を包んだ少女はそう答えてくれた。服装から察するに恐らく魔術師だろう。
 大きな帽子と裾の長いローブは、まるで三角形が二つ上下に連なったようなシルエットである。
 ややウェーブのかかった金色の髪が腰のあたりまで垂れており、黒いローブと金色の髪とのコントラストが印象的だ。
 歳は十五、六歳くらいだろうか。なかなかに可愛らしい顔をしている、俺より頭一つ背の低い小柄な少女だ。

「手出しができないってどういうことですかね?」

「ほら、ここ砦でしょ? 構造的に守る側が有利だから手出しがしにくいってのもあるし、人質を取られてるから迂闊に中にも入れないのよ」

 これもオデットから聞いた話だが、この砦はかつての大戦時に兵站拠点として使われていたものらしい。
 何度かここでも戦闘があったようで、年月の経過もあって中は荒れてしまい、いつしか使われなくなったようだ。
 使われなくなってからは町の衛兵による定期的な見回りはあったものの、基本的には放置されていたという。

 砦の周囲は堅牢な石塀で囲まれており、塀自体にも高さがあるので上からの侵入は厳しいだろう。
 よって侵入経路は正面の入口しかないのだが、そこから入れば間違いなく中で待ち伏せているリザードマンからの集中砲火を受けてしまう。
 仮に中に入ることができても砦の本体は地下である。砦の地下通路は当然狭く作られているはずだ。狭い通路でこちらの数の利を活かすのは難しい。
 一番良いのは、どうにかリザードマンたちを砦の外に誘い出して撃破することだが、そんなことができるほど甘くはないだろうな。
 リリスに憑依してもらって単騎で突っ込むという手もあるにはあるが、そんなことをしたら間違いなく人質が殺されてしまうだろう。

 なるほど手が出せないというのも頷ける。

「ていうかあんたたち、今頃何しに来たのよ? もしかしてギルドからの伝令? クエスト内容の変更とか?」

「いや、俺たちも君と同じでこのクエストを受注した冒険者だけど」

「はぁ!?」

 金髪の少女は目を見開いて言った。
 この子、なんか怖いんだけど。

「なぁんだ、ただの役立たずか……」

 あからさまに残念そうにため息をつく少女。

「な、何ですか、役立たずって……」

 リリスが反論するが、少女は「当然でしょ?」とでも言いたげに首を横に振った。

「この時間に遅れて来る奴なんて、ギルドの伝令かただの無能のどちらかよ。おおかた寝坊でもしたんでしょ?」

「ぐ……」

 正解。
 それにしても随分と当たりのキツい女の子だな……。

「ま、いいわ。これも何かの縁だし、とりあえず冒険者証でも見せ合いましょうか」

「何だ? 俺たちを貶したかと思えば急に友好的になって」

「はぁ。あんたそんなんでよく冒険者やってこれたわね。冒険者たるもの人脈が大事。これ鉄則よ? それに今は同じクエストに取り組む協力者じゃない。お互い名乗っておいて損はないはずよ」

「た、確かに……」

 なるほど、キツいだけの子ではないようだ。見た目よりだいぶしっかりした女の子だな。

「じゃ、行くわよ?」

 そう言って、少女は掌を宙でぶらぶらさせた。
 するとどこからともなく冒険者証が現れて彼女の掌に落ちた。魔法で移動させたんだろうか?

「どう? 軽い転移魔法よ。あたしはゼフィ・カルティナ。見ての通りの魔術師よ。こう見えてA級冒険者なんだから舐めないでよね」

 彼女の冒険者証には確かにA級の文字が踊っていた。この若さで大したものだ。

「ゼフィか、よろしく。俺はクラウス。……これが冒険者証だ」

 俺は懐からくたびれた冒険者証を取り出した。
 はぁ、人に冒険者証見せるの嫌なんだよな……。いい年してC級だし。

「ゼフィさん、よろしくお願いします。わたしはリリスといいます!」

 リリスも俺に続いて冒険者証を出した。昨日発行されたばかりのピカピカのやつだ。うらやましい。

「クラウスにリリスね。よろしくぅ! えっと、クラウスがC級で……リリスがA級!? へぇ……」

 品定めするように、リリスの顔をまじまじと見つめるゼフィ。

「こういうことがあるから自己紹介って大事なのよね……。あたしと同じくらいの年頃の女の子でA級なんてそうそういないもん」

「そうなんですか?」

「まぁな。A級自体そんなにいるもんじゃないし、ましてやこの若さだとそうとう限られるよ」

 一般的な冒険者はせいぜいB級が限界だ。A級以上になれるのはごく一部のエリートであり、特別な才能が求められる。
 更に上のS級ともなれば、別次元の存在なのだ。

「ね、リリス。あたしと組まない?」

「えぇっ!?」

 な、こいついきなり何を言い出すんだ……。

「こんなC級の奴といるより良いでしょ? A級は多ければ多いほど、クエストの選択の幅も広がるわよ。それに、あたし理由(わけ)あってどうしてもこのクエストを成功させたいのよね。どう? 悪い相談じゃないでしょ? こんな奴と組んでても良いことないって――」

「そんな言い方やめてください!」

 突然、ゼフィの言葉をかき消すかのようにリリスが叫んだ。
 一瞬、周囲は静まりかえり、冒険者たちの視線が俺たちに注がれる。

「えっ……?」

「クラウスさんはわたしの恩人です。大切な人なんです! そんなクラウスさんを馬鹿にするようなこと言う人となんて組めません!」

「そ、そう……なんだ。ごめん」

 リリスのあまりの剣幕に、ゼフィはさっきまでの威勢が嘘のようにしゅんとしてしまった。

「あ……ごめんなさい、ゼフィさん。つい……」

 肩を落とすゼフィを見て、我に返ったようにリリスがゼフィに歩み寄る。

「こっちこそ、言い過ぎたわ……ごめん、リリス、クラウス」

「いや、俺は別に気にしてないよ」

 A級とはいえ、まだ俺より一回りも下であろう若い子だし、才能のある子となれば多少の選民意識を持っていてもおかしくない。
 いちいちC級の雑魚に配慮していられるほどこの世は甘くないのだ。俺が言うのもアレだけど。

「……あたし、このクエストだけは失敗するわけにはいかなくて」

「何か事情があるのか?」

「うん……実は、捕らえられてる人質の中にあたしの親友がいるんだ」

 そんな事情があったのか。

 よく見ると、ゼフィの瞳は潤んでいた。
 やれやれ。気丈に見えたけど、精神的に結構限界だったんだな。

 そんなゼフィの肩に、傍らのリリスが優しく手を置いた。

「それなら、三人で協力しましょうよ、ゼフィさん」

「三人、で?」

「はい。三人いればきっといい考えが浮かぶはずです。二人よりも、ね?」

「……」

 リリスは続けた。

「戦闘での強さなんて一つの指標でしかないんです。わたしは父より強かったですけど、父が居なければ何もできませんでしたから。父はよく言ってました。どんなに優れた剣であっても、剣だけでは何もできないと。剣を振るう者とそれを守る盾があって、初めて剣は活きるのだと」

「……そうね。リリスの言うとおりだわ」

 そう言ってゼフィが顔を上げると、リリスは破顔した。
 どんなものでも包みこんでしまいそうな、柔らかい笑みだった。

「ゼフィ。頼りないかもしれないけど、俺も手伝うよ。せっかく知り合った仲間だしな」

「クラウス……」

「で、早速なんだけど――俺に一つ考えがあるんだ」

 さっきからずっと考えていた、この砦の攻略法。

「この方法なら、人質を助けることができて敵も殲滅できるかもしれない」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。

カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。 伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。 深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。 しかし。 お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。 伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。 その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。 一方で。 愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。 死へのタイムリミットまでは、あと72時間。 マモル追放をなげいても、もう遅かった。 マモルは、手にした最強の『力』を使い。 人助けや、死神助けをしながら。 10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。 これは、過去の復讐に燃える男が。 死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。 結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語

京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。 なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。 要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。 <ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...