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08 ベッドの上の攻防
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「貴様ッ! 何者だッ!」
「おいおいおい――」
アリアネの判断は早い。
ベッドにいるのが目的の人物ではないと気づいた瞬間、剣を抜いて地を蹴り、相手に向かって斬りかかっていた。
「殺す気か、嬢ちゃん。
そんなもん振り回して怪我したらどうする」
男も巨漢のわりに素早い身のこなしで、とっさにベッドの向こう側に転がり、アリアネの剣を避けた。
寝ていた場所がざっくりと裂け、綿が舞い散る。
「誰だ、嬢ちゃん。
俺に何の恨みがある?」
「誰だはこっちの台詞だ!」
ベッドに飛び乗ったアリアネがにらみつける。
男は全裸で寝ていたらしく何も身につけていないが、ベッドの脇に置いていた巨大な剣を手にしてアリアネに向き合った。
樽のような腹をした大男。
筋肉質ではあるが、いかんせん脂肪も多い。
下着もつけていないため下腹部の大きなモノがだらりと垂れ下がり、だらしない印象を強くしている。
と、見ているうちにムクムクとそれが膨張し、子どもの腕ほどの太さに屹立した。
「嬢ちゃん、べっぴんさんだな。
美人に寝込みを襲われるとは、俺も捨てたもんじゃない。
どれ、楽しませてもらおうか」
「ばっ、馬鹿にするな!
醜いこの傷をよく見るがいい。
それでも同じことが言えるか?」
「ふうむ?」
男は巨体に似合わぬ軽やかな身のこなしでひらりとベッドに飛び乗り、間合いを詰めた。
アリアネがなぎ払おうとするが、器用に大剣でいなして一太刀も入れることができない。
(この男、強い……!
手加減をしているつもりはないのに)
カキンカキンと剣の音が鳴り響く。
息のかかるような狭いベッドの上で、股間を膨張させた得体の知れない大男がじりじりと迫ってくる。
「嬢ちゃん、傷を気にしてるのか?
俺は、それも含めてあんたはべっぴんさんだと思うけどな」
「たわごとを……」
「嘘かどうかは、俺のコレを見れば分かるだろ。
ちょうどベッドだ。
斬るんじゃなくて突くのはどうだい?」
言って、男が重心を低くしてベッドを揺らした。
思わずバランスを崩したアリアネを、男は組み伏せるようにして枕に押しつける。
「くっ……や、めろ……!」
「嬢ちゃんのほうからここに来たんだ。
今さらその気はなかったじゃ済まないぜ?」
腕力もさることながら、倍以上もありそうな体重差が致命的だった。
アリアネは必死に逃れようともがいたが、両手両脚にのしかかられ、腹の上に脈打つモノを押しつけられた。
舐めるような距離に顔を近づけながら、酒くさい息を吐きかけて男が言う。
「嬢ちゃん、もしかして生娘か?
剣の腕は大人顔負けって感じだったが、さっきからチラチラと俺のものを見たり目を逸らしたり、まるで落ち着かないじゃないか。
こりゃあ、さらに楽しくなってきたな」
「う、うう」
アリアネは現実から逃げるように横を向き、「助けてエディサマル……」とつぶやいた。
「わけが分からん。
事情を話せ」
興醒めした声でそう言うと、男はベッドを降りて近くに脱ぎ捨ててあった下着と服を身につけ始めた。
ズボンを履くのには苦労していたが、どうにか股間のものを収めると、呆然とベッドに座るアリアネとは距離をとるようにしてソファに腰かけた。
「エディサマルは俺の名前だ。
べスピアのエディサマル。
だが、あんたの認識ではどうやら違うらしい。
どういうことだ?」
「ええと……」
息を整えながら、アリアネは経緯を説明した。
べスピアのエディサマルから剣術を教わったこと。
旅の途中でこの地に寄り、8年ぶりにエディサマルに会おうと思ったこと。
案内されて会ったら、まるで別人がそこにいたこと。
「ふむふむ、なるほど」
大男のエディサマルは背もたれに身を預け、天井を眺めてしばらく考えると、アリアネに向かって指を1本立てた。
「可能性はたぶん1つだ。
誰かが俺の名をかたり、あんたに剣を教えた。
なぜなら同じ名の剣士がいるなんて聞いたことがないし、『べスピアのエディサマル』となると俺をおいて他にいないと保証できる。
名乗ったとしたら、あんたの前でだけだろう」
「……なんでそんな嘘を」
師匠への尊敬の気持ちは揺るがない。
それだけのことをしてもらったし、数ヶ月をともに過ごしたアリアネは、師匠の人間性を心の底から信頼している。
悪意による嘘などではありえない。
「エディ……し、師匠は誠実な人間だった。
私の前で偽名を使ったとすれば、そこにはやむをえぬ事情があったに違いない」
「俺とあんたをくっつけたかったとか?」
「それはない!」
ガハハ、とエディサマルは豪快に笑い、愉快そうに目を細めてアリアネを見つめた。
「不本意なことに、べスピアのエディサマルといえば酒好きで女癖が悪いという大変な誤解が広まっている。
そんな男の名を趣味で名乗りたい野郎なんて、そうそういないだろう。
いるとしたら、本当は俺が真面目な男で、こうやって嬢ちゃんがのこのこ会いにきても間違って食ったりしないと信用している野郎の仕業だ」
この男が真面目かどうかは置いておくとして、たしかに、師匠はアリアネが自分を探すことを予想できたはずだ。
完全に架空の偽名にしていれば、あてもなく世界中を探すことになっていたかもしれない。
そうせずにべスピアのエディサマルと名乗ることで、彼女をここに導くことができた。
「何か困ることがあった時は、あなたを頼れという意図だったのか。
なるほど、筋は通っている。
今まで頼らず生きてきた自分を褒めてやりたいが。
……で、そんなことをする人物に心当たりはあるのか?」
「ある。
そんな回りくどい男はこの世で1人しか知らん。
そしてそいつは、俺が本当の名前を嬢ちゃんに教えないことまで見越している」
「え?」
正体は分かるが、言わない。
そう宣言するエディサマルに、アリアネは当然のように激しく食い下がったが、彼は「知らないほうがいい」と言って絶対に教えようとはしなかった。
「おいおいおい――」
アリアネの判断は早い。
ベッドにいるのが目的の人物ではないと気づいた瞬間、剣を抜いて地を蹴り、相手に向かって斬りかかっていた。
「殺す気か、嬢ちゃん。
そんなもん振り回して怪我したらどうする」
男も巨漢のわりに素早い身のこなしで、とっさにベッドの向こう側に転がり、アリアネの剣を避けた。
寝ていた場所がざっくりと裂け、綿が舞い散る。
「誰だ、嬢ちゃん。
俺に何の恨みがある?」
「誰だはこっちの台詞だ!」
ベッドに飛び乗ったアリアネがにらみつける。
男は全裸で寝ていたらしく何も身につけていないが、ベッドの脇に置いていた巨大な剣を手にしてアリアネに向き合った。
樽のような腹をした大男。
筋肉質ではあるが、いかんせん脂肪も多い。
下着もつけていないため下腹部の大きなモノがだらりと垂れ下がり、だらしない印象を強くしている。
と、見ているうちにムクムクとそれが膨張し、子どもの腕ほどの太さに屹立した。
「嬢ちゃん、べっぴんさんだな。
美人に寝込みを襲われるとは、俺も捨てたもんじゃない。
どれ、楽しませてもらおうか」
「ばっ、馬鹿にするな!
醜いこの傷をよく見るがいい。
それでも同じことが言えるか?」
「ふうむ?」
男は巨体に似合わぬ軽やかな身のこなしでひらりとベッドに飛び乗り、間合いを詰めた。
アリアネがなぎ払おうとするが、器用に大剣でいなして一太刀も入れることができない。
(この男、強い……!
手加減をしているつもりはないのに)
カキンカキンと剣の音が鳴り響く。
息のかかるような狭いベッドの上で、股間を膨張させた得体の知れない大男がじりじりと迫ってくる。
「嬢ちゃん、傷を気にしてるのか?
俺は、それも含めてあんたはべっぴんさんだと思うけどな」
「たわごとを……」
「嘘かどうかは、俺のコレを見れば分かるだろ。
ちょうどベッドだ。
斬るんじゃなくて突くのはどうだい?」
言って、男が重心を低くしてベッドを揺らした。
思わずバランスを崩したアリアネを、男は組み伏せるようにして枕に押しつける。
「くっ……や、めろ……!」
「嬢ちゃんのほうからここに来たんだ。
今さらその気はなかったじゃ済まないぜ?」
腕力もさることながら、倍以上もありそうな体重差が致命的だった。
アリアネは必死に逃れようともがいたが、両手両脚にのしかかられ、腹の上に脈打つモノを押しつけられた。
舐めるような距離に顔を近づけながら、酒くさい息を吐きかけて男が言う。
「嬢ちゃん、もしかして生娘か?
剣の腕は大人顔負けって感じだったが、さっきからチラチラと俺のものを見たり目を逸らしたり、まるで落ち着かないじゃないか。
こりゃあ、さらに楽しくなってきたな」
「う、うう」
アリアネは現実から逃げるように横を向き、「助けてエディサマル……」とつぶやいた。
「わけが分からん。
事情を話せ」
興醒めした声でそう言うと、男はベッドを降りて近くに脱ぎ捨ててあった下着と服を身につけ始めた。
ズボンを履くのには苦労していたが、どうにか股間のものを収めると、呆然とベッドに座るアリアネとは距離をとるようにしてソファに腰かけた。
「エディサマルは俺の名前だ。
べスピアのエディサマル。
だが、あんたの認識ではどうやら違うらしい。
どういうことだ?」
「ええと……」
息を整えながら、アリアネは経緯を説明した。
べスピアのエディサマルから剣術を教わったこと。
旅の途中でこの地に寄り、8年ぶりにエディサマルに会おうと思ったこと。
案内されて会ったら、まるで別人がそこにいたこと。
「ふむふむ、なるほど」
大男のエディサマルは背もたれに身を預け、天井を眺めてしばらく考えると、アリアネに向かって指を1本立てた。
「可能性はたぶん1つだ。
誰かが俺の名をかたり、あんたに剣を教えた。
なぜなら同じ名の剣士がいるなんて聞いたことがないし、『べスピアのエディサマル』となると俺をおいて他にいないと保証できる。
名乗ったとしたら、あんたの前でだけだろう」
「……なんでそんな嘘を」
師匠への尊敬の気持ちは揺るがない。
それだけのことをしてもらったし、数ヶ月をともに過ごしたアリアネは、師匠の人間性を心の底から信頼している。
悪意による嘘などではありえない。
「エディ……し、師匠は誠実な人間だった。
私の前で偽名を使ったとすれば、そこにはやむをえぬ事情があったに違いない」
「俺とあんたをくっつけたかったとか?」
「それはない!」
ガハハ、とエディサマルは豪快に笑い、愉快そうに目を細めてアリアネを見つめた。
「不本意なことに、べスピアのエディサマルといえば酒好きで女癖が悪いという大変な誤解が広まっている。
そんな男の名を趣味で名乗りたい野郎なんて、そうそういないだろう。
いるとしたら、本当は俺が真面目な男で、こうやって嬢ちゃんがのこのこ会いにきても間違って食ったりしないと信用している野郎の仕業だ」
この男が真面目かどうかは置いておくとして、たしかに、師匠はアリアネが自分を探すことを予想できたはずだ。
完全に架空の偽名にしていれば、あてもなく世界中を探すことになっていたかもしれない。
そうせずにべスピアのエディサマルと名乗ることで、彼女をここに導くことができた。
「何か困ることがあった時は、あなたを頼れという意図だったのか。
なるほど、筋は通っている。
今まで頼らず生きてきた自分を褒めてやりたいが。
……で、そんなことをする人物に心当たりはあるのか?」
「ある。
そんな回りくどい男はこの世で1人しか知らん。
そしてそいつは、俺が本当の名前を嬢ちゃんに教えないことまで見越している」
「え?」
正体は分かるが、言わない。
そう宣言するエディサマルに、アリアネは当然のように激しく食い下がったが、彼は「知らないほうがいい」と言って絶対に教えようとはしなかった。
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