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01 久しぶりの安らぎ
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父の洋裁店の店番をしていると、扉の小窓からこちらを誰かが覗いていた。
(……?
なんだろう、お客様かな)
小窓からでもわかるその派手な装飾。
紫色の薄いヴェールを頭から被り、おでこにも耳にも宝石をつけている。
(旅芸人……?
ううん、旅の占い師ってところか)
このラムバスタ城下町はとても広いが、あれほど目立つ服装なら、一度見ただけで絶対に覚えている自信がある。
もし普段からその格好をしているのであれば、きっとよその町から来た占い師だろう。
しばらくこちらを覗いていたが、私がにっこり微笑むと、ようやく入店してくれた。
彼女に似合う服がうちの店のラインナップにあるかどうか不安だが、できるだけ細かく希望を聞き、頑張って期待に添うよう応対したい。
「いらっしゃいませ。
どのような服をお探しでしょうか?」
「ふふ、エレーナ」
いきなり優しく笑いかけてきた。
長身でスタイル抜群の女性にいきなり笑いかけられたら、女の私でもどぎまぎしてしまう。
ていうか、今、私の名前を呼んだような……。
「あ、ええと、もしかして父に……」
「お父さんじゃなくて、エレーナ、あなたに会いたくてここに来たの。
あなたと王太子の婚にゃッ――」
え、噛んだ?
「あらいけない、噛んじゃったわ」
自分で申告する。
「うっふふ。どう?」
そしてこのドヤ顔である。
意味がわからないにもほどがあると思った。
「お客様、(舌とか頭とか)大丈夫ですか?」
「ぜんぜん大丈夫よ。
あ、そうだった、わたくしはオルガ。
どう? わたくしたち、仲良しになれそうじゃない?」
「あ~……」
初めての経験なのでピンとこないが、これはもしかして、ナンパというやつかもしれない。
ものすごい美人が来店したと思ったら、それ以上に奇人で、しかも女好き。
どうしたらいいのだろう。
私が苦笑いで困惑していると、さすがに察してくれたのか、
「まあそうよね、そうなるわよね。
まえに見た占いであなたに言われたから、すこし試してみたかっただけ。
いまはべつの調査で動いてるから、またいつかね。
王太子との結婚、いつも遠くから祝福しているわ」
「え、ええ?」
とんでもない爆弾発言をして颯爽と退店していった。
「私とジャマル様のこと、なんで知ってるの……?
占い師の格好していたから、占いでわかったのかなあ」
もやもやする。
だが、彼女が去ってしまった以上、どうしようもない。
ふと私は、キッチンに置いてある大盛りのサンドイッチを思い出した。
「これだけ悩んでたら脳がカロリー消費するだろうし、いっぱい食べてもカロリーゼロじゃない?」
そんな理論を提唱しながら、ひとりでぺろりと平らげてしまった。
ひとりでって、お昼はいつもひとりで食べているわけだけど。
ジャマル様との結婚にはまだ一週間もある。
店番をしながら足踏み運動でもしていれば、きっとドレスが入らないなんて悲劇は起こらない。
私はそう信じている。
(……?
なんだろう、お客様かな)
小窓からでもわかるその派手な装飾。
紫色の薄いヴェールを頭から被り、おでこにも耳にも宝石をつけている。
(旅芸人……?
ううん、旅の占い師ってところか)
このラムバスタ城下町はとても広いが、あれほど目立つ服装なら、一度見ただけで絶対に覚えている自信がある。
もし普段からその格好をしているのであれば、きっとよその町から来た占い師だろう。
しばらくこちらを覗いていたが、私がにっこり微笑むと、ようやく入店してくれた。
彼女に似合う服がうちの店のラインナップにあるかどうか不安だが、できるだけ細かく希望を聞き、頑張って期待に添うよう応対したい。
「いらっしゃいませ。
どのような服をお探しでしょうか?」
「ふふ、エレーナ」
いきなり優しく笑いかけてきた。
長身でスタイル抜群の女性にいきなり笑いかけられたら、女の私でもどぎまぎしてしまう。
ていうか、今、私の名前を呼んだような……。
「あ、ええと、もしかして父に……」
「お父さんじゃなくて、エレーナ、あなたに会いたくてここに来たの。
あなたと王太子の婚にゃッ――」
え、噛んだ?
「あらいけない、噛んじゃったわ」
自分で申告する。
「うっふふ。どう?」
そしてこのドヤ顔である。
意味がわからないにもほどがあると思った。
「お客様、(舌とか頭とか)大丈夫ですか?」
「ぜんぜん大丈夫よ。
あ、そうだった、わたくしはオルガ。
どう? わたくしたち、仲良しになれそうじゃない?」
「あ~……」
初めての経験なのでピンとこないが、これはもしかして、ナンパというやつかもしれない。
ものすごい美人が来店したと思ったら、それ以上に奇人で、しかも女好き。
どうしたらいいのだろう。
私が苦笑いで困惑していると、さすがに察してくれたのか、
「まあそうよね、そうなるわよね。
まえに見た占いであなたに言われたから、すこし試してみたかっただけ。
いまはべつの調査で動いてるから、またいつかね。
王太子との結婚、いつも遠くから祝福しているわ」
「え、ええ?」
とんでもない爆弾発言をして颯爽と退店していった。
「私とジャマル様のこと、なんで知ってるの……?
占い師の格好していたから、占いでわかったのかなあ」
もやもやする。
だが、彼女が去ってしまった以上、どうしようもない。
ふと私は、キッチンに置いてある大盛りのサンドイッチを思い出した。
「これだけ悩んでたら脳がカロリー消費するだろうし、いっぱい食べてもカロリーゼロじゃない?」
そんな理論を提唱しながら、ひとりでぺろりと平らげてしまった。
ひとりでって、お昼はいつもひとりで食べているわけだけど。
ジャマル様との結婚にはまだ一週間もある。
店番をしながら足踏み運動でもしていれば、きっとドレスが入らないなんて悲劇は起こらない。
私はそう信じている。
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