上 下
1 / 1

婚約は魂を売ることではありません!

しおりを挟む
 わたしは初婚で、お相手は再婚でした。

 いえ、まだ婚約でしたけど。
 すぐには入籍せずに通い妻のようにしていたことで、今思えば命拾いしたのかもしれません。

 毎日が、我慢の連続でした。

「これ着ないから、あなたにどうかしらって」

 婚約者のお母様――お姑さんと呼ぶことにしますが、このかたが何かとわたしにプレゼントをしてくださるのです。

 世代がまるで違うので趣味が合うはずがありません。
 でも、わたしは断ると気を悪くされると思い、笑顔でお礼を言って、受け取るだけ受け取っていました。

 ところがある日、不意に彼が言いました。

「おふくろがお返しは無理に高いものじゃなくていいって言ってたよ」
「え? お返し?」
「ああ、そうだよ。おふくろの服が欲しいって、お前が言って貰ったんだろ?」

 いえ……それは話が違います。
 わたしから言うわけがありません。

 でも彼は、お姑さんがそう言っていたから、とにかくお返しはしとけの一点張り。

 仕方がないので、冬だったこともあり、すこしお高めのマフラーを買ってお贈りしました。
 わたしが貰ったものへのお返しなので、家計からではなく、わたしのお金から。

「あらほんと、無理はしなくていいのよ?」

 笑顔で受け取っていただけたので、それでこの件は終わりだと思っていたのですが……。

「このお財布もう使わないから」
「お鍋の蓋っていくつあっても便利よ?」
「情報って大事。あたしが読んだ雑誌置いとくから、よかったら読んでね」

 どんなに丁重にお断りしても、「いいからいいから」と押しつけられてしまいます。
 ガラクタとごみにしか見えませんが、とにかく、彼にではなくわたしに言って置いて行くのです。

 そして、お返し。

「おふくろが、掃除機が古いってぼやいてたぞ」
「たまにはフルーツも食べないと肌が老化するんだと」
「首だけ暖かくて身体がおかしくなりそうって笑ってた」

 次から次へと……ひっきりなしに……。

 彼の前の奥さんは、まるで気が利かないずぼらな人で、彼にふさわしくないから別れてもらったという話でした。
 彼自身は顔も悪くないし、優しいので、たしかにそのかたのほうに問題があったのだろうと納得していたのですが……。

「ごめん。あなたからお母様に、もう物はたくさんあるのでいただけませんって伝えてもらえない?」
「貰えるものは貰えばいいじゃん」
「……貰うだけで済まないから、困ってるのよ」
「お返しは気持ちの問題だよ。おふくろは、気持ちをやり取りするのが好きなんだ」

 気持ち。

 ひと晩じっと考えて、わたしは、

「ああこれ、気持ち悪い。本気で気持ち悪い」

 そう思いました。

 そこからはもう、逃げの一手です。
 翌日すぐに婚約破棄を突きつけて、激しい罵りを受けながらも連絡を断ちました。

「あんたも気が利かない女だったんだね!」

 最後に見たあの醜悪な顔が頭から離れません。

 ブラック婚約――

 わたしは犬にでも噛まれたことにして前向きに生きたいと思っていますが、こんな婚約もあるとみなさんに警鐘を鳴らさずにはおれません。

 ブラック結婚よりはマシですけど。
 なんだかおかしいなと思ったら、我慢せずに、一心不乱に逃げ出してくださいね。

 婚約破棄があなたを助けてくれることも、あるのですから。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ひゅふぁ
2019.12.27 ひゅふぁ

怖い(汗
読後のモヤっと感がすごいです。
旦那の、母は気持ちのやりとりをするのが好き、発言にゾワっとしました。
お返しリクエスト無視して、めっちゃいらない物を贈りたい。
親子して罪悪感ないところがキツいですね。

monaca
2019.12.27 monaca

ご感想ありがとうございます。
この気持ち悪さをわかっていただけて嬉しいです。

要らないもの贈りつけるのいいですね(笑)
わたし自身がプレゼントに悩みまくるタイプなので、相手の気持ちを無視できたらなーと思わなくもないです。

解除

あなたにおすすめの小説

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

JC💋フェラ

山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。