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婚約は魂を売ることではありません!
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わたしは初婚で、お相手は再婚でした。
いえ、まだ婚約でしたけど。
すぐには入籍せずに通い妻のようにしていたことで、今思えば命拾いしたのかもしれません。
毎日が、我慢の連続でした。
「これ着ないから、あなたにどうかしらって」
婚約者のお母様――お姑さんと呼ぶことにしますが、このかたが何かとわたしにプレゼントをしてくださるのです。
世代がまるで違うので趣味が合うはずがありません。
でも、わたしは断ると気を悪くされると思い、笑顔でお礼を言って、受け取るだけ受け取っていました。
ところがある日、不意に彼が言いました。
「おふくろがお返しは無理に高いものじゃなくていいって言ってたよ」
「え? お返し?」
「ああ、そうだよ。おふくろの服が欲しいって、お前が言って貰ったんだろ?」
いえ……それは話が違います。
わたしから言うわけがありません。
でも彼は、お姑さんがそう言っていたから、とにかくお返しはしとけの一点張り。
仕方がないので、冬だったこともあり、すこしお高めのマフラーを買ってお贈りしました。
わたしが貰ったものへのお返しなので、家計からではなく、わたしのお金から。
「あらほんと、無理はしなくていいのよ?」
笑顔で受け取っていただけたので、それでこの件は終わりだと思っていたのですが……。
「このお財布もう使わないから」
「お鍋の蓋っていくつあっても便利よ?」
「情報って大事。あたしが読んだ雑誌置いとくから、よかったら読んでね」
どんなに丁重にお断りしても、「いいからいいから」と押しつけられてしまいます。
ガラクタとごみにしか見えませんが、とにかく、彼にではなくわたしに言って置いて行くのです。
そして、お返し。
「おふくろが、掃除機が古いってぼやいてたぞ」
「たまにはフルーツも食べないと肌が老化するんだと」
「首だけ暖かくて身体がおかしくなりそうって笑ってた」
次から次へと……ひっきりなしに……。
彼の前の奥さんは、まるで気が利かないずぼらな人で、彼にふさわしくないから別れてもらったという話でした。
彼自身は顔も悪くないし、優しいので、たしかにそのかたのほうに問題があったのだろうと納得していたのですが……。
「ごめん。あなたからお母様に、もう物はたくさんあるのでいただけませんって伝えてもらえない?」
「貰えるものは貰えばいいじゃん」
「……貰うだけで済まないから、困ってるのよ」
「お返しは気持ちの問題だよ。おふくろは、気持ちをやり取りするのが好きなんだ」
気持ち。
ひと晩じっと考えて、わたしは、
「ああこれ、気持ち悪い。本気で気持ち悪い」
そう思いました。
そこからはもう、逃げの一手です。
翌日すぐに婚約破棄を突きつけて、激しい罵りを受けながらも連絡を断ちました。
「あんたも気が利かない女だったんだね!」
最後に見たあの醜悪な顔が頭から離れません。
ブラック婚約――
わたしは犬にでも噛まれたことにして前向きに生きたいと思っていますが、こんな婚約もあるとみなさんに警鐘を鳴らさずにはおれません。
ブラック結婚よりはマシですけど。
なんだかおかしいなと思ったら、我慢せずに、一心不乱に逃げ出してくださいね。
婚約破棄があなたを助けてくれることも、あるのですから。
いえ、まだ婚約でしたけど。
すぐには入籍せずに通い妻のようにしていたことで、今思えば命拾いしたのかもしれません。
毎日が、我慢の連続でした。
「これ着ないから、あなたにどうかしらって」
婚約者のお母様――お姑さんと呼ぶことにしますが、このかたが何かとわたしにプレゼントをしてくださるのです。
世代がまるで違うので趣味が合うはずがありません。
でも、わたしは断ると気を悪くされると思い、笑顔でお礼を言って、受け取るだけ受け取っていました。
ところがある日、不意に彼が言いました。
「おふくろがお返しは無理に高いものじゃなくていいって言ってたよ」
「え? お返し?」
「ああ、そうだよ。おふくろの服が欲しいって、お前が言って貰ったんだろ?」
いえ……それは話が違います。
わたしから言うわけがありません。
でも彼は、お姑さんがそう言っていたから、とにかくお返しはしとけの一点張り。
仕方がないので、冬だったこともあり、すこしお高めのマフラーを買ってお贈りしました。
わたしが貰ったものへのお返しなので、家計からではなく、わたしのお金から。
「あらほんと、無理はしなくていいのよ?」
笑顔で受け取っていただけたので、それでこの件は終わりだと思っていたのですが……。
「このお財布もう使わないから」
「お鍋の蓋っていくつあっても便利よ?」
「情報って大事。あたしが読んだ雑誌置いとくから、よかったら読んでね」
どんなに丁重にお断りしても、「いいからいいから」と押しつけられてしまいます。
ガラクタとごみにしか見えませんが、とにかく、彼にではなくわたしに言って置いて行くのです。
そして、お返し。
「おふくろが、掃除機が古いってぼやいてたぞ」
「たまにはフルーツも食べないと肌が老化するんだと」
「首だけ暖かくて身体がおかしくなりそうって笑ってた」
次から次へと……ひっきりなしに……。
彼の前の奥さんは、まるで気が利かないずぼらな人で、彼にふさわしくないから別れてもらったという話でした。
彼自身は顔も悪くないし、優しいので、たしかにそのかたのほうに問題があったのだろうと納得していたのですが……。
「ごめん。あなたからお母様に、もう物はたくさんあるのでいただけませんって伝えてもらえない?」
「貰えるものは貰えばいいじゃん」
「……貰うだけで済まないから、困ってるのよ」
「お返しは気持ちの問題だよ。おふくろは、気持ちをやり取りするのが好きなんだ」
気持ち。
ひと晩じっと考えて、わたしは、
「ああこれ、気持ち悪い。本気で気持ち悪い」
そう思いました。
そこからはもう、逃げの一手です。
翌日すぐに婚約破棄を突きつけて、激しい罵りを受けながらも連絡を断ちました。
「あんたも気が利かない女だったんだね!」
最後に見たあの醜悪な顔が頭から離れません。
ブラック婚約――
わたしは犬にでも噛まれたことにして前向きに生きたいと思っていますが、こんな婚約もあるとみなさんに警鐘を鳴らさずにはおれません。
ブラック結婚よりはマシですけど。
なんだかおかしいなと思ったら、我慢せずに、一心不乱に逃げ出してくださいね。
婚約破棄があなたを助けてくれることも、あるのですから。
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