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EATER
灯る食卓
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息子は妻によく似ていた。ふんわりとした柔らかい髪の毛、凛々しくも美しい眼差し、すっと通った鼻筋、笑うと途端に幼くなる。正に忘れ形見そのものだった。
元気で明るい息子はその日も「行ってくる!」と私に向かって眩しく微笑んで玄関を抜けていった。
行き交う車のライトが水の溜まった路面に反射してチラチラと視界を煩わす。雨雲と降りしきる強い雨のせいでとても暗い夜だ。当たる雨の勢いで傘が鳴いてうるさい。
私は交差点の傍らにしゃがみ込んだ。例え嵐のように荒れた日でもここには来なくてはならない。
息子は七年前のこの時間に、ここで息絶えた。
在り来りな弔い方だと思う。こんなやり方をしていても、七年もの月日が経過してもなんの気も晴れない。なぜ事故に巻き込まれたのが私の息子だったのか、受け入れる事も許すことも出来ないまま私はその場に花を手向ける。花を包むフィルムにあっという間に雨粒が滴る。いつもなんとも言えない感傷に満ちて長居することは出来ない。雨に打たれてすぐに花が弱るのを見るのはきっと嫌だろうと、私はさしていた傘を花に預けた。
こんな土砂降りの日に傘を刺さずに街を歩くのは私だけだ。なかなか抜けていかない感傷を抱えて急ぐことも出来ずに歩く。
家の近くの駅の前に差し掛かると、私と同じように傘を持たずに雨の中で立ち尽くす青年を見た。
薄着のままずぶ濡れの彼は急ぐ様子も慌てる様子もなく、雨を楽しんでいるように見えた。傘をさし屈むようにして足早に歩く人々の中で、ゆっくりと雨に打たれるお互いの姿はよく目に付いた。彼もじっとこちらを見つめている。
私はその瞬間驚愕し過ぎて完全に固まっていたのだ。その眼差し、鼻筋、何度も見た。この七年、何度も何度も眺めた遺影の中の息子。そんなはずはないと分かっている。けれど目を離すことは出来ない。亡くなった時と年の頃は全く違うというのに、漂わす面影は息子そのもののようだ。動くことの出来ない私に彼は少し警戒気味に近付いてくる。
元気で明るい息子はその日も「行ってくる!」と私に向かって眩しく微笑んで玄関を抜けていった。
行き交う車のライトが水の溜まった路面に反射してチラチラと視界を煩わす。雨雲と降りしきる強い雨のせいでとても暗い夜だ。当たる雨の勢いで傘が鳴いてうるさい。
私は交差点の傍らにしゃがみ込んだ。例え嵐のように荒れた日でもここには来なくてはならない。
息子は七年前のこの時間に、ここで息絶えた。
在り来りな弔い方だと思う。こんなやり方をしていても、七年もの月日が経過してもなんの気も晴れない。なぜ事故に巻き込まれたのが私の息子だったのか、受け入れる事も許すことも出来ないまま私はその場に花を手向ける。花を包むフィルムにあっという間に雨粒が滴る。いつもなんとも言えない感傷に満ちて長居することは出来ない。雨に打たれてすぐに花が弱るのを見るのはきっと嫌だろうと、私はさしていた傘を花に預けた。
こんな土砂降りの日に傘を刺さずに街を歩くのは私だけだ。なかなか抜けていかない感傷を抱えて急ぐことも出来ずに歩く。
家の近くの駅の前に差し掛かると、私と同じように傘を持たずに雨の中で立ち尽くす青年を見た。
薄着のままずぶ濡れの彼は急ぐ様子も慌てる様子もなく、雨を楽しんでいるように見えた。傘をさし屈むようにして足早に歩く人々の中で、ゆっくりと雨に打たれるお互いの姿はよく目に付いた。彼もじっとこちらを見つめている。
私はその瞬間驚愕し過ぎて完全に固まっていたのだ。その眼差し、鼻筋、何度も見た。この七年、何度も何度も眺めた遺影の中の息子。そんなはずはないと分かっている。けれど目を離すことは出来ない。亡くなった時と年の頃は全く違うというのに、漂わす面影は息子そのもののようだ。動くことの出来ない私に彼は少し警戒気味に近付いてくる。
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