1 / 2
序章
しおりを挟む
「さて、どうしようかしら?」
私の目の前には白紙のノートが開かれている。夜が更けて微かに梟の鳴き声が聞こえるなか、私は鉛筆を手に取り、頭の中に漠然と浮かぶ物語を何とか形にしようとしていた。
「ああ、眠い……」
眠気が書くのを邪魔する。そして、薄ら頭の中に浮かぶ物語とは全く関係ない情景が、突然目の前に広がってくる。それは、とても退屈なものだ。
毎日がとても退屈だ。女学校でのお勉強の日々。結局お勉強したところ、自分が思い描く理想の道に進めるとは、とてもだが思えない。
女にも教育をと言うが、結局のところ、女はこうだ、こうあるべきだと、身をもってお勉強させられる。まさに詭弁だ。
女であることが疎ましい。男と女で一体何が違うというのだ。結局のところ、そんなに大差はないというのに。むしろ、子を産むことが出来る女のほうが、敬われて然るべきはずなのだが、この世の中は男のほうが偉く、女はそれに従うべきものという決まりなのである。
男なんて馬鹿ばかりだ。関心は戦ごとばかり。気に入らないものは、何事も力でねじ伏せようとする。後は女、少しでも良い女がいれば、その尻を後ろから追いかける、まさに盛りが付いた雄猫だ。女を取り合う姿なんて、本当にみっともない。明治から大正に変わって早一年。少しは時代が変わるかと思えば、名前だけが変わるだけなのか。
「はあ~……」
私はため息をつく。そんなことを、あれこれ物思いにふけたところで、どうしようもない。
……女学校も後、半年もすれば卒業だ。一番の成績ではいるものの、私はこの先の進路を全く決めていなかった。他の女子が自分の進むべき道を次々と決めていくなか、私は自分がどうしたいのか、その進むべき道が全く見えてこないのだ。
貧乏な身の上、女手ひとつで母は私を育てた。私は他の子たちよりも、どうやら物覚えと要領が良かったため、こうやって学校にも行かせてもらってる。男にいいように弄ばれ捨てられた母にとって、苦労のないようにと、娘に対する想いなのだろう。しかし、私はその母の想いとは裏腹に、私は自分の今後というものに、真剣に向き合っていなかった。
私が今後すべきことは、この半年の間に男を見つけそこに嫁ぐか、大学校に進学するかどちらかだ。女学校で誰よりも学のある私にとって、大学校への進学は容易だと思うし、こんな無愛想な女子ではあるが、私に言い寄る若い男はそれなりにいる。
しかし、私にはそれがどうやらぴんと来ないようだ。と言うか、何となく気乗りがしない。私は女とか、男であればこうあるべきという、そんなものに縛られたくないのだ。私は自由でいたい。出来ればこうやって小説など書くなどして、ずっと空想にふけっていたいのだが。
そうこうしているうちに、眠気がさらに強まり、自然に顔を机に伏せてしま……
目が覚めると蝋燭の明かりが消えていて、窓から月明かりが薄ら入っている。どうやらまだ夜中のようだ。
私は椅子から立ち上がり、蝋燭に火をつけようとしたところ、何やら人影があることに気づいた。
私は振り返る。後ろにあるもう一つの椅子に、何者かが座っている。
「……誰⁉︎」
私は思わず声を出したものの、恐怖で身体が震えてしまう。
「うふふふっ……」
若い女の声だ。母の声ではないし、同じ女学校の女子のうちの誰かなのか。全く心当たりがない。
次第に目が慣れてきて、徐々に謎の人物の姿が浮かび上がってくる。
私の目の前には、黒の着物を着た若い女が椅子に座っていた。しっかりと化粧された顔で、目鼻立ちがしっかりしている。だが、この顔どこかで……。
「初めまして、藤澤いすゞさん」
女が私の名前を呼ぶ。妖しい微笑みをこちらに向けてくる。
「なんでわたしの名前を知ってるの?わたしはあんたのことなんか知らない。誰よ?」
こんな得体の知れない人物が、断りもなしに自分の部屋に勝手に入ってきたとなれば、叫び声を出しても良いものだが、なぜかその気が全く起こらない。ただ、私はこの謎の女に何かされないだろうか、身体を小刻みに震えることしか出来ない。
「あなたは知ってるはずよ」
女はまたも妖しく微笑む。この何だか上から目線な感じと、どこか人を馬鹿にしたような雰囲気に、私は腹が立ってくる。でも、どこかでこの女を見た気が、この光景を見たような気がしていた。
「そんなの知らない……今、大声を出せば、人が来ますよ……」
私の言葉に、女は何やら可笑しかったのか、声を出して笑った。
「だったら、もうすでにやってるのではないの?そう、あなたは出来ないはずよ。したくても出来ないの」
女の瞳は何もかも見透かしてるかのようだ。女の言うとおり、私は大声で助けを呼べないどころか、女に殴りかかることさえ出来そうにない。金縛りではないのだけれど、何やら大きな力に支配されているかのようだ。
「もう一度言うわ。あなたは私のことを知ってるはずよ。そう、ずっと前から……」
女はまたも妖しく微笑む。だがそれは、先ほどまでの微笑みと違い、もっとどこか邪悪な、まるで本当の妖かのような危なく不可思議な感じがした。
「これで最後。もう一度言うわ。あなたは私のことを知ってる……」
女の妖しく光る眼光に、私は視線を逸らす。女の後ろには鏡があった。私はその鏡に視線がいく。そこには当然のことながら、私の顔が映っていた。
似ている。この女ほど洗練されていないものの、よく見れば顔形、よく似ている。
「あんたは誰なの⁉︎」
「まだそう言い張るの。本当はもう知ってるくせに」
女はどこか呆れたような、諦めたような、それでいてどこか意地悪な感じの笑みを浮かべた。妖しげな雰囲気のまま。
「……わたしをどうする気なの?」
「どうする気って、別に取って食おうなんて思わないわ。いや、ある意味、そうなのかもしれないけど」
私は女の言葉にいきなり襲い掛かろうと思った。だが、私の意思とは裏腹に、私はおとなしくこの女の話を聞いていた。
「そうね。もう少し、私に対して素直になってもらいたいかなって、そう思っているのよ」
「意味が分からないわ。何を素直って、こんな素性の分からず、いきなり人の部屋に入ってきて、素直になれなんて……」
女はため息とも嬌声とも取れる声を出し、私に近づいてくる。
「もっと素直になりなさいって、あれだけ言ってるでしょ……」
女は私の耳許で囁く。私は女の声ともに出る吐息に、耳がむず痒く感じた。
「あら、敏感なのね。でもそれでは、男は手玉に取れなくってよ。ほら、こうやってちゃんと、目と目を合わせて……」
女はそう言うと私に顔を近づけ、いきなり口付けをした。女の唾液が私の舌を通して流れ込む。舌と舌が絡み合い、女の温もりを感じる。
「これで少しは素直になったかしら……」
ああ、思わずとろけてしまいそうだ。この時の私は、自分の意に反して、情けないほどふやけた顔をしていたに違いない。私は恥ずかしさのあまり、顔を背けた。
「素直になったと思ったら、これは思ったより強情なようね」
「好きでもない男だったらともかく、女にやられるなんて、ああ、もうお嫁にいけないわ」
私は涙目になりながらそう言った。
「お嫁に行きたいなんて、本当は思ってもないくせに」
私は涙を拭いて顔を上げると、女が見下すかのようにこちらを見下ろしていた。
「女として生まれてきたのが嫌で、男にいいようにされたくないあなたが、お嫁に行きたいなんて思ってるわけないでしょ。私はあなたのことなら何でも知ってる。あなたは女でも男でもない、そんな枠の中におさまりたくない、ただただ、自由に行きたいだけ」
そのとおりだ。彼女の言うとおり、私はただ、自分らしく自由な生き方がしたいだけなのだ。
「あんたに言われなくたって、そんなこと分かってる」
女は私の許にしゃがみ込むと、私の頬を両手に当てる。
「じゃあ今度こそ、素直になって……」
そして、再び口付けをした。舌が絡み合い、何だか徐々に気持ち良くなっていく。もう、くだらない意地なんて、正直どうでもいい。どうでもよくなれといった感じだった。
口付けが終わると、お互い見つめ合った。彼女の口から私の中に何かが入っていく気がした。
「今度こそ少しは素直になったかしら……」
彼女の妖しげな顔がこちらに微笑んでくる。私はその顔を見て、たまらなくとろけてしまいそうになっていた。ああ、もっとこうしていたいと。
「じゃあ、そろそろ行くわ……」
彼女は振り返ると扉を開けて部屋から出ようとする。
「ねえ、あなたの名前を教えてもらえる?」
彼女は私の言葉に振り返り、囁くようにこう言った。
「夜羽真紅。それが私の名前、そしてこれからは……」
と彼女の言葉が途中から途切れ、私は気持ち良さのあまり、次第に意識が途切れて……。
目が覚めると、そこは私の部屋。蝋燭の明かりは消えていて、窓からは月明かりが入ってくる。そして、部屋には誰もいない。
私は蝋燭に火をつけると、白紙のノートにこれから描く物語を書き込んでいく。
翌朝、学校に行く時間、いつものように友人の朋枝がやって来る。
「いすゞ、早く学校行こう。でないと、遅刻しちゃうよ。って、いすゞ?……」
私は玄関に立っている朋枝に近づき、彼女の頬に両手を当て、そして口付けをした。舌を絡ませ、相手が気持ちよくなれるよう、上手く転がしていく。
口付けを終えると、朋枝は驚きと恥ずかしさのあまり、後ろに思いっきり下がる。
「ちょ、ちょっと!一体何⁉︎どうしたの?いすゞ⁉︎」
私は恥ずかしそうにしながらもとろけた顔をしている朋枝を見ながら、舌舐めずりをしてこう言った。
「さあ、これから朋枝のこと、どうしようかしらね。ふふふ、とても楽しみだわ」
近づく私に恥ずかしそうにする学友の顔は、それそれはとても可愛かった。こうやって遊ぶのは、とても楽しい。こうやって遊ぶことが出来るのは、この世で私だけではないだろうか。
さあ、これからどうやって、朋枝のことを手玉に取ろう。こうやって、今後もどんな男や女を手玉に取ろうって考えると、これから私の物語はどんどん面白くなっていく。
さあ、これからどういう物語を書いていこうか、私は今、それを考えるのがたまらなく楽しくて仕方なかった。
私の目の前には白紙のノートが開かれている。夜が更けて微かに梟の鳴き声が聞こえるなか、私は鉛筆を手に取り、頭の中に漠然と浮かぶ物語を何とか形にしようとしていた。
「ああ、眠い……」
眠気が書くのを邪魔する。そして、薄ら頭の中に浮かぶ物語とは全く関係ない情景が、突然目の前に広がってくる。それは、とても退屈なものだ。
毎日がとても退屈だ。女学校でのお勉強の日々。結局お勉強したところ、自分が思い描く理想の道に進めるとは、とてもだが思えない。
女にも教育をと言うが、結局のところ、女はこうだ、こうあるべきだと、身をもってお勉強させられる。まさに詭弁だ。
女であることが疎ましい。男と女で一体何が違うというのだ。結局のところ、そんなに大差はないというのに。むしろ、子を産むことが出来る女のほうが、敬われて然るべきはずなのだが、この世の中は男のほうが偉く、女はそれに従うべきものという決まりなのである。
男なんて馬鹿ばかりだ。関心は戦ごとばかり。気に入らないものは、何事も力でねじ伏せようとする。後は女、少しでも良い女がいれば、その尻を後ろから追いかける、まさに盛りが付いた雄猫だ。女を取り合う姿なんて、本当にみっともない。明治から大正に変わって早一年。少しは時代が変わるかと思えば、名前だけが変わるだけなのか。
「はあ~……」
私はため息をつく。そんなことを、あれこれ物思いにふけたところで、どうしようもない。
……女学校も後、半年もすれば卒業だ。一番の成績ではいるものの、私はこの先の進路を全く決めていなかった。他の女子が自分の進むべき道を次々と決めていくなか、私は自分がどうしたいのか、その進むべき道が全く見えてこないのだ。
貧乏な身の上、女手ひとつで母は私を育てた。私は他の子たちよりも、どうやら物覚えと要領が良かったため、こうやって学校にも行かせてもらってる。男にいいように弄ばれ捨てられた母にとって、苦労のないようにと、娘に対する想いなのだろう。しかし、私はその母の想いとは裏腹に、私は自分の今後というものに、真剣に向き合っていなかった。
私が今後すべきことは、この半年の間に男を見つけそこに嫁ぐか、大学校に進学するかどちらかだ。女学校で誰よりも学のある私にとって、大学校への進学は容易だと思うし、こんな無愛想な女子ではあるが、私に言い寄る若い男はそれなりにいる。
しかし、私にはそれがどうやらぴんと来ないようだ。と言うか、何となく気乗りがしない。私は女とか、男であればこうあるべきという、そんなものに縛られたくないのだ。私は自由でいたい。出来ればこうやって小説など書くなどして、ずっと空想にふけっていたいのだが。
そうこうしているうちに、眠気がさらに強まり、自然に顔を机に伏せてしま……
目が覚めると蝋燭の明かりが消えていて、窓から月明かりが薄ら入っている。どうやらまだ夜中のようだ。
私は椅子から立ち上がり、蝋燭に火をつけようとしたところ、何やら人影があることに気づいた。
私は振り返る。後ろにあるもう一つの椅子に、何者かが座っている。
「……誰⁉︎」
私は思わず声を出したものの、恐怖で身体が震えてしまう。
「うふふふっ……」
若い女の声だ。母の声ではないし、同じ女学校の女子のうちの誰かなのか。全く心当たりがない。
次第に目が慣れてきて、徐々に謎の人物の姿が浮かび上がってくる。
私の目の前には、黒の着物を着た若い女が椅子に座っていた。しっかりと化粧された顔で、目鼻立ちがしっかりしている。だが、この顔どこかで……。
「初めまして、藤澤いすゞさん」
女が私の名前を呼ぶ。妖しい微笑みをこちらに向けてくる。
「なんでわたしの名前を知ってるの?わたしはあんたのことなんか知らない。誰よ?」
こんな得体の知れない人物が、断りもなしに自分の部屋に勝手に入ってきたとなれば、叫び声を出しても良いものだが、なぜかその気が全く起こらない。ただ、私はこの謎の女に何かされないだろうか、身体を小刻みに震えることしか出来ない。
「あなたは知ってるはずよ」
女はまたも妖しく微笑む。この何だか上から目線な感じと、どこか人を馬鹿にしたような雰囲気に、私は腹が立ってくる。でも、どこかでこの女を見た気が、この光景を見たような気がしていた。
「そんなの知らない……今、大声を出せば、人が来ますよ……」
私の言葉に、女は何やら可笑しかったのか、声を出して笑った。
「だったら、もうすでにやってるのではないの?そう、あなたは出来ないはずよ。したくても出来ないの」
女の瞳は何もかも見透かしてるかのようだ。女の言うとおり、私は大声で助けを呼べないどころか、女に殴りかかることさえ出来そうにない。金縛りではないのだけれど、何やら大きな力に支配されているかのようだ。
「もう一度言うわ。あなたは私のことを知ってるはずよ。そう、ずっと前から……」
女はまたも妖しく微笑む。だがそれは、先ほどまでの微笑みと違い、もっとどこか邪悪な、まるで本当の妖かのような危なく不可思議な感じがした。
「これで最後。もう一度言うわ。あなたは私のことを知ってる……」
女の妖しく光る眼光に、私は視線を逸らす。女の後ろには鏡があった。私はその鏡に視線がいく。そこには当然のことながら、私の顔が映っていた。
似ている。この女ほど洗練されていないものの、よく見れば顔形、よく似ている。
「あんたは誰なの⁉︎」
「まだそう言い張るの。本当はもう知ってるくせに」
女はどこか呆れたような、諦めたような、それでいてどこか意地悪な感じの笑みを浮かべた。妖しげな雰囲気のまま。
「……わたしをどうする気なの?」
「どうする気って、別に取って食おうなんて思わないわ。いや、ある意味、そうなのかもしれないけど」
私は女の言葉にいきなり襲い掛かろうと思った。だが、私の意思とは裏腹に、私はおとなしくこの女の話を聞いていた。
「そうね。もう少し、私に対して素直になってもらいたいかなって、そう思っているのよ」
「意味が分からないわ。何を素直って、こんな素性の分からず、いきなり人の部屋に入ってきて、素直になれなんて……」
女はため息とも嬌声とも取れる声を出し、私に近づいてくる。
「もっと素直になりなさいって、あれだけ言ってるでしょ……」
女は私の耳許で囁く。私は女の声ともに出る吐息に、耳がむず痒く感じた。
「あら、敏感なのね。でもそれでは、男は手玉に取れなくってよ。ほら、こうやってちゃんと、目と目を合わせて……」
女はそう言うと私に顔を近づけ、いきなり口付けをした。女の唾液が私の舌を通して流れ込む。舌と舌が絡み合い、女の温もりを感じる。
「これで少しは素直になったかしら……」
ああ、思わずとろけてしまいそうだ。この時の私は、自分の意に反して、情けないほどふやけた顔をしていたに違いない。私は恥ずかしさのあまり、顔を背けた。
「素直になったと思ったら、これは思ったより強情なようね」
「好きでもない男だったらともかく、女にやられるなんて、ああ、もうお嫁にいけないわ」
私は涙目になりながらそう言った。
「お嫁に行きたいなんて、本当は思ってもないくせに」
私は涙を拭いて顔を上げると、女が見下すかのようにこちらを見下ろしていた。
「女として生まれてきたのが嫌で、男にいいようにされたくないあなたが、お嫁に行きたいなんて思ってるわけないでしょ。私はあなたのことなら何でも知ってる。あなたは女でも男でもない、そんな枠の中におさまりたくない、ただただ、自由に行きたいだけ」
そのとおりだ。彼女の言うとおり、私はただ、自分らしく自由な生き方がしたいだけなのだ。
「あんたに言われなくたって、そんなこと分かってる」
女は私の許にしゃがみ込むと、私の頬を両手に当てる。
「じゃあ今度こそ、素直になって……」
そして、再び口付けをした。舌が絡み合い、何だか徐々に気持ち良くなっていく。もう、くだらない意地なんて、正直どうでもいい。どうでもよくなれといった感じだった。
口付けが終わると、お互い見つめ合った。彼女の口から私の中に何かが入っていく気がした。
「今度こそ少しは素直になったかしら……」
彼女の妖しげな顔がこちらに微笑んでくる。私はその顔を見て、たまらなくとろけてしまいそうになっていた。ああ、もっとこうしていたいと。
「じゃあ、そろそろ行くわ……」
彼女は振り返ると扉を開けて部屋から出ようとする。
「ねえ、あなたの名前を教えてもらえる?」
彼女は私の言葉に振り返り、囁くようにこう言った。
「夜羽真紅。それが私の名前、そしてこれからは……」
と彼女の言葉が途中から途切れ、私は気持ち良さのあまり、次第に意識が途切れて……。
目が覚めると、そこは私の部屋。蝋燭の明かりは消えていて、窓からは月明かりが入ってくる。そして、部屋には誰もいない。
私は蝋燭に火をつけると、白紙のノートにこれから描く物語を書き込んでいく。
翌朝、学校に行く時間、いつものように友人の朋枝がやって来る。
「いすゞ、早く学校行こう。でないと、遅刻しちゃうよ。って、いすゞ?……」
私は玄関に立っている朋枝に近づき、彼女の頬に両手を当て、そして口付けをした。舌を絡ませ、相手が気持ちよくなれるよう、上手く転がしていく。
口付けを終えると、朋枝は驚きと恥ずかしさのあまり、後ろに思いっきり下がる。
「ちょ、ちょっと!一体何⁉︎どうしたの?いすゞ⁉︎」
私は恥ずかしそうにしながらもとろけた顔をしている朋枝を見ながら、舌舐めずりをしてこう言った。
「さあ、これから朋枝のこと、どうしようかしらね。ふふふ、とても楽しみだわ」
近づく私に恥ずかしそうにする学友の顔は、それそれはとても可愛かった。こうやって遊ぶのは、とても楽しい。こうやって遊ぶことが出来るのは、この世で私だけではないだろうか。
さあ、これからどうやって、朋枝のことを手玉に取ろう。こうやって、今後もどんな男や女を手玉に取ろうって考えると、これから私の物語はどんどん面白くなっていく。
さあ、これからどういう物語を書いていこうか、私は今、それを考えるのがたまらなく楽しくて仕方なかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
秦宜禄の妻のこと
N2
歴史・時代
秦宜禄(しんぎろく)という人物をしっていますか?
三国志演義(ものがたりの三国志)にはいっさい登場しません。
正史(歴史の三国志)関羽伝、明帝紀にのみちょろっと顔を出して、どうも場違いのようなエピソードを提供してくれる、あの秦宜禄です。
はなばなしい逸話ではありません。けれど初めて読んだとき「これは三国志の暗い良心だ」と直感しました。いまでも認識は変わりません。
たいへん短いお話しです。三国志のかんたんな流れをご存じだと楽しみやすいでしょう。
関羽、張飛に思い入れのある方にとっては心にざらざらした砂の残るような内容ではありましょうが、こういう夾雑物が歴史のなかに置かれているのを見て、とても穏やかな気持ちになります。
それゆえ大きく弄ることをせず、虚心坦懐に書くべきことを書いたつもりです。むやみに書き替える必要もないほどに、ある意味清冽な出来事だからです。
藤と涙の後宮 〜愛しの女御様〜
蒼キるり
歴史・時代
藤は帝からの覚えが悪い女御に仕えている。長い間外を眺めている自分の主人の女御に勇気を出して声をかけると、女御は自分が帝に好かれていないことを嘆き始めて──
叛雨に濡れる朝(あした)に
海善紙葉
歴史・時代
敵は信長か?それとも父・家康なのか! 乱世の不条理に敢然と立ち向かえ!夫も子もかえりみず、ひたすらにわが道を突き進むのみ!!!💬
(あらすじ)
○わたし(亀)は、政略結婚で、17歳のとき奥平家に嫁いだ。
その城では、親信長派・反信長派の得体の知れない連中が、ウヨウヨ。そこで出会った正体不明の青年武者を、やがてわたしは愛するように……
○同い年で、幼なじみの大久保彦左衛門が、大陸の明国の前皇帝の二人の皇女が日本へ逃れてきて、この姫を手に入れようと、信長はじめ各地の大名が画策していると告げる。その陰謀の渦の中にわたしは巻き込まれていく……
○ついに信長が、兄・信康(のぶやす)に切腹を命じた……兄を救出すべく、わたしは、ある大胆で奇想天外な計画を思いついて実行した。
そうして、安土城で、単身、織田信長と対決する……
💬魔界転生系ではありません。
✳️どちらかといえば、文芸路線、ジャンルを問わない読書好きの方に、ぜひ、お読みいただけると、作者冥利につきます(⌒0⌒)/~~🤗
(主な登場人物・登場順)
□印は、要チェックです(´∀`*)
□わたし︰家康長女・亀
□徳川信康︰岡崎三郎信康とも。亀の兄。
□奥平信昌(おくだいらのぶまさ)︰亀の夫。
□笹︰亀の侍女頭
□芦名小太郎(あしなこたろう)︰謎の居候。
本多正信(ほんだまさのぶ)︰家康の謀臣
□奥山休賀斎(おくやまきゅうがさい)︰剣客。家康の剣の師。
□大久保忠教(おおくぼただたか)︰通称、彦左衛門。亀と同い年。
服部半蔵(はっとりはんぞう)︰家康配下の伊賀者の棟梁。
□今川氏真(いまがわうじざね)︰今川義元の嫡男。
□詞葉(しよう)︰謎の異国人。父は日本人。芦名水軍で育てられる。
□熊蔵(くまぞう)︰年齢不詳。小柄な岡崎からの密偵。
□芦名兵太郎(あしなへいたろう)︰芦名水軍の首魁。織田信長と敵対してはいるものの、なぜか亀の味方に。別の顔も?
□弥右衛門(やえもん)︰茶屋衆の傭兵。
□茶屋四郎次郎(ちゃやしろうじろう)︰各地に商店を持ち、徳川の諜報活動を担う。
□佐助︰大人だがこどものような体躯。鞭の名人。
□嘉兵衛(かへい)︰天満屋の番頭。
松永弾正久秀︰稀代の梟雄。
□武藤喜兵衛︰武田信玄の家臣。でも、実は?
足利義昭︰最後の将軍
高山ジュスト右近︰キリシタン武将。
近衛前久(このえさきひさ)︰前の関白
筒井順慶︰大和の武将。
□巣鴨(すがも)︰順慶の密偵。
□あかし︰明国皇女・秀華の侍女
平岩親吉︰家康の盟友。
真田昌幸(さなだまさゆき)︰真田幸村の父。
亀屋栄任︰京都の豪商
五郎兵衛︰茶屋衆の傭兵頭
教皇の獲物(ジビエ) 〜コンスタンティノポリスに角笛が響く時〜
H・カザーン
歴史・時代
西暦一四五一年。
ローマ教皇の甥レオナルド・ディ・サヴォイアは、十九歳の若さでヴァティカンの枢機卿に叙階(任命)された。
西ローマ帝国を始め広大な西欧の上に立つローマ教皇。一方、その当時の東ローマ帝国は、かつての栄華も去り首都コンスタンティノポリスのみを城壁で囲まれた地域に縮小され、若きオスマンの新皇帝メフメト二世から圧迫を受け続けている都市国家だった。
そんなある日、メフメトと同い年のレオナルドは、ヴァティカンから東ローマとオスマン両帝国の和平大使としての任務を受ける。行方不明だった王女クラウディアに幼い頃から心を寄せていたレオナルドだが、彼女が見つかったかもしれない可能性を西欧に残したまま、遥か東の都コンスタンティノポリスに旅立つ。
教皇はレオナルドを守るため、オスマンとの戦争勃発前には必ず帰還せよと固く申付ける。
交渉後に帰国しようと教皇勅使の船が出港した瞬間、オスマンの攻撃を受け逃れてきたヴェネツィア商船を救い、レオナルドらは東ローマ帝国に引き返すことになった。そのままコンスタンティノポリスにとどまった彼らは、四月、ついにメフメトに城壁の周囲を包囲され、籠城戦に巻き込まれてしまうのだった。
史実に基づいた創作ヨーロッパ史!
わりと大手による新人賞の三次通過作品を改稿したものです。四次の壁はテオドシウス城壁より高いので、なかなか……。
表紙のイラストは都合により主人公じゃなくてユージェニオになってしまいました(スマソ)レオナルドは、もう少し孤独でストイックなイメージのつもり……だったり(*´-`)
湖に還る日
笠緒
歴史・時代
天正十年六月五日――。
三日前に、のちの世の云う本能寺の変が起こり、天下人である織田信長は、その重臣・惟任日向守光秀に討たれた。
光秀の女婿・津田信澄は大坂城・千貫櫓にあり、共謀しているのではないかと嫌疑をかけられ――?
人が最後に望んだものは、望んだ景色は、見えたものは、見たかったものは一体なんだったのか。
生まれてすぐに謀叛人の子供の烙印を押された織田信長の甥・津田信澄。
明智光秀の息女として生まれながら、見目麗しく賢い妹への劣等感から自信が持てない京(きょう)。
若いふたりが夫婦として出会い、そして手を取り合うに至るまでの物語。
平治の乱が初陣だった落武者
竜造寺ネイン
歴史・時代
平治の乱。それは朝廷で台頭していた平氏と源氏が武力衝突した戦いだった。朝廷に謀反を起こした源氏側には、あわよくば立身出世を狙った農民『十郎』が与していた。
なお、散々に打ち破られてしまい行く当てがない模様。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる