弟、異世界転移する。

ツキコ

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2章

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「やっと出られた…」

「殿下!ケイを助ける方法をご存知ではありませんか!?どうかお力をお貸しください!」

ヴィルヘルムが扉から出た途端に飛びつくように請うエディ。
その背中にはぐったりとしたケイがいた。
ヴィルヘルムの目はその一点だけを見つめ困惑していた。

「ケイ…?」

「魔力が枯渇しかけているんです」

「…そうか。副団長、君の風魔法で私を運んでくれないか。ケイは抱えて行く」

「了解しました。殿下、ケイは…」

助かるのでしょうか。
その先を言い澱んでしまうのはもしもを考えてしまうことが恐ろしいから。
言ってしまったら現実になるような気がして言葉が出ない。

「問題ないよ。ただ、その…これからすることは決してふざけているわけではないから動揺しないでほしい」

「は?はあ…」

突然何を…と思いながらもエディはヴィルヘルムにケイを預ける。
なんだっていい。
ケイが助かれば、それでいい。
おぞましい方法でなければ、また変わらないいつも通りのケイに会えるのなら方法はなんだっていい。

「ケイ、ケイ。目を開けて」

「……」

薄っすらと目を開けるケイ。
返事をすることすらままならないようだ。

焦点の合っていないような瞳がヴィルヘルムを見つめる。

「…いいかい?全部飲み込むんだよ」

「は…ふ、ぅ…ん…」

魔王は体外から魔力を吸収する。
ノア、ケイ、恐らくマヤも魔力取得方法は同じ。
周囲の魔素を変換して取り込む方法だ。

そしてノアも散々やっていたがもうひとつ。
他者の体液を摂取することにより直接的に取り込む方法がある。

ケイは魔力吸収率が他者よりも遥かに優れている。
そのため多少の唾液でも驚くほどの効果がある。

「ん……ん…っ」

流れ込んでくる唾液をこくこくと飲む。
ぼんやりとしていた瞳は徐々に熱を持ち始めていた。

「ふぁ…ん、んぅ…ッ、ヴィー…」

「なあエディ…」

「しっ!アタシ達は何も聞いてないわ。聞こえてないの。そうでしょ!?」

「お、おう…」

「そこの角、敵がいるわ」

「はいはい、了解了解っと」

エディとしては、確かに方法はなんでもいいと思っていた。
しかしそれはどうかと思う。
立場が立場なので何も言えないが。

その苛立ちをぶつける相手はもちろんアランである。
エディが苛立つ時はアランが冷静で、アランが苛立つ時はエディが冷静なナイスコンビの2人。

「は……ケイ…具合はどう?」

「あ…へ、平気…もう大丈夫…」

「最低限の魔法だけ使うんだ。どういうわけかここには魔素がない」

ヴィルヘルムはここで何があったのかは知らない。
ただ火事の中、出口に向かっているという現状しかわからない。

それでもケイの様子から周囲に魔素がないことを突き止めたのはさすがの知識量だと言える。
ケイに魔力については恐らく勘づいていたのだろう。

「うん…ヴィー、その…」

「ん?」

「……もうちょっとだけ…」

「…………。いいよ、ほら口を開けて」

「ぁ…」

「ああああっとぉ!!殿下ぁ!!もう出口ですのでえ!!」

「!!!」

エディの声にぱっと顔俯けるケイ。
どうやらエディもアランもいることをすっかり忘れていたようだ。

「残念。またあとでね」

「あとでっじゃ、ないっでしょうが…っ」

「落ち着けエディ…俺達にはもうどうしようもねえ…」

娘に手を出された父親のように怒りに震えるエディだが拳は握るだけに留めておく。

そんなこんな出口までの道のりは長かったがようやくこれで外に出られるようだ。
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