100 / 107
2章
57
しおりを挟む
「に、兄さん、おやすみっ…!」
「は!!!?ちょ、恵!!?」
言い逃げのような形でヴィーの部屋に入り込む。
ヴィーの部屋に入り鍵をかける。
「恵!!!」
マヤが扉を何度も叩く。
切羽詰まったような声に罪悪感を感じる。
けれど今日はここにいなくてはいけない。
理由があるわけではないが、胸騒ぎがするのだ。
「あ、ああのっ、ご、ごめんね、兄さん…!」
「恵……」
「今日だけ、今日だけだから…お願い…」
「………………………わかった…」
というよりは認めるしかないのだろう。
現状扉を蹴破るしか入る方法がないのだから。
そしてケイが扉の近くにいる以上それもできない。
その時のマヤの声が地の底を這うように低かったのは考えないことにした。
「……よかったのかい?」
「…………うん。いいんだ…」
「戻っても構わないよ」
これはヴィーなりの気遣い。
今戻ればマヤにも追いつく。
「だ、駄目だよ…!俺は、ヴィーのために、ここにいるんだから……」
「その私がいいと言っているんだよ。君は兄上に嫌われるのが怖いのだろう?」
「だめ…絶対、だめだもん……」
事実、嫌われるのは怖い。
嫌われたら歩み出せなくなるほど、怖い。
けれどこればかりは譲るわけにはいかない。
「ヴィーも、気づいているんじゃないの…?」
「そうだね。確かにもうすぐは近い」
「なら、」
クーデターが近いとわかっているなら認めてほしい。
どうしてそこまでケイを離そうとするのか。
「けれど君に守らせたと知られれば、彼は怒り狂いそうだね」
「?ヴィー…?」
「やはり自分のことは自分でどうにかするべきなのだろう」
「え?」
今までと違うことを言った。
俺と一緒にいてくれるんじゃないの?
ヴィーが死ぬ未来がヴィーに見えている。
それなのに今、彼は自分でどうにかするなどと言ったのだ。
どうにもできないから死ぬというのに。
「君を危険な目に遭わせるくらいなら私が対処すべきではないかと思ったんだ」
「なに、それ。ヴィーは死んじゃうんでしょ?わかってるのにどうして死にに行くの?」
「君と私、どちらを選んだかの違いだよ」
「そう」
「…ケイ?」
ケイの顔から表情が抜け落ちる。
ヴィーが言ったのだ。
どちらかを選んだ結果の行動だと。
ならばこちらもそうしよう。
ヴィーが死を選ぶならこちらは生を選ぼう。
「大丈夫だよ、ヴィー」
「け、ケイ…っ!?」
開いた扉にヴィーを投げ込む。
腕力などなくとも魔法でどうにでもなる素晴らしい世界。
最初からこうしていたらよかったのだ。
そうしたら無駄に悩むことも考えることもなかった。
扉を閉め、そのまま外には繋がらないようにする。
そしてまたいつものように微笑んだ。
「俺が、守ってあげるからね」
「は!!!?ちょ、恵!!?」
言い逃げのような形でヴィーの部屋に入り込む。
ヴィーの部屋に入り鍵をかける。
「恵!!!」
マヤが扉を何度も叩く。
切羽詰まったような声に罪悪感を感じる。
けれど今日はここにいなくてはいけない。
理由があるわけではないが、胸騒ぎがするのだ。
「あ、ああのっ、ご、ごめんね、兄さん…!」
「恵……」
「今日だけ、今日だけだから…お願い…」
「………………………わかった…」
というよりは認めるしかないのだろう。
現状扉を蹴破るしか入る方法がないのだから。
そしてケイが扉の近くにいる以上それもできない。
その時のマヤの声が地の底を這うように低かったのは考えないことにした。
「……よかったのかい?」
「…………うん。いいんだ…」
「戻っても構わないよ」
これはヴィーなりの気遣い。
今戻ればマヤにも追いつく。
「だ、駄目だよ…!俺は、ヴィーのために、ここにいるんだから……」
「その私がいいと言っているんだよ。君は兄上に嫌われるのが怖いのだろう?」
「だめ…絶対、だめだもん……」
事実、嫌われるのは怖い。
嫌われたら歩み出せなくなるほど、怖い。
けれどこればかりは譲るわけにはいかない。
「ヴィーも、気づいているんじゃないの…?」
「そうだね。確かにもうすぐは近い」
「なら、」
クーデターが近いとわかっているなら認めてほしい。
どうしてそこまでケイを離そうとするのか。
「けれど君に守らせたと知られれば、彼は怒り狂いそうだね」
「?ヴィー…?」
「やはり自分のことは自分でどうにかするべきなのだろう」
「え?」
今までと違うことを言った。
俺と一緒にいてくれるんじゃないの?
ヴィーが死ぬ未来がヴィーに見えている。
それなのに今、彼は自分でどうにかするなどと言ったのだ。
どうにもできないから死ぬというのに。
「君を危険な目に遭わせるくらいなら私が対処すべきではないかと思ったんだ」
「なに、それ。ヴィーは死んじゃうんでしょ?わかってるのにどうして死にに行くの?」
「君と私、どちらを選んだかの違いだよ」
「そう」
「…ケイ?」
ケイの顔から表情が抜け落ちる。
ヴィーが言ったのだ。
どちらかを選んだ結果の行動だと。
ならばこちらもそうしよう。
ヴィーが死を選ぶならこちらは生を選ぼう。
「大丈夫だよ、ヴィー」
「け、ケイ…っ!?」
開いた扉にヴィーを投げ込む。
腕力などなくとも魔法でどうにでもなる素晴らしい世界。
最初からこうしていたらよかったのだ。
そうしたら無駄に悩むことも考えることもなかった。
扉を閉め、そのまま外には繋がらないようにする。
そしてまたいつものように微笑んだ。
「俺が、守ってあげるからね」
10
お気に入りに追加
696
あなたにおすすめの小説
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
召喚された少年は公爵様に愛される
さみ
BL
突然、魔導士により召喚された、ごく普通の大学生の乃亜(ノア)は何の能力も持っていないと言われ異世界の地で捨てられる。危険な森を彷徨いたどり着いた先は薔薇やガーベラが咲き誇る美しい庭だった。思わずうっとりしているとこっそりとパーティーを抜け出してきたライアンと出会い.....
魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる