弟、異世界転移する。

ツキコ

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2章

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「恵、帰るぞ」

「…兄さん」

元に戻ったのだからすぐに言ってくるだろうとは思っていた。
ちなみに小さかった時の記憶はばっちりある。

正直ちょっと気まずい。
今見れば違うのはわかる。
当然わかる。
間違えるわけがない。

しかし、その、あの時は中身も5歳児だったわけで。
記憶も5歳の時のものなのだ。
そしてあの時期が1番あの人に恐怖を感じていた時期でもある。

…なんて全て言い訳にしかならないが。

「帰ろう、な?」

「あの、俺、まだここにいたい…」

「恵…」

「お願い、兄さん…」

駄目だったら諦めよう。
いや、でも、諦めたら、ヴィーが…

きゅっと唇を噛む。
どうしよう。
兄さんに駄目って言われたら。

お願い、兄さん。
駄目って言わないで。
まだここにいさせて。

「……わかった。いいよ。俺もまだエディさんに聞きたいことがあるから」

ほっと息を吐く。

よかった。
エディさんのおかげかな…
そこでふと疑問が湧く。

なんてことはない。
ちょっとした疑問だ。

「…兄さんってエディさんのこと好きだよね」

「そうだな」

基本的に全員敵みたいなスタンスなのにエディには違う。
懐いているっていうか、そんな感じがする。

短期間、短時間で兄さんが気を許すのは不思議でしかなかった。

「エディさん物知りだから?」

「…エディさんはな、母さんに似てるんだよ」

「………お母さん、に…」

「ああ。本当に…母さんみたいなんだ」

そう言った兄さんの顔はどこまでも優しげだった。
母のことを思い出しているのだろうか。

残念ながらケイには元気な母の記憶はない。
ケイの記憶の中の母はいつも病院にいた。

優しく穏やかな母だった。

「ねえ、兄さん。お母さんってどんな人だった?」

「ん?そうだな…いつでも楽しそうで元気な人だったよ」

少し考え、思い出したように続ける。

「あの人が水嫌いなのは知ってるよな?」

「うん」

「母さんな、あの人に向かってホースの水ぶっかけたことあるんだよ」

「えっ!大丈夫なの…?」

そんなことをしたら間違いなく殴られる。
怒鳴られるだけで済むわけがない。

そう考えるだけでぞっとする。
現にケイの顔は少し血の気が引いている。

それに気づいたマヤはケイの頭を撫でてやりながら話を続ける。

「あの人は母さんのこと大好きだったからなあ…顔引きつらせながら2人で水遊びしてたよ」

ケイの記憶の中の父と同一人物は思えない。

顔を引きつらせながら、ということは怒ってはいないということだ。
しかもそのまま2人で水遊び。
ケイにはそんな姿が全く想像できない。

「…。もっとお母さんの話聞きたい。教えて、兄さん」

「いいよ。って言っても俺もあんま覚えてないんだけどなあ…」

そう言いながらも兄さんはあんなこともあったこんなこともあったと思い出した順に話していった。
ぽつりぽつりと零される思い出。

ケイは知らない両親の思い出。
それは聞いているだけで幸せだった。

最初は全く想像できなかった。
しかし聞いている内に徐々に想像できるようになっていった。

あの人は確かに母のことが大好きだった。
それは、ケイでもわかる。
むしろケイだからこそ痛いくらいにわかる。

今なら、あの人のことが多少は理解できるのだろうか。
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