弟、異世界転移する。

ツキコ

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1章

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今日もカイは帰って来ない。
これで5日連続だ。

エディはもうすぐで仕事は終わると。
帰って来ると言っていた。

もうすぐって一体いつ?

あとどのくらい待てば帰って来るのだろうか。
怪我はしていないだろうか。
ちゃんと帰って来るのだろうか。

ベッドに横になりながらぼんやりと部屋を見ていた。
もう寝ようか、そう考えていた時、静かに扉が開く音が聞こえた。

「カイさん…?」

「……」

月明かりだけが頼りの部屋。
たしかに見えたその金髪はカイのものだった。
真っ直ぐにこちらへ向かってくる。
まるで見えているかのように確固とした足取りだった。

「カイさんおかえりなさ…っ」

「ん…」

「か、カイさん?」

どさりと倒れ込むようにケイの上に落ちた。
戸惑うケイに気づくことなくそのまま抱き込む。

何かおかしい。
なんというかこれは抱き枕みたいな…

カイをなんとか見上げて見るとその瞳はしっかりと閉じられていた。

ね、寝てる…!?
もしかしてかなりお疲れなんだろうか。

それじゃあ、うん。
このままでもいいか。

「…おやすみなさい、カイさん」

カイの邪魔にならないようにとなるべく抱き枕に徹する。
今日はなんだかいい夢が見られるような気がした。





 * * *





「ほんっっっっっとうにごめん!!」

朝イチ。
起きて状況を理解した瞬間の土下座だ。
どこでも土下座は共通の文化なのか。

「気にしないでください。疲れはとれましたか?」

「あ、うん…おかげでばっちり…」

「ならよかったです」

ふにゃりと微笑むケイ。
カイが動き出してから起きたのでまだぼんやりぽやぽやしている。

「…ごめん。あと、ありがとう」

「はい。どういたしまして。抱き枕くらいいつでもなりますよ?」

「それは駄目。簡単にそういうこと言うとあとで自分の首を締めることになるからね」

「カイさんにだけですよ」

あと兄さん。
こっちではカイだけ。
うん、嘘じゃない。

疲れてる時は温もりが欲しくなるって聞いたことがある。
それにそのくらいならできるから。

「ケイ、僕で遊んでる?」

「?」

遊ぶ?どうやって?
揶揄うとか、そういうことだろうか。

でもそんなつもりで言ったんじゃない。
ただ疲れているなら何かしてあげたいと思っただけだ。
それで疲れがとれたと言うのならなおのこと。

「はあ…これからはない、とは言い切れないけど…なるべく気をつけるから。ケイも気をつけること」

「はい」

「…本当にわかってるのかなあ…」

わかっている。
カイがきちんと休めるように気をつける。

倒れるように寝るなんて気絶と同じだ。

「そうだ。昨日はちゃんと言えなかったから…おかえりなさい、カイさん」

「……ただいま、ケイ」
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