弟、異世界転移する。

ツキコ

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1章

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大浴場はすごかった。
何がすごいって広さはもちろん種類の多さがすごい。
効能まで記してあったが騎士の人達がそれを見ているかは疑問だ。
ここを作った人はかなりの温泉好き…あるいはお風呂好きだと思われる。

夕飯は相変わらず不思議感触美味しい食感だった。
フォークやスプーンで触った感触はぷにょっとしているものが多いのに口に入れれば普通の食感。
これも魔法かと思えば納得できる気もした。

食後にどこからともなくエディが現れたと思ったらにこにこの笑顔で抱き上げられた。
エディに連行されたケイは瞬く間に団長の執務室へと連れて行かれたのだった。

そして現在。

「あの、団長さん、これは一体…」

「まあまあ」

現在、何故かベッドの上で押し倒されています。

何がまあまあなのか説明してほしい。

執務室の奥が団長の部屋だったらしい。
執務室に着いた途端投げ込まれるようにベッドへ送り込まれた。
ケイが混乱している間に団長はその上に跨りマウントを取った。
ケイの困惑を他所に上裸になる団長。

「な、なに、するつもりですか…?」

気分は狼の前に差し出された子羊。
かたかたと小さく震えるケイ。
それがより一層加虐心を煽ることを彼は知らない。

「ナニってわかんだろ?」

「っ…っ!!」

ぶんぶんと首を振る。
わからないしわかりたくない。
そんなケイに団長の顔が近づく。
さぁっと顔を青くする。

知っている。
このあとどういったことをされるのか。
本当はわかっている。
だって、前にもあったから。

トラウマの扉をこじ開けられかけ、恐怖を怒りが凌駕する。

「っ触んな!!!」

筋肉隆々というか体格のいい団長。
頭のどこかで抵抗するだけ無駄だとはわかっていた。
しかし心は拒絶する。

嫌だ、気持ち悪い。触るな。

嫌悪の感情でいっぱいになる。
ただ、その抵抗は偶然にもヒットしたらしい。
右の拳は団長の頬、どちらの足かわからないが暴れた足は団長の急所にヒット。

「ぐッ…」

一瞬の隙をついて転がるようにベッドから抜け出す。
逃げ足には自信がある。
今まで何度も逃げて来たから。

必死に足を動かしながら当てもなく走る。
カーペットが敷いてあってよかったと心底思う。
さすがに裸足で石造りの上は辛い。

どこに行けばいい?どうしたらいい?

頼りになる兄は、いつも助けてくれる兄はもういない。
自分1人で逃げなくてはいけない。
自分のことは自分で。
そんな当たり前のことがこんなにも苦しいなんて。

記憶を頼りに薄暗い廊下を走る。
出口はどこ。
階段の先に大きな扉を見つけた。
たぶん、あれが出口。

「ケイ?どうしたの?」

「!え、でぃさん…」

優しく微笑んだその顔に一瞬安心した。
しかしすぐに思い出す。
あの場所に連れて行ったのも紛れもなくエディなのだ。

心臓が嫌に早鐘を打つ。
エディは階段の隣から現れたのだ。
それはまるで。

まるで待っていたみたいじゃないか…!

ひゅっと息が詰まる。
逃げ場はどこにもないのだと脅迫概念に囚われる。

「ケイ?」

ゆっくりと彼がこちらに近づいてくる。
その速度が余計に恐怖を煽る。

嫌だ、来ないで、怖い。

ぎゅっときつく目を瞑る。
酷く目眩がして立っていられなくなる。
身体を守るように蹲る。

「兄さん…助けて……」

縋る先もなく求める人も居らず、1人ではないもできない。
小さな小さなその声は暗闇に溶けて消えた。
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