弟、異世界転移する。

ツキコ

文字の大きさ
上 下
3 / 107
1章

3

しおりを挟む
蹲って落ち込んでいたら何を思ったか彼はそのまま抱き上げ歩き出した。
数秒間のフリーズ。

「え」

出てきたのはたった1文字だった。
えっ、待って?
なんで俺今抱っこされてるの?
しかもこれお姫様抱っこじゃない?
えっ、なんで?

「どうかしましたか?」

悪意0の笑顔で言われれば何も言えない。
実際何か問題があるわけじゃない。
ただ混乱しているだけだ。

「なんでも、ないです…」

そうとしか答えられない。
感情を無にすることで引き攣りそうな顔を抑える。

「じっとしていてくださいねー……よっ」

ふわっとした浮遊感の後、何かに座った感触。
いや、何かじゃない。
この青年の間に座っているということは馬に座ったというか乗ったのだろう。

……うま?

「っ、っ!?」

「大丈夫ですよ。俺がいますから!」

にかっと再び悪意0の笑顔。
違う、そうじゃない。
というか何が大丈夫なんだ。

驚き目を瞠いている間にのそのそと馬は動き出す。

「!!」

ぎゅっとしがみつく。
馬になんて乗ったことない。
慣れない振動に馬が歩く度、落ちるんじゃないかとびくびくする。
いくら青年が支えてくれているとはいえ怖いものは怖いのだ。

しがみついたというかほぼ抱きついたのは事故だ。
いのちだいじに。

「そうだ、なんか話しましょう。気が紛れればいいんじゃないですか?」

「なんかって、何ですか?」

「えっと、あ!そう!自己紹介しましょう!俺はシモンって言います!この前騎士団になったばっかの新人です!」

騎士団、その言葉に妙に納得した。
鎧を着て剣を手にして馬で駆ける。
ああ、確かに正しくその姿は騎士だ。

「俺は恵です。三好恵…えっとケイ・ミヨシ?」

たぶん合っていると思う。
日本人に人参カラーの人がいるとは思えないし、シモンという名前は外国風である。
シモンは俯きながらケイの名前をしばらく反復するとぱっと顔を上げた。

「ケイは貴族なんですよね?」

「えっ?貴族?」

どうしてそうなった、とシモンの顔を見つめる。
驚きと困惑が出ていたのかシモンは首を傾げるとまた自己完結したらしい。

「あっ!言いづらいことだったんですかね?すみません、俺気づかなくて…」

「え、あの、俺、貴族じゃないです!」

「大丈夫です!深く聞いたりしませんから!」

「いやだから本当に貴族じゃな…」

「いいんです。言いづらいことを無理に言おうとしなくても!大丈夫ですよ!」

「っシモンさん!俺は…!」

全くこちらの話を聞かなくなったシモンと一方通行な会話を続ける。
さてはこの人盲目なんだな?
信じたら疑わないところは危ない気がする。
詐欺とか絶対引っかかるよ。

なんとか話を聞いてもらおうと奮闘するものの意味をなさず。
大丈夫です!わかってます!を繰り返す。
しかしそのおかしな会話のお陰で馬のことが気にならなくなったのも事実。
要塞らしき所に着く頃には呆れてため息しか出てこず、言い返すのはもう諦めていた。

「ケイ、じっとしていてくださいね」

…乗る時は気づかなかったのだが。
この男、背高いな?
ケイの身長は170、体格は小柄…というか細身の部類に入る。
しかしそれにしても背が高く見える。
兄…よりは小さいかな、うん。

「ここは?」

「騎士団の駐屯所です!魔物からは!ここが1番安全ですね!」

言い方が少し気になったが放置。
駐屯所ということはここが拠点なのだろう。

……迷子の保護もしてくれるのだろうか。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

処理中です...