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1章
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夢じゃなかった。
夢だったらどんなによかったか。
いや本当、ここどこなの。
えっ実は室内とか?
だって月が2つっておかしいよね?
えっ知らなかっただけとかそんなことないよね?
蜃気楼?絶対違うよね??
気絶とはいえ眠ったお陰か昨日よりは現実が受け入れられる。
人間の順応能力ってすごい。
足はずきずきと痛むがまた進む。
…お腹空いた。
そういえば昼から何も食べてないな。
周りを見渡してみてもあるのは木、木、木。
せめてなんか果物とか…なんで何もないんだ…
しばらく進んで行くと道を見つけた。
念願の道…!
足取りが軽くなるのがわかる。
わあい!道に出れたー!と喜んだのも束の間。
まるで待ってました!と言わんばかりの巨大カマキリ。
えっ新種…?
いやいやいや、まずくね?これまずくね?
「ひっ…!!?」
鞄を抱き抱えながら走る。
森の中には戻りたくないという心理が働いたのかカマキリの進行方向へ走る。
カマキリって人間よりもでかいんだっけ!?
いやもうあれ熊とかそういうレベルだよね!?
足は痛いし、お腹は空いたし最悪だ。
なんでこんなことに。
というかどこまで追ってくるつもりだ。
その足の動きやめて、怖いから。
「っ!!」
どべしゃっと転ぶ。
兄が来てくれたら助かったかもしれないのに、とありもしないことを思う。
慌てて後ろを振り返れば巨大カマキリはその鎌を振り上げていた。
駄目だ、殺られる…!
ぎゅっと目を瞑り身を固くする。
耳元でぶぉんっという音がした。
けれど痛みはこない。
恐る恐る目を開けるとカマキリは確かにそこにいた。
その鎌を頬の近くにセットしながら。
いつでも殺れるけどどうしようかな、みたいな…?
逃してそれを追いかけて楽しむタイプ…?
ひゅっと息が詰まるのがわかる。
「おらぁッ!!」
巨大カマキリの背後から声がした。
と同時にスプラッタな現状が視界に入る。
目にはじわりと涙が浮かんでいた。
カマキリは真っ二つに分かれて崩れていく。
うっ…
ばっと下を向く。
息が上手く吸えない。
何ここ。なんなの。怖い。
「んぁ?んだよ、人がいたんか。道理で変な動きしてると思ったわ」
「おーい、あんた大丈夫かぁー」
人の声…カマキリの背後にいた人かな。
頭でぼんやりと思う。
でも息苦しくて駄目だ。
ぎゅっと胸元の制服を掴む。
「おい、大丈夫か?落ち着け、ゆっくり息しろ」
背中がさすられるのがわかる。
大きい男性の手だ。
ざっざっと再び音がした。
誰かが近づいてきているらしい。
「団長!先に行かないでくださいよー!」
「ってあれっ?どうしたんですかっ!?」
「シーザーに襲われていたみたいだ。お前落ち着くまで相手して安全な場所まで連れてけ」
「はい!」
団長。
何の…サーカスなわけないし…
というか剣持ってない?さっきからなんか見えるんだけど…
あっ劇団?そうなのかなぁ。
現実逃避をし始めた頃、大分落ち着いてきた。
「大丈夫ですか?どこか痛いとか、ありますか?」
ふるふると頭を横に振る。
そっと手を取られる。
「そんなに握ってたら手が傷ついちゃいますよ。掴むんなら俺の手にしといてください。ねっ!」
そんな明るい声にそっと顔を上げる。
その青年は鎧を着ていた。
まるで、騎士のような。
髪の色はオレンジ、瞳は緑。
…………………にんじん……
また現実逃避をしたくなったが冷静に考える。
この人はこの色が好きなだけで、そう、偶然その色になったんだ。
だからにんじんなのは偶然…違う、そうじゃない。
どう見てもこの瞳、肉眼だ。
カラコンじゃない、と思う。
「わ…あっあの、だ、大丈夫ですか!?」
「…はい。ありがとう、ございます…」
「あっは、はい!あーえっと…よければ家まで送りますよ!どこですか?」
「え、あの…ここがどこか、聞いてもいいですか…?」
「あっはい!ここはソレイユ国ティアーズ地区東の森ですね」
なに、それ。
その名前を聞いた瞬間ぐらりと脳が揺れた気がした。
2つある月、にんじんカラー、聞きなれない地名。
地名に至ってはソレイユ…つまり向日葵。
それに尋常じゃないサイズのカマキリに生々しい裂け方。
あれは間違いなく生き物だった。
ここは日本どころか地球ですらないんじゃ…
唐突に思い至った結論に慌てて質問をする。
「あのっ日本…日本を知っていますか?」
「ニホン…?いえ、すみません。俺は聞いたことないです。えーっと、少なくともここら辺では聞かないです」
さぁーっと全身の血が引いていくようだった。
ふと頭を過ぎったのは友人の声。
俺異世界転生したら最強チートの剣士になりてぇー!!
異世界召喚もいいよな!!俺が勇者でけもみみ美少女ハーレム築いてやるぜ!!
でも異世界転移は大変そうだから嫌だけどな!!
異世界転生でも召喚でもない…異世界転移…?
そう思ったら、もう兄さんに会えないんだと気づいてしまった。
ぽろりと涙が溢れる。
「えっえっ!!?ど、どどどうしたんですか!?どこか痛いですか?」
ふるふると頭を振る。
なんて優しい人なんだろう。
こんな見ず知らずの他人のために優しくなれるなんて。
「……帰る場所は、ない、です…」
ここに帰る場所はない。
…もう、どこにもない。
兄さん…兄さんに会いたい。
「…安全な場所まで俺が連れて行きます。だから、大丈夫です。きっと」
なんの確証もないその言葉。
だけどその言葉に救われたような気がした。
夢だったらどんなによかったか。
いや本当、ここどこなの。
えっ実は室内とか?
だって月が2つっておかしいよね?
えっ知らなかっただけとかそんなことないよね?
蜃気楼?絶対違うよね??
気絶とはいえ眠ったお陰か昨日よりは現実が受け入れられる。
人間の順応能力ってすごい。
足はずきずきと痛むがまた進む。
…お腹空いた。
そういえば昼から何も食べてないな。
周りを見渡してみてもあるのは木、木、木。
せめてなんか果物とか…なんで何もないんだ…
しばらく進んで行くと道を見つけた。
念願の道…!
足取りが軽くなるのがわかる。
わあい!道に出れたー!と喜んだのも束の間。
まるで待ってました!と言わんばかりの巨大カマキリ。
えっ新種…?
いやいやいや、まずくね?これまずくね?
「ひっ…!!?」
鞄を抱き抱えながら走る。
森の中には戻りたくないという心理が働いたのかカマキリの進行方向へ走る。
カマキリって人間よりもでかいんだっけ!?
いやもうあれ熊とかそういうレベルだよね!?
足は痛いし、お腹は空いたし最悪だ。
なんでこんなことに。
というかどこまで追ってくるつもりだ。
その足の動きやめて、怖いから。
「っ!!」
どべしゃっと転ぶ。
兄が来てくれたら助かったかもしれないのに、とありもしないことを思う。
慌てて後ろを振り返れば巨大カマキリはその鎌を振り上げていた。
駄目だ、殺られる…!
ぎゅっと目を瞑り身を固くする。
耳元でぶぉんっという音がした。
けれど痛みはこない。
恐る恐る目を開けるとカマキリは確かにそこにいた。
その鎌を頬の近くにセットしながら。
いつでも殺れるけどどうしようかな、みたいな…?
逃してそれを追いかけて楽しむタイプ…?
ひゅっと息が詰まるのがわかる。
「おらぁッ!!」
巨大カマキリの背後から声がした。
と同時にスプラッタな現状が視界に入る。
目にはじわりと涙が浮かんでいた。
カマキリは真っ二つに分かれて崩れていく。
うっ…
ばっと下を向く。
息が上手く吸えない。
何ここ。なんなの。怖い。
「んぁ?んだよ、人がいたんか。道理で変な動きしてると思ったわ」
「おーい、あんた大丈夫かぁー」
人の声…カマキリの背後にいた人かな。
頭でぼんやりと思う。
でも息苦しくて駄目だ。
ぎゅっと胸元の制服を掴む。
「おい、大丈夫か?落ち着け、ゆっくり息しろ」
背中がさすられるのがわかる。
大きい男性の手だ。
ざっざっと再び音がした。
誰かが近づいてきているらしい。
「団長!先に行かないでくださいよー!」
「ってあれっ?どうしたんですかっ!?」
「シーザーに襲われていたみたいだ。お前落ち着くまで相手して安全な場所まで連れてけ」
「はい!」
団長。
何の…サーカスなわけないし…
というか剣持ってない?さっきからなんか見えるんだけど…
あっ劇団?そうなのかなぁ。
現実逃避をし始めた頃、大分落ち着いてきた。
「大丈夫ですか?どこか痛いとか、ありますか?」
ふるふると頭を横に振る。
そっと手を取られる。
「そんなに握ってたら手が傷ついちゃいますよ。掴むんなら俺の手にしといてください。ねっ!」
そんな明るい声にそっと顔を上げる。
その青年は鎧を着ていた。
まるで、騎士のような。
髪の色はオレンジ、瞳は緑。
…………………にんじん……
また現実逃避をしたくなったが冷静に考える。
この人はこの色が好きなだけで、そう、偶然その色になったんだ。
だからにんじんなのは偶然…違う、そうじゃない。
どう見てもこの瞳、肉眼だ。
カラコンじゃない、と思う。
「わ…あっあの、だ、大丈夫ですか!?」
「…はい。ありがとう、ございます…」
「あっは、はい!あーえっと…よければ家まで送りますよ!どこですか?」
「え、あの…ここがどこか、聞いてもいいですか…?」
「あっはい!ここはソレイユ国ティアーズ地区東の森ですね」
なに、それ。
その名前を聞いた瞬間ぐらりと脳が揺れた気がした。
2つある月、にんじんカラー、聞きなれない地名。
地名に至ってはソレイユ…つまり向日葵。
それに尋常じゃないサイズのカマキリに生々しい裂け方。
あれは間違いなく生き物だった。
ここは日本どころか地球ですらないんじゃ…
唐突に思い至った結論に慌てて質問をする。
「あのっ日本…日本を知っていますか?」
「ニホン…?いえ、すみません。俺は聞いたことないです。えーっと、少なくともここら辺では聞かないです」
さぁーっと全身の血が引いていくようだった。
ふと頭を過ぎったのは友人の声。
俺異世界転生したら最強チートの剣士になりてぇー!!
異世界召喚もいいよな!!俺が勇者でけもみみ美少女ハーレム築いてやるぜ!!
でも異世界転移は大変そうだから嫌だけどな!!
異世界転生でも召喚でもない…異世界転移…?
そう思ったら、もう兄さんに会えないんだと気づいてしまった。
ぽろりと涙が溢れる。
「えっえっ!!?ど、どどどうしたんですか!?どこか痛いですか?」
ふるふると頭を振る。
なんて優しい人なんだろう。
こんな見ず知らずの他人のために優しくなれるなんて。
「……帰る場所は、ない、です…」
ここに帰る場所はない。
…もう、どこにもない。
兄さん…兄さんに会いたい。
「…安全な場所まで俺が連れて行きます。だから、大丈夫です。きっと」
なんの確証もないその言葉。
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