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依存性薬物乱用人生転落砂風物語

第四話/違法薬物(前)-イリーガルドラッグ-

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 マイスリーという睡眠導入剤がある。
 これを飲んで寝ないままでいると、脱抑制が現れ羞恥心が薄れたまま行動できるのだ。
 この薬を、私は掛かり付けの整形外科で処方してもらい(「最近(ブロンの副作用で)眠れないんです」「わかった。睡眠薬を処方しよう」←マイスリーだけでなく、後にハルシオンなども処方してもらった。整形外科とは……うぬぬ)、ためしにブロンODと組み合わせて横浜まで行っていたときの話である。


○☆☆★☆☆○


 たしか、この辺りに脱法ハーブ店があった筈……。
 そう考えながら、私は人気が薄いビル街を行ったり来たりしていた。
 そんなとき、見知らぬ中年のおっさんに声をかけられた。
「電話返してくれないと居場所がわからないよ。はい、3ね」
 そう言いながら、なにやら透明な結晶が入ったパケ(薄い透明なチャック付き袋)を手渡してきた。
「は、はあ?」
「あれ、あ、ごめんね、多分人違いだったよ」
 そう言いながら、親父さんは取り出したパケをあわててしまう。
 それを見てピンと来た。
 ーーこの親父、薬の売人だ!
 まさかの邂逅に心躍りながら、私は立ち去ろうとする親父さんを引き留めた。
「すみません、大麻とか覚醒剤に興味あるんですけど……売ってもらえませんか?」
 バイクに股がりながら携帯を確認している親父に声をかけた。
「ええっと……連絡くれた人じゃないんだよね? 悪いけど、もし欲しいんなら待っていてもらわなきゃならない」
「そうですか……」
「ああ、でも、待ってるっても一時間くらいあればまた来れるから、待っててくれない? 少し安くしとくよ?」
「っ! お願いします!」
 新規顧客を得るチャンスを手放したくはないらしく、今度は引き留められる自分。
 まさかこんな裏社会に何の縁もない状態から売人と出会える等とは思っていなかった為、喜んで待つと告げた。
 とりあえず連絡先を教えてから、着く10分まえに連絡を入れるからということになる。
「じゃあ、野菜(スカンク)2gと覚醒剤(クリスタル)1gで45000円用意しといてね。それじゃまた後で」
「はい」
 犯罪者になる目前というのにワクワク感は収まらず、街中を探索しながら私は予定より30分も遅れる一時間半後くらいまで横浜に留まるのであった。


○☆☆★☆☆○


「遅れてごめんね。はい、チェックするならトイレでお願い」
「あっ、大丈夫です」
 この確認という行為が初対面の売人と接する場合、必要不可欠だという事を当時は知らなかった。
 だからこそ、後に詐欺られまくるのだが……。
「はい、どうぞ。気をつけて帰ってね。また欲しくなったらうちに連絡してよ」
 金銭を手渡した私の手には、パケから臭いが漏れている大麻と、透明な結晶状の覚醒剤を受け取った。
「どうやって客と繋がりを持っているんですか?」
 私は気になっていたことをひとつ聞いた。
「そりゃ掲示板とか……まっ、詐欺多いからうちと取引つづけてよ。値段も応相談で多少は下げるから」
 そう言って売人ーーAとしようーーは、バイクに乗って立ち去っていった。
 私は鞄に無造作に詰め込むと、爛々気分で帰宅するのであった。


●●●●●●


 違法ドラッグの中で唯一合法化が叫ばれている大麻(マリファナ)のことが、実は私は嫌いだ。
 私は、精神状況に左右されるドラッグがーー前々章のDXM(デキストロメトルファン)の体験談を読んでくださればわかると思うがーー苦手である。

 当時、大麻のトリップの良し悪しが精神や環境などによって大きく変わってくる事実を知らなかった為、試したい砂風的違法ドラッグランキング一位は大麻であったが、二回やって二回とも、ばっちりバッドトリップしてしまった。そのため、大麻は使いきるまえに捨ててしまったくらいだ。

 LSD(リゼルグ酸ジエチルアミド)でもそうだったが、バッドトリップする恐れのある薬物は、たとえ機会があったとしても、違法合法問わずに二度と乱用するつもりはない。
 とはいえ、合法化され政府の管理下で栽培された大麻なら、そうそうバッドトリップなんて起こらないだろうから、合法化された際、もしも私が吸っていても責めないでほしい。……責めないでください。


大☆☆★☆☆麻


 私は売人Aと分かれて自宅に帰る途中、大麻を吸う為に必要な道具を揃えようと考えた。
 タバコ屋に入り、自作するタイプの紙巻き煙草を巻く機械と、(なぜだか)シャグを購入した。あれ、シャグだったかな? ジャグだったかな?
 とにかく、完全合法である煙草の葉っぱまで無駄に購入してしまった。
「自分で巻くと味も格別だよ~? 機械だけ買っても無意味でしょ? シャグ買いな。はいこれ、初心者におすすめの奴ね」
 という具合で押しきられてしまった。
 たしかに、紙と巻き機だけ購入するのは、今考えると不自然かもしれない。それどころか、ザ・マリファナに活用! といった風貌にも思われるかもしれぬ……。
 まあ、そんなこんなで、職務質問されないかビクビクしながらも無事に帰宅。
 リビングの隣に我が部屋があり、扉は常に解放。つまり、リビングからいつでも室内が覗ける状態であるため、薬物をどう説明しようか迷った末、『手巻き煙草にチャレンジしてみる』と告げ、なんとか多量の葉っぱが何なのかの説明を終えた。
 ……結晶状の覚醒剤は流石に不味いので、すぐに机の中へとシュート。
 椅子に座りながら、手探りで大麻を手巻き煙草用の紙に巻こうとしていく私……が、何故か上手くできない。
 何回やっても、半分ほど紙が剥がれてしまい中身が漏れてしまう。
 しかも、臭いがヤバいってもんじゃない。
 なんと表現すればいいのかわからないが、あの緑の臭いが濃縮されて鼻腔にツンッとくる香りは、酷く臭い。
「あんたー、凄い臭いだけど、なんて煙草よソレ」
 リビングまで流れたらしく、母親が室内を覗きながら問うてくる。
「えっと……スカンク(※)って奴」(※購入した大麻の品種名)
「名前からして臭そうじゃない。もうちょっとマシな臭いの煙草にしなさい」
 そう一喝されてしまった。
 何十回も繰り返したところでようやく二本だけ完成。
 フローリングにはスカンクの葉ががが……猫が食べると不味いだろうと急いで回収&清掃。
 まだまだ吸えるタイミングではない為、とりあえず吸うのは翌日に回してブロンを摂取した。
 ここからも大変、というか何というか……。
 手から臭いが離れない!
 何度も何度も石鹸でゴシゴシ洗おうが拭えぬ悪臭……この頃から、『あれ、大麻って意外とダメな薬かも』と疑い始める始末になってしまった。

 ーー翌日。
 本日は会社が休みなため、何時でも吸えるだろうとたかをくくっていたが、母親は一日中在宅ーー。
 流石に、あの臭いを室内に充満させるのはまずいと考えた私は、少し怪しく感じられるだろうことを覚悟して「ちょっと外で煙草吸ってくる。ほら、昨日買ったの臭いから、部屋の中じゃ大変な事になりそうじゃん」と伝え、玄関から外に出て駐車場辺りで吸うことにした。
『あーあ、これで砂風も犯罪者の仲間入りだね。失望したよ、本当に』
 だってブロンがやめられないんだもん。仕方ないじゃないか!
 瑠奈から言われる正論に対して、訳もわからぬ返事をする私。
 この頃から、瑠奈が段々と私を無視するようになっていくーー。
 私はお手製のマリファナ煙草に火を点しながら、煙草と同じ要領で吸い込んだ。
「んぶっーー!? げほっげほっ!」
 な、ななな、なんだ!? この風味は!?
 一息吸うだけで、大麻(スカンク)独特の臭いが口内いっぱいに広がってしまった。だけでなく、煙を吐いても口の中に風味がへばり着いたままだ。
「……えぇ」
 思わず呟いてしまうほど強烈な風味豊か過ぎる香り。
 大麻愛好家の方たちは、これに耐えて吸いつづけているのだろうか?
 それとも、このスカンクという品種が臭いだけなのか?(※後にノーザンライトという品種を試す機会がありましたが、そちらでも結果は同じでした)
 こりゃ、効果云々以前に吸いきれるのだろうか?
 しかし、せっかく払った45000円の一部。
 だいたい、煙草だって最初はヤニの臭いがしばらく口から離れず慣れなかっただろ!?
 気力で吸え!
 吸い込むんだ!
 と、どうにか半分ほど吸い込んだ時点でダウン。
 吐き気がしてきた為、大麻専用に購入した携帯灰皿で潰してから自室へと帰還。
 そういや、大麻の効果、あんまりよく分からなかったなぁ……。
 そう考えながら、新たに買っておいた抱き枕カバーを開封し、本体に被せて美少女キャラクターと会話を始める砂風(キモヲタ)。
 だが、なにやら感覚がおかしい……。
 そう感じて辺りを見回したら、なぜか風景がコマ送りに映るようになってしまった。
 そして、そのコマ送りが気持ち悪くなりベッドに倒れ目を閉じると、どこからともなく聞こえてくる民族楽器を扱っているような音楽。
 らんららんらんららんららんアミーゴ!
 らんららんらんららんららんアミーゴ!
 らんららんらんららんららんアミーゴ!
 ーーうわっ、なんか幻聴現れているやないか……。
 そう思いながらも、気持ち悪さを耐えつつ謎の妄想まで始めてしまう。
 コンビニの前でたむろしているヤンキーが大麻を回し吸いしている風景。
 いや、よく見たらヤンキーではなくてヒッピーだ!
 それに気づいた瞬間、ヒッピーが家の周りを回っている妄想が始まってしまった。
 ーー謎の妄想。
 ーーコマ送りの風景。
 ーー謎の民族楽器。
 ーー体の重さと吐き気。
 これらをひたすら耐える二時間前後だった。
 これでブロンがやめられるか!?
 んなワケないだろ、これならブロンのが効くわい!
 ……ということで、私は大麻があまり好きではないのである。
 もしもこれをご覧の方のなかに、大麻愛好家の方がいらっしゃったらすみません。あくまでも『私は』好きにはなれませんでした。
 そして、諦めて私は、今日もブロンをあおり飲んだ。


覚せ☆☆★☆☆い剤


 そのまた翌日。
 しかし仕事であるため試用はほとんどできない。
 とりあえず、ネットで見た情報では舐めると苦いと聞いていた為、仕事前に米粒以下の欠片を舌下ぜっかで吸収した。
 これまた表現し難い味だ。
 大麻とは異なり、とにかく幾何学的な苦味というのだろうか……こうまで苦い物質、私はゴーヤチャンプルしか知らないぞ。いや、ゴーヤチャンプルよりも苦いか……。
 非常に強い苦味に、少々塩味が含まれているというのが正確だろう。
 端的に説明するなら、舌が爛(ただ)れる味だ。
 大麻とは違い無臭なのは助かる。
 というより、テレビのニュースなどで流れる覚せい剤。私は真っ白い粉の物しか見たことがなかった為、最初は本当に覚せい剤なのかと疑っていた。
 しかし、その疑惑は直ぐに晴れた。
 まず、普段から眠気が酷く、仕事中寝そうになりそうなくらいヤバいのに、この日だけ全く眠くならない。
 むしろ、いつもより目が冴えているくらいだ。
 さらに、仕事への集中力が普段の倍はあっただろう。
 前週までは、妄想しながらでもないとやっていられないくらい怠い流れ作業を、テキパキとそれだけに集中できていたのだ。
 同僚や社長からも、「おまえ今日やたらと張り切ってるな。いつもそれぐらいで頑張ってくれよ」と言われる始末だ。
 結局、この日は眠気の「ね」の字も感じず帰宅できた。
 あの苦味成分、しかも、あの微量(おそらく0.02g程度)を嚥下(えんげ)摂取なのにああも効くなんて……当初は驚愕しっぱなしであった。
 そして、普段と比べて一番の違いは、ブロンを飲まないで済んだことだったーー。
 翌日から私は、ブロンを断薬して、その期間だけ覚せい剤を乱用するという手段を講じて実行に移した。
 なぜなら、覚せい剤を乱用しているあいだは、ブロンの目立った副作用が現れないからだ。
 結果から言おう。
 この作戦自体は、一応成功した。
 覚せい剤を一日0.01~0.03g嚥下摂取でつづけてから二週間ほど経過したとき、試しに覚せい剤をやめてみた。
 そしたら、ブロンの副作用が現れないではないか!
 覚せい剤の離脱症状は何故かなにもないし、これは、違法だけど断薬の手段に良いのではないか?(と、このときは考えていた。覚せい剤の恐ろしさは、やめてから数ヶ月後~数年後に来る薬物への渇望だ。精神依存が半端ではないのである。これについては、第五章で詳しく解説しよう) 
 そして、残った覚せい剤はさまざまな方法で摂取することにした。
 スニッフィングーー覚醒剤を粉末になるまで潰し、それをストローやスニッファー(スニッフ用の道具)、札を丸めた物を鼻に入れ、反対側から覚醒剤を吸い込むという方法。鼻が曲がるんじゃないかというくらい痛かった。第六章辺りで紹介するサイレース(睡眠薬)とはワケが違う。下手したら両鼻貫通するだろう。
 舌下摂取ーー舌の下に入れて摂取する方法。焼けるように痛い。やり過ぎると爛れてくる。さらに不味いと、不人気な方法。
 嚥下摂取ーーカプセルなどに詰めて飲み込む方法。唯一初回通過効果……肝臓で代謝されてしまうため、他の摂取方法と比べ数段劣る。第五章に出てくる静脈注射の五分の一程度の効果しか体感できない。あと、胃がやられる(私も当時胃痛が酷かった)。唯一の利点は、他の方法よりかは多少長めに作用するところか。
 昇華吸引(あぶり)ーーガラスパイプやアルミホイルに乗せ、炙って気化した覚醒剤を吸引する方法。私はあまりやらなかった。体質なのか、舌下やスニッフのほうが効いた為、また、後半は静脈注射オンリーであったからだ。
 等々、静脈注射はまだ越えてはならないラインとしていたが、それ以外の方法はすべて試してしまった。
 そんなこんなで覚醒剤が無くなり、売人Aに連絡を入れても出ず。そして、ダークウェブのとある掲示板で、その売人Aらしき人物が捕まったらしきことを把握。
 入手方法が無くなった私は、ここから二ヶ月は薬物と離れることになる。
 しかし、一度手を出したら、なかなか離してくれないのが、薬物の世界だ。


●●●●●●


 既に覚醒剤の恐ろしさが合間見えているのがわかる。
 無くなった瞬間、売人に連絡しているのがその証拠だ。
 ここから二ヶ月間は、ブロンも違法ドラッグも、もちろん脱法ハーブもやらないでいられた。
 しかし二ヶ月後、まだ試していないコカインやLSDにチャレンジしたくなった私は、売人を探しにネットの掲示板へ訪れることになる。
 ちなみに、とりあえず覚醒剤の購入は前提としてーーなどと考えていた為、当人は色々試してみたいと思っているかもしれないが、実際は覚醒剤を再びやりたくなっただけだったのではないだろうかと、今の私から見ると、そう思えてならない。
 
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