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第二章 冒険者
その十一 ハイオーク
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「まぁ、後で行けばいいか……」
オークの肉を剥ぎ取りながら、そんなことを呟いた。
レベルアップの為に教会に行くことを忘れていたのだ。
(『あの島に来たのはレベルアップが目的じゃと言うとらんかったか?』)
(『ご主人様は間違いなくそう仰られていました』)
「しょうがないだろう……確かにレベルアップの為に行ったことは確かだが、レベルアップ以上に強くなる方法があったからな」
その方法とは、魔獣血石を食べることである。
現在のテイルの力は魔獣血石を食べずに自分が100Lvまで到達したとしても、間違いなくここまでの力を得ることはなかっただろう、と思わせるほどだ。
(『魔獣血石か・・・アレは私も片手で数えるほどしか食べたことがないな。他人が得たものでは効果もなかったからの』)
(『私も数回だけです。仲間と一緒に倒したからかそこまで力は得られませんでしたが。ご主人様はどれほど食べていたのか・・・』)
「覚えてるだけでも百は超えてるな……手に入る力は減っていったけどな」
(『恐らくですが、それは同じ種族を何度も食べたことが原因だと思います』)
「どういうことだ?」
(『魔獣血石は倒した魔獣の持つ能力を得ることが出来ます。それは腕力や魔力もそうですが、その魔獣が持つ特性も含みます。同じ種族なら、その特性も被ってしまいますので』)
「なるほど……けど、それなら魔力や腕力は増えるんじゃないのか?」
(『これは私の予想になりますが・・・それでもよければ』)
「別にいい。聞かせてくれ」
(『魔獣血石を倒したことで得られるのは、その魔獣の腕力ではなく、その魔獣の肉体の造りなのではないかと』)
「よく分からんな・・・」
(『ラナは勇者のくせに哲学的なことや学者的なことが好きじゃったからのう・・・』)
(『そうですね・・・表現が難しいですが。魔獣の体の器官を食べた者の体に作る、というのがイメージとしては近いと思います』)
「…ああ、なんとなく分かった」
(『なんじゃと。さっぱり分からんぞ』)
(『つまり、魔獣の力を与えるという行為は、いわば補強だということです』)
(『むぅ・・・』)
(『筋肉で言うなら、魔獣の筋肉に作り変わるわけではなく、同じ個所に魔獣の筋肉が追加される、と言う感じでしょうか。魔力で言うなら体内にある魔力の置き場とは別に置き場所が形成される、ということです』)
(『・・・・・・』)
(『まぁ要するに、その種族の能力を食べた者に追加し、元々同じ能力を持っていれば変化なし、ということです』)
(『うむ、やっと分かった』)
「ロベリアは勉強が苦手なタイプか……」
(『む!?べべ、別にそんなことはっ!ない・・・ぞ?』)
「自信無くなってるな」
(話を戻しますが・・・過去に食べたことがある魔獣の魔獣血石だとしても、全く力が得られない、というわけではないですよね?)
「ああ。少なくとも英霊の島の魔獣はそうだった」
(一つの魔獣血石から得られる力は、どれだけ多くともその魔獣の半分程度だと思います。もしかしたらもっと少ないかもしれません)
「なるほど……」
実際黒竜の魔獣血石を食べた時もその力が丸々手に入ってわけじゃないしな・・・
というかラナは勇者より学者が向いてるんじゃないか?
(『少々話過ぎてしまいましたね。オーク狩りに戻りましょう。まだ必要数には達していないんですよね?』)
「ああ。三体分のオーク肉が必要だからな。あと二体だ」
(『うむ!小難しい話など捨て置いて戦いに行こうではないか!!』)
「戦ってるのは俺だけなんだけどな」
(『ぐむむ・・・』)
オーク肉の剥ぎ取りが終わった。
ここまで俺はラナとロベリアの意思がある剣を使っていない。
というか武器が必要な相手が今のところ出てきていない。
(練習として使ってみるのもいいかもな・・・っと。早速オークがいたぞ)
魔力感知にオークらしき生物が引っかかった。
この技術は魔力を感知するのではなく、魔力で感知する技術だ。
これも英霊の島の魔獣が使っていた技術だ。
魔力を身体の外へ噴き出す技術を応用した、外へ出した魔力を薄めて引き伸ばし、遠くにあるものを感知する、という方法だ。
魔獣を観察していて敵を探す時にわずかに魔力を放出していたことに気づき、やってみたら出来た。
最初の頃はせいぜいおとな2人分という距離が限界だった。
探知能力は生きる上で非常に役立つ。全力で磨いた結果、今では意識すればこの森ぐらいならあらゆる場所に届くと思う。
魔力を消費するため、常に展開出来る距離は狭い。
(『むぅ・・・たまには剣も使わんのか』)
「分かった。出てきてくれ」
今のところ剣を別空間から取り出すには、ロベリアかラナに頼むしかない。
この能力は出来れば使えるようになりたい・・・というかコレ、詳しく説明されてないが空間魔法だよな・・・
(『うむ!それでよいのじゃ』)
(『やはりご主人様と共に戦えるほうが嬉しいです』)
共に戦うってこういうなのか、という疑問はさておき、俺の手に剣が現れた。
転移するように現れたその剣はわずかに青白く光る純白の刃と黒い柄。
他の剣と比べて異彩を放つその剣は、恐ろしく鋭く、素晴らしく硬い。
勇者と魔王の剣を合わせたらこうなる、のか?
神々しいように見えて、どこか恐ろしい。
それがこの剣を初めて見た時の感想だった。
ちなみに、ラナとロベリアによるとこの剣は元になった二本の剣のように特殊な能力はないらしい。
どんな能力があったのか気になるが、現在のこの剣はその二本より硬く鋭く、自己再生能力が高いだけの剣だそうだ。
ただ僅かに光の属性があり、実体が無いゴースト系の相手でも斬れることが出来るという。
それは十分に特殊能力じゃないかと言いたいが、喉に出かかった言葉を飲み込む。
きっと元の剣はそんな能力に比べ物にならないような能力があったのだろう。
剣を手にオークの居る場所へ走る。
テイルが感知したオークの数は四体。通常のオークは大体群れで行動する。
先に現れた一体のオークは群れからはぐれた個体なのだろう。
冒険者ギルドは魔獣の強さを冒険者ランクと同じようにS~Eで分類している。
その基準はそのランクの冒険者が単独で倒せるか否か、というもの。
当然冒険者と魔獣で相性はあるので、冒険者に合った依頼を受けさせるのが冒険者ギルドの役目とも言える。
オークはそのランク分けの中でDランクに分類される、比較的弱い魔物である。
しかし繁殖力が高いこと、人の住む場所に近い場所で出現することから、被害はDランクの中でも特に多い。
その上単体ではDランク下位の強さではあるが、群れで行動することが多いため危険度は増す。
オークの群れを一人で制圧出来るのなら冒険者として一人前と呼ばれるようになる。
オークは人型の魔獣である。
豚の頭と薄紅色の肌を持ち、その大きさは成人男性より頭二つ分ほど大きい。
ダラン王国では18歳から成人になる。
そのためそれよりも若い(見た目の)テイルに比べればその体高の差は更に開く。
腕力が強く、武器を扱うことも出来、知能も比較的高い。
故にオークは戦う力のない人間にとっては出会えば逃げるしかない存在である。
テイルにとっては人間の赤子と大差ないのだが。
オークの姿を魔力感知で知ることが出来るテイルには、先ほどから違和感があった。
テイル自身、オークは数が多いため数えきれないほどに戦った経験がある。
その経験から、オークの身長にはそこまで大差がないことも知っている。
当然オークも身長は個体差があり、子供の時は人間同様小さい。
しかし、成体のオークはあまり身長に差がでないのだ。
にも拘わらず、テイルが感知しているオークの内の一体が、他の三体に比べて頭一つ分ほど大きいのだ。
ここから考えられる可能性は一つ。
「上位個体か……」
(『む?』)
(『どうかしましたか?』)
「いや、なんでもない」
人間がオーブを集めると、レベルアップして強くなる。
では魔獣が集めた場合はどうなるのか。
答えは一つ、『進化』するのだ。
『進化』は元の魔獣とは全く別の生物に生まれ変わると言っても過言ではないほど、大きく変化する。
人間で言えば99レベルから100レベルへのレベルアップが当てはまる。
つまり、全ての能力が著しく上昇する。
それが進化だ。
オークが進化すると、オークキングと呼ばれるようになる。
体格も大きく変化し、その大きさは元の二倍にもなる。
が、現状ではそれは当てはまらない。
オークキングから更にもう一段階、進化した場合。
するとそのオークキングは大きかった肉体が縮み、通常のオークより少し大きい、という程度の大きさになる。
そして、その名前は豚人の王から上位豚人へと変わる。
ハイオークになると薄紅色だった肌が緑がかった色に代わり、知能も大きく上昇する。
それに伴い肌は丈夫になり、ただの剣では傷つけることも難しくなる。
基本的に進化した魔獣は元の魔獣よりもランクが一~二段階上がる。
オークの場合はオークキングでCランク、ハイオークでBランクになる。
Bランクの冒険者は一流と呼ばれる冒険者であり、英霊の島に行く前のテイルを冒険者ランクで分類する場合これに当たる。
テイル自身以前にハイオークと戦った時は、かなりの時間を要した。
重傷になるようなことは無かったが、細かな傷は相当な量負ったのだ。
つまり、ハイオークとの戦闘は以前の自分からどれだけ強くなったかを示す指標になる。
そのことに思い至った時、テイルは薄く笑みを浮かべた。
オークの居場所に辿り着いた。
予想通り、そこにいたのは三匹のオークと一匹のハイオークであった。
「「「グゴォ……!」」」
オークは獲物がやって来た、とでも言うように醜悪な笑みを浮かべる。
それに対してハイオークは顔をしかめた。
この相手はまずい、本能的にそう悟った。
「さて……この剣を使うのは初めてなわけだが。どれほどのものかな」
テイルは剣を握り、構える。
オーク達が持っているのは切れ味の悪そうな片手剣。
それに対してハイオークが持っているのは丈夫そうな大剣だった。
(『主よ、そのような雑魚ではこの剣の性能は測れんぞ』)
(『そうですね。金剛石よりも硬い剣ですから』)
アダマンタイトは世界で最も硬いと言われる鉱石である。
市場に出回ることはなく、伝説上の武器の素材とされていたり、迷宮と呼ばれる魔獣が発生する特殊な場所でごく稀に出現すると言われている。
テイルは実物を見たことは無い。
「そいつは凄い――なっ!!」
「「「グガッ――!?」」」
飛びかかってきた三体のオークの首を狙って剣を振った。
「……凄いな」
ぽつりと呟いた言葉は心の底から思ったことだ。
剣はオークの振り下ろしていた粗野な剣を斬り飛ばした。
それどころかその奥にあったオーク達の首を切り裂いたのだ。
硬度は分からないが、凄まじい切れ味であることは確かだった。
(『そうじゃろうそうじゃろう、と言いたいとこなんだがの』)
(『今のはご主人様が振ったからだと思います・・・まさに空気を切り裂く一撃、ですね』)
「お世辞でも嬉しいよ。――っと、逃げるなよ」
オーク達が飛びかかってきた瞬間、ハイオークが後ろを振り返りそのまま逃げだすのが見えた。
しかしその速度はテイルにとっては非常に鈍く、走り出すや否や次の瞬間にはテイルはハイオークの前にいた。
「グゴォ……!!」
ハイオークは立ち止まり、悔しそうに呻いた。
前は強敵だったハイオークが、ひどく弱く見える。
先ほど斬ったオークと大差がないようにすら思えた。
ハイオークは持っていた剣を振りかぶり、強烈な踏み込みと共に自分の出せる最速、最強の一撃を繰り出した。
しかしその一撃は、テイルによって止められた。
それも、装備も何も付いていない素肌の左手で。
いくらなんでも、ハイオークはそう思った。
ハイオークは剣を押し込もうとしながらも、生きることを諦めかけた。
「……弱いな」
その言葉が終わるのと同時に、右手の剣を振った。
テイルにとってオークの一撃はあまりに遅く、弱弱しく感じた。
試しに手で受け止めてみると、オークの剣は簡単に止まった。
テイルが片手で振った剣はあっさりとハイオークの体を切り裂き、上下に両断した。
身体を切り裂かれる感触と共に、ハイオークは意識が消えていくのを感じ、永遠の眠りについた。
オークの肉を剥ぎ取りながら、そんなことを呟いた。
レベルアップの為に教会に行くことを忘れていたのだ。
(『あの島に来たのはレベルアップが目的じゃと言うとらんかったか?』)
(『ご主人様は間違いなくそう仰られていました』)
「しょうがないだろう……確かにレベルアップの為に行ったことは確かだが、レベルアップ以上に強くなる方法があったからな」
その方法とは、魔獣血石を食べることである。
現在のテイルの力は魔獣血石を食べずに自分が100Lvまで到達したとしても、間違いなくここまでの力を得ることはなかっただろう、と思わせるほどだ。
(『魔獣血石か・・・アレは私も片手で数えるほどしか食べたことがないな。他人が得たものでは効果もなかったからの』)
(『私も数回だけです。仲間と一緒に倒したからかそこまで力は得られませんでしたが。ご主人様はどれほど食べていたのか・・・』)
「覚えてるだけでも百は超えてるな……手に入る力は減っていったけどな」
(『恐らくですが、それは同じ種族を何度も食べたことが原因だと思います』)
「どういうことだ?」
(『魔獣血石は倒した魔獣の持つ能力を得ることが出来ます。それは腕力や魔力もそうですが、その魔獣が持つ特性も含みます。同じ種族なら、その特性も被ってしまいますので』)
「なるほど……けど、それなら魔力や腕力は増えるんじゃないのか?」
(『これは私の予想になりますが・・・それでもよければ』)
「別にいい。聞かせてくれ」
(『魔獣血石を倒したことで得られるのは、その魔獣の腕力ではなく、その魔獣の肉体の造りなのではないかと』)
「よく分からんな・・・」
(『ラナは勇者のくせに哲学的なことや学者的なことが好きじゃったからのう・・・』)
(『そうですね・・・表現が難しいですが。魔獣の体の器官を食べた者の体に作る、というのがイメージとしては近いと思います』)
「…ああ、なんとなく分かった」
(『なんじゃと。さっぱり分からんぞ』)
(『つまり、魔獣の力を与えるという行為は、いわば補強だということです』)
(『むぅ・・・』)
(『筋肉で言うなら、魔獣の筋肉に作り変わるわけではなく、同じ個所に魔獣の筋肉が追加される、と言う感じでしょうか。魔力で言うなら体内にある魔力の置き場とは別に置き場所が形成される、ということです』)
(『・・・・・・』)
(『まぁ要するに、その種族の能力を食べた者に追加し、元々同じ能力を持っていれば変化なし、ということです』)
(『うむ、やっと分かった』)
「ロベリアは勉強が苦手なタイプか……」
(『む!?べべ、別にそんなことはっ!ない・・・ぞ?』)
「自信無くなってるな」
(話を戻しますが・・・過去に食べたことがある魔獣の魔獣血石だとしても、全く力が得られない、というわけではないですよね?)
「ああ。少なくとも英霊の島の魔獣はそうだった」
(一つの魔獣血石から得られる力は、どれだけ多くともその魔獣の半分程度だと思います。もしかしたらもっと少ないかもしれません)
「なるほど……」
実際黒竜の魔獣血石を食べた時もその力が丸々手に入ってわけじゃないしな・・・
というかラナは勇者より学者が向いてるんじゃないか?
(『少々話過ぎてしまいましたね。オーク狩りに戻りましょう。まだ必要数には達していないんですよね?』)
「ああ。三体分のオーク肉が必要だからな。あと二体だ」
(『うむ!小難しい話など捨て置いて戦いに行こうではないか!!』)
「戦ってるのは俺だけなんだけどな」
(『ぐむむ・・・』)
オーク肉の剥ぎ取りが終わった。
ここまで俺はラナとロベリアの意思がある剣を使っていない。
というか武器が必要な相手が今のところ出てきていない。
(練習として使ってみるのもいいかもな・・・っと。早速オークがいたぞ)
魔力感知にオークらしき生物が引っかかった。
この技術は魔力を感知するのではなく、魔力で感知する技術だ。
これも英霊の島の魔獣が使っていた技術だ。
魔力を身体の外へ噴き出す技術を応用した、外へ出した魔力を薄めて引き伸ばし、遠くにあるものを感知する、という方法だ。
魔獣を観察していて敵を探す時にわずかに魔力を放出していたことに気づき、やってみたら出来た。
最初の頃はせいぜいおとな2人分という距離が限界だった。
探知能力は生きる上で非常に役立つ。全力で磨いた結果、今では意識すればこの森ぐらいならあらゆる場所に届くと思う。
魔力を消費するため、常に展開出来る距離は狭い。
(『むぅ・・・たまには剣も使わんのか』)
「分かった。出てきてくれ」
今のところ剣を別空間から取り出すには、ロベリアかラナに頼むしかない。
この能力は出来れば使えるようになりたい・・・というかコレ、詳しく説明されてないが空間魔法だよな・・・
(『うむ!それでよいのじゃ』)
(『やはりご主人様と共に戦えるほうが嬉しいです』)
共に戦うってこういうなのか、という疑問はさておき、俺の手に剣が現れた。
転移するように現れたその剣はわずかに青白く光る純白の刃と黒い柄。
他の剣と比べて異彩を放つその剣は、恐ろしく鋭く、素晴らしく硬い。
勇者と魔王の剣を合わせたらこうなる、のか?
神々しいように見えて、どこか恐ろしい。
それがこの剣を初めて見た時の感想だった。
ちなみに、ラナとロベリアによるとこの剣は元になった二本の剣のように特殊な能力はないらしい。
どんな能力があったのか気になるが、現在のこの剣はその二本より硬く鋭く、自己再生能力が高いだけの剣だそうだ。
ただ僅かに光の属性があり、実体が無いゴースト系の相手でも斬れることが出来るという。
それは十分に特殊能力じゃないかと言いたいが、喉に出かかった言葉を飲み込む。
きっと元の剣はそんな能力に比べ物にならないような能力があったのだろう。
剣を手にオークの居る場所へ走る。
テイルが感知したオークの数は四体。通常のオークは大体群れで行動する。
先に現れた一体のオークは群れからはぐれた個体なのだろう。
冒険者ギルドは魔獣の強さを冒険者ランクと同じようにS~Eで分類している。
その基準はそのランクの冒険者が単独で倒せるか否か、というもの。
当然冒険者と魔獣で相性はあるので、冒険者に合った依頼を受けさせるのが冒険者ギルドの役目とも言える。
オークはそのランク分けの中でDランクに分類される、比較的弱い魔物である。
しかし繁殖力が高いこと、人の住む場所に近い場所で出現することから、被害はDランクの中でも特に多い。
その上単体ではDランク下位の強さではあるが、群れで行動することが多いため危険度は増す。
オークの群れを一人で制圧出来るのなら冒険者として一人前と呼ばれるようになる。
オークは人型の魔獣である。
豚の頭と薄紅色の肌を持ち、その大きさは成人男性より頭二つ分ほど大きい。
ダラン王国では18歳から成人になる。
そのためそれよりも若い(見た目の)テイルに比べればその体高の差は更に開く。
腕力が強く、武器を扱うことも出来、知能も比較的高い。
故にオークは戦う力のない人間にとっては出会えば逃げるしかない存在である。
テイルにとっては人間の赤子と大差ないのだが。
オークの姿を魔力感知で知ることが出来るテイルには、先ほどから違和感があった。
テイル自身、オークは数が多いため数えきれないほどに戦った経験がある。
その経験から、オークの身長にはそこまで大差がないことも知っている。
当然オークも身長は個体差があり、子供の時は人間同様小さい。
しかし、成体のオークはあまり身長に差がでないのだ。
にも拘わらず、テイルが感知しているオークの内の一体が、他の三体に比べて頭一つ分ほど大きいのだ。
ここから考えられる可能性は一つ。
「上位個体か……」
(『む?』)
(『どうかしましたか?』)
「いや、なんでもない」
人間がオーブを集めると、レベルアップして強くなる。
では魔獣が集めた場合はどうなるのか。
答えは一つ、『進化』するのだ。
『進化』は元の魔獣とは全く別の生物に生まれ変わると言っても過言ではないほど、大きく変化する。
人間で言えば99レベルから100レベルへのレベルアップが当てはまる。
つまり、全ての能力が著しく上昇する。
それが進化だ。
オークが進化すると、オークキングと呼ばれるようになる。
体格も大きく変化し、その大きさは元の二倍にもなる。
が、現状ではそれは当てはまらない。
オークキングから更にもう一段階、進化した場合。
するとそのオークキングは大きかった肉体が縮み、通常のオークより少し大きい、という程度の大きさになる。
そして、その名前は豚人の王から上位豚人へと変わる。
ハイオークになると薄紅色だった肌が緑がかった色に代わり、知能も大きく上昇する。
それに伴い肌は丈夫になり、ただの剣では傷つけることも難しくなる。
基本的に進化した魔獣は元の魔獣よりもランクが一~二段階上がる。
オークの場合はオークキングでCランク、ハイオークでBランクになる。
Bランクの冒険者は一流と呼ばれる冒険者であり、英霊の島に行く前のテイルを冒険者ランクで分類する場合これに当たる。
テイル自身以前にハイオークと戦った時は、かなりの時間を要した。
重傷になるようなことは無かったが、細かな傷は相当な量負ったのだ。
つまり、ハイオークとの戦闘は以前の自分からどれだけ強くなったかを示す指標になる。
そのことに思い至った時、テイルは薄く笑みを浮かべた。
オークの居場所に辿り着いた。
予想通り、そこにいたのは三匹のオークと一匹のハイオークであった。
「「「グゴォ……!」」」
オークは獲物がやって来た、とでも言うように醜悪な笑みを浮かべる。
それに対してハイオークは顔をしかめた。
この相手はまずい、本能的にそう悟った。
「さて……この剣を使うのは初めてなわけだが。どれほどのものかな」
テイルは剣を握り、構える。
オーク達が持っているのは切れ味の悪そうな片手剣。
それに対してハイオークが持っているのは丈夫そうな大剣だった。
(『主よ、そのような雑魚ではこの剣の性能は測れんぞ』)
(『そうですね。金剛石よりも硬い剣ですから』)
アダマンタイトは世界で最も硬いと言われる鉱石である。
市場に出回ることはなく、伝説上の武器の素材とされていたり、迷宮と呼ばれる魔獣が発生する特殊な場所でごく稀に出現すると言われている。
テイルは実物を見たことは無い。
「そいつは凄い――なっ!!」
「「「グガッ――!?」」」
飛びかかってきた三体のオークの首を狙って剣を振った。
「……凄いな」
ぽつりと呟いた言葉は心の底から思ったことだ。
剣はオークの振り下ろしていた粗野な剣を斬り飛ばした。
それどころかその奥にあったオーク達の首を切り裂いたのだ。
硬度は分からないが、凄まじい切れ味であることは確かだった。
(『そうじゃろうそうじゃろう、と言いたいとこなんだがの』)
(『今のはご主人様が振ったからだと思います・・・まさに空気を切り裂く一撃、ですね』)
「お世辞でも嬉しいよ。――っと、逃げるなよ」
オーク達が飛びかかってきた瞬間、ハイオークが後ろを振り返りそのまま逃げだすのが見えた。
しかしその速度はテイルにとっては非常に鈍く、走り出すや否や次の瞬間にはテイルはハイオークの前にいた。
「グゴォ……!!」
ハイオークは立ち止まり、悔しそうに呻いた。
前は強敵だったハイオークが、ひどく弱く見える。
先ほど斬ったオークと大差がないようにすら思えた。
ハイオークは持っていた剣を振りかぶり、強烈な踏み込みと共に自分の出せる最速、最強の一撃を繰り出した。
しかしその一撃は、テイルによって止められた。
それも、装備も何も付いていない素肌の左手で。
いくらなんでも、ハイオークはそう思った。
ハイオークは剣を押し込もうとしながらも、生きることを諦めかけた。
「……弱いな」
その言葉が終わるのと同時に、右手の剣を振った。
テイルにとってオークの一撃はあまりに遅く、弱弱しく感じた。
試しに手で受け止めてみると、オークの剣は簡単に止まった。
テイルが片手で振った剣はあっさりとハイオークの体を切り裂き、上下に両断した。
身体を切り裂かれる感触と共に、ハイオークは意識が消えていくのを感じ、永遠の眠りについた。
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色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
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