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第二章 ボス(プレイヤースキル的な)

二十六本目 剣王カイル

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エイフォルトの中へ戻ってきた僕は、約束の南門へ直行した。
約束通り、カイルはそこで門の傍で佇んでいた。

「やぁカイル、今日こそ出来戦えるかな?」

カイルは僕の言葉に無邪気な笑みを浮かべる。
僕と同じく期待に満ちた眼差し。

「おう、今日は俺の当番じゃないからな」
「それじゃあ...場所はどうする?」
「それなら心配ねぇよ。場所ならある。街の外にな」

そう言ってカイルはニヤニヤしながら「そうだろう?」とでも言いたげな目で見てきた。

「まぁそうだけどね」
「それじゃ、さっさと行くぞ」

~~~~~
5分ほど歩き、カイルが「この辺でいいだろ」と言った場所で模擬戦を始めることにした。
特に何もない平野。
僕は黒妖を、カイルは銀色に輝く刃と赤い柄を持つ剣を構える。
カイルも僕も、現在来ているのは鎧やローブではなく、日常で着るような服だけ。
まるで示し合わせたように。
実際はそんなことはないんだけど、多分カイルも僕と同じくこういう時に鎧やら防具やらを使いたくない性質タイプ何だと思う。


「ここなら存分にやれるだろ?」
「そうだね・・・周りに人もいなくて有難いよ」

ここなら存分にやれそうだ。
周りに気を遣う必要もない。

「さて・・・それじゃぁ、俺から始めるぞ」
「あれ、先攻はくれないの?」

肩をすくめて軽口で返す。

「ぬかせ。――ハッ!!」

僕が笑みを浮かべて言うと、カイルも笑いながら答える。
言葉が終わった瞬間に、僕の目の前にはカイルがいた。
それも手に持っていた剣を振りかぶった状態で。

「―ッ!――フッ!」
「くっ!やっぱこの程度じゃ――足りねぇよなぁ!!!」

迫る剣閃を咄嗟に振った黒妖で受け流し、身体を逸らしながらも黒妖を止めることなくカイルの首へ向けて振る。
カイルは仰け反って躱し、重心が後ろへ傾いたことを利用し、蹴りを放ってきた。
ただ足を伸ばしただけの様な蹴りだったために威力こそなかったが、それでもその脚は精確に僕の頭へと向かってきた。
直撃すればダメージは免れない。

「あっぶ、ないなぁっ!!」
「嘘つけぇっ!!!」

身体を右にずらし、カイルの脚を左腕の肘で上に弾きながら地面に触れそうな距離に刀を振る。
風を切って進む刃をカイルは体勢を崩しながらも剣で防ぎ、大して抵抗することもなく刀の推進力を利用して後ろへ跳ぶ。

「はははっ・・・やっぱバケモンだな」
「誰がバケモンだって?・・・僕は普通の人間だよ」

お互いが曲芸の様な動きで戦っていた。
まだお互いに本気を出していない。
カイルも軽口を叩く余裕があるみたいだし。

「寝言は寝て言え。......お前、今のLvはいくつだ?」
「47だね」
「早いな・・・けど、低いな。俺のLvは135だ」

カイルは顔に苦笑いを浮かべている。
前にカイルは、自分がLv83だと言った。
この短期間でそこまで上がるとは思えない。
(※リューセイはLv8から47まで上がってる)

「・・・やっぱり、Lv83は嘘だったんだね」
「お、気づいてたか」
「うん・・・半分勘で、半分はなんとなくだけどね」
「それ全部勘じゃねぇか?」
「そうかもね」

二人で笑いながらも、お互いに武器を構える。

「俺のJOBは剣聖。剣士の上位職、剣闘士の更に上位の職業だ」
「・・・自慢?」
「ちげぇよ。まぁそれもあるけどな」

どっちかにしよう?

「要するに・・・俺とまともに打ち合えてるお前が異常だってことだ、よッ!!」
「――ッ!!」

カイルが動いたと認識した瞬間、剣の切っ先が迫る。
咄嗟に首を捻ったおかげで当たることはなかったが、あれが当たっていれば勝負は終わっていた。
凄まじい剣速だった。

「これも躱すか・・・リューセイ。俺はこれから二回に分けて殺す気で攻撃する。その攻撃を全部食らわなけりゃぁ、次の【剣王】はお前だ」
「どういう―――ッ!?」

カイルの雰囲気が変わる。
今までのどこかへらへらした様子はなく、獰猛な殺気と戦う意思が流れ出ていた。
カイルが剣を引き、腰を低くする。
どこか嫌な予感がした。
咄嗟に腰を落として横へ転がる。


――そして次の瞬間、銀の刃の煌めきが5本に分かれて先ほどまで僕の顔のあった位置を通り過ぎた。

「よく避けた!!」

カイルの喜びと殺意、相反する意思を表すような声が辺りに響く。
しかしその声にこたえる暇はなく、もう一度カイルが槍を突き出すように剣を構えた。
もう一度カイルの剣が来る前に避けようとしても、間違いなく対応される。
そんな確信めいたものが僕の中にはあった。
――なら、どうやって防ぐか。


深呼吸をして心を鎮めた僕は、カイルと同じ構えをとった。

カイルの驚愕が空気を通して伝わる。



――《閃突五剣》
それが先ほどカイルの放ったアーツの名前である。
【剣術】Lv40で習得出来る『閃突』を5連続で放つ【剣術】の上位スキル【剣王術】Lv30で使用可能になる。
『閃突』は一陣の光に見えるほどに高速で放つ突き技だが、貫通力特化の技であり大型のモンスターには効果が薄い。その代わりに人間大の相手には絶大な効果を発揮する。
それが五回。


再びカイルの剣閃が迫る。
僕が見るのはカイルの腕、そして筋肉の動き。
剣を見て合わせても間に合わない。

あの速度では弾こうとすればむしろ失敗する羽目になる。
 それじゃダメだ。

それなら―――全ての突きに刀を合わせるしかない。
刀全般に言えることだけど、沿った形は突きに向いていない。
無理をすれば、刀が痛む。けれど、黒妖には自己修復があるから、多少の無茶は大丈夫だ。多分。


カイルのステータスには僕のステータスは遠く及ばない。
それなら、ステータス外のものを使う。
即ち、魔法だ。


風魔法を使って僕の腕を通常よりも速く
腕が痛むがそこは回復魔法で何とかするしかない。

極限まで集中力を高め、風魔法を制御しながら刀を振る。
剣を突き出す時に爆発的な風でブースト、引く時もまた風で無理矢理腕を引く。

剣の先端と刀の先端がぶつかり、甲高い音が、鳴り響いた。

「―――ッ!!!マジかよ・・・」
「はぁ・・・久しぶりに疲れたよ」

 本当にここまで集中したのは久しぶりだ・・・今の短時間に全神経をつぎ込んだ感じだよ・・・

「・・・まさかそんな防ぎ方をするとはな・・・無茶しやがる」
「しょうがないでしょ。無理矢理避けようとしても死んでたと思うし」
「よく分かってるじゃねぇか」

よく分かってるじゃねぇか、じゃないよ!

「まぁ、中々楽しめたよ」
「おう。しっかしお前・・・魔法も使えるんだな」
「当然でしょ。僕は聖法士だよ?」
「はぁッ!?マジか!?・・・マジかよ・・・」

カイルが心底信じられないという目を向ける。

「はぁ~・・・そうかよ・・・それじゃ、俺に勝った褒美を与えないとな!!」

そう言ってカイルが何かの本を取り出した。
 
 NPCもインベントリって使えるんだなぁ・・・
 というかあの本って・・・

「その本って、もしかして・・・」
「おう、スキルブックってやつだな。前にダンジョンに潜った時に手に入れたもんなんだが・・・残念ながら俺が使っても意味がない」
「意味がないって・・・?」


 カイルが言うには、そのスキルブックは【錬成魔法】という魔法のスキルブックらしい。
 アルミリアさんが持っている【錬成術】とはどうやら別物のようで、【錬成魔法】はイメージと同じように物の形を変えることが出来るんだとか。
 その話を聞いた時になって、黒妖が僕のイメージに沿ってある程度形を変えられる、というアルミリアさんの話を思い出した。
 さっきカイルの突きを防ぐときに使えたらよかったのかもな・・・

 まぁそれはいまさら言ってもしょうがない。
 とにかく【錬成魔法】は他の魔法と同じようにイメージが必要な為、魔法を使うのが苦手なカイルは持っていても意味がない、ということらしい。
 ・・・イメージトレーニングやればいいのに。

 カイルには【錬成魔法】を持っている知り合いがいるようで、単純なイメージじゃまともに動かないとか、武器や防具を作るにはとてつもなく精密なイメージが必要だ、とかいう話を聞かされた。
 でも、これは確かに使えるならかなり有難い魔法だ。
 是非とも使いこなせるようになりたい。

「それと・・・称号コレだな」

《称号【剣王】を手に入れました》
《称号【剣王の部下】が統合されます》

 おお。
 称号って人に渡せるものなの?
疑問に思ってそのことを聞くと、カイルは笑いながら答えてくれた。

「この称号は人に受け継がせるタイプだ。お前が弟子を鍛えてそいつが自分より上だと認めるようなことがあれば、渡してやれ」
「ないと思うけどなぁ」
「それは弟子を取ることか?弟子が自分を追い越すことか?」
「前者だね」
「ならいい」

 いいのか。

「カイル、色々とありがとう」
「気にすんな。・・・それじゃ、エイフォルトに戻るぞ」

カイルは気恥しそうにそう言うと、門の方向へ歩き出した。

「・・・そうだね」


その日はエイフォルトに戻り、カイルと別れた後ログアウトした。
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