白銀の少年騎士 

Lizard

文字の大きさ
上 下
2 / 2
第一章 麗光騎士団

第2話 入団初日

しおりを挟む
―――麗光騎士団入団式

様々な説明が終わった後、騎士団長のフィアが演説をした。


「まずは諸君らの入団を祝福しよう!!しかし入団するだけではまだまだ足りん!!これから諸君らは一か月の訓練期間の後、本格的な配属を行う!!先に言っておくが、楽な訓練などないぞ!!騎士として常に高みを目指せ!それが出来ないのであれば、いますぐ退団しろ!!」

フィアの演説を聞いた者達はそれまで歓声を上げていたものも含めて静まり返った。





「団長かっこよかったね~」
「え~そう~?厳格な感じで厳しそうだったけど……」
「そこがいいんじゃない」
「……えぇ?」


尚、感想は人それぞれで違った。




三つの騎士団にはそれぞれ巨大な宿舎と訓練場が与えられている。
実際に任務のために各地に滞在する場合はそのための建物があるのだが、そちらは全ての騎士団で兼用する。
宿舎と言っても泊まるだけではなく、実質的な職務を行う場所でもある。
言わばそれは本部のようなものだ。
訓練場は黒い土で出来た部分と石畳で出来た部分に分かれている。
敷地で言えば城が建つほどに広い。


入団式が終わったその一時間後に訓練が開始された。
初日ということでフィアが訓練を行ったのだが――


「貴様らぁ!!そんな速度で生き残れると思っているのかぁ!!休まずさっさと走れぇ!!!」

まずは単純な走り込み。しかし実際の戦闘時のために鎧をつけているので、それだけでほとんどの者は倒れこんだ。
ガチャガチャと金属がぶつかる音が鳴る中、フィアの怒号が轟く。
団員からは心なしかフィアが生き生きとしているように見えた。
一時間の走り込みが終わり、五分の休憩を挟む。

リーナとアイクは、どちらも無事に合格していた。
そして二人も当然走っているのだが――

走り込みが終わったリーナはへたへたと地面に座り込んだ。
すぐ傍で汗一つ書かずに心配そうに見ているアイクに視線を向ける。

「ハァっ、ハァっ……アイク君、何でそんな平気そうなの!?」
「この程度なら問題ないです」
「この程度って……」

リーナは周囲を見渡した。
アイクの様に汗一つかいていない者は他におらず、ほとんどの者は座り込んでいる。

(どんな体力してるの……)



「休憩は終わりだ!!次はペアを組んで模擬戦を行え!魔法は使うな!他の組との距離に注意しろ!!」

「うう……」
立ち上がったリーナは腰に差していた剣を抜いた。
その剣は騎士団から支給された訓練用の刃を潰した両手剣である。
それぞれが得意な武器を訓練用にしたものが支給される。
このように団員に支給される物の代金は国から支払われている。


「アイク君、模擬戦してくれる?」
「はい、勿論です」

微笑むアイクを見てリーナも口元を緩め、すぐに気を引き締めて剣を構えた。
目の前の少年は得体が知れないところがある。
十五歳という若年であるにも関わらず、他の者より圧倒的に多い体力。
加えてリーナはアイクと一緒に走っていたのだが、その走り方は無駄がなく美しいとすら感じた。
年上だからと気を抜いていては敗ける―――そう考えた。

そして、アイクも両手剣を抜き放ち、で構えた。

(――へ?)

一瞬困惑した気持ちを鎮め、集中を深める。


「それじゃ、始めるよ」
「はい。いつでもどうぞ」
「お言葉に甘え、てッ!!」

リーナは地面を蹴り、その勢いのままに突きを放った。
相手の年齢を無視した全力の一撃。
仕草、立ち居振る舞い等から、手を抜いていい相手ではないとリーナは判断した。

しかし、自身に迫る剣を見てもアイクは動かない。
かと言って怯えているわけでもなく、むしろその瞳は獲物を見るような鋭い目つきに代わり、微かに口角が上がっているのが見えた。

剣がアイクに当たる―――そう考えた瞬間、リーナは天を仰いでいた。


「……え?」

リーナは地面に仰向けに倒れていた。
しかし、何が起こったのか分からなかった。


「だ、大丈夫ですか?」

呆然と呟くリーナに対してアイクは焦ったように声をかけた。


(今、何が……?)

気付けば手から剣の感触が消えていた。
突きを放った後を思い返しても、突然自分の視界が空に向けられていただけ。
辺りを見回すと両手剣が傍に落ちており、周囲で模擬戦を行っていた何組かの団員達が呆然と見つめていた。


「すいません……どうも戦いになると盛り上がっちゃって……」
「…えっ」

無理矢理に笑みを造る。
しかし頬が引き攣ってしまっていた。

(ま、まさかアイク君は……!?)

「そ、そうなの……ところで、さっきのはどうやったの?」
「えっと……リーナさんの剣を受け流して払った後に、脚をかけて転ばせました」

それだけのことを一瞬でやる、それにどれだけの技量が必要なのかリーナには想像できなかった。
一体誰から教わったのか、それが気になり口を開いた。


「ねぇアイク君、それ――――」
「アイク、私とも戦おうか」

リーナの言葉を美しい凛とした声が遮った。
先ほどまで人がいないと思っていた場所から声が聞こえた、そのことに驚愕したリーナが後ろを振り返ると―――


――――無邪気な笑顔を浮かべるフィア=ローゼンの姿があった。




しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

キルヒアイス

面白いです。投稿応援しています。

解除
ジューザ
2018.09.02 ジューザ

投稿待ってます。

解除
ジューザ
2018.08.12 ジューザ

戦いだけでも書いて欲しいです。

解除

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

賢者への軌跡~ゼロの騎士とはもう呼ばせない~

ぶらっくまる。
ファンタジー
【第五章――月・水・金に18:30定期更新】 魔力ゼロの無能が最強の賢者に成長する!? 日本どころか召喚された世界でさえも不遇な主人公。 ついに、勇者パーティーから追放されるも、そこから彼の本当の冒険がはじまる。 奴隷や貴族を追われた娘など境遇に問題を抱えた美人美少女たちとの冒険を楽しみながらも、己の考えの甘さに悩み葛藤し成長する主人公。 やがて冒険者として頭角を現す主人公は、望む望まざるとも世界の歯車となっていく。 そんな魔力ゼロの主人公が賢者となる軌跡を描いたファンタジー冒険譚!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

プレアデスの伝説 姫たちの建国物語

のらしろ
ファンタジー
 主人公の守は海上警備庁に奉職すぐに組織ぐるみの不正に巻き込まれて、表敬航海中にアメリカで降ろされる。  守の友人である米国海兵隊員の紹介で民間軍事会社にとりあえず就職するが、これまた航海中に大波に攫われて異世界に転生させられる。  転生直前に、カミサマと思しき人から転生先の世界に平和をと頼まれ、自身が乗っていた船と一緒に異世界に送り込まれる。  カミサマからの説明はとにかく長く要領を得ずに分からなかったが転生直後にこれまた別の神様が夢に現れて説明してくれた。  とにかく、チート能力は渡せないが、現代社会から船を送るからそれを使って戦乱続く異世界に平和を求められる。  訳も分からずたった一人大海原に送り込まれて途方に暮れたが、ひょんなことから女性を助け、その女性からいろいろと聞かされる。  なんでもこの世界の神話ではプレアデスの姫と呼ばれる6人もの女性が神より遣わされる男性の下に嫁ぎ国を興すすとき神より大いなる祝福を受けるとあり、初めに助けた女性を皮切りに巡視艇を使って襲われている人たちを助けて、助けていく人たちの中にいるプレアデスの姫と呼ばれる女性たちと一緒に国を興す物語になっております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。