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18.旅立ちの前に

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「「ただいま~!!」」

「「「おかえり~!!!」」」


 いつものように、『月のらくだ館』に帰ってくると、サムとサニーの兄弟とサリーさんが迎えてくれた。


「あれ、エルは?」

「エルちゃん?今日はまだ、帰ってきてないわねえ」

「そうなんだ・・」


 最近は、隣国のヒタトとの国境付近で、やたらとBランク以上の魔物が出現していて、Aランク冒険者のエルは、その討伐依頼のため他のCランク以上の冒険者と遠出しており、帰りが遅くなることが多かった。


「エルお姉ちゃんご飯に間に合うかなぁ?」

「大丈夫だと思うぞ」


 心配そうな顔をする、コリンの頭を撫でた。


「それにしても、ヒタト国って、どういう国なんだろうな」


 世界知識を使って・・・。


「昔は、ドワーフの国だったんだ」


 突然、うしろから声をかけられた。

 振り向くと、シカルを持ったサルクさんが立っていた。

 ジョッキを持つ腕は、筋肉隆々だ。


「サルクさん行ったことあるんですか?」

「ああ、若い時にな。冒険者だったんだ」


 そういえば、サリーさんがそんなこと言ってたっけ。


「だが、何年か前に突然、どこからか来た奴らに乗っ取られてしまい、今はこの国だけじゃなく、他のどの国とも、国交を絶ってしまった」

「乗っ取った奴って、人族ですか?」

「はっきりとは分からん。ただ、魔物を操っているらしい」

「じゃあ、国境付近に出る魔物って、もしかしてヒタトから?」

「かもしれん」


 そろそろこの世界に来て一ヶ月経つし、他の国を巡る旅に出ようかなと思ってたんだが、隣のヒタトに行けないとは・・・。


「魔物も迷惑なんだが、ヒタトと交易できないと、みんなメチャクチャ困るんだよ」

「どうしてですか?」

「ヒタトは鉱物資源が豊富で、鉄器を量産できる唯一の国なんだ」


 なんでも、これまで各国は、ヒタトからの金属製品に頼っていたらしい。

 ところが数年前、どこからか魔物を率いた者がやってきて、ドワーフの王を殺し、国を乗っ取った。

 そして、元々人口の少なかった、国民(ドワーフ)はどこかに消え失せた。

 各国に移り住んでいた、ドワーフたちは助かったので、その地で細々と産出される鉱物を使ってやりくりしているのが、今の現状だそうだ。


「まったくひどいもんだぜ、調理器具一つ取っても、新調しようとすると値段がバカ高くなっていやがる」


 サルクさんは、そう言ってぼやいていた。



「ただいま」

「「「エルお姉ちゃん、おかえり~!!!」」」


 その時、エルの声が聞こえて、ちびっこ3人が笑顔で迎えた。

 
「エル、おかえり。お疲れ様」

「別に疲れてないわ」


 相変わらずそっけない。


「そ、そうですか。・・今日は、どんな魔物が出たの?」

「なんか今日はデッカイのばっかだった。サイプロスとかゴーレムとか。なかなか倒れないから、めんどくさいのよね」


 機嫌、悪いのか?


「それより、ご飯食べましょ。今日はなに?」


 ボアのシンジャー焼き・・ようするに、豚の生姜焼きが今日の夕飯だった。


「おいひい」

「うん、うまいな」


 コリンは相変わらず、口の中がいっぱいになるまで、詰め込む主義だ。


「俺さ、もうそろそろこの村を出て、ほかの町へ行ってみようと思うんだ」


 ベトベトのコリンの手を拭きながら、俺はエルに言った。


「どうして?」

「え~と・・ほら、俺たちすごく遠いところから旅してきたって言っただろ?」

「そういえば、そう言ってたわね。・・ふっ」


 ん?

 いま、ちょっと微笑った?


「で、この国にもだいぶ慣れてきたし、ほかの町とか・・・例えば王都とかに行ってみたいなと思ってさ」

「そう・・・。ほかの国には行かないの?」

「あ、いや。そのうち行こうと思ってる」

「コリンも行く~」

「ああ、もちろん一緒に行こうな」


 俺は、コリンの頭をナデナデする。


「あたしも行こうかな」

「え?」


 いま、なんて言った?


「あたしも、一緒に行ってあげてもいいわよ」

「エルは、この村唯一のAランクの冒険者で、ここを拠点にしているんだろ?」

「今はね」

「だったら、この村を離れたら不味いんじゃないのか?それに、国境近くに出現する高ランクの魔物のこともあるし・・」


 さっきのサルクさんの話の続きを、エルから聞いた所によると、ヒタトと国境を接する国は、いまいるハルバト国ともう一つウルト国があるらしい。

 そして、最近、頻繁に現れるようになった、上位ランクの魔物の討伐に両国は苦しんでいるという。

 ただし、ウルト国は国境の2/3が川であるため、残りの北側の1/3を守ればよかったし、近くに大きな集落はなかったため、大きな被害はでていないらしい。

 一方で、ハルバト国は国境の近くに、この辺では大きい集落のエア村があり、王都イシュタルも比較的近いため、正規軍が定期的に討伐にまわっているのだった。

 ただし、正規軍が来ていないときには、地元のエア村のギルドが、正規の討伐依頼としてAランクのエルはじめ、B、Cランクの冒険者に依頼して対応していたのだった。


「別に冒険者には、そこにずっと留まっていなければならないという決まりはないわ。それに、最近は王都からBランクの冒険者が結構な数やってきているし、いざとなれば、ギルマスやサブマスがいるわ」


 どうりで、最近この宿にも初めて見る冒険者が多いのか。


「サブマスって、黒髪イケメン・・・ガイヤさんか。ガイヤさんてランクはなに?」

「Aランクよ」


 おー!
 
 さすが、冒険者ギルドのサブマスター。

 だてに、イケメンじゃないな。


「そいうえば、ギルマスさんて、まだ会ったことないなあ・・」

「会わないほうがいいわよ」


 いつも無表情なエルが、すごいイヤな顔をした。


「どうして?ギルマスになるくらいだから、Aランク以上なんだろ?」


 エルが言い澱んでいる。


「・・・・そう、Aランクよ。実力はSランクなんだけど・・・」


 ???

 実力があるのにSランクになっていない?

 ギルドマスターになれてるのに?

 ????


「でも、エルを連れて行くなら、さすがに挨拶ぐらいしとかないと・・」

「不要よ」


 この話は終わりとばかりに、断言されてしまった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 
 話題を変えよう。


「でもどうして、一緒に来てくれるんだい?」

「あたしと一緒じゃ、嫌なの?」

「イヤじゃない、嫌じゃない。エルみたいなカワイイ娘とこれからも一緒にいられるなら、むしろ、嬉しいくらいで・・」

「だ、だったら、いいじゃない」


 顔を真っ赤にしているが、怒っているわけじゃなさそうだ。

 むしろ、恥ずかしがってる?


「でも・・」

「あんたの戦い方が、いつまでたってもヘッポコだからよ!」

「スイマセン」


 そっぽを向かれてしまった。


「それより、この村を出る前に、あたしとパーティーを組んで、国境付近の討伐依頼を受けるわよ」

「だって俺まだE・・・」

「パーティーは、パーティー内最上位ランク者のランクが、そのパーティーのランクよ。だから、あたしたちのパーティーは、Aランク」

「あ、そうか」

「そういうこと」


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