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15.はじめての依頼達成

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 「さてと、久々の『空間把握』」


 西へ10000キュビ(約5キロメートル)行った所に、薬草の群生地があるね。


「行ってみよう」



 俺は、アーチ状の日干しレンガの城門を出ると、しばらく歩いてから立ち止まってスキルを展開した。

 城門を出る時、門番からは何も言われなかった。

 基本的に門番の仕事は、不審者と魔物の侵入の監視であり、出て行く者に対してはフリーパスに近いものみたいだ。

 これが、王都となればまた違うのだろうけど。





「壮観だな。」


 辺り一面、薬草が生えている。

 ここは、村からそれほど遠く離れているというわけではなかったが、丁度川が渓谷のようになっている所で、かなりな崖下に降りなければ見つけられない場所だった。

 魔法を使えば、簡単に降りられそうなのは分かっていたが、『世界知識』を使ってもいまいちイメージがつかめず、面倒くさくなった俺は、とりあえず『身体強化』で強引にそこまで降りてきた。


「一個一個、地道に採るのもバカだよなあ」


 どうやら、この薬草は根っこが一番薬効が高いみたいだが、全体を丸ごと掘り上げて、生きの良い状態にしておくのが、最も価値があるらしい。

 しおれたり、枯れたりすると、根っこの薬効も下手したら半分以下になる。


「こういう場合ってどうすんだ?やっぱり、『世界知識』さんに聞いてみよう」


 ふむ、サンドウォールで力加減を調整して、地下から全体を盛り上げてやる方法があるのか。


「力加減ね・・・魔力操作も使えばいいのか?」

『サンドウォール』


 モコモコという感じで、地面が盛り上がってきて、薬草が目の高さにきた。

 そこを、両手で慎重に土と根っこごとボコッと取り上げる。


「うん、うまくいった」


 俺は、取り上げた土付き根っこごとの薬草を、アイテムボックスに仕舞い込み、お次の薬草に取り掛かった。

 しばらく同じことを繰り返し、俺はふと手を止めた。


「サンドウォールってもう少し調整すれば、スコップでうまく掘り上げる感じに出来るんじゃね?」


 俺は、魔力操作でやり方をイメージしつつ、薬草の株のまわりの土ごと丸く掘り抜く感じで、魔法を展開してみた。


 ポコッ。


「いいじゃん!」


 まるで、観葉植物を植木鉢から抜き出したみたいな感じで、薬草の株が地面の上に掘り上がった。

 そこからは、早かった。

 群生地の1割りくらいを残して、あっと言う間に掘り上げることができた。


「サンドウォールって便利だな・・・そうか!」


 ここに降りてくる時も、自分の足元の地面に使えば、エレベーターの出来上がりじゃん。


「まあ、つぎ来るときは、ここをマーキングしとけば転移で来れるけど」


 なんかあれだな、いくらスキルや魔法のレベルがあっても、使い方とかよく考えないと意味ねえな。

 工夫することに気がついたら、色々アイデア出て来るじゃん。

 今思いついたけど、風属性魔法使えば、空飛べそうじゃん。

 ただし、MPバカみたいに消費しそうだけど・・。



「よし!討伐依頼行ってみるか」
 
◇◇◇◇◇◇◇◇

「じゃあ、ゴブリン指定で索敵してみますか」


 俺は川で手に付いた土を洗い落とすと、討伐依頼の方をこなすために、『空間把握』スキルを展開させた。


「10000キュビ以内に・・・いないなあ。倍に範囲を拡げるか」


 お、反応あり!


「東に18500キュビに、100匹!?」


 なんで、こんなに村から近い所に、コロニーが?


「エア村の冒険者ギルドなにやってんだ?」


 ワザとか?


「まあいい、行ってみよう」


 俺は、とりあえずこの場所をマーキングしておいて、『身体強化』を使ったまま、ゴブリンのコロニーを目指した。



◇◇◇◇◇◇◇



「巣穴?」


 目的の場所近くに着いて、岩陰から様子を伺うと、でかい岩がいくつか組み合わさった塊を入り口にして、地面に開いた大きな穴から、何匹ものゴブリンが出入りしているのが見えた。

 地上に出ているのだけで、100匹。


「あれ、もっと中にいるな・・・げっ!」


 他の個体とちょっと違うのが、出てきた。

 手に木剣を持っている。


「ゴブリンソードか」


 この分だと、巣穴の奥にはゴブリンナイトくらい居ても、不思議はないな。

 ん~、それにしても、『空間把握』は地下にもある程度、範囲を広げておかないとだめだな。

 
「てか、今それやれよってことか」


 ・・・やっぱり。


「ゴブリンがあと50匹と、ゴブリンソードが10匹にゴブリンナイト1匹ね」


 さて、どうしますかね。


『ウインドバレット』


 俺は、自分の隠れている位置から、見える範囲の30匹ほどのゴブリンに対して、風の弾丸を放った。


「○△☓!」


 突然、まわりの仲間がバタバタと倒れたのを見て、何が起きたのか分からずに、混乱するゴブリンたちだったが、地表に出ていたゴブリンソードが、俺の隠れている岩を指差して何事かを叫んだ。

 すると、ゴブリンたちは一斉に俺の方を振り向いて、近づいてこようとする。


『ウインドバレット』

『サンドウォール』


 俺は、ゴブリンたちの動き出しよりも早く、岩陰から飛び出すと、直ぐ様、新たに目視できた20匹ほどをウインドバレットで倒した。

 そして合間に、新たに近づいて見えてくる奴らの、足元の地面を盛り上げる。


『ウインドバレット』


 盛り上がった地面につまずいて、倒れた奴らや、立ち止まった奴らを、さらに30匹倒した。


『サンドウォール』


 残りが20匹ほどになった頃、騒ぎに気づいた巣穴の中の奴らが、出てこようとした。

 俺は、一旦サンドウォールで入り口を塞いでやって、アイテムボックスからショートソードとジャンビーヤを取り出した。

 続けざまの魔法攻撃と、巣穴の入り口が突然塞がってしまったことで、ゴブリンたちの混乱はさらにひどいことになっている。


「ほら!いくぜ!!」


 俺は、20匹あまりのゴブリンが、ひとかたまりになって右往左往しているところへ、剣を構えながら突っ込んでいった。


「ザスッ!」


 最初の一撃目で、ゴブリンの首が吹き飛んだ。


「うっ。」


 一瞬、人型の生物を斬る感覚に、大きな違和感を感じた。

 ほんの僅かな罪悪感?

 それとも、快感?

 嫌悪感?


「とりゃ!」


 それも僅かな瞬間であって、すぐに何事もなかったかのように、間近に迫った奴の首筋にジャンビーヤを突き刺す。

 『精神異常耐性』の、おかげか?

 コリンを助けた時はなんとも無かったのにな。

 あの時は初めてで、夢中だったしな。

「よく分かんないや。」


 ゴブリンソードの木剣は、俺のショートソードと打ち合った瞬間に、簡単に折れてしまって、意味をなさなかった。

 戦闘は、1分足らずで修了した。


「ゴゴゴゴ・・・ドガン!」


 その時、巣穴の入り口を塞いでいた、土の壁が崩れ落ちた。

 舞い上がる土埃の向こうから、ゴブリンたちとともにニ回り大きい個体が姿を現した。


「ガシャン」


 チェーンメイルを着ている。

 ゴブリンナイトだ。

 ゾロゾロと、残りのゴブリンソードも出てくる。


『サンドウォール』


 俺は、少し距離を取るため、土の壁で障害物を作った上で、後方に飛び退った。
 


 
「□▲○◇!!」


 俺が距離を取るのを見たゴブリンナイトは、すぐに指示を飛ばした。

 9匹のゴブリンソードに、5~6匹のゴブリンが引き連れられて、俺のまわりを取り囲む。

 囲みの直径は30mほど。

 それぞれに、棍棒や木剣を構えて、囲みを狭める素振りを見せる。


『サンドウォール』


 俺は、ゴブリンたちの外側を囲むように、土の壁をぐるりと作り上げた。


「「「「「「「「「キシッシ!」」」」」」」」」


 それを見た、ゴブリンナイトたちが、狼狽えるどころか、奇妙な笑い声を上げた。

 俺がもう、逃げることができないと思ったのだろう。

 59匹が、ゆっくりと一歩を踏み出そうとした。


『ファイアウォール』


 その瞬間俺は、今度は自分とゴブリンたちの間、奴らの足元に火の壁を放った。

 凄まじい豪火にゴブリンたちが後ずさる。

 だが、土の壁に阻まれてそれ以上の逃げ場がない。


『ウインドウォール』


 土の壁を背に、爪先立つ奴らに、さらに内側から、風の壁を外側へ向かって吹き付けてやった。

 断末魔をあげたゴブリンたちは、数秒の後、消し炭となって燃え尽きた。

 炎の輪が消えた地面の上には、59個の魔石が円状に残っているだけだった。


「タアー!」


 俺が身体強化を使って、土の壁を駆け上がって、上から見下ろした時、仲間の断末魔を聞いて状況を悟ったゴブリンナイトが、巣穴へ逃げ込むべく、背を見せた瞬間だった。


「逃がすわけねえだろ」


 俺はそのまま、一気に壁の上からゴブリンナイトのすぐ側に飛び降りると、その背中にショートソードを力いっぱい突き刺した。

 剣は、チェーンメイルを物ともせず、根元まで突き刺さった。


「どガシャン!」


 ゴブリンナイトは派手な音を立てて、背中に剣を立てたまま、前のめりに倒れた。







「ズサッ。」


 ゴブリンナイトが倒れたのを目にした俺は、なぜか全身から力が抜けて、その場に膝から座り込んでしまった。


「・・・・」


 剣を放してしまった両手を、静かに目の前に持ってきてみると、ワナワナと震えている。

 自分で感じているより必死だったらしい。


「おわっ・・・たのか?」


 手から目線を上げると、倒れ伏すゴブリンナイトが見えた。



「ブシュッ」


 俺は両手を地面につくと、そのまま這い進んで、ゴブリンナイトの背中から生えたショートソードを、引き抜いた。


「クッ・・」


 ショートソードを杖がわりにして、立ち上がる。



「土の壁・・・」


 ゆっくりとうしろを振り向くと、壁の向こうから煙が立ち昇っていた。

 これがこの世界での仕事か・・・。



「魔石を回収しなくちゃ・・・」



 精神異常耐性が効いているはずなのに、体が重い。


 俺はそのあと、ノロノロとただ機械的に、魔石を拾い集め、死体から取り出す作業を繰り返した。



 ・・・・・ゴブリンナイトのチェーンメイルは、穴が開いてしまったし、剥ぎ取る気分になれず、そのままにした。



「さて・・・帰るか」



 死体を一箇所に集めてファイヤボールで焼却し、全ての作業が済むと、俺はゆっくりとその場をあとにした。


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