上 下
91 / 98

91.商談の続き

しおりを挟む
「それは大丈夫です。これだけのシステムであれば、領都なら貴族様や裕福な商家に売り込むだけでも十分に勝算がありますよ。もちろん、マモルさんたちの利益をちゃんと確保した上での話です」

イワンさんが、自信満々の表情で言った。

「私はともかく、ダンクさん達のところが損をしなければ良いんですけど・・」

俺はそう言って、ダンクさんの方を見た。

「そうだな。ワシらのところも、儲けるつもりは全く無いが・・ワシは領都へは行かんぞ」

「えっ?じゃあ誰が作るんですか?」

「あっちは、弟子に任せたと言ったろう」

「ああ~。そうでしたね」

俺は頭に手をやって、苦笑する。

「では、システムの売り込みと受注の窓口はイワン商会様で、施工はダンク&ドンク兄弟工房様の領都支店ということでよろしいでしょうか?」

話を聞いていたパースさんがまとめる。

「あ、それから仕様の件なんですけど。この村で商家に設置している、水だけのシステムで良かったですか?」

俺みたいに魔法で、ホイホイとお湯を出せる人がそういるとは思えないしな。

「その点については、施主によって対応を変えるつもりですよ」

イワンさんが、こともなげに言った。

「え?お湯はどうするんですか?」

「実は、周りの温度を変えられる魔道具があるんですよ・・・高いですけど」

「まあ、そんなに数は出回っていないし、ちょとずつしか変えられないから、坊主の魔法に比べれば時間がものすごくかかるがな」

イワンさんの答えに、ドンクさんが付け足す。

「そうなんですか、そういうものがあるんですね」

そんな希少なものなら、この村に普及しているはずもないか・・。

「それは、時間をかければ良いだけですので。一部の貴族様や商家であれば、すでに持っているか、魔道具込みで買ってくれると思います」

「コミでって、イワンさんところで売っているんですか?!」

「もちろん、取り扱っていますよ。ご購入なさいますか?お高いですが」

「いえ・・結構です」

自分の魔法で間に合っているし・・・あ、でも冷房に使えるかな?

後で聞いてみよう・・。

「それでは、お金の方の話に移らさせて頂きますが、通常のライセンス料と施工費、材料費、雑費等に加えて、今回のような場合、利益の分配金が発生して参りますが・・・」

パースさんが、脱線しかかった話を元に戻す。

「ちょっと待った。その前に、今後の普及についてなんだが・・」

そこで、ダンクさんから待ったがかかる。

「はい」

パースさんが進めた話を、一旦中止してダンクさんの方を見る。

「システムの技術仕様については、ギルドに登録しているから、ライセンス料さえ払えば誰でも作れるはずだな?」

「そうですね。ただ、あくまであれは標準的な仕様を、登録の様式に従って記載しているだけですから、そう簡単には真似できないとは思いますが」

「そうだ。だから、逆に言えば粗悪品が出回る可能性があるってことだ」

なるほど。

確かに、ダンクさん達があれほど苦労して作り上げたシステムを、そうそう簡単に模倣するのは難しいよな。

でも、このままイワンさんのところが大々的に売り込めば、真似をする人たちが出てくるのは時間の問題か。

そうなれば、ダンクさんのいう通り、似て非なるものが出回って・・・。

「ワシはそうなるのが気に食わねえ!かと言って、仕様を公開している以上、他の奴が作るのを止めることはできねえ」

中途半端なものが出回ってしまったら、こっちのシステムの悪評になる可能性もあるしな。

「だからせめてもの対策として、このシステムを施工する者はウチの本支店のどちらかで、1度研修を受ける義務があることを、ライセンス登録に追加してくれねえか?」

「なるほど。研修を受けずに施工した場合には、ライセンス規約の罰則を受けるということですね」

パースさんが、頷いて言った。

「ああ。完全には防止できんだろうが、しないよりはマシだ」

「承知いたしました。通常のライセンス登録とは異なりますので、ギルマスの承認が必要になります。少々お待ちいただけますか?」

パースさんはそう言って、ルシアちゃんの方を見た。

ルシアちゃんはうなずくと、席を立って一礼し部屋を出ていった。

程なくしてルシアちゃんが戻ってきて、何やら書類をパースさんに手渡して頷いた。

「承認が取れましたので、先ほど言われた通りにライセンス登録を変更いたします」

「分かった」

一礼するパースさんに、ダンクさんが頷いた。

「それでは、改めまして分配金についてですが・・・」

・・・こうして、話は更に細かい内容に入っていったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大賢者アリアナの大冒険~もふもふパラダイス~

akechi
ファンタジー
実の親に殺されそうになっていた赤子は竜族の長に助けられて、そのまま竜の里で育てられた。アリアナと名付けられたその可愛いらしい女の子は持ち前の好奇心旺盛さを発揮して、様々な種族と出会い、交流を深めていくお話です。 【転生皇女は冷酷な皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!】のスピンオフです👍️アレクシアの前世のお話です🙋 ※コメディ寄りです

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

あなたを解放してあげるね【本編完結・続編連載中】

青空一夏
恋愛
 私はグラフトン侯爵家のデリア。13歳になったある日、スローカム伯爵家のクラーク様が、ご両親と一緒にグラフトン侯爵家を訪れた。  クラーク様は華奢で繊細な体つきをしていた。柔らかな金髪は風になびき、ふんわりとした雰囲気を醸し出していた。彼の笑顔には無邪気さと親しみやすさが感じられ、周りの人たちを引き込んでしまうような魅力があった。それに、とても優秀で古代魔法の分厚い書物を、たった二週間で読んでしまうほどだった。  私たちは婚約者になり、順調に愛を育んでいたと思っていた。私に対する態度や言葉も優しく、思いやりも籠もっていたから、私はこの婚約に満足していた。ところが・・・・・・  この世界では15歳から18歳まで、貴族の子女は王都にある王立貴族学園に通うのだけれど、クラーク様からのお手紙も来訪も入学を機にピタリと止まってしまう。寂しいけれど、きっと学業に勤しんでいて忙しいのだろうと思い我慢した。  その1年後に同じ学園に入学してみると、私は上級生の女生徒に囲まれ「クラーク様から身を引きなさいよ。あの方には思い合う女性がいるのよ!」と言われた。 なんと学園では、私が無理矢理彼に一間惚れをして婚約を迫ったという噂が流れていたのよ。私は愛し合う恋人たちを邪魔する悪役令嬢と決めつけられ、(そもそも悪役令嬢ってなに?)責められた私は婚約者を解放してあげることにしたわ。  その結果、真実の愛を見つけた私は・・・・・・  これは私が婚約者を解放してあげて、お陰で別の真実の愛を見つける物語。魔法が当然ありの世界のラブファンタジー。ざまぁあり。シリアスあり、コメディあり、甘々溺愛ありの世界です。ヒロインはメソメソやられっぱなしの女性ではありません。しっかりしたプライドを持った令嬢です。  もふもふも登場予定。イケメン多数登場予定。多分、あやかしも出るかな・・・・・・ ※作者独自の世界で、『ざまぁから始まる恋物語』です。 ※ゆるふわ設定ご都合主義です。 ※お話がすすんでいくなかでタグの変更があるかもしれません。 ※以前書いたものに新しい魔法要素を加え、展開も少し違ってくるかもしれませんので、前に読んだ方でも楽しめると思いますので、読んでいただけると嬉しいです。(以前のものは非公開にしております) ※表紙は作者作成AIイラストです。 ※女性むけhotランキング一位、人気ランキング三位、ありがとうございます。(2023/12/21) ※人気ランキング1位(2023/12/23~2023/12/27)ありがとうございます! ※AIイラスト動画をインスタに投稿中。bluesky77_77。

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

【完結】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

恋愛
エリシャ・エストルムが婚約しているのはジャービー国の第二王子ギース。 ギースには、婚約者を差し置いて仲の良い女性がいる。 それはピオミルという女性なのだがーー 「ピオミル・エストルムです」 「……エストルム?」 「お姉様!」 「だから、あなたの姉ではーー」 シュトルポジウム侯爵であるシュナイダー・エストルムが連れてきた親子、母パニラと娘ピオミル。 エリシャを姉と呼びエストルム姓を名乗るピオミルだが、パニラは後妻でもないしピオミルは隠し子でも養女でもない。 国教の危険地域を渡り歩くポジウム侯爵は、亡き妻にそっくりなエリシャと顔を合わせるのがつらいといってエストルム邸には帰らない。 いったい、この親子はなんなのか……周りの一同は首を傾げるばかりだった。 -------------------------------------- ※軽い気持ちでバーっと読んでくださいね。 ※設定は独自のものなので、いろいろおかしいと思われるところがあるかもしれませんが、あたたか~い目で見てくださいませ。 ※作者の妄想異世界です。 ※敬語とか?尊敬語とか?おかしいところは目をつぶってください。 ※似たりよったり異世界令嬢物語ですが完全オリジナルです。 ※酷評に耐性がないのでコメントは際限まで温めてからお願いします。 2023年11月18日 完結 ありがとうございました。 第二章は構想はありますがまだ書いていないので、すぐに更新はされません。 書けたらUPします! 感想たくさんありがとうございました。 ジャデリアが話していた相手がだれかというご質問が多かったですが、そこは想像してほしいので明記していません。ヒントは結構前の話にあります。 完結してから読む派のかたもいらっしゃいますので、ぼかしておきます。 本当に、たくさんの感想、ありがとうございました!

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

処理中です...