上 下
12 / 98

12.大騒ぎ

しおりを挟む


『困りますよー、泊まりのお客様の迷惑になりますから』

『そんなこと言わず、どうかお願いします。娘が熱を出してしまって・・』

『うちのかーちゃんが、畑で転んじまって・・・』

『オラとこのばーさんは、ベッドから落ちて・・・』


なんか、朝から騒がしいな。


俺は身支度を整えると、1階へ降りていった。

「ほらほら出て行った!お客に朝飯を出さなきゃいけないんだ」

宿の入口で、ベイルさんが大声を上げている。

シンシアさんは、その後ろで腰に手をあててあきれ顔で立っている。

「どうしたんですか?」

シンシアさんに近づいて、肩をちょんちょんとつつき、聞いてみた。

「あ、マモルさん!いま出てきちゃダメですよ」

シンシアさんが振り向いて、小声で言ってきた。

「どうしてですか?」

「ちょっと、こっち来て」

シンシアさんに、食堂の隅へ連れて行かれる。


「で、なにが?」

昨夜ゆうべ、わたしの火傷やけどを治してくれたわよね?」

「ええ」

「それを聞きつけて、村じゅうの怪我人やら病人やらが押し寄せてるのよ」

「ま、マジですか?!」

寝ている間に、どうやら大変なことになっているらしい。

「ど、どうすればいいですかね?」

「どうすればって言われてもねえ・・」

シンシアさんが、左手を頬にあてて頭を傾ける。

「こういう時は、村長に聞いてみるしか・・」

「やっぱりそうですよねえ~」

でも、入口があの状態じゃあ・・・。

「だとしても、どうやって村長のところまで?」

「しょうがないねえ・・・こっちに来な」

「は、はい」

シンシアさんのあとについて、厨房の中を通る。



「ここからお行き」

勝手口を指し示す。

「すいません、ありがとうございます」

「わたしが原因でもあるんだから、いいのよ」

俺はシンシアさんに頭を下げると、勝手口から宿を抜け出した。



物かげを選んで、なるべく目立たないように進み、村長の家を目指す。

しばらくして、ようやく村長の家が見えた。


「すいません、おはようございます」

玄関の戸を叩いて、声をかけた。

「はーい」

元気な返事がして、扉が開く。

「あ!マモルおにいさん。おはよう!」

「やあ」

ミミが、満面の笑顔で出迎えてくれた。

「おや、朝からどうしたのじゃ?」

その後ろからハサンさんが出てきて言った。

「じつは・・」

「そんな所じゃなんだから、おは入りな」

ハンナさんが、ニコニコしながら言ってくれた。



そのお言葉に甘えて、中に入り居間のテーブルに座ると、ミーナさんがハーブティーを入れてくれる。

「ありがとうございます」

ひと口飲んで、俺は昨夜から今朝の出来事を説明した。


「なるほどのう。まあ、そうなるじゃろうの」

ハサンさんが、白いあごひげを撫でながらつぶやいた。

「これからわたしは、どうすれば良いですかね?」

「あんたは、どうしたいのじゃ?」

どうって、そりゃあ・・。


「困っているんなら、助けてあげたいです」

「・・・そうかの。じゃが、タダでというわけにはいかんぞ」

えー、でも元手はかかって無いんだけどなあ。

「どうしてですか?わたしは構わないんですけど」

「のちのち、面倒なことになるかも知れんからじゃ」

「面倒?」


ハサンさんによると、一般的には普段の庶民の病気や怪我の治療には、薬草をそのまま使った民間療法が主で、効果は薄いそうだ。

ポーションもあるが高価で、低級でも10000セムもするらしい。

回復魔法は、領都になら治療師がいて、1回30000セム(低レベル)でやってくれるらしい。

中レベルだと50000セムもして、領都にさえ扱える治療師は1人しかいない。

高レベルに至っては、扱える人は王都に1人いるだけで、王族か高位貴族しか施してもらえないそうだ。


「ところでその魔法、1日何回までなら使えるのじゃ?」

ハサンさんが、おもむろに聞いてきた。

「え?」

そういえば、確か1回10MPだったよな・・・ということは10回か?

「すいません、ひとつ聞きたいんですけど、魔力って使い切ったらどうなります?」

「ば、ばかなことを言うでない!使い切る前に気絶してしまうじゃろうが!」

「すいません」

えーと。

「回復魔法だけ使うとして、10回で使い切ります」

「では1日3回、つまり3人までにするのが、良いじゃろう」

「5回くらいでもいいんじゃありませんか?」

「ダメじゃ、他の魔法でも使う可能性があるじゃろうし、余裕を持っておかねばの」

「はあ、そういうもんですかね・・」


そして、対価は1回3000セムということになった。

本当は300セムにしようと思ったが止められた。

なぜなら、本当は30000セムするものを、そんな破格値(100分の1)でやっているのが、領都の治療師に伝わったら、また騒ぎになりかねないからだそうだ。

かと言って、この村で1回に10000セムとかを、ホイホイと払えるものはほとんどいないので、3000セムが妥当な線だろうということだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...