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灰色の街(ロザルサーレ)
◇ 水の竜騎士:親友が幼女趣味に走りつつある件
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※王都にいる水(青)の竜騎士クウィーヴィン視点です。
時間が当日の午前中まで戻ります。
◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇
昨夜の土砂降りから一転、今朝は澄み渡った秋の青空です。
霊山上空を青竜のコールと一緒に飛べたら、気持ちいいでしょうねぇ。ま、聖女が竜舎を移転しろと金切り声を上げている最中ですから、無理なのは解ってます。最近めっきり老けたうちの師団長閣下の顔を立てて、自重します。
せめて、王都の児童誘拐事件で進捗がないか、人の噂に耳聡い父に確かめようと商会へ行くところでした。久しぶりの休みですし。
――何が言いたいかというと、私が今まさに出がけだったということです、ええ。
「お前は心配してくれたのに、暴言を吐いた。すまない」
黒髪の男が、上半身をきっちりと折り曲げ、深々と頭を下げてきました。これだから勝てないんですよね。騎士学校時代から何度目の敗北感でしょうか。
神殿横の竜騎士宿舎。二階の窓からいきなり入ってきた親友ときたら、別人のように晴れやかな顔をしています。
真っ直ぐで嘘のつけない堅物のコイツが、かつての私は大嫌いでした。座学ならこちらの方が成績は上なのに、総合点では常にトップを奪われていたのですから。
竜たちは見抜いているのでしょうね。この男が、私よりもずっと純粋で、信頼に値すると。
◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇
「そんなワケで、最初はロクに話してもらえなかったんだ。だが、お前の真似をしてみたらうまくいった!」
休暇中の不審者発見話が、どんどんおかしな方向へ転がっていきます。つい先ほど実直さでこちらの心を打った輩が、何を宣っているのでしょうか。
この男は騎士学校時代、片思いした宮廷伯令嬢の前で、やたらと筋肉を見せつけて失恋しました。卒業後の騎士見習い時代には、商家の令嬢相手に正義の味方を売り込んで失恋しましたね。
で、現在は『モテる』私の真似をして、新たな恋のお相手に、なんでしたっけ、『底意地の悪そうな紳士のフリした』と……殴っていいですか。
「ディード、まず大前提に戻りましょう。『壁』の部族出身の、もし魔導士だったと仮定しても、『小さな子ども』なんですよね!?」
「エルリースより年齢は上なはずだ」
「ええ、ですから。そのお嬢さんの比較対象は、自分が騎士学校時代に生まれた甥っ子よりも後に誕生した、末の姪っ子君って時点で、何か問題点のようなものが見えてきませんか?」
「安心しろ、クウィン。彼女が結婚できる年齢まで何もせずに待つと、精霊にかけて誓える!」
……安心できません。思いっきり不安になりましたとも今この瞬間。
香妖の森に一人で入っていっただの、常識破りな武勇伝の出だしから、全て冗談でしたと言ってほしいのですが。
「それにな、あの若さが魔術の賜物だって可能性もある。その場合は老婆かもしれんが、うちの上司で慣れた! 俺は年齢差には一切こだわらない男だ!」
いえ、こだわりましょう少しは。見直したと思ったら、相変わらずナナメ上の相談事を寄越すアホでした。
そりゃ貴方の上司は、あのエイヴィーン閣下ですからね。私たちの母親の年齢で、私たちの後輩を片っ端に骨抜きにする意味不明の傍迷惑な化け物です。もっと比較対象にしちゃいけない相手でしょうが!
前言撤回ということで、親友を辞めたくなりました。
◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇
昨日の雨のせいでしょうか。日中は晴れたというのに、夜になってもまだ大気が湿気ています。風に吹かれた雲間からは、四つの月が見えたり消えたり。
竜は夜目が利くとはいえ、決して飛行しやすい空ではありません。それを王都の裏側から高速で大周りして、灰色の街ロザルサーレへと向かうという無茶な航路。平気そうに飛ぶ隣の某竜騎士を呪っても、今なら許される気がします。
青竜のコールが、ふと何かに気づいて、低空飛行をさらに低くしました。いきなりの地面すれすれとか、肝が冷えるじゃないですか!
南方を見ていたのだと思いますけど……まさか上空のあの点、魔導士集団ですか?!
マズいです、これ以上飛びつづけると、夜陰の魔道具で誤魔化していても見つかってしまいます。
合図しようとしたら、ディルムッドは一足早く大木の所へ到達して、竜の背から降り立ってしまいました。
地上には、魔導士とはまた別の、でも同じくらい出会いたくない集団が待ち構えています。黒装束に種々雑多な暗器。しかもこんなに人数が多いとは……まとめてお仕置きしてくださいと、言っているようなものですねぇ?
コールにも大木ギリギリまで突っ込ませ、降り立ってすぐに抜刀しました。神殿の『黄金倶楽部』が後ろ盾だと噂の暗殺ギルド、『黄金月』の構成員は全員が帝国人です。
自国だと愛着が生まれるから他国で暗躍させるとか。けれども無慈悲になれるのは、我々取り締まる側も同様ですよ。守るべきヴァーレッフェの民ではないのですから。
「おやおや帝国の皆さん、外国人による軍用魔道具の所持や改造は重罰になりますよ!」
友好的に笑いかけてみました。底意地なんて悪くはありませんとも。常に紳士であろうとしているだけですが何か。
大樹の太い根が守るように囲んでいるのが、ディードの言っていた少女でしょう。おや、風の盾ですか。しかも契約獣を複数操るとは。
そしてこの高級な薬品臭。信じられないのですが、本物の『転寝癒しの樹』、別名『森の王』です。連中を追い払ったら、父の商会用に葉の一枚でも持って帰ってあげましょうかね。
帝国が送り込んだ犯罪者集団を刀で蹴散らしていますと、街から人影が走ってきます。向こうの頭領かと思いきや、見知った顔でした。
「おい! 一人も逃がすな!」
「は!? え!?」
ヘスティア様、と名前を呼びそうになって、慌てて口を噤みます。敵に知らせるわけにはいきませんが、王都学園の養護教員が参戦してくるとかおかしいでしょう!
一騎当千の魔導剣士が、手加減なしで『黄金月』の連中を始末していっています。ディルムッドもそれに倣い、確実に殺す方向で動き出しました。
私は事前の説明と作戦計画が欲しいタイプだというのに、ああもう、この姉弟ときたら!
実は片親だけでも血が繋がってました、と言われても、今なら驚きませんね。そういえば、神殿内部にも侵入してたんですよね彼女。
やはり本物の『闇夜の烏』なのでしょうか。国王陛下直属の謎に包まれた諜報機関。
資金難で解散に追い込まれたという都内の噂は大嘘でしたか。帝国から食糧支援を受けているこのご時世、危うく信じてしまうところだったじゃないですか!
「――ぐはぁっ」
あ、失敬。躱そうとズレた貴方が悪いんですよ、ちゃんとトドメは刺してあげます。
◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇
はて。地獄の門番でも君臨したのでしょうか。若干名が逃げていこうとしたら、コールとダールを従えた白い犬が一人ひとりご丁寧に屠っていっています。
竜という生き物は、契約を結んだ竜騎士の命令しか聞かないはずでは?
「一体何が起こっているんですか」
「いやぁ、面白いよね! 氷緑鼠ちゃんのワンコ」
「あ、やはりそう思われましたか。似てますよね、氷緑鼠に!」
唖然とする私の横で、姉弟が謎の会話を始めています。そして『森の王』の根元では、雪玉のような風の白い盾が薄くなり、本当に氷緑鼠が現れました。
黒く大きな瞳と長い睫毛。華奢な両手を合わせたまま、不安げに首を伸ばし、周囲をきょろきょろと確認する仕草まで一緒です。
小動物を飼いたい飼いたいと、年中嘆いている男がおかしくなるわけです。氷緑鼠は、室内用愛玩動物の可愛さ要素を純度100の高みに押し上げ、さらにその上の天上界に君臨するとまで称賛されるのですから。
あー、これは確かに危険です、可愛い!
竜の世話をしていると、その匂いで小動物が怖がってしまい、滅多に近寄ってこなくなってしまいます。竜は大型魔獣のようなものだから諦めるしかないと、竜騎士登用試験前に大先輩が涙ながらに説明していましたっけ。
特にあの方は、小動物どころか女性にも怖がられつづけて、花の独身のまま今じゃ第三師団長。そういえば数日前から、突然の休暇中でした。今朝、部下のユルヴァンが食堂で周囲に愚痴っていましたから。
地獄の借金取り犬が一人残らず見事に仕留め終え、威厳たっぷりな足取りでこちらへ向かってきます。途中でふと立ち止まり、魔道具なしに全ての返り血を一瞬で払い落とすという高等魔術まで披露してくれましたよ。
間違いなく上位魔獣です。慎重に距離を取りたいのですが、身体が強張ります。敵認定されたら命が終わります。
その横をソワソワと通り抜け、先を争うようにこちらへ向かってくるのが我が愛竜たち。滅多にいない上位種に無理矢理こき使われて大変でしたね、よしよし、慰めてあげるのでついでに空へ一緒に逃げ……あれ?
「ちょっと! 私はこっちですよ、コール?」
青竜も紫竜も、主である竜騎士二人を無視して、『森の王』の根元に座る少女のほうへ行ってしまいました。薄く透明な風船玉のようになった風の盾へ交互に顔を押し付けて、興味津々です。
なんですか、二頭のあの喉! 竜がそりゃもうすさまじく機嫌の良い時にしか出さない鳴き声なのに。それを大盤振る舞いとは!
「氷緑鼠ちゃんだからな」
「氷緑鼠ですねぇ、やっぱり」
貴方がた姉弟は、もういいから黙っていただけますかね。
◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇
※お読みいただき、ありがとうございます。
もしお手隙でしたら、感想をぜひお願いします。
「お気に入りに追加」だけでも押していただけると、光栄です!
すでに押してくださった皆様、心より感謝いたします。
きらきら色鮮やかな日々となりますように。
時間が当日の午前中まで戻ります。
◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇
昨夜の土砂降りから一転、今朝は澄み渡った秋の青空です。
霊山上空を青竜のコールと一緒に飛べたら、気持ちいいでしょうねぇ。ま、聖女が竜舎を移転しろと金切り声を上げている最中ですから、無理なのは解ってます。最近めっきり老けたうちの師団長閣下の顔を立てて、自重します。
せめて、王都の児童誘拐事件で進捗がないか、人の噂に耳聡い父に確かめようと商会へ行くところでした。久しぶりの休みですし。
――何が言いたいかというと、私が今まさに出がけだったということです、ええ。
「お前は心配してくれたのに、暴言を吐いた。すまない」
黒髪の男が、上半身をきっちりと折り曲げ、深々と頭を下げてきました。これだから勝てないんですよね。騎士学校時代から何度目の敗北感でしょうか。
神殿横の竜騎士宿舎。二階の窓からいきなり入ってきた親友ときたら、別人のように晴れやかな顔をしています。
真っ直ぐで嘘のつけない堅物のコイツが、かつての私は大嫌いでした。座学ならこちらの方が成績は上なのに、総合点では常にトップを奪われていたのですから。
竜たちは見抜いているのでしょうね。この男が、私よりもずっと純粋で、信頼に値すると。
◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇
「そんなワケで、最初はロクに話してもらえなかったんだ。だが、お前の真似をしてみたらうまくいった!」
休暇中の不審者発見話が、どんどんおかしな方向へ転がっていきます。つい先ほど実直さでこちらの心を打った輩が、何を宣っているのでしょうか。
この男は騎士学校時代、片思いした宮廷伯令嬢の前で、やたらと筋肉を見せつけて失恋しました。卒業後の騎士見習い時代には、商家の令嬢相手に正義の味方を売り込んで失恋しましたね。
で、現在は『モテる』私の真似をして、新たな恋のお相手に、なんでしたっけ、『底意地の悪そうな紳士のフリした』と……殴っていいですか。
「ディード、まず大前提に戻りましょう。『壁』の部族出身の、もし魔導士だったと仮定しても、『小さな子ども』なんですよね!?」
「エルリースより年齢は上なはずだ」
「ええ、ですから。そのお嬢さんの比較対象は、自分が騎士学校時代に生まれた甥っ子よりも後に誕生した、末の姪っ子君って時点で、何か問題点のようなものが見えてきませんか?」
「安心しろ、クウィン。彼女が結婚できる年齢まで何もせずに待つと、精霊にかけて誓える!」
……安心できません。思いっきり不安になりましたとも今この瞬間。
香妖の森に一人で入っていっただの、常識破りな武勇伝の出だしから、全て冗談でしたと言ってほしいのですが。
「それにな、あの若さが魔術の賜物だって可能性もある。その場合は老婆かもしれんが、うちの上司で慣れた! 俺は年齢差には一切こだわらない男だ!」
いえ、こだわりましょう少しは。見直したと思ったら、相変わらずナナメ上の相談事を寄越すアホでした。
そりゃ貴方の上司は、あのエイヴィーン閣下ですからね。私たちの母親の年齢で、私たちの後輩を片っ端に骨抜きにする意味不明の傍迷惑な化け物です。もっと比較対象にしちゃいけない相手でしょうが!
前言撤回ということで、親友を辞めたくなりました。
◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇
昨日の雨のせいでしょうか。日中は晴れたというのに、夜になってもまだ大気が湿気ています。風に吹かれた雲間からは、四つの月が見えたり消えたり。
竜は夜目が利くとはいえ、決して飛行しやすい空ではありません。それを王都の裏側から高速で大周りして、灰色の街ロザルサーレへと向かうという無茶な航路。平気そうに飛ぶ隣の某竜騎士を呪っても、今なら許される気がします。
青竜のコールが、ふと何かに気づいて、低空飛行をさらに低くしました。いきなりの地面すれすれとか、肝が冷えるじゃないですか!
南方を見ていたのだと思いますけど……まさか上空のあの点、魔導士集団ですか?!
マズいです、これ以上飛びつづけると、夜陰の魔道具で誤魔化していても見つかってしまいます。
合図しようとしたら、ディルムッドは一足早く大木の所へ到達して、竜の背から降り立ってしまいました。
地上には、魔導士とはまた別の、でも同じくらい出会いたくない集団が待ち構えています。黒装束に種々雑多な暗器。しかもこんなに人数が多いとは……まとめてお仕置きしてくださいと、言っているようなものですねぇ?
コールにも大木ギリギリまで突っ込ませ、降り立ってすぐに抜刀しました。神殿の『黄金倶楽部』が後ろ盾だと噂の暗殺ギルド、『黄金月』の構成員は全員が帝国人です。
自国だと愛着が生まれるから他国で暗躍させるとか。けれども無慈悲になれるのは、我々取り締まる側も同様ですよ。守るべきヴァーレッフェの民ではないのですから。
「おやおや帝国の皆さん、外国人による軍用魔道具の所持や改造は重罰になりますよ!」
友好的に笑いかけてみました。底意地なんて悪くはありませんとも。常に紳士であろうとしているだけですが何か。
大樹の太い根が守るように囲んでいるのが、ディードの言っていた少女でしょう。おや、風の盾ですか。しかも契約獣を複数操るとは。
そしてこの高級な薬品臭。信じられないのですが、本物の『転寝癒しの樹』、別名『森の王』です。連中を追い払ったら、父の商会用に葉の一枚でも持って帰ってあげましょうかね。
帝国が送り込んだ犯罪者集団を刀で蹴散らしていますと、街から人影が走ってきます。向こうの頭領かと思いきや、見知った顔でした。
「おい! 一人も逃がすな!」
「は!? え!?」
ヘスティア様、と名前を呼びそうになって、慌てて口を噤みます。敵に知らせるわけにはいきませんが、王都学園の養護教員が参戦してくるとかおかしいでしょう!
一騎当千の魔導剣士が、手加減なしで『黄金月』の連中を始末していっています。ディルムッドもそれに倣い、確実に殺す方向で動き出しました。
私は事前の説明と作戦計画が欲しいタイプだというのに、ああもう、この姉弟ときたら!
実は片親だけでも血が繋がってました、と言われても、今なら驚きませんね。そういえば、神殿内部にも侵入してたんですよね彼女。
やはり本物の『闇夜の烏』なのでしょうか。国王陛下直属の謎に包まれた諜報機関。
資金難で解散に追い込まれたという都内の噂は大嘘でしたか。帝国から食糧支援を受けているこのご時世、危うく信じてしまうところだったじゃないですか!
「――ぐはぁっ」
あ、失敬。躱そうとズレた貴方が悪いんですよ、ちゃんとトドメは刺してあげます。
◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇
はて。地獄の門番でも君臨したのでしょうか。若干名が逃げていこうとしたら、コールとダールを従えた白い犬が一人ひとりご丁寧に屠っていっています。
竜という生き物は、契約を結んだ竜騎士の命令しか聞かないはずでは?
「一体何が起こっているんですか」
「いやぁ、面白いよね! 氷緑鼠ちゃんのワンコ」
「あ、やはりそう思われましたか。似てますよね、氷緑鼠に!」
唖然とする私の横で、姉弟が謎の会話を始めています。そして『森の王』の根元では、雪玉のような風の白い盾が薄くなり、本当に氷緑鼠が現れました。
黒く大きな瞳と長い睫毛。華奢な両手を合わせたまま、不安げに首を伸ばし、周囲をきょろきょろと確認する仕草まで一緒です。
小動物を飼いたい飼いたいと、年中嘆いている男がおかしくなるわけです。氷緑鼠は、室内用愛玩動物の可愛さ要素を純度100の高みに押し上げ、さらにその上の天上界に君臨するとまで称賛されるのですから。
あー、これは確かに危険です、可愛い!
竜の世話をしていると、その匂いで小動物が怖がってしまい、滅多に近寄ってこなくなってしまいます。竜は大型魔獣のようなものだから諦めるしかないと、竜騎士登用試験前に大先輩が涙ながらに説明していましたっけ。
特にあの方は、小動物どころか女性にも怖がられつづけて、花の独身のまま今じゃ第三師団長。そういえば数日前から、突然の休暇中でした。今朝、部下のユルヴァンが食堂で周囲に愚痴っていましたから。
地獄の借金取り犬が一人残らず見事に仕留め終え、威厳たっぷりな足取りでこちらへ向かってきます。途中でふと立ち止まり、魔道具なしに全ての返り血を一瞬で払い落とすという高等魔術まで披露してくれましたよ。
間違いなく上位魔獣です。慎重に距離を取りたいのですが、身体が強張ります。敵認定されたら命が終わります。
その横をソワソワと通り抜け、先を争うようにこちらへ向かってくるのが我が愛竜たち。滅多にいない上位種に無理矢理こき使われて大変でしたね、よしよし、慰めてあげるのでついでに空へ一緒に逃げ……あれ?
「ちょっと! 私はこっちですよ、コール?」
青竜も紫竜も、主である竜騎士二人を無視して、『森の王』の根元に座る少女のほうへ行ってしまいました。薄く透明な風船玉のようになった風の盾へ交互に顔を押し付けて、興味津々です。
なんですか、二頭のあの喉! 竜がそりゃもうすさまじく機嫌の良い時にしか出さない鳴き声なのに。それを大盤振る舞いとは!
「氷緑鼠ちゃんだからな」
「氷緑鼠ですねぇ、やっぱり」
貴方がた姉弟は、もういいから黙っていただけますかね。
◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇.。.:*・°◇
※お読みいただき、ありがとうございます。
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きらきら色鮮やかな日々となりますように。
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