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第一章  お帰りなさい、勇者(魔王)さま!

第四話 魔王、村にて。6

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目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
窓から光が差し込み、チュンチュンと小鳥が鳴いている。
(ーー今のは、俺が魔王だった時の、魔王の過去の記憶か…?)
なんだかややこしいな。
今回の夢は少し違っていた。
自分の記憶をみているハズなのに、まるで魔王の過去を覗いているみたいだ。
「ふぁあぁ~」
大きなあくびをして、いつもベッドの右上に置いてある時計を見ようと手を伸ばすが、なにもない。
(…?)
暫く手を泳がせるが、やはり何もない。
普段なら、少なくともティッシュとスマホがあるのだが…
不思議に思いながら、俺はたまたま引っ付かんだカーテンをシャッとめくった。

「ーーあ」

そこで目に飛び込んで来たのは太陽。
2つの太陽。
この世界で初めて目にした奇怪。


ーーそういえば、俺、異世界に来てたんだっけ?

徐々に頭が働いてくる。
ぼんやりした目を擦って、ようやくここが自室では無いことに気づいた。
(ーーここは…?)
天井からぶら下がるカーテンで仕切られているところをみると、病室のようにも見受けられる。

(そうだそうだ、アンナに連れられて村に来て、アブサードに襲われて、おじいさんにヒヤッとして、それから…)

「ーーはっ!?」

フワフワしていた頭が一気に覚醒し、全てを思い出す。
そうだ、俺たちは盗賊に襲われて、そして、アンナが…!

「ーー気づいたか? ギルバートンよぉ…」

すると、突然隣のカーテンがシャッと開けられ、レクレスが姿を現した。

「アンタ…!」
俺はレクレスの胸ぐらをひっ掴んだ。
ミチリとレクレスの服から嫌な音が聞こえる。
「あの時何してたんだ!? どうしてアンナが人質に捕られるようなことになったんッ…つうッ!?」
「落ち着け、傷口が開くぞ」
レクレスは俺の肩を押さえ、ベッドに戻した。
その時、俺は気づいた。
昨夜までかすり傷くらいしかなかったレクレスの体に痛々しい傷痕が増えていることに。
「……それについては…悪い。師匠が『もう取り引きは終わった』って言ったからよ、俺も完全に油断してたんだ。それも、もう半年も前の話だ」
「……クソッ!」
俺は自分の拳を睨みつけた。
まだ知り合って間もないが、恐らくあの大穴から俺を助けようとしてくれたのは彼女だろう。
彼女が居なければ、今ごろ俺はあの穴のなかで村人たちに生き埋めにされてしまっていたに違いない。
そんな恩人を、目の前で傷つけられてしまった。
俺がしっかりしなかったばかりに。
「今はもう大丈夫だ。あの夜から、師匠が徹夜でずっと回復魔法ヒールしてたから、もうなんともないと思うぜ」
「…そうか…え?」
あの夜? 昨夜じゃないのか?
そんなきょとんとした俺に、レクレスは続けた。
「しっかし良く寝たなお前。三日もグースカしてて体、重くないのか?」
み………
「……三日…?」
「まぁ、無理もねぇか。お前の魔力ごっそり消えてたらしいからな。三日で目を覚ましたのはいい方なのかもしれねぇな」
「ま、魔力…」
「ーーそれはそうと、師匠から大まかな話は聞いたぜ」
「………」
ついに俺は押し黙った。
やはりレクレスは俺を警戒しているのだろうか?

「巨人族を倒すなんて、街の王族に仕える騎士でも3,4人束になって、やっと1人相手できるくらいの強さだ。『朝起きたらソイツが通りのど真ん中でへばってた』って皆噂してるぜ?師匠の店もボロボロだしよぉ…
取り合えず師匠が倒したって噂になってるが、お前が抑えたんだろ?『巨人族には勝てない』って、昔から俺に言ってたからな。別に師匠の話を疑うつもりはねぇが、本当ならお前はただ者じゃねぇことになるな」


コイツに話ても大丈夫か?
如何にも口が軽そうな気もするが…
でも、おじいさんから話聞いてるんなら隠しても…

「ま、言いたくなかったら今は言わなくてもいいぜ」

(え…)
俺はその言葉に拍子抜けしてしまった。
てっきり、なにがなんでも情報を聞き出されるのかと思っていたからだ。
ちょっと呆け面している俺を見るとレクレスは微笑をうかべてベッドに腰かけた。
重みでベッドが少しだけギッと揺れる。
「バカな俺でも師匠に隠し事の2,3はある。それに、師匠の話聞いたら誰だってお前が敵じゃないことくらいわかるって…のっ!」

ベチン!

いたぁっ!?」
笑顔で思いきり背中を叩かれた。
「はははっ! 暗い顔すんなって!」
レクレスは笑った。
その笑顔から、嘘偽りは感じられなかった。
俺も対抗してひきつった笑顔をむけた。
「おい、まだ言わないとは言ってないぞ…」
でも、なんだかんだ言って、無理に追及しないコイツはいい奴だな。
おじいさんにも大層なこと言っておいて結局伝えられずじまいだったし、本当のことを言えたのはただ一人、アンナだけだ。
ここでレクレスに言えないのなら、俺は他の誰にも言えなくなっちまう。
だからーー

「ここまできたら、もう隠す気もない」

似合わない真面目な顔つきになったレクレスに、俺は思いきって経緯をぶちまけた。


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