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第2章  解けない謎解き

第13話 蛇は寸にして人を呑む

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    メイドたちに呼び出されて、鶴の一声ならぬプリムローズの名前で捕まったギル。
一歩部屋の中に入ると、奥には4人の淑女しゅくじょが楽しげに座ってお茶をしている様に目に入ってきた。

『あれっ、お嬢がいないぞ。
あれは…、イングリッド!
ここは、スクード公爵の屋敷だ。
そりゃあ、アイツがいても変ではないが……』

生き別れの妹の存在に、戸惑とまど動揺どうようを隠しきれない。
彼は必死に、平静せいへいという名のよろいを身に着けようとしていた。

イングリッドが公爵の屋敷へ訪問していた時、気づかれないよう遠目で見守っていた。
ずっと気になり心の中で住みついていた妹が、自分の前で笑顔を見せて座っている。

「スクード公爵夫人、失礼を致します。
私はギルと申しますが、クラレンス公爵令嬢がお呼びと急ぎ参りました。
ですが、コチラには居ないご様子。
プリムローズ様は、どちらにいらっしゃいますか?!」

その場で頭を下げ片膝かたひざをつき、胸に手をあてて公爵夫人に話しだした。

突然にかぐわしい匂いと、優しく抱きしめる感触かんしょくがする。
驚き顔をあげると、泣いている妹の顔が目に入ってきた。
ギルは大きく目を開くと、その姿をボーッと眺めて固まる。

「あのう、ギャスパル…。
貴方様は、ギャスパルお兄様ですよね?」

「お前、記憶が…!
俺だって、思い出したのか。
分かっているのか!?」

塞き止められない涙を流し、ただ頷いている妹の両肩に手を伸ばす。
その手の指先が微かに震え、優しく両手を置いた。
幼かった妹が、大人の女性に成長したのを実感する。
伯爵夫人になっていた彼女に、兄はいつから思い出したのかと尋ねた。

「ずっと前から…。
もう二度と、一生会えないと思っていた。
どうして、ヘイズに戻ってきてるのに!
私に会いに来てくれなかったの!?」

捨てられた子猫のように、彼女の顔が悲しげに兄を見上げている。

「すまなかった!
お前を置いて他国へ行った俺や親父を忘れて、幸せになって欲しかったからだ。
イングリッド、愛しているよ」

3人の貴婦人たちは兄妹の話に、ハンカチを握りしめたり目をおおっている。
乱暴な言葉遣いが余計に真実味を感じ、イングリッドは兄の慰めるように肩をたたいてしかりつけた。

「ええ、私もよ!
お兄様を愛しているわ。
捨てられたとは思っていない。
あの時は恐怖と不安で、記憶を失ってしまった。
幼い私は足手まといでした」

「ありがとな、そう思ってくれていたんだ。
親父がこの話しを聞いたら、泣くかもしれないな」

「お父様は、お父様は……。
お元気ですの!?」

「あぁ、安心しろ!
お嬢の屋敷で、俺と一緒にいる。
会えるなら、会ってくれないか?!
イングリッド……。
親父は、お前を一人置いていった事を後悔していたんだ」

やり取りを間近で、見ている人たちの涙は止まらない。

「グズっ、会えて良かったわね。
イングリッドとギルではなく、ギャスパル殿。
ココに来て、お座りなさいな」

ハンカチでき公爵夫人は、本当の兄妹に声をかけて座らせた。

不思議とイングリッドの席の横には、空席がもうけられている。
客人たちは、プリムローズの席だと思っていた。
公爵夫人は護衛にギルが来たのを知り、前もってこうなるのを予定していたのかもしれない。

ギルにこれまでの話しを聞きながら、質問を次々にしていく。
くだけた雰囲気ふんいきの彼には、何故か物怖ものおじじもせずにいる彼女たち。

「信じられない出会いだわ。
船の中でエリアス様を見つけたのですね。
ギャスパル殿」

パーレン伯爵夫人らは興味して、ギルから船の旅話を聞いていた。

「亡くなったことにして、エテルネルのクラレンス公爵領で匿われていたのですね。
私も旦那様から、知らされてませんでした」

「秘密だったので、スクード公爵様も夫人にはお教えしなかったのでしょう。
俺たちー、私たちはクラレンス公爵当主グレゴリー様のお陰で命があったようなものです」

こんなに真面目に会話している姿を見たら、プリムローズとメリーはあごが外れてしまう場面だろう。

プリムローズやメリーとのエテルネルの暮らしを語る。

「クラレンス公爵領で何事もなく暮らしていた。
プリムローズ様は、父上から勉学を教わっていた。
彼女をお前と重ねて、お世話していたのかもな。
自分も幼いお嬢を見ては、イングリッドを思い出していたんだ」

「スクード公爵夫妻に、実の娘みたいに育てられました。
血縁無くとも、オスモも姉としてしたってくれます。
私には、2つの家族がある。
なんと、贅沢ぜいたくなんでしょうか」
 
「この場に居合わせて、感動的な気持ちになりました。
失礼ながら、ゲラン伯爵は王弟夫妻の事故の責任をわされた。
噂では家族全員が、責任を感じ自害じかいしたとなっております」

マーシャル伯爵夫人は、ゲラン家の行く末を気にしていた。

「晩餐会で、陛下がうまく皆に伝えるようだ。
内容を、現在話し合っている。
当事者だが、父上はいない。
お嬢に、全て頼んでいる」

「プリムローズ嬢にですか?!
11歳の子供なのに?」

ギルはパーレン伯爵夫人の#問いかけに、顔の頬をきながら話す。

「【じゃすんにして人をむ】。
すぐれた者は、幼少の頃から人並み外れた資質や才能がそなわっている」

「ギャスパルお兄様!
プリムローズ嬢をへびに例えて失礼だわ」

イングリッドは兄をたしめる。
公爵夫人や二人の伯爵夫人までもが、彼女の印象を暴露ばくろし出す。

「ですが、初めて会った時から普通のご令嬢にはない何かを感じました。
夫オレフは、彼女には引きぎみでしたもの」

「マルクスはー。
夫は不思議とプリムローズ様の願い事をホイホイかなえてましたわ。
私も怒鳴られたり、年下扱いされましたし」

「私もですわ。
娘と一緒に、上手く丸め込まれました。
あの方には、口では絶対に勝てませんわ」

3人の貴婦人たちのそれぞれの人物評価に、ギルはお嬢今ごろクシャミ連発だなと苦笑する。

照れくさそうに、妹が婚姻し伯爵夫人になったのを別れるさいに祝福した。

「今度は、お兄様が奥様を迎える番ね。
もう、心にお決めになられた方がいたりして…」

妹イングリッドの言葉に、顔を少し赤め照れて彼女のおでこを軽く指で叩く。
こんなやり取りができ、兄妹は心の底から嬉しさが込み上げる。

スクード公爵夫人ニーナの薦めでイングリッドは、明日父ウィリアムのいる屋敷を訪れる事を兄ギャスパルに告げる。
十数年ぶりに揃う家族は、どんな対面になるのか。

    
    こんな話になっていたとは知らないプリムローズは、ギルから話があると言われて馬車の中に乗せる。

「ーーってことで、生き別れていた妹イングリッドと話ができたんだ。
アイツ、記憶が戻っていたんだぜ。
養女にしてくれたスクード公爵家には、話せなくて黙っていた時のアイツの気持ちを考えるとさぁ。
俺がー、悪いことをした様に感じた」

「それは仕方がなかったのよ。
けれども、こうしてまた会えて良かったわね。
娘と対面できるのを知ったら、どんなに喜ぶかしら」

「うん、お嬢。
留学にこの国を選んでくれて、心から感謝するぜ。
プリムローズ様、ありがとう」

「プリムローズ様なんて、2人きりで言わないでよ。
急に改まってちゃって、ギルったら気持ち悪いわ」

「気持ち悪いって、ヒドイ言われようだぜ」

「ギルとイングランド様の再会の場に、私も居たかったわ。
エリアス殿下と会えたのは嬉しかったけど、そっちの方が感動したと思う」

「俺はちょっとだけ、恥ずかしかったぜ!
あの場に、イングリッドだけなら良かった。
男のくせに、ついつい泣いてしまってよ」

「へへぇ~、泣いたんだ。
見てみたかったなぁ~。
男泣きしたギルをー」

「イヤだね!
お嬢は茶化して、バカ笑いしそうだからな」

ギルとプリムローズの大きな笑い声が、外にまで漏れ聞こえる。
談合を終えたヘイズ王とエリアス殿下は、スクード公爵が直々に警護しながら送った。
それぞれ、無事に家路に着いたのであった。
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