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第2章  解けない謎解き

第10話 後の祭り

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 到着後したらすぐに、マーシャル伯爵夫人と別々に案内された。
そうなるのは想像出来たが、そのあからさまなやり方にプリムローズは吹き出しそうだ。
ヘイズ国民は回りくどいのは苦手で、感情が表に出やすい気質みたいだ。
気にしないで喜怒哀楽を表に出して、それを別に恥とはあまり思わない。
大陸の貴族で社会とは、どこかちがうのを気風を感じた。
実際に、目の前で実証してくれた。

「プリムローズ嬢、お顔を見られて嬉しいわ。
いつも美人さんね!」

「久しくしております。
変わらずニーナ様も、お若くていらっしゃいます」

「相変わらずお上手ですこと、素直に受けとりますわ。
マーシャル伯爵夫人も、よく来て下さいました。
ライムを使ったパイを作りましたのよ」

「スクード公爵夫人、お会いでき光栄でこざいます」
サッパリしたお味で、パイを楽しみにしてますわ」

『夫人たちは、裏表ない表情をしている。
互いに、第一印象は良さそう』

カーテシーをしてから、手を合わせてニコニコする奥様たち。
マーシャル伯爵夫人ヘレン様は、スクード公爵夫人ニーナ様との挨拶を終えたら手を引っぱるように強引ごういんに連れて行かれた。

もう少し立ち話して、スマートに持っていけばいいのに。
ポツンと立ち止まっていたプリムローズは、消えていく姿を見送っていた。 
     

    私の方はスクード公爵オレフに、屋敷の中ではなく外にある離れた小さな屋敷に向かわされたのだった。

「親しい友人や親戚しんせきが、泊まるときに使われてましてな。
内緒話するには、最適な場所であろう」

御心遣おこころづかい感謝しますわ。
みいった話し合いになりますので」

中に入るとメイド長でもある、お年寄りの魔女のようなイーダが出迎えてくれた。

「おやっ、お嬢様?!
ヘイズに来た頃よりも、背が伸びた気がしますぞ。
成長期の若者は、うらやましいですな。
私は、逆に縮みましたよ」

一癖ひとくせある話し方に、笑って吹き出したくなる。

「イーダさん、ご無沙汰ぶさたしてます」

「べつに久し振りではないだろう」

彼女の返しに、苦笑する二人。

スクード公爵の中で影の権力者であろう彼女には、やはり丁寧な挨拶はかせない。
イーダは主戦の公爵に、皆様おいですと伝言する。
 お茶をお持ち致しますと言うと、部屋の前で彼女と別れた。

 
    とびらをノックして中に入ると、ヘイズ王の他にも数名が座っている。

「これはエリアス殿下に、パーレン伯爵様ではありませんか!」

驚くことに、王族の血筋を引く男性が3名も揃っていた。

「お嬢様、ごきげんよう!」

「エリアス殿下!
お元気そうね。
ちょぴり、ふっくらされました?
背丈も高くなった気がしますわ」

二人が再会に喜んでいると、大人たちはうれしそうに笑いあって私たちをながめておられた。

「ーーと、いう見解けんかいになりました。
それぞれ感情がからみ合い、ここまで発展してしまったと思いました」

先祖せんぞの悪しき行いが始まりか…。
呪いの王妃は、王家では一切触いっさいふれらずかかわらずであった。
もう、そういられない」

深い息をらし、そう皆に話すとしばらく声を出さずにいた。

「お嬢様、その王妃様は何でそんなに王様に嫌われてしまったのですか!?
人柄も容姿も、すぐれた方なのに?」

「エリアス殿下。
お嬢様はいけませんよ。
さぁ、私も理解できません。
評判が良すぎて、夫である王様が彼女に嫉妬されたのでしょうか」

その発言にヘイズ王は、エリアスに付けす。

「王とは、自分が一番だと人に思わせたいしふしがある。
自分より優れてみえた、妻が気に食わなかったのだろう。
困らせてみたかったのかもな」

中途半端ちゅうとはんぱ物言ものいいいに、独り食いついた者がおった。

「立場では、良き王妃を望まれ。
頑張れば評判が良すぎて、夫からやっかみで側室を持たれ。
は、夫と王妃をないがしろにする。
こんなに疎外されては、気が変にもなります」

この場で唯一ゆいいつの女性に、きつく言われれば男性陣は居心地いごこちが悪い。

「それから長年、王妃の血筋から女が生まれてなってしまう」

パーレン伯爵は、偶然でも奇妙な気がして薄気味悪くなる。

「やっと生まれたのが、遠縁とおえんになる子爵令嬢。
侍従長の伯爵嫡男ちゃくなん許嫁いいなずけになった令嬢を、前ベルナドッテ公爵が横やりして奪ってしまった」

スクード公爵はやれやれという態度で、プリムローズの話を確認するように集まった者たちに話す。

「しかし、その側室の女の子が侍従長の伯爵家に養女ようじょにしていたとはー。
いくら罪を犯した王妃に悔恨かいこんがあっても、これはやりすぎではないか?!」

パーレン伯爵は、その執念しゅうねん疑念ぎねんを感じた。

「先祖からの代々言い伝えていれば、そうなっても仕方ないでしょう。
彼女がヴェント侯爵家に嫁いだのも、運命のさだめだったのでしょうかね」

彼女がそう話すと、最初に王都の図書館で話していた二人は誰だったのかと思う。

「何度考えても、図書館で聞いた声ではヴェントと一緒にいたのはー。
あれは、マーシャル伯爵の弟ではないかしら。
ベルナドッテ公爵ではないみたいでしからー」

「侍従長では?!
なんで陛下のお茶の管理を、彼女にまかせたのだ。
どうして王妃様や側室様に飲ませてしまったことを、すぐに陛下にお知らせしなかった」

プリムローズは、そのスクード公爵の問いかけに答えた。

「それは、彼女を守るためでしょう。
もとはヘイズ王がそんなお茶を飲み、王宮へ持ち込んだのが問題です」

「そうじゃな、ハハハ。
あとまつり】だ。
いくら何度も後悔こうかいしても元には戻れないし、もう手遅れだ」

一国の王が、自ら自虐気味じぎゃくぎみに笑い。
彼女の言葉に、小さな声でつぶやく。

「手遅れではありません。
王妃様や側室様に、お子ができる可能性はあります。
そうですよね!
お嬢…、プリムローズ嬢」

「そうですとも、エリアス様のおっしゃる通りです。
あきめないで、希望をお持ち下さいませ。
もっと、お気楽にお考えて下さい」

「子供に励まされるとは…。
しかし、余には目の前にいるエリアスがおる。
重責じゅうせきをかけるつもりはないが、エリアスよ!
国王になる努力をしてくれないか?」

エリアスは困り顔で陛下を見つめていたが、しっかりと顔を挙げて返事する。

「私の出来ることなら!
生きているだけで、本当に幸せなのです。
船の底で一度は死んだと思い、毎日を過ごしていた。
それに比べたら、毎日が幸福でございます」

たくましい精神を持っている。
ここにいる彼を除いた者たちは、この言葉に感動すら覚えていた。

特にプリムローズは最初の死に近かったであろう、あの頃の様子を頭に思い浮かべていた。

もう、船底にいつくばっていた彼ではない。
立派なヘイズの王族の一員なのだ。

ヘイズ王と微笑み会うエリアスを見て、まるで親子の様にみえる。
初めて出会った頃と変わっていく姿に、幾度いくども味わってきたさびしい感情を胸の奥にしまった。


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