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第2章  解けない謎解き

第9話 お茶を濁す

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  現在、こちらは居住するゲラン伯爵の屋敷の一角である。
祖父グレゴリーがお忍びで現れては、ヘイズ国に滞在する時に使用されていた。
その時は、王宮から臨時に手伝いで使用人たちを寄越されていたそうだ。

「バタバタしておりましたが、やっと落ち着いた。
まずは、使用人や料理人を探さなくてはなりませんね。
好意こういで、王宮から手配して頂いております。
いつまでも、甘えて頼ってはいられませんわ」

マーシャル伯爵夫人ヘレンと姉レニアへ会いに行ったりしていたので、彼と二人でゆっくり話すのは久しぶりだった。

「料理は食べれればかまわんし、身の回りは自分たちで大方おおかたは出来る。
だが、貴族としての最低限の体裁はつくろわないとな」

プリムローズは話を聞き、何やら深く考え込む。
そして、ウィリアムが驚くほどの提案ていあんをしてくる。

侍従長じじゅうちょうに、前ベルナドッテ公爵の側室の息子。
スクード公爵につかえていた、ヤンネさんを雇ってみませんか?」

「プリムローズ様、正気ですか。
罪を犯した者ですよ?
スクード公爵に仕えながらも、主人を裏切りました。
何食わぬ顔し公爵に仕え、情報を外へ流していたではありませんか!」

「そうですけどー。
私が彼を見ていて感じたのは、職務だけはキチンとしていました。
気遣いも出来ていました。
侍従長には適任だと思います」

「探す手間は、確かにはぶけますがー。
主人を裏切る人は、私は雇いたくありませんな」

拒絶する彼に、プリムローズはベルナドッテ公爵に会ったやり取りを話した。
ヤンネがスクード公爵に居たことすら、彼は知らずにいたと聞かせる。

「では、単独でスクード公爵の屋敷に入り込んでおられたのか」

あごに手を置いてから、腕を前に組んで、話を頭の中で整理している態度。

「側室の彼の母が、裸同然で追い出される時に。
まだ子供の息子ベルナドッテ公爵が、母親の公爵夫人になさけをかけるように頼んだそうです。
ヤンネはそれを知っていて、腹違いの兄の公爵に恩義おんぎがあったのではないでしょうか?!」

ウィリアムにはマーシャル伯爵夫人の姉レニアから聞いた話はしないでいた。

「ベルナドッテ公爵は、王になるつもりはないと私に断言したわ。
息子ヨハン様を、どうするかは分かりませんけど…」

「自分の子を、ヘイズ王にと考えていると言うのですか?」

彼女は弱々しいヨハンの姿を思い出すと、首を左右に振り続けた。

「ヨハン様は残念ですけど、あの通り体が弱いです。
親なら玉座より、健康の方をお望みだと思います。
人々の感情が重なり、からみついてしまい。
ここまで、複雑になってしまったと考えていますわ」

「私も他人事でない。
王弟殿下夫妻をお守りできず、マーシャル伯爵の弟君に罪を犯させてしまった」

良かれと思ったことが、予想にはんして裏目に出る。
真相しんそうを知る人たちは、もうこの世にはいない。

「ウィル親方。
真相は闇の中になりそうですわ。
ですけど、生きている者たちで答え合わせをしなくてはなりません」

答え合わせか、うまい例えだ。

「ヘイズ王とスクード公爵のお二人には、早くお伝えした方がよいでしょう。
陛下には祖先の罪が、引き金ですからお辛い話となりますが…」

「ヤンネさんの件は、話が済んだあとに考えてもいい。
悪事させないように監視できて、側に置いてこき使えます」

「分かりました。
貴族で最高位の公爵で従事していたのです。
有能なのは間違いないようだ」

「ウフフ、ウィル親方なら理解してくれると信じてました。
貴方なら彼を、上手く飼い慣らせます」

「ハハハ、お嬢様には敵いませんな」

二人の密談が終わると、プリムローズはスクード公爵に宛てに急いで文を送っるのだった。

   
 スクード公爵はいち早く読んで下さったようで、翌日の夕方には返信を寄越よこしてくれた。

夕食はゲラン親子にプリムローズと、マーシャル伯爵夫人の四人で席についている。

「ギルにお願いがあるの。
明日、スクード公爵のお屋敷に参ります。
貴方に、護衛ごえいとして一緒に来てほしいのです」

食事中に話していると、マーシャル伯爵夫人がスクード公爵夫人のニーナ様に御挨拶ごあいさつ申し上げたいと言ってくる。

邪魔じゃまだが断る理由もないので、渋々しぶしぶと了承するしかなかったのである。

   
    ギルを護衛にしたがえて、馬車に乗るプリムローズとマーシャル伯爵夫人へレン。

「そうそう、プリムローズ様は公爵様と何のお話しをされるのですか?
私たちとの女性同士でおしゃべりの方が、楽しく御座ございませんこと?」

馬車の中でいきなりおさそいいただき、彼女は返事をどうしたらよいのか悩んでいた。
全てを話せないし、どうさわりなくうまい言い訳が出来るか!?

「マーシャル伯爵夫人。
これは、内緒ですがー。
偶然にも留学先に向かう船の中で、王弟の遺児いじは働いておりましたのよ」

「船の中ですって?
王弟のお子が、信じられない。
ウソではないの?!」

「真実でございます。
だから、誰にも存在自体そんざいじたいが見つからなかったのです。
やしない親が亡くなり、彼は親の借金のため売られていたのです」

ヘレンは売られたと聞かされて、雷に打たれたように衝撃を受けたようだ。

「子供が売られていた。
幼子が働かされていたの。
そんな…、そんなことってー。
ああ、この世の中に非道な人たちがいるのね」

「えぇ、人として許せない。
人権を無視した行為です。
それをふくめて、人身売買を禁止する話し合いを致します」

「ううっ…、可哀想。
子供を話になると、亡くしたあの子を思い出してしまうの。
泣いてしまい、ごめんなさい」

ハンカチを目を拭くが、瞳から涙が途切れなく溢れてくる。

『うわぁ~~、しまった!
や、やってしまった。
これは、私が悪い』

ポロポロ流れ落ちる涙に、プリムローズは自己嫌悪になり頭を抱えたくなった。

「ヘレン様、配慮しなかったのがいけなかったのです。
お気持ちを考えず、ズケズケと話してしまいました。
心よりお詫び致します。
ですが、不幸な子供たちをひとりでも救えるようにしたいのです」

「いいえ、お気になさらないでちょうだい。
プリムローズ様のお考えは、素晴らしいわ。
私も何かしら、力を貸したいと思いました」

感心したようで伯爵夫人は、良いコトだと満足そうに笑顔になっていった。

『ハァ~、うまく誤魔化ごまかしたわ。
ヘイズ王まで、実はこの話が進んでいるんだけどね』

ホッとしながら、伯爵夫人に笑みを返す。

『確か、こんな風にごまかすのを……。
たしか【お茶をにごす】って、言うのだった』

「プリムローズ様、お茶を濁すってなんですか?!
私、存じ上げませんの」

「私ったら、また独り言を言っていたのね。
いやねぇ~、ヘレン様がスクード公爵夫人ニーナ様とお茶をするので。
つい、お茶にまつわる言葉を思い浮かんだのですわ」

まさか独り言の内容に興味持たれ突っ込まれるとは、危ない危ない!

「どんな意味の言葉ですの?!」

好奇心旺盛の夫人は、知りたいようでプリムローズに尋ねてくる。

「遠い国の言葉です。
抹茶まっちゃと呼ばれるお茶を入れていた方が、お茶の作法を知らない方に適当に濃いお茶を入れてごまかした。
そこからとって、お茶を濁すって言われています」

「抹茶とは、どんなものなんですの?
お茶が濁る、不思議な言葉…」

「う~ん、私も見たことがありませんのよ。
何でも濃い葉のような色で、とても苦い飲み物みたいですよ。
ぜんぜん、想像もつきません」

抹茶を頭の中で想像して考えていたら、顔がだんだんと渋くなってくる。
思っていた事が一致しているのが分かり、お互いになぜか自然に笑いだす。
たぶん、飲んだらこのような顔をする味だと思った。

こんな話をしていたら、スクード公爵邸に到着した。
先に訪問している方々に、プリムローズが驚くのはちょっと後のことであった。
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