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第6章 薔薇とドクダミを君へ

第14話  捧げる言葉 【最終話】

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 ロベール伯爵邸のラファエルの部屋には、飼い猫アジュールが彼に大事に抱かれていた。

「アジュール……。
お前の最初の飼い主さんは、今日怖い思いをしたんだ。
男性恐怖症にならないといいなぁ」

アジュールに話しかけると、なぐめる様な鳴き声を出してきた。

「ありがとう、慰めてくれるのか?!
アジュールは、ノマイユ侯爵令嬢を好きか?!」

「ニャーン!!」と、返事を返すアジュールの背中を優しくでる。

「アジュール。
私はノマイユ侯爵令嬢が危険と知ると自然と走りだし、人まで殴ってしまったよ!
この私が、初めて人を殴ったんだ。
この行動を、何故したかを知ってしまった」

ラファエルは、自分の思いをアジュールに語った。

 
 クロエは、暗い顔で学園に向かった。
あの男爵令息がいると考えただけで、クラスに入りたくないのだ。
思い切って扉を開けると、心配してくれるクラスメートたち。

「ノマイユ侯爵令嬢?!
加減かげんいかがですか?
男爵令息は、謹慎きんしんですってよ!」

「クロエ!大丈夫?
あの令息は、謹慎した後に、男爵領地に帰るみたい。
卒業パーティーにも出ないわ」

1人の女子学生の後に、ステラが続けて言葉をかけた。

「まぁー!私のせいですの?
あんなに騒いだから?!」

「いいえ、違いますわ!
被害者は、なんと6人もいましたのよ!!
ノマイユ侯爵令嬢の事を聞いて、他の被害者たちも声をあげて学園に報告しましたの!」

女子生徒たちは、クロエをかばい励ました。

「でも、ロベール伯爵令息は素敵でしたわぁ!
クロエ様を助ける様子は、まるで王子様みたいで素敵でしたもの」

「最近は背も伸びて、男らしくおなりですしね!
それなのに、どことなく中性的なところがまた良いですわよねぇ~!」

聞いていたクロエが、顔を真っ赤にするのを見てステラは微笑んだ。

  お昼にクロエとステラは、ラファエルに会いにいつも居る場所へ向かったが何処にも見当たらなかった。
助けてくれたのをちゃんと、お礼を言いたかったのにクロエはしょんぼりした。

その頃、彼はどうクロエに自分の気持ちを伝えようか悩んでいた。
好きなんて、女性にどう言えばいいんだ。
ジョン爺が生きていたら、きっと素敵な言葉を教えてくれたのに。

昔、ジョン爺が言っていたのを思い出す。
赤い薔薇は、愛を伝える時に渡す花だと。
今は花壇に、赤い薔薇が綺麗に咲いているな。

  部活動の時間に花壇には、3人がそろって花の世話をしていた。
ラファエルはこの場所こそ、クロエに気持ちを伝えるに相応ふさわしいと決めていた。
何故か、ここなら勇気を持てるそんな気がする。

庭の手入れを、自分に教えてくれた庭師ジョン爺。
彼が愛した花たちが、私を見守ってくれる。
そして、空にいるジョンもきっと…!

「ノマイユ侯爵令嬢?!
聞いて欲しいことがある。
伯爵令嬢も一緒に聞いてくれ!」

ラファエルは、花壇の真ん中の空間で彼女に告白する。

「ノマイユ侯爵令嬢。
君が襲われてると聞いて、自然に足が走りだしあの男を殴っていた。
そして、私は気づいたんだ!」

彼は赤い薔薇を見てから、クロエを真っ直ぐに見て続きを話した。

「君は此処ここえていた。
ドクダミのようにたくましい性格を持っている。
そして、このバラよりも美しい人だと思う。
私はまだ成人してない、君を待たせてしまうよ。
それでも、私でいいですか?!」

ステラは少し離れた場所で、ラファエルの告白を聞いていた。
もっと素敵な愛の告白があるのではと思うが、彼の素直な言葉にこれはこれでいいと感じた。

クロエはラファエルの言葉を、何度も何度も頭の中でとなえた。
えーと、彼は私を好きなの?

「ロ、ロベール伯爵令息!
それは、私のことを好きということ?!
私がお側にいても、構わないってことなの?!」

クロエは、真っ赤になってるのがわかる。
顔が熱いからだ、声も震えている。

1本の赤い薔薇をハサミで切り、トゲを丁寧に取り払った。

「ええ、お待たせしました!
クロエ嬢、私にいつかドレスを着せてくれますか」

「はーい!ええ、勿論もちろんですわ!
ロベール伯爵令息!!」

彼女は嬉しげに、ラファエルからの赤い薔薇を受け取った。

「もう、ラファエルでいいよ。
昨日、両親に伝えたんだ。
ノマイユ侯爵家に申し込みに行くよ。
婚約話をしにね。
だから、卒業パーティーの相手は私だよ?!
いいね、クロエ嬢!!」

嬉し涙は、赤い薔薇の花弁に落ちて輝いていた。

「はいっ!でも、ダンスは踊れますの?!
ラ、ラファエル様ー!!」

クロエの質問に、ラファエルはムッとして返事をした。

「ちょっと、貴女は誰に言ってるのよ!
私は両方踊れるわよ。
凄く上手なんだからねぇ!ふん」

告白の一部始終を見ていたステラは、たまらなくなり笑いだした。
その目には、友の幸せに涙が浮かぶ。

   ロベール伯爵邸の窓の外は、黄昏時たそがれどき金色こんじきが部屋をおおっている。
ラファエルは前にいる2人に、窓際に顔を向け目を閉じて話をしていた。

その目を静かにゆっくり開くと、美しいサファイアのような瞳をこちらに向けて細めて微笑んだ。

プリムローズは、夕暮れの中で光輝く女神のように見えた。
確かに彼は男性だが、優美さとうれいある表情に目と心を一瞬奪われるのだ。

「ふぅ~、これで終わりよ。
その後は内緒、妻と歩いてきた思い出ですもの。
話すには、キチンと妻の許可を頂かないとね。フフン!」

ちょっと照れてるのか意地悪く笑いながら、前に座る2人の淑女に話すのである。

「こんな素敵な恋物語を、初めて伺いましたわ。
ラファエル様は素敵な恋をして、今がございますのね!」

プリムローズは、興奮してラファエルに感想を話すのである。

「ラル、貴方の深い愛を感じちゃった。
私は旦那様とは…、見事に失敗しちゃったけどね。
不思議よね人の話でも、自分が恋をした気分になれるわ。
話を聞かせてくれて有り難う。
貴方の素晴らしい、青春の思い出ね!」

ポレット夫人の目頭に溜まった涙が、夕日を浴びて光って見える。

「プリムローズ様、貴女はこれからよ。
人を恋して愛することは、素晴らしいことばかりではないわ。
それぞれ愛は違うわ。
いつか、私にも素敵なお話を聞かせてね」

ラファエルが、海を越えて留学する少女に贈った言葉であった。

「だだいま~~!
ラル、遅くなっちゃったわ!
ごめんなさいーー!」

女性の大きな声が、遠くから聞こえた。

「もうやだわ、せっかくの気分がだいなしよ!
妻は幾つになっても、変わらないのよ。
でもね、私はそんな妻を心から愛してるの。
フフッ、もう恥ずかしいわぁ!」

自分で言ってみて恥ずかしいのか、コリもせず叫び声をあげる。
彼ではなく、今は彼女!

プリムローズとポレット夫人は、ああそうとまた呆れて同時に返事をする。

そんなロベール伯爵邸の庭の薔薇たちは、夕日を浴びて黄金色こがねいろに美しく輝いていた。  

                        ー完ー                                           
                                                  

                                                 
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