【完結】君はバラより美しく！ ドクダミよりもたくましい？

第５章 気になる方は年下の男の子

第２話 愛情と理性

 　クロエが目を赤くして泣きながら歩いていたら、タイミング悪く前からロベール伯爵姉妹が歩いてきた。

「まぁ、どうなさったの？
ノマイユ侯爵令嬢、お泣きになるなんて？！」

姉妹は、急ぎ足でクロエに寄ってくる。
近くのベンチで彼女を真ん中にして、姉妹は彼女の話を聞いていた。

「ラルったら、そんな酷い言葉を仰おっしゃったんですか？！」

「帰りの馬車で、叱しからないといけないわね。
申し訳ございません。
弟が失礼な事を言いましたわ」

姉妹二人は、クロエに同時に誤あやまってくる。

「いいえ、私がロベール伯爵令息の言いつけを破ったのです。
花壇かだんに入って、荒らしてしまいました。
ましてや、馬鹿と怒鳴どなりりつけて逃げてしまいましたの。グズッ、ウーッ」

思い出して悲しくなったのか、よくわからない感情でクロエはまた泣き出した。

弟が女性に対して、気遣いが足たりないのを前から気になっていた。
このままでは、弟のためにならない。
姉妹は姉として、今日こそは諭さないといけないと決心した。

「違いますわ！
弟は、女性の扱いが紳士的ではありません！」

「そうですとも、帰りの馬車で説教致しますわ！！」

クロエは泣きながら、まずい展開になってしまったと考えた。

「あの、私が悪いのです。
ロベール伯爵令息に、私が謝っていたとお伝え下さいませ。
私は用事を思い出しましたので、失礼しますわ」

クロエはいったん、ロベール伯爵姉妹から離れるのであった。

「あっ、お待ちになってー！
行ってしまいましたわ。お姉様」

「仕方しかたないですわ。ラルを叱りに馬車乗り場に参りますよ！！シモーヌ！」

姉妹は怒りを顔に出しながら、ラファエルがいるであろう馬車乗り場に向かった。

 
 ラファエルは不機嫌だったが、姉たちには関係ないので平常心に徹てっするつもりでいた。
姉たちの友人であって、私の友人ではないわ。

なのに、なんでいつも私にも絡からんで来るの。
もし、今度そんな話になったらハッキリ言わなくてはならないわ。

「ラル、貴方は！
ノマイユ侯爵令嬢に酷いことを言い、泣かしましたわね！」

待っていたら、出会であい頭かしらに長女のエミリーから怒鳴られた。

「エミリーお姉様、人目がありますよ！
馬車の中で話しませんか？」

至いたって冷静な弟の態度に、姉妹はますます腹が立ってきたのだ。

馬車の中は、不穏な空気でいっぱいである。

「ラル！先ほど、私たちは偶然に泣いている侯爵令嬢に会いました」

「話を聞いたら、貴方が令嬢に怒鳴ったそうではないの？
どうして、もう少し優しくできないのかしら？
そんなんでは、紳士になれなくてよ！！」

次女と長女は、代わる代わるに説教をする。

「女性は、感情的な生き物だとはよく言いますわ。
お姉様方、鏡を出してご自分のお顔をご覧なさいな？
それでは、立派な淑女しゅくじょになれませんわよ？！」

ラファエルは、自分に向けられた言葉を逆に返してきた。

姉たちは絶句ぜっくした、弟ラファエルには口では勝てない。

「何故、私が侯爵令嬢を注意し怒鳴ったかはお聞きになりましたか？
あの令嬢は、私との約束を守らなかった。
花壇に入り荒らしたのです。
叱って何が悪いのですか。
許しませんよ！
先に謝るのが筋です！！」

ラファエルの正論に、姉妹たちは意気消沈いきしょうちんした。

「彼女から伝言よ。
約束を守らず花壇を荒らして、貴方を馬鹿と怒鳴って悪かったと謝っていたわ。
彼女を許してあげなさい！
いいですわね！！」

エミリーは、姉として弟に彼女の気持ちを伝える。

「フーン、伝言なのね？
許すのに、１つだけ条件がありますわ！
私に、もう話しかけないことよ！！」

弟の頑かたくなな態度に、姉妹は弟に呆れてしまう。
まだ子供なのだと、これ以上この話をするのを今はやめた。

  姉妹は母アリシアに、今日あったラファエルとノマイユ侯爵令嬢の件を話して相談をしてみた。

「困ったことね？
ラファエルの言うことは、正しいわ。
貴女たちは友人だから、肩をもつのも分かります。
しかし、約束は約束よ。
ラファエルは昔から集中すると、困ったことに何も聞こえないのよ」

母アリシアはため息つき、悩み顔で話してきた。

「知ってますわ。
何度も花壇で呼んでも、全然気づかなかった時がありました」

「今回は、確かに侯爵令嬢もいけませんでしたわ。
しかし、令嬢を怒鳴るなんて許せません！」

姉妹は、揃そろって弟を非難する。

「ラファエルと令嬢との間の事です。
貴女たちが関与しないように！
弟だからと姉の権限で、無理に謝罪を強要しないこと。
ラファエルには、自分で考えさせなくてはいけないわ。
分かりましたね！」

母アリシアの話には納得できないが、返事をするロベール姉妹。

姉たちとラファエルの間が険悪なので、珍しく静かな夕食になってしまった。

いつも話をして賑やかな末っ子のセドリックも、微妙な空気を察したのか一言も話さなかった。

父モーリスが妻に何かあったのかと聞き出すが、妻は何もないとしか答えなかった。

ラファエルは、暫くはこんな状態が続くのかと気が滅入めいってしまった。

でも明日は休日でブリエに行く予定で、ラファエルはあの輝く宝石を見れる。

もう明日が楽しみだわ、今日は早く寝て独りで先に朝食を頂きましょう。

執事長を捕まえて、明日の朝食を頼むことにした。

「あ、執事長しつじちょうにお願いあるんだ！」

「ラファエル様、如何いかがしましたか？」

執事長が、珍しくラファエルに話しかけられた。

「明日の朝食を、私の分は皆より早くして貰いたいのだ。
明日は、ブリエに行く日だからな。
宜しく頼む！」

ラファエルは、そう話すと自室に戻るのだった。