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第3章 子猫の飼い主さん

第1話  捨て猫の主は?

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 アジュールを拾ってから、あっという間に1週間たった。
すっかり子猫は、我が家の人気者になっている。

私たちが学校に行っているときは、母アリシアがアジュールを可愛がっていた。

先に学校から帰る弟セドリックは、戻ったら真っ先にアジュールのところへ行き遊んでじゃれている。

父も椅子に座っていたら、アジュールが側を横切りると呼んでは頭を撫でていた。
私はそれを見て喜んでいた。
あぁ家族全員が、アジュールの事を気に入ってくれたんだなぁと…。

  
 花壇で作業していると、女性の声が何処からか聞こえてきた。

「みぃ~ちゃん、何処にいるの?みぃ~!」

あそこは、アジュールを拾った場所に近い。
もしかしたら、飼い主さんなのかしら?!

ラファエルはちゃんと飼えないなら、外に野放しにした声の主の無責任な態度に怒りを感じた。

だから、ご令嬢は気まぐれで嫌なんだ!
あんな声を無視してやる、アジュールはロベール家で大事にされているわ。

ラファエルは声を無視するかのように、花壇に力強く鍬を打ちつけた。

またしても自分の世界に入っていたラファエルは、姉妹の呼び掛けになかなか気がつかなかった。

「姉上たち、すみません。
またしても、夢中にすぎました」

ラファエルはこれで2度目なので、姉妹に平謝りをする。

「もうラルったら、まったく仕方ないわね!」

長女エミリーが呆れて話していると、次女シモーヌが驚いた顔で慌てて話してきた。

「どこからか、女性の泣き声が聞こえない。
どうしたのかしら?」

耳を澄ますと、確かに微かに聞こえてくる。

ラファエルは、その正体に気づいた。
あの無責任な飼い主だ。
泣けばアジュールが、出てくると思ってるのか馬鹿な女!

その声を無視して、姉たちに馬車の乗場で待つように伝えて道具をかたしに行った。

  
 馬車の乗り場に行くと、姉たちの他にもう1人令嬢がいる。
姉上たち、まさかあの令嬢に声をかけたの?!

私が来ると令嬢が振り向いた。
目には、ハッキリとした泣いたあとがある。
やはりあの令嬢だ!
姉たちの人の良さを、本気にうらみそうになる。

「ラル。どうやらこちらのご令嬢が、アジュールの飼い主さんみたいなのよ?!」

「私たちね。
あれから、どうしても気になって泣き声の方へ行ったら。
この方が、泣いて座り込んでいたのよ。
アジュールに会いたいですって、私たちと屋敷に行くそうよ」

姉たちが誘ったのかこの令嬢が言い出したのか知らないが、物凄く気分が悪くなる。
馬車の中でも、ラファエルは不機嫌そうにしていた。

「あの、ありがとうございます。
みぃ~ちゃんを助けて下さり。
私は、クロエ・ノマイユと申します」

ラファエルに頭を下げる令嬢は、金髪に深い緑の瞳の美人だった。

フン、ムカつくけど美人さんね。
でも、私の方がずっと可愛くてよ!
だって、貴女みたいな冷酷な人ではないからね。

「私はラファエル・ロベールです。
ノマイユ令嬢、貴女はどうしてあんな場所に子猫を捨てたの?
私が助けなかったら、今頃は餓死がしして死んでいたよ。
貴女はお綺麗な顔をしてますけど、ずいぶんと冷たいお心も持っているのですねぇ」

氷のような冷たい言葉に、馬車の中は静まり返る。
女心を取得する彼は意地悪な令嬢も真っ青な嫌みを言いながら、令嬢を見て口元だけ微笑んだ。

「ラル、失礼よ。
この方は侯爵家のご令嬢です。
すみません、弟が無礼な事を申しました」

長女エミリーが、ノマイユ侯爵令嬢に深く頭を下げて謝罪する。

「お姉様、私は本当の事しか仰ってませんよ。
外にあんな子猫を野放しで、よく今まで生きていたと感心するわ!」

ラファエルは興奮すると、昔の癖が出る女言葉だ。
有り難いことに、まだ誰も気づいていないが…。

「我が家に迷い込んだのです。
家族に飼いたいと頼んでも駄目と言われ、友人達にも伺いましたが断られました。
仕方なく、学園で育てようとしましたの。
まさか迷子になるなんて…」

令嬢は話しながら、涙で瞳を潤ませながら経緯けいいを説明してきた。

「もう、呆れるわ!
貴女、頭が足りないでしょう?!
置物ではないのよ。
生きてるの!
わかる、動くのよ!
もうお姉様たち、アジュールに会わすのは今日だけですわよ。
私は貴女を許しませんことよ!」

完璧な女性の言葉遣いに、3人はじっとラファエルを見るのだった。

「ラル!貴方は、直ぐに癖が出るんだから、オホホ!」

「弟は昔よく妹ごっこ遊びをしてましたので、たまにその時の癖が出ますのよ。
まったく困りますわ、フフフ」

姉妹は、必死に誤魔化ごまかそうとしていた。

ノマイユ侯爵令嬢は自然と目に涙があふれて、ドレスをらす。

「貴方の仰る通りですわ。
私の考えが甘かったのです。
本当にすみませんでした!」

ラファエルに頭を下げるのを、二人の姉妹は気の毒そうに見ていた。

「は~ぁ、もういいわ。
反省してるみたいだし、これからは気を付けるのよ!
貴女中心で、世界が回っている訳ではないの。
ちょっと、泣かないでよ?!」

ラファエルは、ハンカチを令嬢に差し出した。

素直に受け取りハンカチで涙を拭くと、美しい薔薇の刺繍ししゅう感嘆かんたんの声をあげた。

「まぁ!何て綺麗な刺繍でしょう。
こんな見事なのを見たことありませんわ!!」

令嬢はラファエルのハンカチを、思いっきりその場に広げて眺めた。

「当たり前よ、私が刺したんですもの!
姉たちより、いいえ母より刺繍は上手でしてよ。
オッホホホー!」

自慢気に高笑いするラファエルは、美少年だけあってその話し方は似合っていた。

二人の姉たちは、もう誤魔化すのをこの時にあきらめるのである。

「本格的ですのね?!
妹ごっこ遊びで、刺繍までするなんて。
他にも何かしてましたの?!」

ノマイユ侯爵令嬢はボケているのか、気にせずにラファエルに質問をしてくる。

「ダンスは女性パートも踊れるし、お菓子も料理も簡単のなら出来るわ。
もう花嫁修業は完璧よ。
そこらの令嬢には負けなくてよぉー!」

隠すことなく素を出しまくるラファエルに、姉たちは顔を赤らめて下に向ける。
反対に侯爵令嬢は、ラファエルを尊敬の眼差しで見つめていた。

そんな微妙な空気の中で、馬車はロベール伯爵邸に到着した。
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