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第6章  黒い森の戦い

第33話 汚名返上

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 祖母ヴィクトリアの部屋には、夫グレゴリーと孫娘プリムローズしか居なかった。
兄にふんしているルシアン殿下は、本物の家族水入らずに遠慮されたのか。
それとも追い出された、もしくは旅立つ支度したくをしているのか。
彼は間違いなく、邪魔者扱いにされたのであろう。

「では、ご家族だけでごゆっくりして下さい。
私はこれにて、失礼いたします」

ヴィクトリアに代わりここまで来た経緯を、トンボことニルスが2人に報告をした。
簡潔に話を終えると、彼だけ一礼してから部屋を出て行く。

身内だけになるとプリムローズは、すぐにメイドにお茶の準備を指示する。

「おばあ様~!
お茶をお飲みになってから、カップの裏をご覧下さい」

祖母ヴィクトリアは、孫が自分にお茶をいれてくれるのは嬉しい。
しかし、またワケわからない事を言ってくる。
これは、彼女の平常運転だった。
大国の王女様ヴィクトリアは、王族出身だけあり小さな事は気も止めてなかった。
次に、祖父の前に続けてカップを置くのである。
本来なら、祖父グレゴリーが1番に出すのが礼儀。
あくまでも、長旅して到着した祖母に譲る気配りをした。

「ありがとう、プリムローズ。
このスコーンも、焼きたてで美味しそう。
マーマレードのジャムに、生クリームも添えてあるわ。
久し振りに家族でお茶ができて、贅沢ぜいたくな時間ね」

戦という心配事や、身内がいる戦況の報告が入る。
あわただしさの中で、お茶とか優雅な日々を過ごせなかったのであろうか。
ホッとした祖母は、嬉しげに微笑みお茶を一口飲む。

「ほう~、何だか疲れが取れていくようじゃな。
不思議な感覚がするわ」

そう感想をべると、また一口飲むと疲労からか解放されたかのように目が大きくなり瞳に力がみなぎる気配が体の内からする。

『体がポカポカ温まるわ。
温かいお茶を飲んだせいか。
だが、身体の中をめぐるこの不思議な力はなんなのじゃ?!』

ヴィクトリアはお茶を一杯飲み終えたら、孫の言っていた通りにカップを見つめて底をひっくり返してみた。

「ここ、これはー!!
アルゴラの常勝王の物か?!
イヤ違う、破壊王は全て壊したはずじゃあ。
王宮や重要な一部の物は無視したが、食器等は全て粉々に打ち捨てられ残っておらぬ」

『ふふっ、おばあ様ったら予想以上に驚かれておりますわ』

「こらから、説明致します。
さかりますと、一年以上前のお話になりますの」

祖父母二人はお茶やスコーンを堪能たんのうして、プリムローズのアルゴラでの神官様との話を聞き入っていた。

「常勝王がヘイズを攻めたときに、あの道を作ったのか。
前にも聞いてその話をしたが、そんなバカな事をするから戦に負てしまったのじゃ」

「コホン!
夫で愛するお方でも、我が祖先をバカ呼ばわりをしないで下さいな。
このお茶やマーマレードは、その長寿の泉とやらのお水で作ったのですね」

夫婦の危ない場面ですわ。
ここで夫婦ケンカして帰られては、私が気をむではないの。

「そ、そうですの。
お二人には長生きして欲しくて、これを求めてヘイズに留学しましたの。
それだけでは御座ございませんが、目的はあった方がはげみになるでしょう。ホホホ」

正直にヘイズに決めた、留学先の希望の意味を教えるのである。

「優しい孫だ!
お前、わしらは仲良く長生きしてプリムローズの花嫁姿を見なくては!
のう、ヴィクトリア!!」

「旦那様のおっしゃっる通りです。
プリムローズ、私たちは幸せ者ですよ。
貴女の様な孫を持てて、貴方そうですよね!」

『あ~、良かったわ。
簡単に仲直りしてくれた。
気疲れしてノドがカラカラ、私もお茶を飲んで英気えいきやしないましょう』

ゴクゴクと音を立てそうな勢いで、お茶を飲むプリムローズ。

「しかし、お前は何処行っても変なのに巻き込まれるな。
なにも、戦まで初体験しなくても良かろうに」

孫娘を見て話していて、つい言葉を失う。
だが言い足りないのか、年寄りお得意の愚痴ぐちが始まりそうだ。

『またまた、まずいわ。
これが始まるのはイヤなのよ。
普段はあんなにせっかちなのに、どうして愚痴は長くなるのか』

此方も胸の中で、祖父に負けないでお小言こごとを言う孫娘。

「お祖父様、お祖母様。
折り入ってご相談がございますの。
エリアスを探した人物を、ウィル親方とギルにして頂きたいのです」

プリムローズは、自分の考えを二人に熱心に語る。
自分の留学先の護衛にゲラン伯爵親子にたまたま頼んだことにして、その時に乗った船にエリアスが船員として働かしていた。
偶然にその現場に鉢合はちあわせして、発見したのだと…。

「うむ~っ。王弟殿下のエリック様に瓜二うりふたつのエリアスを見て、ウィリアムが助ける様にお前に頼んだ。
だが二人は名を隠しているので、お前が助けた事にしていたと申すのだな」

孫の機転きてんに感心して、これは使えると思った。
二人をこのままエテルネルにもれさせるのは、あまりにもしい人材である。

「そうすれば、ゲラン伯爵家は【汚名返上おめいへんじょう】になります。
お祖父様、エリアスには二人のような方をお味方みかたが必要です」

二人のやり取りの背中を押すように、アルゴラ元第一王女ヴィクトリアがハッキリ意見を言う。

「新たな功績こうせきをあげ、昔の悪い評判を取り除いて差し上げましょう。
あの者たちを、今からでも故郷に返す事ができますよ」

3人の意見は一致したが、死んだはずの人間をどう生き返すのかと祖父母は新たに悩みだした。

「お祖父様が、昔ヘイズ王を助けた話をそのまま使うのです。
ゲラン伯爵親子は海に飛び込んだが、流されてアルゴラの海岸に漂着ひょうちゃくした。
そこで浜辺にいたお祖父様が、偶然にお助けしたのですわ」

都合良すぎる内容に、グレゴリーはそれはないと難色なんしょくを示す。

わらわが見つけたと申せば良い!
例えヘイズとて、我が祖国アルゴラに文句は言えまい。
何事もつけ入られず、強気に押し通せば何とかなります」

大国のアルゴラの王女だけあって、強引な力技はお得意ですね。
あの破壊王が祖先だけありますわ。
自分も、その中に入っているのを忘れている。

「よう分かった!
友の為にも、儂が一肌脱ひとはだぬぐぞ。
プリムローズ、口裏くちうらをうまく合わせるのだ。
やっとゴタゴタが片付いたので、真実の明かすのだと説明する」

「はい、お祖父様!
これで、皆様が幸せになれます。
ヘイズ王やその他の方々に、お祖父様からお伝え下さいませ」

留学が終わったら、ウィル親方とギルと別れなくてはならないだろう。
もしかしたら、もう1人の大事な人も…。
その時は辛くなるのを、彼女は今から覚悟を決めなくてはいけない。

「儂は王宮へ出向き、この真実を伝えにいく。
ヘイズ王へ手紙を書き、先触れを願わないとな。
ヴィクトリアが疲れがなかったら、明日ここを出発しよう」

『いつにまして、やることが早い。
信頼するゲラン親子のためだと、やる気が満々になるようだ』

祖父の青い瞳に、メラメラと青い炎が見えるよう。

「儂は席を外すが、プリムローズとヴィクトリアはそのまま話でもしているが良い」

祖父グレゴリーは立ち上がると、私たちに目を向け微笑み独り部屋から退室した。
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