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第6章  黒い森の戦い

第29話 段取り八分仕事二分

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 昨日の退屈な話し合いの最中さいちゅうで、恥ずかしいがグッスリと寝てしまった私。
お陰で身体は、軽くスッキリ気持ちもやる気に満ちあふれている彼女。

「今日は、ギルとトンボを連れてあの泉に行くわー!!」

朝日が昇る前から、部屋の窓を全開にして叫ぶ。
なんと、朝っぱらから迷惑なご令嬢である。
  
「おはようございます。
お嬢様、お支度したくに参りました」

メイドたちが、洗面器と水差しを持って現れた。
普通のご令嬢ならベッドにいて、食事はここでとか寝起きで目が覚めないからお茶が飲みたいとかワガママを言うのつねだ。

「早く目が覚めてしまったの。
着替えは先に済ませたわ。
顔を洗うので、用意して下さる?
それと、連れの男性たちはどちらに居るか。
貴女たちはご存知かしら?!」

顔を洗い終えると、食事前に二人に会いに向かう。
口をはさすきなく、メイドたちはマイペースな彼女を見送る。

   当てずっぽうで馬小屋を目指すと、トンボことニルスが愛馬ヴァンブランと熊ちゃんに食事を与えていた。

「トンボ、おはよう!
熊ちゃんとヴァンブランは元気している?」

「お嬢、おはようございます。
えぇ、元気に朝ご飯を食べてますよ。
お嬢はこれからですか?」

二人が話していると、アクビをしながらギルがコチラに歩いてくる。

「ギル、会えて良かったわ!
あのね、二人に付き合って欲しい場所があるの。お願いします」

珍しく低姿勢なお嬢の態度に、不安と恐怖を感じた男たち。

「お嬢、おはようです。
付き合うって何処ですか?
地獄と天国はやめてくれよ!
俺こそ、お願いしますぜ!」

彼は付き合わされる所はどんな場所だよって、あやしむ目付きで逆質問とお願いを返してくる。

「二人が一度は行っている。
あの不思議な道にある泉よ。
あそこにある泉のお水と、アルゴラ常勝王時代のカップや食器を全部持って帰りたいの!」

その場所を聞くとニルスが、またそこの場所へ行き着けるのか不安がる。

「大丈夫よ、私はアルゴラ王家の血が流れているわ。
何でギルは、アソコに行けたの?!
会った時に聞くのを忘れていたんけど、どうしてなの??」

あの時は、温泉に入って逆上のぼせて聞き出せなかった。

信用できる二人に、自分の少年時代の不思議体験を自慢げに話して聞せる。

「それって、その女性とギルさんの秘密ではないのですか?!
そんなにペラペラ他人にしゃべっても、平気なんですかね?」

「そう言えば、そんな事を言っていたような。
言わなかったような。
もう10年以上前の話だぜ!
普通は、もう時効じこうでしょう。
許してくれるさ」

いつもながら軽いノリの奴だなと、二人は同時に思う。
そんな黒ずくめ女性の話を、普通は不気味で誰にも話せないでしょう?!

「ロイヤル・ゴッド・アイの持ち主。
この私が行けば平気。
朝食を食べたら集合よ。
直ぐ行くので、トンボは一番小さな荷馬車を用意してね。
宜しくー!」

頼むだけ頼んだら、屋敷へ向かい歩き始めていた。

 「【段取り八分仕事二分】の言葉が、頭に浮かびました。
お嬢ってやると決めたら、段取りが的確で早いですよね」

ニルスは颯爽さっそうと自分たちから去っていく、プリムローズの後ろ姿を見て言う。

「事前におおかた、準備や指示くれた方が気は楽だけどな。
1度でも先に、俺らの予定とか都合を聞いてくれことあるか?」

「今回は時間がないから
仕方ありませんよ」

プリムローズを庇うようにギルに言い聞かせる。

「こうして、お願いはされるけどよ。
いつも、お嬢は自分勝手ですぎるぜ。
都合があったらどうするんだ」

ギルはひましているから、自分は別に構わないと言う。
その割には、仏頂面ぶっちょうづらして文句をニルスに言ってくる。

気持ちは分からないでもないが、お嬢はご主人様だしね。

「かわいいお嬢の頼みだ。
しょうがない、一肌脱ひとはだぬぎましょう。
天気もいいし、気分転換きぶんてんかんになりますよ」

前向きな男だなと、ニルスの人の良さげな態度に感心する。
その優しさが、動物たちにも伝わって好かれるんだと彼は感じていた。

   
  朝食をウキウキご機嫌で食べるプリムローズを、祖父とブラウン改めルシアン殿下が奇妙そうに眺める。

「プリムは、何やら朝から機嫌がイイのう。
よい事でもあったのか?」

気になる事を直接さらっと聞くので、こちらも何も考えずに素直に返す。
少し、厄介事になるとは知らずに。

「お祖父様の以前お飲みになってくれた。
あのお水を、また汲みに参りますの。
おばあ様にも、飲んで頂きたいのですわ。
あれを使いジャムを作り、トーマスやアンナにも食べて欲しいのです」

「おぉ、あの元気が出る水か!?
ヴィクトリアも、さぞかし喜ぶであろう!
ジャムなら日持ちする」

楽しく2人で対話する中、独り除け者にされたルシアンは突然話しかけてきた。

「プリムローズ、私も連れていってはくれないか?!」

『はぁ~っ、なに言ってんのよ』

そんな言葉が、表情から読み取れた。
顔色の変化に敏感になる、二人の内の一人。
身内のグレゴリーは、さっして彼に非情な事を投げ掛けた。

「そんな余裕がお前のどこにあるのだ!
そちは、わしと剣の稽古けいこがある。
儂から剣の手解てほどきを受けて上達したいと、お前から父にあたる陛下に懇願こんがんしたそうじゃないか」

「あらあら、そうでしたの?!
じゃあ、仕方しかたありませんわね。
少しでも上達しないと、お祖父様の二つ名にキズがつきます」

二人に次々と言われ反論すら出来ず、ルシアンは体が小さくなる。
あの稽古を、またしなくてはならないのか?!
戦の神と呼ばれる男は手加減てかげんをしているが、彼とっては地獄の猛特訓に近かった。

「ほら、時間がない。
船に乗ったら、また船酔いで寝込むのであろう?
そなた王族たちは、本当に体が弱き者よのう。
行くぞぉー!!」

ルシアンの腕をガシッとつかむと、引きずるように彼女の前から勢いよく消えていく。

プリムローズはその姿を見ていて、彼はヘイズから無事に祖国の王宮までたどり着けるのかと心配していた。

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