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第6章  黒い森の戦い

第19話 腹八分目に医者いらず

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  あーっと叫び声をあげ、お互いに指差し合う方向はてんでバラバラ。
この人物たちの個性の強さを、如実にょじつに表す形となった。

動じず気にせずに、我が道いく男がさわやかに声をかける。

「お嬢、ご無事だったんですね」

ニルスがプリムローズの前に行き、嬉しさに両手で彼女の右手を包み込むように握りしめた。
その手を見てから、彼の顔を見れば心から喜んでいる。

離せと冷たい言葉を、彼には言えない。

「トンボ、心配かけて悪かったわね。
ギルが迎えに来てくれたの。
馬と熊より、人間なのに。
全然、役に立たなかったけどね」

彼女の真後まうしろに控えていた男は、大人げなく仏頂面ぶっちょうづらになっている。

「ごめんなさい。
お腹空いて倒れそうなのよ。
この後の話は、食事しながらでいい?」

『お嬢ってその台詞せりふよくおっしゃるが、一度も倒れた試しないよね!?』

この時、野郎共やろうどもの複数の心の声がガッチリ一致した。

「自分たちも食べてから、お嬢を探しに行くつもりだったのです。
見つかった事を、早くお知らせしなくては!
お前たち、知らせの合図あいずを頼む!」

そうニルスが振り向き言うと、二人のブライアンを逃がして探しに行っていた例の情けない子分たちが泣きながらうなづく。

「「お嬢~、よくご無事でー!ウ~ッ!!」」

大の男2人は泣きながら鼻水まで垂らすと、空に向けて発見の狼煙のろしをあげるのであった。

「何だか、大事になってんな!
ニルス、親父様や殿下じゃあねぇ。
ブライアン様はどうされている?」

ギルは、ニルスに気になっていることを質問する。

「お嬢が行方知れずになり、お二人とも沈んでますよ。
特に、ブライアン様はご自分を責めているようでしたね」

合図を出して戻ってきた二人を加えて、5人で楽しくにぎやかに食事を始める。

「あの馬鹿兄貴ばかあにきには、いいおきゅうになったんでない!?
生まれながらのボンボン箱入りで、危機管理ききかんりなさすぎなのよ!」

ものすごい言われようだと、4人の男どもは話を聞いて食事の手を止めてプリムローズを見ていた。

「そうですね。
親父様にヤキを入れられてましたよ」

ニルスはどんなヤキかは詳しくは話さないが、見えない場所に入れたんだろうなとプリムローズは想像する。

「俺たちも、軽く挨拶しときました。
散々迷惑さんざんめいわくかけてくれましたからな!」

「目立つ顔はしませんぜ!
脇腹にしときました、お嬢!!」

ニルスとその他二人の子分たちは、お嬢に正直に自己申告する。
報告を無言で聞くと目をつむり、ヨシいいぞと首を縦に振っていた。

物騒ぶっそうな会話しているので気を使い、5人は角のテーブルに目立たないようにしていたが逆に余計に目立つ形になる。

「伯爵の参戦の原因には、そんなワケがあったのね。
それを差し引いても、やってはいけないことよ」

食事中にこのような話をしているせいのか、お腹は満たされるが美味おいしさは感じられなかった。
特にギルは自分や家族が原因と聞かされて、珍しく落ち込み沈んでしまっている。

「ですが、これにて一件落着いっけんらくちゃく一ですかな。
なにやらスッキリしないし、胸の中がモヤモヤします」

ニルスはギルを気にしながらも、正直な気持ちを口にした。
この場にいて話をする者たちは、皆が同じ思いだ。

「あ~~!
やめやめ、今はご飯に集中するのよ。
ここであれこれ言っても、らちが明かないわ」

お嬢の言っている事は正しいと、前に並べられた料理の味を堪能たんのうする。

「お嬢、食べ過ぎは良くありませんよ。
腹八分目はらはちぶんめは医者いらず】と言う、先人せんじんのありがたい教えがありますからね」

焼いた肉にとろけたチーズを乗せた料理をよくんで飲み込むと、何それって聞いてきた。

「食事は腹一杯食べずにいつも腹八分目程度にしておけば、腹も壊すこともなく健康でいられるという教えです」

「ふう~ん、ギルは年中不健康ね。
いつも、俺これ以上食えねぇ~って言っているじゃない。
クスクス」

「それはないですぜ、お嬢。
ギルの兄貴が落ちこむぜ」

「可愛い顔をして、キツイですな」

二人組はギルの側に行き、ポンポンと軽く肩を叩いてはげましている。

   
    行儀悪く騒いで食事していたら、後ろからすざまじい音が鳴り響き食堂の扉がほぼ破壊されていた。

「プ、プリムローズー!」

口に肉を頬張ほおばり、爆音と自分の名前を絶叫する人物を目を丸くして驚き見てた。
必死に噛み、急ぎ飲み込み。
次に、水を一気に飲む。
そして、はっせられた言葉はー。

「おー!お祖父様~~」

感動的な孫と祖父のご対面。

知らない食堂の客人たちまでもが、思わず感動してしまう場面であった。

体躯たいくの立派な初老に見えるようで見えない美丈夫びじょうぶが、まだ幼さが残る少女のような少年を力強く抱きしめた。

「おぉーっ、プリム!
無事で元気そうで安心したぞー!!」

「お祖父様!
少しおせになりやしたか?
私のせいで、心労しんろうをお掛けしました。
あっ、そうだわ!」

彼女はグレゴリーから離れて、空の自分のグラスにあの泉の水が入った水筒から注ぐ。

「お祖父様、これを飲んでみて下さい。
ほら、私が飲んでも平気ですから!」

グラスの水を少しだけ口づけると、大事そうに両手で祖父に手渡す。

「そうか、そうか!
お前が渡してくれるものなら、何でも飲もう!」

彼は疑うことなく、グビグビとその水を一気に飲み干した。

気持ちいい豪快な飲み方に、見ていた周りの者は見ていて大丈夫かと様子をうかがう。

彼女が無理矢理むりやりっぽく、飲ませた不思議な泉の水の効果はいかようであろうか?!
期待を胸にワクワクしながら、美しい紫の瞳がキランキランさせる。
そして、祖父グレゴリーの姿を直視するのだった。



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