上 下
125 / 142
第6章  黒い森の戦い

第17話 怨みほど恩を思え

しおりを挟む
 重苦しい空間は、ツバを飲み込む音さえ許されない様にみえる。 
体躯よく不気味に笑みする大柄の男に、4人は視線を全て集中させていた。

マーシャルの尋問じんもんをしている場には、ヘイズ王に東と北の将軍たち。
プリムローズの祖父のみ。
縄でしばられているので、護衛兵等は入れてない。

「マーシャル伯爵家には…。
男児が2名おった。
……、たしか弟だったはず」

スクード公爵が静まり返る中で、沈黙を破りゆっくりと詰まらす話し方をした。

「スクード公爵!
その方は…。
ゲラン伯爵家のウィリアム殿に仕えていた。
あの事件から失踪しっそうから、行方不明になっている。
まさか、お前はその弟君なのか!?」

チューダー侯爵は、10年以上前の不幸な事件を思い出そうとしていた。

「やっと、分かったか!王弟エリック様に仕えていたウィリアム様が、まるで皆から罪人扱いされた」

「……、ウムッ!
だがな、あのときはー」

過去の記憶からあのまわしい思い出す、兄ヘイズ王。

「王弟夫妻は、馬車で事故死だ。
お二方のお子は、どこかにさらわれてしまった。
全ての罪がゲラン伯爵がしたようにされて、あの方はー!」

目付きは鋭さを増して、それは3人に向けられる。
もう1人の男は、黒い森で戦った相手としか知らなかった。

「安心せい!
ウィリアム・ゲランは生きておる!
息子のギャスパルもそうだ。
自害したといつわり、わしがエテルネルにかくまった。
会いたければ会わせても良いぞ。
なぁ、ヘイズ王!」

見知らぬ男が、彼に驚きの新事実を伝えてきた。

「ウィリアム様とギャスパル様は生きている?
本当の話なのか!?
だとしたら…、俺がしたことは何だったのか」

男は頭を項垂うなだれて、涙をこらえるように嗚咽おえつする。

 話を聞くと彼はマルクスの弟だが、母は側室で亡くなっていた。
正妻は良くできた夫人で、息子マルクスとは分けへだてなく育ててくれていたそうだ。
そんな彼だが、マルクス親子に遠慮して領地を離れる。
こうして、王弟殿下に仕えることになった。
その時ウィリアムが慣れない彼の世話を良くしてくれそうで、彼にたいそうおんを感じていた。

「ゲラン伯爵は無実だ!
それなのに、お前らがー。
そのうらみを晴らすためにしたのだ!
半月も前から、兄のフリしてだましていたのさ」

顔を下に向けた状態で、自分の主張を言ってきた。

「愚かな!
【怨みほど恩を思え】、
その言葉を通りにしたのだな。
お前は、両方を思ってしまったのだぞ」

ヘイズ王は彼にそう話すと、自分がした事でこの男を怨みに走らせたのだと思い悩んだ。

「ウィリアム殿とその息子を生かすには、あの方法が最善だと考えた。
自害して世を去ったとし、残された幼い娘は我が子として養女にしたのだ」

スクード公爵は、ヘイズ王と自分で考えた事だと説明する。

わしもこれは良い案だと思った。
そんな風に、思っているとは知らなんだ。
長い間、苦しめていたようじゃ。
すまなかった…」

彼らをエテルネルに連れ帰った者が、彼に向かって謝罪するのだった。

もだ、ゲラン家に全てを押し付けてしまった。
犯人は捜査そうさしているが、今も分からずにいる。
あのままでは、どのみちヘイズでは無事におられまい。
エテルネルのこの方に、ウィリアムを託たくしたのだ」

この罪を犯したこの男を、どうしたら良いかと王は悩んでいた。

「そうじゃ、兄のマーシャル伯爵は何処におるのじゃあ?
まさか、殺してはないじゃろうな?!」

エテルネルのクラレンス公爵グレゴリーは、胡座あぐらをかいている弟に兄の身柄を聞き出してくる。

「殺すわけないだろう!
地下牢の秘密の隠し部屋に入って頂いておる。
マーシャル伯爵の者しか、誰も知らぬ場所だ」

「そうか、無事なんだな。
彼は、余を裏切ってなかった。
それを今、嬉しく思う。
早く、マルクスを助けてあげてはくれぬか?
そうしたら、この罪を不問にしようぞ!」

「陛下ー!
何を仰るのですか?
不問にするのは無理でございます。
これだけの兵たちを、派手に動かしているのですよ!?」

北の将軍は主君に対して、ハッキリと物言いをしてきた。

「そんな話より、マルクス殿の様子を見に行かんのか?
地下牢だし、どうなっているか不安だのう」

当たりさわりがないどうでもいい人は、そっぽを向くと言ってきた。

「クラレンス公爵の言うとおりだ。
マルクスの弟よ、急ぎ案内してくれ」

ヘイズ王の命令にて一同は、マルクスを隔離かくりされた場所へ向かうのだった。

 
 屋敷で仕えてる者たちは、かなり身分の高い方々が滞在しているのを知っていた。
屋敷の主人である伯爵が、謀反むほんを犯した。
そうではなく、視察とか噂が錯綜さくそうしている。
通りすがりの者たちは不安な気持ちを押し殺し、壁に沿いに張りつき頭を下げ続けた。

「コチラでございます」と、彼はかぎを取り出し開け始める。
地下牢は何部屋かあり、一番端に位置している。
湿度は低いが、南国ゆえに暑さを感じていた。

「部屋には、誰も居ないでないか?!」

彼の次に部屋に入った王が、中を見ると言い放った。
テーブルと椅子にベッド、脇に背丈位のたなしかない。

「お願いがあります。
この棚を移動させて頂きたい。
俺は、肩を怪我けがしてて動かせないのです」

スクードとチューダ両名が、棚をずらした。
扉が隠されるように現れ、開けるとベッドでグッタリしている男が寝ている。

「兄、兄上ー!
如何いかがされた?!
しっかりして下さい!
兄上ー!」

スクード公爵がおんぶして、部屋から連れ出し涼しい場所へ移動。
ビシバシとほほを叩きまくり、意識を戻すと水やノド通りいい果物を無理にでも与えた。
直ぐ医者を呼び診察して、やっと落ち着く事ができた。

「風もない暑い場所に長時間おられたせいか。
体の水分がなくなっておりました。
かなり危険な状態でしたが、静養すれば治りましょう」

対応した医師は冷静に話しをすると、部屋を出て行った。
残されし男たちは、ベッド脇で涙を流し座る大男の背中を疑いの視線で見つめている。

「お…。お前の願いは…。
かなったのか…」

気がついたのかマルクスが、小さなかすれた声で弟に呼び掛けた。

「はぃ、兄上…。 
…、かないました。
悪夢から、目が覚めた。
ウッ…、ところでございます。
兄上、済まなかった!」

泣きながら振り絞る声で、倒れるまで迷惑をかけた兄へ詫びるのだった。
彼らは静かに出て行く。

兄弟を二人きりにさせるため扉をそっと音をさせずに閉めるのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m

最強の薬師、婚約破棄される〜王子様の命は私の懐の中〜

岡暁舟
恋愛
代々薬師として王家に仕えてきたボアジエ公爵家。15代当主の長女リンプルもまた、優秀な薬師として主に王子ファンコニーの体調を整えていた。 献身的に仕えてくれるリンプルのことを、ファンコニーは少しずつ好きになっていった。次第に仲を深めていき、ついに、2人は婚約することになった。だがしかし、ある日突然問題が起きた。ファンコニーが突然倒れたのだ。その原因は、リンプルの処方の誤りであると決めつけられ、ファンコニー事故死計画という、突拍子もない疑いをかけられてしまう。 調査の指揮をとったのは、ボアジエ家の政敵であるホフマン公爵家の長女、アンナだった。 「ファンコニー様!今すぐあの女と婚約破棄してください!」 意識の回復したファンコニーに、アンナは詰め寄った。だが、ファンコニーは、本当にリンプルが自分を事故死させようと思ったのか、と疑問を抱き始め、自らの手で検証を始めることにした……。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。

木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。 当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。 私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。 だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。 そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。 だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。 そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。

契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
恋愛
 前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍化2024年9月下旬発売 ※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...