上 下
123 / 142
第6章  黒い森の戦い

第15話 どんぐりの背比べ

しおりを挟む
 グレゴリーは目に入れてもいいぐらい可愛がっていたプリムローズが、いなくなっての朝を迎えていた。

「ハーブモーネ侯爵、お早いですな」

庭で声をかけていたのは、共に戦っていた北の将軍チューダー侯爵である。

「おはよう、チューダー殿。
年寄りは早く目が覚めるものだ。
今日、マーシャルの尋問じんもんをする日だった。
ヘイズ王には、辛い1日になりそうだのう」

二人は青くみ渡る空を見上げて、この空と反対のどす黒い自分たちの心との対極たいきょくを感じていた。

  マーシャルの城の中の客間には、ヘイズ王を筆頭ひっとうに東の将軍スクード公爵。
北の将軍はチューダー侯爵、ハーヴモーネ侯爵ことエテルネル国のクラレンス公爵がいた。

なわで両手を後ろでくくられている南を将軍マーシャル伯爵は、右肩の痛みに耐えているせいかのか前に座る男をぬく目つきで見ている。

「マーシャル、どうして陛下の忠誠を無視するような行いをしたのだ。
もうすでに仲間のヴェントは、捕まり王宮の地下牢ちかろうにいるぞ!
正直に答えよ!」

「俺は、この国に見切りをつけていた!
他国から全てを遮断しゃだんし、新しい事や物を受け入れないヘイズをな!
祖先が負けたせいで、差別されておるのもだ。 
閉鎖へいさすぎる」

痛烈つうれつな国に対しての批判は、頂点に立つ王に向けられていた。

「それに自分の臣下の顔も、全然覚えてないのではないか?
俺は確かに、マーシャルだけどな!」

「どういう意味だ?
お前は、マルクス・マーシャルではないのか?!」

ヘイズ王は尋問じんもんされている男の顔を、不思議そうにじっくりと見て驚きの表情に変わるのである。

「こやつは、マルクスではない!
よく似てるが、瞳の色が違っている。
お前は誰だ、本物のマルクスは何処におるのだ!」

「今頃気づいたか、本物か…。
周りの者は、この半月以上バレなかった。
奥方だけには、けて会わなかったがな」

部屋にいた4人の男たちは、目を見開いてこの男を見ていた。


     昨夜の温泉でお肌ツルツルピカピカの二人は、愛馬ヴァンブランに騎乗きじょうして出口を目指していた。

「絶対に、コッチよ!」

「イヤ違うな!アッチだぜ!」

ずっと、このやり取りで全然前に進まない。

全く違う方角ほうがくへ、ヴァンブランはあるじを無視して勝手に歩きだした。

「えーっ!もしかしたら、ヴァンブランは方向を知っていたの?」

「そんなんなら、早く動けば良いじゃん!
勿体もったいつけて、馬の悪役令嬢だな。
ヴァンブラン様」

お馬鹿な人間たちを無視して、前だけ向き歩く白馬。

「ご機嫌悪くしたわね。
ギル、ヴァンブランはエテルネル1のお馬さんなのよ。
あの超ワガママなあの姉が、選び抜いた馬なのよ」

「へーえ、そりゃお高いんですよね。
流石さすがは、筆頭公爵ですな」

愛馬の買値を父から聞いて、れ果てた娘のはその時を思い出していた。

「父から聞いた話では、男爵位の屋敷が買えるって聞いたわ。
今度、リザ様の領地のお屋敷を見せてもらおうかしら?」

微妙な例えにギルは、プリムローズに返事しないでうなづく。

「お嬢の話ですと、マーシャルって奴の矢が胸に刺さる前に消えたんですよね。
その後に常勝の道へ来たんだよな。
不思議ですね?
お嬢は幽霊ゆうれいだったりして?!」

「変なことを言うんじゃないわよ!
じゃあ、戻ったら私の死体があって葬式でもしているって言いたいの」

「それはそれで、怖い。
一緒に俺と馬に乗っているのが、死人で幽霊のお嬢…」

話していて、だんだんと怖くなる。

案外あんがい、ギルも死んでいて此処へ来れたのではないの?」

「やめてくれよ!
俺は生きているんだ!
死んでなんかないぞー!!」

うるさくてウザくて乗せるのが嫌になってきたのか、愛馬は一度暴れる振りをしておどかす。

「「うわっー!
ヴァンブランが怒っている!」」

「ねぇ、私たち【どんぐりの背比せいくらべ】しているのかしら?
お互いに、方向音痴みたいで一緒でしょう」

プリムローズが、ギルに奇妙な例えを話してきた。

「まぁ、お互いに違う方角を指してたしな。
ドングリね?!
格好も背丈も一緒で似たりよったりてことか、違いないよな。
お嬢も俺も、仲良く方向音痴だしな」

馬に謝ったり、ご機嫌をとっているたりそんな事をしていたら、二人とヴァンブランは黒い森の出口をいつの間にか出ていたようだ。

ちゃんと、祖父グレゴリーに再会出来るのか。
とても不安になる二人旅である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を侮辱するだけの婚約者はもういりません!

杉本凪咲
恋愛
聖女に選ばれた男爵令嬢の私。 しかし一向に力は目覚めず、婚約者の王子にも侮辱される日々を送っていた。 やがて王子は私の素性を疑いはじめ……

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~

日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。 女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。 婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。 あらゆる不幸が彼女を襲う。 果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか? 選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!

【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)
恋愛
プリムローズは、筆頭公爵の末娘。 上の姉と兄とは歳が離れていて、両親は上の子供達が手がかからなくなる。 すると父は仕事で母は社交に忙しく、末娘を放置。 そんな末娘に変化が起きる。 ある時、王宮で王妃様の第2子懐妊を祝うパーティーが行われる。 領地で隠居していた、祖父母が出席のためにやって来た。 パーティー後に悲劇が、プリムローズのたった一言で運命が変わる。 彼女は5年後に父からの催促で戻るが、家族との関係はどうなるのか? かなり普通のご令嬢とは違う育て方をされ、ズレた感覚の持ち主に。 個性的な周りの人物と出会いつつ、笑いありシリアスありの物語。 ゆっくり進行ですが、まったり読んで下さい。 ★初めての投稿小説になります。  お読み頂けたら、嬉しく思います。 全91話 完結作品

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

貴方にとって、私は2番目だった。ただ、それだけの話。

天災
恋愛
 ただ、それだけの話。

処理中です...