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第6章  黒い森の戦い

第15話 どんぐりの背比べ

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 グレゴリーは目に入れてもいいぐらい可愛がっていたプリムローズが、いなくなっての朝を迎えていた。

「ハーブモーネ侯爵、お早いですな」

庭で声をかけていたのは、共に戦っていた北の将軍チューダー侯爵である。

「おはよう、チューダー殿。
年寄りは早く目が覚めるものだ。
今日、マーシャルの尋問じんもんをする日だった。
ヘイズ王には、辛い1日になりそうだのう」

二人は青くみ渡る空を見上げて、この空と反対のどす黒い自分たちの心との対極たいきょくを感じていた。

  マーシャルの城の中の客間には、ヘイズ王を筆頭ひっとうに東の将軍スクード公爵。
北の将軍はチューダー侯爵、ハーヴモーネ侯爵ことエテルネル国のクラレンス公爵がいた。

なわで両手を後ろでくくられている南を将軍マーシャル伯爵は、右肩の痛みに耐えているせいかのか前に座る男をぬく目つきで見ている。

「マーシャル、どうして陛下の忠誠を無視するような行いをしたのだ。
もうすでに仲間のヴェントは、捕まり王宮の地下牢ちかろうにいるぞ!
正直に答えよ!」

「俺は、この国に見切りをつけていた!
他国から全てを遮断しゃだんし、新しい事や物を受け入れないヘイズをな!
祖先が負けたせいで、差別されておるのもだ。 
閉鎖へいさすぎる」

痛烈つうれつな国に対しての批判は、頂点に立つ王に向けられていた。

「それに自分の臣下の顔も、全然覚えてないのではないか?
俺は確かに、マーシャルだけどな!」

「どういう意味だ?
お前は、マルクス・マーシャルではないのか?!」

ヘイズ王は尋問じんもんされている男の顔を、不思議そうにじっくりと見て驚きの表情に変わるのである。

「こやつは、マルクスではない!
よく似てるが、瞳の色が違っている。
お前は誰だ、本物のマルクスは何処におるのだ!」

「今頃気づいたか、本物か…。
周りの者は、この半月以上バレなかった。
奥方だけには、けて会わなかったがな」

部屋にいた4人の男たちは、目を見開いてこの男を見ていた。


     昨夜の温泉でお肌ツルツルピカピカの二人は、愛馬ヴァンブランに騎乗きじょうして出口を目指していた。

「絶対に、コッチよ!」

「イヤ違うな!アッチだぜ!」

ずっと、このやり取りで全然前に進まない。

全く違う方角ほうがくへ、ヴァンブランはあるじを無視して勝手に歩きだした。

「えーっ!もしかしたら、ヴァンブランは方向を知っていたの?」

「そんなんなら、早く動けば良いじゃん!
勿体もったいつけて、馬の悪役令嬢だな。
ヴァンブラン様」

お馬鹿な人間たちを無視して、前だけ向き歩く白馬。

「ご機嫌悪くしたわね。
ギル、ヴァンブランはエテルネル1のお馬さんなのよ。
あの超ワガママなあの姉が、選び抜いた馬なのよ」

「へーえ、そりゃお高いんですよね。
流石さすがは、筆頭公爵ですな」

愛馬の買値を父から聞いて、れ果てた娘のはその時を思い出していた。

「父から聞いた話では、男爵位の屋敷が買えるって聞いたわ。
今度、リザ様の領地のお屋敷を見せてもらおうかしら?」

微妙な例えにギルは、プリムローズに返事しないでうなづく。

「お嬢の話ですと、マーシャルって奴の矢が胸に刺さる前に消えたんですよね。
その後に常勝の道へ来たんだよな。
不思議ですね?
お嬢は幽霊ゆうれいだったりして?!」

「変なことを言うんじゃないわよ!
じゃあ、戻ったら私の死体があって葬式でもしているって言いたいの」

「それはそれで、怖い。
一緒に俺と馬に乗っているのが、死人で幽霊のお嬢…」

話していて、だんだんと怖くなる。

案外あんがい、ギルも死んでいて此処へ来れたのではないの?」

「やめてくれよ!
俺は生きているんだ!
死んでなんかないぞー!!」

うるさくてウザくて乗せるのが嫌になってきたのか、愛馬は一度暴れる振りをしておどかす。

「「うわっー!
ヴァンブランが怒っている!」」

「ねぇ、私たち【どんぐりの背比せいくらべ】しているのかしら?
お互いに、方向音痴みたいで一緒でしょう」

プリムローズが、ギルに奇妙な例えを話してきた。

「まぁ、お互いに違う方角を指してたしな。
ドングリね?!
格好も背丈も一緒で似たりよったりてことか、違いないよな。
お嬢も俺も、仲良く方向音痴だしな」

馬に謝ったり、ご機嫌をとっているたりそんな事をしていたら、二人とヴァンブランは黒い森の出口をいつの間にか出ていたようだ。

ちゃんと、祖父グレゴリーに再会出来るのか。
とても不安になる二人旅である。
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