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第6章  黒い森の戦い

第7話 宝の持ち腐れ

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   陣地じんち帰還きかんすると、反省会と今後の対策が話し合われていた。

「いかんな、不味い展開だ!
このままだと、私たちが不利になっていくな。
長引けば長引くほど、食料がなく疲労が増すだけだ」

チューダー将軍はそう話して、一度兵たちを引いて仕切しきなおしをしたらと提案する。

「ダメじゃな。
王が出向いて敵に後ろを見せて逃げるのは、指揮だけではなく国政が低下する」

祖父の言うことも正しいし。
チューダー将軍の仕切り直しの考えも、もっともで1番現実味があるわ。
いたずらに兵たちを使っても、この戦いは私たちにはあまり意味がない。

「マーシャルの治めている領地を、攻めて攻略こうりゃく出来ないかしら?
私たちが彼と森で戦っている間に、陛下とスクード公爵が攻めてくれたらどうですか?」

「我々と戦った後に、領地がそんな目になっていたらあわてふためく。
そうなると、山のとうげづたいに王の軍隊を進軍させなくてはなりませんな」

北の将軍は、プリムローズの意見に興味持ち戦略を考えていった。

意表いひょうくには、プリムの提案は悪くないとは思う。
後方こうほうで何もせずでは、【宝の持ちくされ】ではないか?!」

「宝の持ち腐れ?
ヘイズ王のご威光いこうで、戦うのを躊躇ためらうかもしれない」

祖父の考えをみ取って、私は話を進めてみた。

「役に立つ、貴重な値打ねうちである。
この国の王がおわすのだ!
有効に使わない手はないではないか」

チューダー将軍の話にうなづく二人は、3人の意見としてヘイズ王に知らせを出す事に決める。

「ですが、不敬ふけいになりますけど。 
ヘイズの王様は、国民に尊敬されてますか?」 

南の領地へ出向いても、領民にヤリで突かれたり石でも投げつけられたりしたらと思ってしまう。

一応いちおうはあると思う。
即位前とその後と、何回か行幸遊ぎょうこうあそばせておる。
歓迎は…、されてました」

微妙な言い回しに、顔が曇りがちになるプリムローズ。

「行ってみなくては、これは分からん!
これで亡くなるなら、それだけの器量だったとあきめるしかなかろう」

祖父はこんな時は、実にアッサリと言うかサッパリしていると感心してしまう。

「では、早馬はやうまを走らせよう!
一刻いっこくも争う事態だ」

私たちから離れていくのを見て、私は祖父に話しかけた。

「お祖父様、お体は大事ございませんか?
私のせいでこんな事になり、申し訳ありません。ヘイズに来たのを、後悔こうかいしております」

「プリムローズは、エリアス様と出会ったことを後悔するのか?
お前がヘイズへー。
あの船に乗らなかったら、彼はどうなっておった?」

「お祖父様…。
お許しを、私の考えが浅はかでした。 
後悔するのは、まだ全てが終わるまで分かりません」

わしは大事ない!
もう、戦いはしないと思っていた。   
若い頃を思い出す。
あの頃は、何でも出来るとそう信じて生きていた。
儂も、もう年を取ったのう」 

『私の腕は未熟みじゅくだが、気持ちで負けてはいけないわ。
お祖父様を、おばあ様に無事にお返ししなくてはならない』

固く手を握り、決心していた。

「明日か、明後日に決着がつくだろう。
峠は危険だが、近道になる。
森を抜けるよりも、ずっと早く到着する」

「王がどれだけ、民に訴えかけられるか!
それで、この勝敗は決すると思います」

「プリムローズ、そうじゃのう。
ヘイズは変わると儂は思う。
きっと…、必ずな。
さぁ、寝ようとしよう!
明日も早いからのう」

 
   ルシアンは、プリムローズ達の構えていた陣跡じんあとに立っていた。

「ここに居ないということは、森の中へ入ったのか。
朝になったら、森に入ってみよう」

彼女プリムローズの夢の通りになりつつあることを、ルシアンは知らずにいたのである。

早朝まだかすみかがった中、彼はあの始まりのラッパが鳴る前に森の中へ入って行く。
知らないとはいえ、黒い森の精霊せいれいたちは彼を見逃してくれるのだろうか?

「凄いな、何処から入ったのか分からなくなる
出られなくなりそうだ。
印をつけなくては、迷子になりそうだ」

彼は鞄の中に何かないかと探していたら、見つからなかったので1度戻ろうとした。

「し、しまった!!
方向がー!!
ここがどこら辺か。
まったく、分からなくなってしまった」

樹海じゅかいではよくある初歩的なミスを、彼はしてしまったのである。
あせれば焦るほど、頭の中が混乱してしまう。

「だっ、誰かぁ~!
誰か~、居ないのかぁー!!」

誰も人の気配や動物の鳴き声もしない森の中は、静まり返り不気味な静寂せいじゃく

ルシアンは茫然自失ぼうぜんじしつになり、その場に座り込むと木々が自分に迫ってくる圧迫感あっぱくかんを感じる。
胸が変に高鳴り冷や汗が出てきて息が浅くなり、たまらず空を見上げて叫んでいた。


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