上 下
112 / 142
第6章  黒い森の戦い

第4話 湯を沸かして水にする

しおりを挟む
  まさかまさか、ルシアン殿下の脱走だっそうを知らないでいるプリムローズたち。
一行は、森の中を突き進む。
グレゴリー以外は、新規子分をあやしむ目つきをして疑ってた。

「親父様、ここに落とし穴があります。
足元にご注意をー!」

「うむっ!危ないのう~」

「ギャーア~!ウ~ッ!」

落ちそうになるプリムローズを、咄嗟とっさにニルスが彼女の腕をつかむ。

「お前たち!
早くそう言うことは、事前に言いなさいよ!」

注意するとドコ吹く風なのか、新参しんさんの子分たちは危なかったの?
そんな表情をしながら、お祖父様を先に案内するのであった。

『コイツら、お祖父様しか気を使っていないようだ。
トンボが、側に居てくれて良かったわ』

「おっ、プリムローズ!
大事ないか?!
すまんな、孫娘は初陣ういじんなんじゃあ~。
助けてあげてくれ、宜しゅうな」

親父様のお願いを聞くと、新規子分たちは驚いて彼女に声がけをする。

「お坊ちゃんでなく、お嬢ちゃんだったのかい!?
髪が短いから勘違いしたぜ」

「俺もだ!
なかなか、いさましいお嬢ちゃんだね!ハハハ…」

「ほれっ、キャンディやる。
甘くて元気でるぞぉー!」 

物で釣られた訳ではないが。
男から女だとわかると、ガラリと態度が変わるのが不気味ぶきみだ。

「有り難う!新規子分1号!」

何とも奇妙な呼び掛けに、黙ってキャンディをあげるのだった。

そして、会う敵たちをどんどんタラシ込む戦の神。

「そうか、無理矢理に来させられたのか。
不憫ふびんな事よのう|。領地の家族も心配しとるの。
早く戻れると良いな~」

そう話すと一人ずつ肩を優しく叩く、それに泣き出す新規子分たち。
どうもコイツらも、頭が弱くだまされやすい。
人情にひときわ弱く、涙腺るいせんもろいようだ。

「親っさん!
イヤ、親父様~!」

何度も見ていると、感動もだんだん薄れてくるわね。

「お祖父様、日が落ちて参りましたわ。
そろそろ、終わりではなくって?」

「仕方ないのう、戻るかのう。
ほらっ、息子たちよ。
参ろうぞ!」

ぞろぞろとつらなって戻る姿は、滑稽こっけいそのものだ。
またもと来た道を、皆でトボトボ歩き。

森を出る頃には、哀愁あいしゅう漂うラッパが鳴り響く。

「朝は威勢いせいがよくって、終わりの夕暮れはなんかさびしげですわね?
誰が、こんな鳴らし方を考えしましたの?」

新規子分たちに質問する彼女は、に落ちないのか首をかしげて鳴り続ける曲を聴いていた。

「さぁ?最初に戦った人達でしょうね?
お嬢、暗くなります。
行きましょうぜ!」

いつの間にか新参者に、またお嬢と呼ばれるプリムローズ。
ハイハイと、照れて素直に従った。
    
 
    サンドラに馬鹿扱いされたルシアンは、馬を闇雲やみくもに走らせている訳ではなかった。
太陽の向きで黒い森の位置を把握はあくしていた、顔だけでなく頭の回転も少しは良いようだ。

「この川には見覚えがある。
今日は此処ここ野宿のじゅくをしよう。
お前も休むが良い!」

偉そうに馬に命じる、頼り無さげなエテルネルの王子様。
川で馬に水を飲ませると、近くの木に手綱たづなを巻きつけた。
馬が無ければ、プリムローズのいる場所にたどり着けない。

かばんから固くなりかかったパンと干した果物、川の水で腹を満たした。

「この私が、こんな食事を食べなくてはいけないとは…。
しかし、これもいい経験だ。
エテルネルでは、王宮では出来きない一生の思い出作りだな」

ヘイズの気温は、エテルネルと比べて温暖な国。
こうして外で寝ても、凍死とうさする恐れはまずない。
敷物を敷き、草や土を感じて眠ることにした。

サンドラとここでは兄ブライアンのルシアンを送り届けるように、命じられたグレゴリー子分たちは顔色を悪くしながら探している。

「お嬢に半殺しにされるぞ!」

「半殺しなら、まだいい!
あの世行きになるかも~!!」

サンドラたちの戻りが余りにも遅いため様子を見に行けば、縄にくくられているサンドラが木の下に座り込んでいた。

「あの男がしたのよー!
被害者で、私は悪くない!」

怒りながら被害者の振りを、彼女は必死ひっしにアピールする。
彼の単独行動だと、皆はあっさりと思い込んでしまった。
日頃から様々な人たちを怒鳴り散らしていただけあり、演技とは勘づくことはなかった。

自分の食べるはずの食事も奪われて、空腹だと彼女は文句まで言い出す始末。

「まず、疑いの余地よちはない!
ミュルクヴィズに向かったのだ」

「俺とお前で探しに行こう。
残りは無事にヴィクトリア様に、この娘を引き渡せ!
もし、ヘマしたら命がないぞ」

部下たちは命令を聞き、どんどん表情けわしくなる。

「【湯をかして水にする】だな。
よく死んだ婆ちゃんに、しかられた時に言われたぜ」

「苦労が無駄にしてしまう例えか…。
婆ちゃんでなく、ヴィクトリア様から大目玉喰おおめだまくらいそうだな」

「その前にお嬢の鉄拳てつけんが先だ。
知られる前に捕まえる。
もし、あの坊っちゃんに何かあったら…。
俺たち、マジにヤバイ~」

二人は馬に乗ると、ルシアンと同じ方角を勢いよく走り出した。
果たしてプリムローズより先に、捕まえる事はできるのであろうか。
見送るもの達は、二人の追う姿を祈るように見つめていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m

最強の薬師、婚約破棄される〜王子様の命は私の懐の中〜

岡暁舟
恋愛
代々薬師として王家に仕えてきたボアジエ公爵家。15代当主の長女リンプルもまた、優秀な薬師として主に王子ファンコニーの体調を整えていた。 献身的に仕えてくれるリンプルのことを、ファンコニーは少しずつ好きになっていった。次第に仲を深めていき、ついに、2人は婚約することになった。だがしかし、ある日突然問題が起きた。ファンコニーが突然倒れたのだ。その原因は、リンプルの処方の誤りであると決めつけられ、ファンコニー事故死計画という、突拍子もない疑いをかけられてしまう。 調査の指揮をとったのは、ボアジエ家の政敵であるホフマン公爵家の長女、アンナだった。 「ファンコニー様!今すぐあの女と婚約破棄してください!」 意識の回復したファンコニーに、アンナは詰め寄った。だが、ファンコニーは、本当にリンプルが自分を事故死させようと思ったのか、と疑問を抱き始め、自らの手で検証を始めることにした……。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。

木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。 当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。 私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。 だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。 そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。 だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。 そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。

契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
恋愛
 前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍化2024年9月下旬発売 ※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

処理中です...