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第6章  黒い森の戦い

第1話 地の利は人の和に如かず

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   月と星が一緒に空に並んで浮かんでいる時分に、プリムローズは目を覚ましてしまう。
気持ちが高まって眠りにつけないと思いきや、疲労からかいつの間にかグッスリ寝てしまっていた。

私って結構、神経がはしらぐらい太いのかしらね。
体をほぐすために戦に向けて準備運動していると、ニルスことトンボが挨拶してきた。

「お嬢、おはようございます。
お早いですね。
寝られませんでしたか?」

戦いの場にいる中で、一人女性の女の子。
戦の神の孫娘でも、緊張しいるのだと彼は気遣う。

「おはよう、トンボ!
ぜんぜん、よく寝れたわよ。
今日から、黒い森の戦いでしょう。
トンボは、あの森に入って戦ったわよね。
第一印象はどうだった?」

張り切って気分が高揚こうようしているのか、好奇心一杯で聞いてきた。

ニルスは、トンボと呼ばれる度に思い出す。
まだ、お嬢がお小さくて可愛らしい時代に…。

こんなことを思っているのを知られたら、お嬢に鉄拳てっけんを打ち込まれるかもと彼はドキッとする。

ニルス本人による、トンボ任命にんめいにされてしまった。
思い出回想かいせう時間のはじまり、始まりー。

「お嬢、あわててどうしたのです?」

「ニルス~、木から落ちてしまったみたいなの!
もしかして、死んじゃったの?!」

目から涙をポロポロ流して泣く、小さな手の中にいたのは鳥のひなだった。

「鳥の雛ですね。トンビかな?」

「トンボ?
この鳥はトンボって言うの?」

「お嬢、トンボではなくてトンビですよ」

結局は、トンビではなくてたかだったんだよなぁ。

それから何故か、トンボって呼ばれるようになったんだ。
なつかしい話だ。

「トンボ、ドンボったら聞いてるの!?」

「はいっ!森の事でしたよね。あの森は周りに山がそびえてますので、昼間でも暗く感じます。
木と木の間から日がしますから、目に突然に光が入ります」

「突然、光かが…。
目眩めくらましになるから、矢とかでねらわれたら厄介やっかいだわ。私も弓矢を、用意してあるから持っていくわ」

やはり、行く気満々まんまんか。
止めても、無駄むだみたいだな。

「朝ごはんを食べましょう。
昼は戦いながら食べますから、干し肉や果物を持って行きましょう」
  
「日があるまでしか戦えないから、大したことないと思った。意外に、長時間でしんどいわ。
早くチューダー将軍を見つけて、相手を倒さないと」

私たちは朝食を食べて、お祖父様の軍隊と合流するため陣地を離れることにした。

「では、タルモ殿たちには責任をとがめられなかったのですね」

ピーちゃんからの手紙で腹を下す薬を入れて、敵に壊滅かいめつ一歩手前まで打撃を与えた件の話だ。

「タルモ殿たちの演技が良かったのね。
食材がもとから、腐っていたと判断されたそうよ」

「もう、この手口てぐちは使えませんね。
度々たびたび、食材がくさると言い訳も出来ませんし…」

「えぇ、今度は戦いで始末をつけないといけない。
タルモ殿は、ミュルクヴィズに森には入らないと書いてあったわ」

  
 黒い森の前では、祖父グレゴリーを筆頭に百人位の兵士たちが日の昇るのを待っている。

「お祖父様、おはよううございます。
こうして戦いを待つのは、高揚感こうようかんとちょっぴり間抜まぬけ感が御座ございますわね」

「おはよう、思った通りに来てしまったか。
もし、怪我けがをしたり命が危なかったら逃げよ。
この笛を渡す。
わしが、余力があればお前を助けにるからな」

こんな時にギルがってくれたら、プリムローズをたくす事が出来たのにのう。
ギルとメリー、二人は無事なんじゃろうか。
空を眺めグレゴリーは身を案じていたら、ゆっくりと辺りが明るくなる。

「日が上る、森に入る準備を致せ!
ラッパを鳴らす者は用意するのじゃあ!」

ラッパの高らかな音が森の中から、グレゴリー側からもほぼ同時に鳴らされた。

「いざ参るぞ!ミュルクヴィズへー!!」

プリムローズは、初めてこの森に入った。
木が乱雑に植わってあるせいか、何処から相手が現れるか目だけでは後れをとる。
まして耳や気配けはいを感じないと、それにわな仕掛しかけてあるはずだ。

「思っていたよりも、中が暗いぞ。
チューダー殿を探すのは、困難かもしれんな」

「皆さん、一旦いったんバラバラになりましょう。
1箇所で大勢いますと、相手から狙いやすいですわ」

孫プリムローズの言っていることは、正しいと指揮する戦の神も思った。

「プリムローズのげんは良し!」

グレゴリーの一声いっせいに、皆が背筋を伸ばして注目する。

「相手は、地のを知りくしておる。
じゃがのう、【は人のかず】!
地理的条件の有利さも、人身の和と団結力にはおよばない。
命だけは大切にし、撤退するときは引くのだ。
よいな!」

大きな声はだせない。
敵に居場所いばしょが知られてしまう恐れがある。
だが人を従わす声に、一同は頷いてみせた。

私はお祖父様とトンボと組み、他は5名一組で黒い森の中で各自散かくじちらばって行くのだった。


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