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第5章  常勝王の道

第8話 信じる者は救われる

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 二人はギルの突然の奇妙きみょうな行動に、黙り地べたにっている男を見ていた。

「ギル師匠ししょう
、何をしているんですか?」

「ヤバい~、集団で誰か通る。
馬の足音が、地面に振動しているんだ。
メリー、殿下!
急いで、何処かへ隠れるぞ」

彼のあわてた態度に、二人もさっきまでの言い争いをピタリとやめて辺りを見回して隠れられそうな場所を探し始める。

「ギル師匠、アチラは?
あそこの脇の木々では、どうです!」

彼女はあせり気味で慌てて、近くの道からちょっと外れた木々を指差す。

「そこでは、馬が見えてしまう。
あちらの方が、まだマシだ!」

王子ルシアンはメリーに対抗してか、彼女の意見をくつがえした。

「殿下の意見は正しいな!
あちらに、急ぎ馬と隠れるぞ。
見つかったら終わりだ。
二人とも、静かにしろ分かったかー」

「貴方のほうが、一番声が大きいですわ。
黙っていて下さい!」

彼は二人の仲の悪さにこの先が思いやられそうだと、無言で首を振りながら馬を引いて行く。

 何とか3人は馬の手綱てづなを持ちながら木々の間に姿を隠して、今から通る集団が通り過ぎるのを待ちかまえる。

その集団は敵の様であり、驚くことに見知った男がまぎれ込んでいる。
メリーも気づいたのか目だけ大きくして、その通って行く姿を見つめていた。

通り過ぎてかなりたっった後、彼女がギルの腕をつかんで震える声で話しだした。

「ギル師匠……、あれはー。
あの中に居た、あの人は…!」

彼女は動じて、その名を言いたくないのか声をまらせている。

「メリー、お前が言おうとしている人物はー。
タルモ・コルホネンだ!」

片腕から両腕になり、揺さぶるように彼女は彼に質問した。

「何故?どうしてなの?
タルモ殿が…、敵と一緒にいるんです!
まさか、まさかお嬢様を裏切ったの!」

「メリー、平常心になれんだ。
お前は彼を信じないのか?
お嬢が、お認めになったタルモ殿をー!!」

彼女はプリムローズの名を聞くと、顔色が変わり静かになっていくのが二人の男性たちには分かった。

「すまなかったわ。
あのタルモ殿は、そんな事をする方ではない。
きっと、何か訳があるはずよ!」

自分に言い聞かせて、落ち着かせようとしているかのようにみえた。

「捕まっては仕方しかたない。
大人しく屋敷に戻ります。
ご迷惑をおかけしました」

ギルは、素直に謝罪するルシアンを見直していた。
本来は王族の出身、横柄おうへいな態度でしたがわす事もできる。
今現在の立場は、ただの貴族の子息扱いだけどな。

「殿下の謝罪は、受け入れるぜ。
しかし、不味まずいことになったな!」

彼は、苛立いらだった顔つきになる。
道を前と後ろと左右に顔を動かし、悩みながらどちらに進むか迷っている。

「戻らないのですか?
えっ、もしかしたら戻れないの?ギル師匠」

彼女は彼の表情を読み取って、確かに一本道でまた敵に出会ってしまったらどうなるかと想像する。
背筋がぶるっと震えて、表情がくもるメリー。

「この道は使えない。
だが、あの秘密の道ならー。
ここから林の奥に入ったら、馬がやっと通れる道が存在する」

「どこに道が…。
秘密の道は、本当にあるのか?
木がしげって、先に道らしきものはない」

ギルの言葉を信じられず疑心暗鬼ぎしんあんぎになりかかる、用心深いルシアン。

「俺に、今はすべての権限がある。
殿下が俺を信じられないなら、それでも構わない。
だが、力ずくでも従わす!」

「殿下、ギル師匠を信じましょう。
彼は、元はヘイズの者です。
私たちよりは、この国の地理を存じ上げてます」

ここでは、彼女は二人の間に立ち冷静に話し出す。
先ほどと立場が、入れ替わってしまったのだ。

「【信じる者は救われる】って、教えもあるからな。
ギル殿の言われる事を、私も信じよう!」

ルシアンたち3人は、木々の間を慎重に馬を引き奥へ向かって歩き出した。

これから始まる3人の小旅行は、どんな結末になるのか。

 
 黒い森では戦いの準備を、両軍は互いに敵に勘づかれないように進めていた。
プリムローズは、白鷹しらたかを腕にとめて力強く命令する。

「ピーちゃん、お仲間さんたち!
手紙と物資を頼んだわよ。
ついでに敵のお馬さんに、コチラに逃げるように伝言してね。
さぁー、お行きなさい!」

彼女の号令ごうれいとともに、鳥たちは羽ばたいて青空に飛んでゆく。
迫力満点のその勇姿ゆうしに、近くの兵たちの指揮も自然にあがる。

「いやいや、儂の孫娘は格好かっこいいのう~!
画家がかがおったら、この場面を描かせたいわい」

親バカでなく爺バカの戦の神と呼ばれた生ける伝説は、ダラシない顔して両将軍に向かい話しかけている。

殺伐した中でのノドかな雰囲気ふんいきは、ほんのつかでしかなかったのだ。



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