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第4章  光と闇が混ざる時

第23話 女子と小人とは養い難し

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  眠たい体をフラフラさせながら、スクード公爵夫人の後をついていくプリムローズ。
その後を心配そうにう、プリムローズ命メリー。

とても不穏ふおん気配けはいただわせ、毒女サンドラの暴れている部屋へおもむく。

「早く、オスモ様に会わせなさい。
ここは、いったい何処どこなのよ!」

その頭に響く声を聞き、彼女は左手の指を鳴らす。
眠たいのに無理に起こされて、かなりお怒り気味。
その鳴らす指を見ててのひらにパンパンたたきパンチを響かす、あるじ同様にブチ切れ寸前。

公爵夫人ニーナは、そんな二人に後ろから殺気を感じ怖くて自分をあわれんでいた。

『こんな時、どうして貴方は居ないの~?
オレフー~!!』

少し前に夫であるスクード公爵オレフは、捕まって解放されたクラレンス公爵長男ブライアン(ルシアン王子)を引き連れてハーヴモーネ侯爵の屋敷に行ってしまった。

喜劇、悲劇、惨劇はこれから始まるのであった。

 
 ニーナは決心してノックすると、目をつぶり思い切り扉を開けた。

「ちょっと、おばさん!
オスモ様は何処にいるの?!
黙っていないで、なにか言いなさいよ」

直ぐにプリムローズが、ニーナの後ろから姿を現す。

「黙れ、淫乱いんらん女がー!
何がう前に、貴方に酔いたいわ~だよ!
そんな事を言って、人の物に手を付けようとしたわね!」

彼女は左手で、サンドラのれ上がった右ほほにグーパンチを打ちこんだ。

倒れたサンドラをメリーは素早く両手首を後ろに回して、どこから出したのか縄で拘束こうそくした。

そのれた早業はやわざを、ニーナと部屋でサンドラを見張っていたイーダが驚いて見守っている。

「アンタが…、なんで?!
しっ、知って…るの!」

また、腫れ上がったせいで話づらそうなサンドラ。

「オスモ様を、助け出す前に聞こえてたのよ。
貴女、彼のあのリップサービスを真に受けたの?!
おめでたい、頭しているわね。
時間ぎに決まっているのよ!!」

プリムローズは、サンドラに向かい啖呵たんかをきった。

「う、うるちゃいー!
わたすを、選んだのよう!」

発音もあらしげなってくる。

「あんた、捕まっている分際ぶんざいえらそうにしてんだ。
立場が悪いのわかるでしょう。
少しは大人しくしろ!」

プリムローズの罵声ばせいに、ニーナはふらつきソファーに腰をおろす。

イーダは逆にニヤニヤ笑って、公爵夫人の背中をさす介抱かいほうしていた。

「メリー、コイツを話せないようにしなさい。
ニーナ様、しっかりなさいませ。
この者を、牢屋ろうやに閉じ込めろ!」

彼女の言うがまま、ニーナはイーダにそうするように命じた。

「お嬢様、口を縛りました。
息は出来ますから、死にません。
やっと、静かになりましたわね」

メリーは主の左手の拳を見てから、安堵あんどの表情を浮かべ話してきた。

「【女子と小人しょうじんとはやしながたし】とは、このように使う言葉ですな。
誠にお嬢様は、容赦ようしゃないお方だ!」

イーダがそう話してから男性の侍従じじゅうを呼び、サンドラを地下牢に入れるように頼んでいた。

「女性と徳がない人間とは、近づけるとに乗る者だ。
遠ざけるとうらむので、扱いにくいのはよくありますわ」

メリーは、イーダの言葉に納得していた。

「あらっ、メリー?!
私たちも女性よ!
まぁ、あの毒女サンドラとは同じではないけどね。
オーホホホー」

プリムローズの高笑いが部屋にして、横では今までの出来事が夢ならと思って目を閉じて座る公爵夫人がいた。

 
   夜遅くに帰宅した夫オレフに、サンドラとプリムローズの争いを詳細しょうさいに話していた妻はやつれ果てて見えた。

「そうか、わしが留守の間にそんな事があったか。
ニーナ、大変だったな。
儂もハーヴモーネでは同じぐらい大変じゃった」

 時は巻き戻る、3時間前。

スクード公爵は、ブライアンことルシアンを連れて向かっていた。
彼は、魂が抜けたような脱力感に襲われていた。
オレフは人質として扱われて、疲労困憊ひろうこんぱいなんだろうと思っておった。

もう一人の考えは違っていた。

「のう、ブライアン!
プリムは有能で強いじゃろう。
なさけなくも、易々と敵に捕まったお前を救い出した。
よく感謝致せよ!
無事に生きて戻れたことを!」

ハーヴモーネ侯爵こと、クラレンス公爵が嫌味を言ってきた。

「旦那様のおっしゃる通り。
ブライアンは過保護に育てすぎたわね。
プリムを見習い、少しはかしこ図太ずぶとくなりなさい。
そんなんでは、先行き不安です」

妻ヴィクトリアは、何気なにげにエテルネルの次期王に発破はっぱをかける。

そんな叱咤激励しったげきれいを重く受け止めた彼は、二人にびを言って静かに部屋を出ていくのだった。

その肩を落とした後ろ姿を見送るスクード公爵は、二人に言い方が厳し過ぎではないかと忠告する。

「何、甘い事を言っている。
お主の息子も同類じゃあ!
誰に救い出されたか、戻ったら実の息子に聞くのじゃな」

「ほんとうに、最近の子は軟弱で困る。
そなたの息子は、将来はこの地で将軍になるのであろう?!
プリムより弱いとは、恥知らずな!
オーホホホ!」

またまた、ヴィクトリアの馬鹿にした高笑いが部屋に響き渡るのである。

まさに祖母と孫娘は、遺伝子のお陰か性格がそっくり。
同時刻に違う場所で各々が高笑いして、その笑い声が部屋の中で響き渡っていたのだった。
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