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第4章  光と闇が混ざる時

第17話 嵐の前の静けさ

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 人の激しい出入りを想像して到着した二人は、玄関先でポカーンとして立っていた。

「お嬢様、怖いぐらい音がありませんね。
争いの準備でもしていて、殺気だっていると思ってました」

「エリアス、私も貴方と同じ意見です。
なんだか、様子がおかしいわ。
ピーちゃんには、先に公爵家に知らせるように頼んだのよ。
まだ、到着していないのかなぁ?」

駆け足の足音が、立ち止まる二人に聞こえてきた。

「お、お嬢様?エリアスも!
まだ、学園の授業時間ではないのですか!?」

メリーは、中庭の端で洗濯物を取り込んでいた。
馬車に乗っていたプリムローズを見て、急ぎあわてて玄関に現れた。

「メリー、ピーちゃんからの手紙を受け取らなかったの?!」

「受け取り、そのままスクード公爵様に渡しました。
中を読まずに先に渡すように書いてありましたので、イーダさんから公爵様へいっているはずですよ」

「そう、メリー有難う。
スクード公爵は、どちらにいらっしゃるの?
すぐにでも、お会いしたいわ」

二人の会話が響く玄関エントランスに、スクード公爵夫妻がコチラに向かってくる。
    
「プリムローズ嬢、鷹からの手紙を読んだ。
エリアス様、ご無事でなによりです。
オスモは何者かにだまされて、拉致らちされました。
我が息子ながら、警戒心がなく情けない!」

父であるこの屋敷の主人は、心配や悔しさを含んだ複雑な感情を顔色と声色こわいろで表していた。

横では泣いた様に見える。
公爵夫人ニーナが、それでも気丈きじょうにもしっかりと夫の側に立ち言葉を聞いている。

「お心をおさっし致しますわ。
スクード公爵様、我が兄ブライアンも拉致されました。
もしかしたら、私たちの迷いと分断を考えてしたのかも知れませんね」

その報告を聞くと、公爵夫妻は驚き話しだした。

「ブライアン様までも、オスモと同じ目に合っていますの!?
貴方、お早く二人を助けて下さいませ!」

夫人は、夫をうながすように腕に手をかけて揺さぶっていた。

「落ち着くのだ、ニーナ!
敵の思うツボだ。
この焦りこそが、命取りになるやもしれん」

プリムローズは、ヘイズの筆頭将軍のオレフの冷静さに感心する。

「スクード公爵様、矢は放たれました。
その矢をどう抜くか、そして放つかは慎重にしなくてはいけません。
ヘイズの内乱だけは、絶対に避けなくてはなりません」

彼女はよそ者だけに、第三者の目線で考えことを許されていた。

「そうであるな。
我らの内々で、絶対に終わらせる。
でなければ、平民まで巻き込む可能性もある。
築き上げた信頼が、全て崩れ落ちてしまう」

スクード公爵の言葉の意味は、ここにいる者に重く響く。

国とは意外にあやうい、どんな小さな事柄で争いの火種ひだねになり戦が起きるかは分からない。

「原因は、私が生きていたから?!
どうして、仲良くできないのかな?」

エリアスは、素直な思いを吐露していた。

「エリアス様!
もうその様な事を、二度と言うでないぞ!
貴方が、未来のヘイズをみちびく。
どうか、これから起きる事に目をむけてはなりませんぞ」

「そうですとも、私たちはヘイズ王の臣下です。
王に忠誠を誓った、貴族なのです。
あの方たちは、言わば賊軍ぞくぐんになりますわ」

東の将軍の奥方だけあるわ。
賊軍か、確かに西の将軍が自分の軍を動かしたら…。
王に叛逆はんきした賊軍になる。
そこまで、果たして動いてしまうのか?!
王の命令無しでは、軍は動かせない。

「【嵐の前の静けさ】ですかな。
坊っちゃん、孫たちも戦闘の準備は万端ですわい。
屋敷は、イーダと奥様にまかせなさい」

気配を消していたのか、突然に現れたイーダに驚くプリムローズたち。

イーダを見て、プリムローズは思う。
やはり、魔女さんなのではとー。

「感謝するよ、イーダ。
エリアス様、貴方様がお生まれになる前からの因縁いんねんです。
無能にも、わしらが気づかなかった。
2つの海賊の争いが、復活したのです。
負けた者が長きに渡り、しいたげ続けた結果ですな」

プリムローズはスクードの落ち着いた考えと、静かな声に不安を感じた。

「嵐の前の静けさは、今日だけでしょうか?!
嵐が去ったあとは、どんな空を見られるのでしょうか?!
私たちは…」

プリムローズの震える声が、6人しか居ないエントランスにかすかに響いた。

そんな空気を打ち破る、プリムローズの護衛ギルの声がした。

「お嬢、親父様が此方にお見えになる。
ピーが教えてくれた。
厄介事が、どうやら始まるな」

ギルはいつもの不真面目さが消えて、精悍せいかんな顔立ちをしていた。

「ギル、お前が真面目だと怖い!
こんな時は、なごませなさいな」

彼女は、わざと明るく文句を言う。
空元気を出さないと、士気が下がると感じていたのだった。

スクードは突然笑いだして、プリムローズとエリアスの頭をでた。

「すまん、子供になぐさめられるとはのう。
戦いは、まだ始まってもいない。
これからなのに、弱気になってしまったわい」

スクード公爵の言葉に、私たちは無理にでも笑ってみせた。
しかし、ここにいる者たちは一応に心が深く沈んでいた様にみえていた。






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