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第4章  光と闇が混ざる時

第14話 先んずれば人を制す

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    ハーヴモーネ侯爵夫妻を前にして、商人タルモは緊張気味。
彼はたくさんの貴族にあきないをして、彼らにれていたつもりでいた。

「そちが、孫娘が世話になった。
……、ヘイズの商人か?
わしは、祖父のグレゴリー・ド・クラレンスだ。
そうじゃった。
ここでは、ハーヴモーネと呼んでくれ。
宜しゅう頼むな!」

祖父がタルモ殿に名乗ると、横に立つ祖母が次に挨拶する。

わらわが、妻のヴィクトリア・ド・クラレンスです。
プリムローズが迷惑かけたのう、礼を申すぞ」

優雅におうぎで口元を隠して、お得意の鋭い目線で自己紹介してくる。

「お目にかかれて、光栄のいたりでございます。
タルモ・ホルコネンと申します」

挨拶すると、タルモは黙って近くにいるルシアン殿下をチラリと見た。

「あぁ、そこの若造は孫のブライアンだ。
まぁ、ちょい訳ありだが~。
この子は、気にせんでよいわ」

投げやりに紹介されて無言でお辞儀する、ブライアン。
本来は、エテルネルのルシアン王子殿下であった。

プリムローズを含めた5人は、タルモとプリムローズとの出会いや船の旅路の話で盛りあがる。

「ほお~、そうか。
優れた商人に助けて頂いたのじゃあな。
プリムローズが迷惑かけたついでに、儂も助けてくれんか?
のう、……駄目かのう?!」

プリムローズは、やはりと感じてタルモ殿に申し訳なさそうに流し目を送る。
ブライアンは、そんな彼女の表情の変化をさっした。
祖母ヴィクトリアは、夫の味方なので平然と話を聞いていた。

「私は…、一介いっかいのただの商人にすぎません。
クラレンス公爵様…。
いや、ハーヴモーネ侯爵様のような立派な方のお役に立てるなどございません」

上手い、なんと見事なお断り術とプリムローズはタルモの機転に羨望せんぼう眼差まなざしで見守る。

「いやいや、儂など片足に棺桶かんおけを突っ込んどる。
ただのくたびれたじじいじゃ。
若いそちの方が、よっぽど役立つと思うぞ!
のう~、儂を助けてはくれんか?!」

これは断れないと、ルシアンはクラレンス公爵のねばる話し方でそう感じた。
これを拒絶出来る者は、なかなかこの世にはおるまい。
    
「ハーヴモーネ侯爵、私は何度も言うがただの商人。
一度商談したら誠心誠意、相手の求める品を探すのが仕事。
失礼ですが、内容によっては断ります。
それでも、宜しいのですか?!」

『クーッしびれる、ズバリきましたわ。
二人の間には、凄まじい緊張感が走っていますこと。
あの祖父に対して、これ程ハッキリ仰る。
まさに今、商人の神を目の前で見ましたわ』

プリムローズは、エリアスの件で船長とのやり取りはこんな感じだったのだろうと想像した。

「ふぅ~ん、まぁ良いぞ!
久々に骨のある御仁ごじんに会って、儂も喜んでいるぞ」

『おぉー、あの戦の神を退しりぞけた。
なんと、豪胆ごうたんなお人だ』

尊敬に値する、ルシアンは瞳を輝かしタルモから目を離せずにいた。

戦の神対商人の神は、互いに目を見ながら話をつづけた。

「タルモ殿にエリアス様の噂を、上手い具合に流して欲しい。
商人たちから貴族たちに、うまく伝えて欲しいのだ」

「【先んずれば人を制す】ですか?
人より先に行動すれば、有利な立場に立つことができますな。
でっ、ハーヴモーネ侯爵様!
なんと、私は伝えれば良いのです」

祖母は二人の話し合いを静かに聞く姿勢にてっしていたが、それを孫娘は恐れた。
彼女は元大国の王女殿下、このような策略にたけている。

「エリアス様は、王弟夫妻の乗る馬車の車輪を外れるように工作こうさくした犯人を存じあげておる。
彼を屋敷から連れ去り逃し、世話した者から伺ったとな。
その様な噂を、うまく流して欲しい」

私たち4人は祖父の話を聞き、驚きの声を各々出してから祖父クレゴリーの話の続きを待った。

「亡くなった先王から、病床で伺ったのだ。
誰かがー、行為に害したとな。
自分が居なくなった後に、息子が王になり心配だと話された。
儂が、他所の者には話しやすかったのであろう」

沈黙を破るのは、冷静な商人の声であった。

「我が商会の1番の得意先の大事…。
力になりますが、私の主に話しても宜しいか。
何せ、私は商会に属する者ですからな」

祖父は、タルモ殿の商会の代表者を頭の中で思い浮かべているのか?
暫く、手をアゴに置き考えている様子していた。
大きく一度頷くと、タルモ殿に一言だけ返事をした。

「商談成立です!
決行日は、主から返事をもらい次第で宜しいか?!」

「よい!我が屋敷には、敵がいつ来ても良いように準備する。
ヴィクトリアは、スクード公爵の屋敷にプリムローズと行け!
案ずるな、戦争より楽な戦いになる」

「旦那様、私はここにおります。
けして、足手まといにはなりませぬ」

祖母は扇を握りしめると、目線まであげて一気にバラバラにしてみせた。
これには、見ていた私たちは目を丸くした。

「ワーハハハハ、怪力かいりき王女は本当だったのだな。
ヴィクトリア、ああ分かった。
身の危険を感じたら、すぐにでも逃げるのじゃぞ。
儂に、約束できるな!」

「はい、旦那様!」

怪力王女って、お祖母様のこと?!
祖母はたくさんの扇を簡単に破壊しているけど、馬力ばりきではなく怪力だったの?!

「お噂は、このヘイズにも聞こえています。
アルゴラの元第一王女は、狩りで偶然に出会った熊を投げ飛ばして腹を一撃して瞬殺しゅんさつしたと…」

タルモは、バラバラなった扇の残骸ざんがいを見つめてはアッサリと話をしてきた。

「えっ、お祖母様が!
熊ちゃんを○○しましたの?!
凄いー、私も熊ちゃんを投げ飛ばしてみたいー」

「そんなこともありましたな。
昔過ぎて、妾は忘れたわ」

物騒な事をまた平然と嬉しそうに話す少女と祖母。
エテルネルの王子は、二人を青い顔で見ていた。
 
「…………。(ここへ来なければ、良かった)」

ルシアンはクラレンス公爵一家の異常性を知ってはいたが、恐らくそれは一部なんだと今初めて思い知る。

『プリムローズ嬢を、私の伴侶にできるのだろうか?
その前に、私が○○されそうになるのではないか?』

ルシアンは、エリアスの身代わりよりも恐ろしく感じるのである。
    
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