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第4章  光と闇が混ざる時

第12話 英雄人を欺く

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 ひと通り孫から説明を聞くと、戦の神は何もせずに待つのが性格上我慢できそうもない。
どうして、相手の出方でかたを静かに傍観ぼうかんしなくてはならんのだ!

「プリムローズー!!
仕掛けられる前に、此方こちらが先方にわなにかけるぞ!」

「……!!お祖父様、いきなり何ですか?!
罠って…、誰が動くのです?」

祖父の突拍子とっぴょうしのなさに、目をパチパチさせる孫娘。

「お前から、スクード公爵にこう言うのだ。
王宮にいる王弟の息子はいつわりで、ハーヴモーネ侯爵にかくまわれているのが本物だとな。
そうすれば、この屋敷にぞくが入るはずじゃあ!
ワーッハハハ!」

「な、何をー、馬鹿な事をおっしゃいますか?
王宮の中でさえ、影武者の食事に変なものが盛られてますのよ。
いや、あれは偶然でしたが……。
それに、その代わりになる方はだあ…」

言いかけて、優雅に紅茶を飲んでいたルシアン王子に目を向ける。

『あー、あらそうね?!
本物の王子が、ここにちょうど良くいますわね。
目の色などは、じっくり見なければ他人には分かりませんわ』

全ての部屋の人の視線を集めているとは、気付かない鈍感どんかんな王子は茶菓子に手を出そうとしていた。

「お祖父様、スクード公爵とヘーディン侯爵におうかがいを立ててくれますか?!
勝手によそ者の私たちで、事を起こすのは失礼ですわ」

「おおー、そうじゃな。
協力者にも、しかと聞かんとならん。
たがな…、儂に対して拒否権はないがのう」

一瞬、青い瞳を光らせる神。

「そなたも、近い将来の為に良い経験となります。
一国の王とは、何時なんどき命をねらわれるか知れぬからのう」

ルシアン殿下もとい、ここではブライアンが持っていたクッキーをテーブルに落す。
クラレンス公爵の3人を、代わる代わるキョロキョロと顔を見ては固まる。

口の口角をあげ、目線を鋭く私を見ているではないか。
ライオンにねらわれた、子ウサギの心境。

この者たち、エテルネルでは臣下のはずだ!
だが、実際は立場が見事に逆転している。

「……、クラ、クラレンス公爵よ。
よもや…、この私をおとりに使うのではないよな!
私はソナタらの国の王子であり、未来の国王になるかもしれないのだぞー!」

拒絶して逃げようともがく子ウサギに、美しい子ライオンが輝く笑顔で説得を開始。

「ブライアン様、王子とはどなたですか!
いまは、ハーヴモーネ侯爵の孫でしょう?
貴方はここでは、その身分しかないのですよ。
安心しなさい、命は保証しますわ。
ねぇ~、お祖父様?!」

「プリムローズの言うとおりじゃ!
お前たちも、この根性なしの孫を頼むぞー!よいな」

ヘーイっと片膝を立てて、祖父グレゴリーに忠誠を誓う子分一同。

「気が狂ったか、何を勝手に決めておるのだ。
私はー、その者の代理にはならんぞ。
命を狙われてると分かり、どうして引き受けなればならんのか!
どう考えても、おかしいだろうー!!」

プリムローズは無様に吠える、ウサギではなく犬にかつを入れる。

「男らしくない。
それになんと情けないの。
これが、国の王になる者か。
そんな国は、今すぐに失くして滅びた方がよい!
この私が…、エテルネルを奪おうか?
このロイヤル・ゴッド・アイの瞳に誓い、お前を滅ぼすぞー!」

怒りに目の色を変えた彼女は、ルシアンを指さして滅びの誓いをとなえた。

「ホーホホ、二人とも頭を冷やせ。
殿下、プリムローズを怒らせるでない。
我が孫ながら、アルゴラでは王より権限を持つ者。
神のお告げでエテルネルを滅ぼせと、一言申せばアルゴラはいとも簡単に動くぞ」

祖母ヴィクトリアはおうぎで口を隠して、お得意の氷の視線でルシアンを恐喝きょうかつしてきた。

「嘘だろう、どうして。
はい、プリムローズ様。私が悪うございました」

ルシアンはあっさりとびた。
とにかく、五体満足ごたいまんぞく無事にエテルネルに帰れることを最優先に考えたのだ。

「ブライアン様、素直でいい子ですこと。
そう、思いますわよね。
皆さま~~も!」

ヘーイと子分たちは返事をし、祖父は腕を組みながら無言でうなづく。
祖父の横では、祖母が高笑いをしていた。

「ヨシ、これから儂らは剣の稽古けいこをするぞ。
ヴィクトリア、すまぬがスクード公爵宛に儂の思っている事を手紙に書いとくれ。
お前たちも稽古だー!!
船に乗っておったら、体がなまってしまったからのうー!」

プリムローズとグレゴリーは、子分たちを引き連れて庭に向かっていく。

ルシアンは何も考えられず、ただプリムローズたちが去っていった扉を見ていた。
夫に依頼された手紙を書きに、祖母ヴィクトリアまでも部屋から出ていく。

彼は部屋に捨て置かれ、独りぼっちになってしまった。

 プリムローズは、久々の祖父による剣の稽古に夢中になる。
ヘイズに来てから、スクード公爵やギルとは相手になってもらっていた。
しかし、やはり自分を知り尽くしている祖父との稽古は緊張感がある。

手加減てかげんしないばかりか、苦手な場所やタイミングの外し方が絶妙で剣を突くのもけるのも困難。

「どうした、ヘイズに来てから腕が鈍ったか?!
それでは、敵に刺されて命を落とすぞ!」

グレゴリーは、プリムローズに言葉と剣で攻め立ててくる。
最後は、両方の剣が激しく当たり終了になった。

 
 スクード公爵邸に帰宅すると、祖父母からの手紙が届いていた。

「英雄は才知にたけている。
人の考えもつなかいような策略を用いて、相手をあざむく。
戦の神は…、まさにそのようなお方だ」

スクード公爵オレフは、グレゴリーの手紙を読み終えると感想を独り言のように囁いた。

「【英雄人を欺く】、先人のお言葉ですか?!
祖父は孫の私でも、何を考え思うのか。
予測不可能のお方ですわ」

その方の孫娘の顔を見て深い笑みを返すと、次に公爵は暮れかかる窓の空を見つめた。
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