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第4章 光と闇が混ざる時
第11話 火中の栗を拾う
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迎えの馬車に乗る前に、幼い頃に剣を教えてくれた顔なじみの御者に言葉をかける。
「おや、久しぶりね。
貴方もヘイズの出身だったの?」
「お嬢、元気そうだ。
薄々は勘づいているでしょう?
流れ者は、この国から来てるってよ」
彼らは見かけは悪そうに見える者が多いが、心は美しいと彼女は信じていた。
道から外れたのか、その他の理由があったのか。
そんな過去の事は、二人の間には関係がなかった。
「留学前に気づいたのよ。
ヘイズ語は、あなた方から剣術と一緒に教わったもの。
貴方は自由よ。
祖国にこのままでも、誰も咎めないわ。
きっと、お祖父様もそう思ってお声をかけたのでしょうから」
「だからこそ、もう一度あの頃の自分に区切りをつけるために来たのさ。
たぶん、俺だけでなく。
お嬢、ありがとうな!」
彼の照れた笑顔見ると、黙って頷き馬車に乗り込んだ。
屋敷はエテルネルとは違う感じがして、二階建ての横に長く両端がカーブして鳥が羽を広げた形に似ていた。
庭は広い芝生になっていて、ちょっとした運動競技が出来そうだった。
お行儀が悪いけど、裸足で駆けっこしたい気分になるわ。
第一印象は、心が穏やかになる住居のように感じた。
馬車で屋敷の玄関前に到着すると、祖父母とルシアン殿下が出迎えてくれる。
「よう来たな、プリムローズ。
教会で、ベルナドッテ公爵に会って話したそうだな」
なんで知っているのと、目を大きくして祖父グレゴリーを見る。
「ハーヴモーネ侯爵様は、もしや教会にいらっしゃってましたか?」
お祖父様なら変装でもして、教会に潜んでいた可能性もある。
この方は身内とはいえ、予測不可能で奇想天外な行動するからだ。
ある意味人生が、冒険のようなお人だ。
「おっ、相変わらず鋭いな。
我が孫だけあるわい。
ここには信用出来る者だけがいる。
お祖父様と呼んどくれ」
「プリム、お昼にまで少し時間があります。
ヘイズで何があったのかは手紙で知っていますが、詳細に教えてね」
祖父母はちょっと固い表情になり、部屋に案内してくれた。
「プリムローズ嬢、会えて嬉しいよ。
私も聞くように、お二人から言われているんだ」
ルシアン殿下は緊張した面持ちで、ぎこちない笑いをしてきた。
「殿下、もしかしたらエテルネルにも起きないとは言えない事案です。
どうか、真剣に聞きお考え下さいませ」
そう見えないだけで、どの国にも闇の中でくすぶっている。
覇権争いにお家騒動が、それを大きくしたのが今回の話だ。
私は船の中でエリアスに出会って助けたことや、ヴェント侯爵夫人を港で強盗から助けた話をした。
偶然にも図書館で密談の話を聞く事になると、お祖父様がたまらずに声を出した。
「ほんに、プリムは次から次へと事件に巻き込まれるな。
悪魔祓いでも、神父に頼むとするかのう」
「旦那様は、それはどうでしょうか?
しかし、そんな場所でのう。
そのヴェント侯爵と一緒の方は、誰かはわからないの?!」
祖母ヴィクトリアは、もうひとりの首謀者を知りたがっていた。
「教会で話をしたベルナドッテ公爵だと思っていたけど、声が違う気がしたの。
やはり、王宮で侍従長をしている伯爵が怪しいわ」
あまりの複雑な人間関係と、入り交じる感情に先が読めなくなっていた。
まだ11歳、無理に近い。
大人でも、考察は困難であろう。
「プリムローズ嬢は、図書館で姿を見なかったのか?
話だけ聞いていただけか?」
殿下は、普段の彼女にしては消極的と感じていた。
「殿下…、プリムローズは正しい判断をしたわ。
もし見つかっていたら、抹殺されたかもしれませんもの」
祖母ヴィクトリアはそう話すと、隣りに座っていた孫娘を優しく抱きしめた。
「うむっ、儂がベルナドッテなら【火中の栗を拾う】事をしない!
どちらに転んでも、王位継承権はある。
傍観しているのが、得策だな」
目を閉じ威厳ある話し方に、聞いているものは身を引き締める。
「お祖父様~!
何故にこの者たちも、一緒にこの部屋で話を聞いてるのです!
これ、秘密ですよ?!
漏たり知られてしまったら、私はスクード公爵やヘイズ王に本当に首を切られましてよー!!」
プリムローズは祖父に焦り声で文句を言って、部屋にいる集団を指さした。
部屋にあぐらをかいて、人相が悪いのにさらに鋭い目付きで話を伺っていた。
その人数は、50人以上!
クラレンス公爵を親父と慕う子分たちであった。
ルシアンもそうは思っていたが、クラレンス公爵に物言いは出来なかった。
身内であるからできる容赦ない突っ込みだが、どうしてに話す前に言わないのかと焦る彼女を見て思う。
「プリムローズよ!
あやつらの祖国の大事なのだ。
儂が連れてきたのは、生きている間にもう一度故郷の土を踏みしめて欲しかった」
彼女は、祖父の言葉に騙されなかった。
キレイ事を言うのには、必ず裏がある。
「お、親父~!!」と、何十人もの子分たちは感動したように叫んでいる。
その姿を見て、プリムローズは口元をただピクピクさせた。
コイツらは、このような任侠ものにまるっきし弱い。
腕は立つが頭は弱く、心が変に純真であり矛盾の塊であった。
「お嬢~、俺らは裏切りませんぜ!
ちっこい頃から可愛がっているお嬢を、首をチョンパには決してさせません!」
「そうだ、お嬢は俺らの天使だ!」
あちらこちらで、泣きながら叫ぶような声を出す。
「な、なんでー!
私の気持ちがわかるの!
首をチョンパは嫌だってー!!」
「貴女が頭を抱えて言ってたのですよ。
プリムローズ、大丈夫です!
もし、殺られそうになったら…。
私たちが、先にすれば良いだけですからね!オーホホホ」
祖母の殺人命令と高笑いに、子分はいち早く反応を示した。
「我らにお任せ下さい、ヴィクトリア様。
用心棒や殺しは手馴れてますから、口封じしますぜい!
なぁ~、お前らー!」
ヘーイ!!と、部屋の窓ガラスが割れそうな響く雄叫びをあげた。
「おや、久しぶりね。
貴方もヘイズの出身だったの?」
「お嬢、元気そうだ。
薄々は勘づいているでしょう?
流れ者は、この国から来てるってよ」
彼らは見かけは悪そうに見える者が多いが、心は美しいと彼女は信じていた。
道から外れたのか、その他の理由があったのか。
そんな過去の事は、二人の間には関係がなかった。
「留学前に気づいたのよ。
ヘイズ語は、あなた方から剣術と一緒に教わったもの。
貴方は自由よ。
祖国にこのままでも、誰も咎めないわ。
きっと、お祖父様もそう思ってお声をかけたのでしょうから」
「だからこそ、もう一度あの頃の自分に区切りをつけるために来たのさ。
たぶん、俺だけでなく。
お嬢、ありがとうな!」
彼の照れた笑顔見ると、黙って頷き馬車に乗り込んだ。
屋敷はエテルネルとは違う感じがして、二階建ての横に長く両端がカーブして鳥が羽を広げた形に似ていた。
庭は広い芝生になっていて、ちょっとした運動競技が出来そうだった。
お行儀が悪いけど、裸足で駆けっこしたい気分になるわ。
第一印象は、心が穏やかになる住居のように感じた。
馬車で屋敷の玄関前に到着すると、祖父母とルシアン殿下が出迎えてくれる。
「よう来たな、プリムローズ。
教会で、ベルナドッテ公爵に会って話したそうだな」
なんで知っているのと、目を大きくして祖父グレゴリーを見る。
「ハーヴモーネ侯爵様は、もしや教会にいらっしゃってましたか?」
お祖父様なら変装でもして、教会に潜んでいた可能性もある。
この方は身内とはいえ、予測不可能で奇想天外な行動するからだ。
ある意味人生が、冒険のようなお人だ。
「おっ、相変わらず鋭いな。
我が孫だけあるわい。
ここには信用出来る者だけがいる。
お祖父様と呼んどくれ」
「プリム、お昼にまで少し時間があります。
ヘイズで何があったのかは手紙で知っていますが、詳細に教えてね」
祖父母はちょっと固い表情になり、部屋に案内してくれた。
「プリムローズ嬢、会えて嬉しいよ。
私も聞くように、お二人から言われているんだ」
ルシアン殿下は緊張した面持ちで、ぎこちない笑いをしてきた。
「殿下、もしかしたらエテルネルにも起きないとは言えない事案です。
どうか、真剣に聞きお考え下さいませ」
そう見えないだけで、どの国にも闇の中でくすぶっている。
覇権争いにお家騒動が、それを大きくしたのが今回の話だ。
私は船の中でエリアスに出会って助けたことや、ヴェント侯爵夫人を港で強盗から助けた話をした。
偶然にも図書館で密談の話を聞く事になると、お祖父様がたまらずに声を出した。
「ほんに、プリムは次から次へと事件に巻き込まれるな。
悪魔祓いでも、神父に頼むとするかのう」
「旦那様は、それはどうでしょうか?
しかし、そんな場所でのう。
そのヴェント侯爵と一緒の方は、誰かはわからないの?!」
祖母ヴィクトリアは、もうひとりの首謀者を知りたがっていた。
「教会で話をしたベルナドッテ公爵だと思っていたけど、声が違う気がしたの。
やはり、王宮で侍従長をしている伯爵が怪しいわ」
あまりの複雑な人間関係と、入り交じる感情に先が読めなくなっていた。
まだ11歳、無理に近い。
大人でも、考察は困難であろう。
「プリムローズ嬢は、図書館で姿を見なかったのか?
話だけ聞いていただけか?」
殿下は、普段の彼女にしては消極的と感じていた。
「殿下…、プリムローズは正しい判断をしたわ。
もし見つかっていたら、抹殺されたかもしれませんもの」
祖母ヴィクトリアはそう話すと、隣りに座っていた孫娘を優しく抱きしめた。
「うむっ、儂がベルナドッテなら【火中の栗を拾う】事をしない!
どちらに転んでも、王位継承権はある。
傍観しているのが、得策だな」
目を閉じ威厳ある話し方に、聞いているものは身を引き締める。
「お祖父様~!
何故にこの者たちも、一緒にこの部屋で話を聞いてるのです!
これ、秘密ですよ?!
漏たり知られてしまったら、私はスクード公爵やヘイズ王に本当に首を切られましてよー!!」
プリムローズは祖父に焦り声で文句を言って、部屋にいる集団を指さした。
部屋にあぐらをかいて、人相が悪いのにさらに鋭い目付きで話を伺っていた。
その人数は、50人以上!
クラレンス公爵を親父と慕う子分たちであった。
ルシアンもそうは思っていたが、クラレンス公爵に物言いは出来なかった。
身内であるからできる容赦ない突っ込みだが、どうしてに話す前に言わないのかと焦る彼女を見て思う。
「プリムローズよ!
あやつらの祖国の大事なのだ。
儂が連れてきたのは、生きている間にもう一度故郷の土を踏みしめて欲しかった」
彼女は、祖父の言葉に騙されなかった。
キレイ事を言うのには、必ず裏がある。
「お、親父~!!」と、何十人もの子分たちは感動したように叫んでいる。
その姿を見て、プリムローズは口元をただピクピクさせた。
コイツらは、このような任侠ものにまるっきし弱い。
腕は立つが頭は弱く、心が変に純真であり矛盾の塊であった。
「お嬢~、俺らは裏切りませんぜ!
ちっこい頃から可愛がっているお嬢を、首をチョンパには決してさせません!」
「そうだ、お嬢は俺らの天使だ!」
あちらこちらで、泣きながら叫ぶような声を出す。
「な、なんでー!
私の気持ちがわかるの!
首をチョンパは嫌だってー!!」
「貴女が頭を抱えて言ってたのですよ。
プリムローズ、大丈夫です!
もし、殺られそうになったら…。
私たちが、先にすれば良いだけですからね!オーホホホ」
祖母の殺人命令と高笑いに、子分はいち早く反応を示した。
「我らにお任せ下さい、ヴィクトリア様。
用心棒や殺しは手馴れてますから、口封じしますぜい!
なぁ~、お前らー!」
ヘーイ!!と、部屋の窓ガラスが割れそうな響く雄叫びをあげた。
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