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第4章  光と闇が混ざる時

第10話 親の思う心にまさる親心

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    騒いだ翌朝は日曜日だったので、教会に行ってお祈りをする。
どの国も、神様に信仰心をお持ちのようだ。

そこで祖父母と合流して、私はお祖父様の屋敷に行くことになっている。
やはりこの国もしっかりと身分差があり、貴族と平民は別々に神父さまの有難いお言葉を聞かされる。
最後に賛美歌さんびかを歌うが、まだこの国の歌が歌えないので口だけ動かして誤魔化ごまかす。

席順は、代々割り当てられた席に座るようだ。
高齢や病気の方になると、神父が出張して家まで行ってくれる。
死に近いと感じる人ほど、何かにすがり神を求める信仰心が強くなりやすい。

スクード公爵家は、1番前の中央に位置していた。
その横は、あのベルナドッテ公爵家である。
教会に何度か足を運んでいるのだが、横はいつも空席であった。

後ろの出入り口から、ザワつく声がしてきた。

「これは、お珍しいことだ。
ベルナドッテ公爵が参ったようじゃ」

「奥方様を亡くされたご葬儀以来であろうか!?」

「ほぉー、ご嫡男もお見栄みえになっておる。
病が回復されたようだ」

後ろの席で、他の貴族たちがヒソヒソと話し合っていた。

私たちは立ち上がり、ベルナドッテ公爵を出迎えた。

彼は先々代王の息子の子、つまり祖父が王様ね。
エリアスとの関係は、いとこ叔父にあたる。
ややこしいわね、その息子だといとこ甥になるのかしら?
とにかく血縁だが、関係は薄そうね。

スクード公爵と爵位は同列だったが、その血筋上は明らかに身分は上だった。

「あちらから、わしらに会いに出向いたとはな。
プリムローズ嬢、顔にお気持ちを出しなさるな。
あの者は、なかなかの切れ者だ」

スクード公爵はにこやかな顔をして、冷たい口調で命じる。

「久しいなスクード公爵夫妻。
嫡男ちゃくなんのオスモ殿は、この場には居ないようだ。
そちらの可愛らしい女の子は、どこのどなたじゃ?
私たちに、よかったら紹介してくれないか?!」

ヤン・ベルナドッテ公爵の容姿は、茶色が少し混じった金髪に薄い緑色の瞳。
その目は、プリムローズを真っ直ぐに探るように見ていた。
彼は、私の出方を見て探ろうとしている。
子供らしくしてやり過ごすか、それとも普通にした方が良いのか悩む。

「あぁ、こちらはエテルネル国から留学に来ている。
クラレンス公爵令嬢である」

「お初にお目にかかれて光栄ですわ。
プリムローズ・ド・クラレンスです。
どうか、お見知りおきを」

カーテシーして、彼に対して最低限の挨拶をした。

「美しい所作しょさですな。
なるほど、アルゴラの元第一王女のお孫様かー。
私はヤン・ベルナドッテだ。
こちらは息子のヨハンと申す」

隣に立つ子息は病み上がりのようで、き通るほどの白さであった。

エリアスとは、別の弱々しさが見受けられていた。
二人の共通点は、日を浴びる生活していなかったことであろう。

ただ健康面では、エリアスの方がどんどん元気になっているように思えた。

「ヨハン・ベルナドッテです。
海を越えて、遠い国から来たのですね。
機会がありましたら、お国のお話をお聞かせ下さいね。
クラレンス公爵令嬢」

脆弱せいじゃくそうに見えるせいか、大人しく優しそうな印象。

「えぇ、是非とも。
今日はお会い出来て嬉しゅうございますわ」

この方は、父親が何をしているかはご存知ないようだわ。
もし知っていてこの態度なら、それは恐ろしいお方だわ。

プリムローズは、ベルナドッテ公爵と子息ヨハンに微笑んだ。

それから、神父さまのお説教や讃美歌を歌い無事に終了した。

「そろそろ、馬車が迎えに来ますかのう。
ベルナドッテ公爵も、真っ先に静かに帰りましたな」

「子息のヨハン様も、以前よりも顔色が良くおなりになりましたわね」

公爵夫妻が、彼らを気にしているみたいで話題にしていた。

「そんなに、彼は具合が悪かったのですか。
年齢は知りませんが、痩せぎみでお顔も青白かったですわ」

プリムローズは正直に話すと、ヨハン様は早産だったらしくかなり危ないお産で生まれたと教えてくれた。

「お可哀想に母上様は、それが原因でお体が弱り。
3年前に、お亡くなりになりました」

プリムローズは想像するとおり、ベルナドッテ公爵の正妻は現在いないんではと考えた。

「お年は13歳ですよ。
ベルナドッテ公爵は病弱な子息のために、国中の医者に診察させ薬や体に良い食べ物を与えたとの噂ですわ」

もしや、夫人の死と息子の健康面がこの謀反むほんの原因なのかしら?

「【親思う心にまさる親心】なのかしら?
病弱な息子を思い、権力に目覚めたのでしょうか?!」

自分達に向かって、話してはいないと見ていて感じていた。
彼女の思いが、自然に言葉に出たんだろう。
公爵夫妻は、彼女の遠くを見る目線でそう思うのである。

「子が親を思う心よりも、親が子を思う心はいっそう深いもんだ。
たがな、やりすぎはいかん!
その思いは、親なら大抵は持っている気持ちだ」

「旦那様、だとしたら…。子である彼は、事実を知ったら悲しむのではないでしょうか。
そんな事をして彼が喜ぶとは、私には思えません」

公爵夫人ニーナは、子を持つ母として胸を締めつける思いをする。

ベルナドッテ公爵親子が出ていった出入口を眺め、私たちは思いをひとつにした。
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