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第4章  光と闇が混ざる時

第2話 蓼食う虫も好き好き

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 約束していた土曜日、この日がやってきてしまった。
メリーとギルには、エリアスを部屋から出さない様に命じる。
用心に越したことはない。
敵はあれから慎重しんちょうにしていて、どういう出方でかたをするか予想できないからだ。

もしかしたら、彼らも私たちと同じ考えをしているかも。
お互いに長い神経戦になりそうと、プリムローズはそう腹をくくっていた。

スクード公爵と彼女は、パーレン伯爵一家が訪問前にそう話し合っているとー。

「旦那様、パーレン伯爵夫妻にご令嬢がお見えになりました」

イーダが私たちに声をかけ、玄関に向かうとテレーシアの母親子の体型を見て納得する。
どうやら、彼女は母親似のようなのね。
胸の内だけで思い、プリムローズは口にしないように努力した。

「この度は、我が娘テレーシアがご迷惑をおかけして申し訳なかった。
スクード公爵、そしてクラレンス公爵令嬢」

プリムローズは腰の低い謝り方をするので、想像と違っていて内心驚いた。

「これはパーレン伯爵!
お会いしたのは、いつ振りだろうか。まぁ、座って下さい」

角がたたないように公爵はそう言ったが、伯爵一家に嫌みを言うのを忘れなかった。

「伯爵よりご令嬢から、こちらのクラレンス公爵令嬢に謝罪するのがすじだと思いませんか?!」

そう公爵が話すと、何故か母親の伯爵夫人が不機嫌ふきげんな表情をみせる。
公爵夫人ニーナ様が話していた通り、昔の毒女だけあり素直にはいかないようね。

伯爵一家が席に着くと、問題の伯爵令嬢がムスッとしてプリムローズに謝罪の言葉を嫌々そうに伝えた。

「クラレンス公爵令嬢。
色々と誤解がありましたが、制服を汚したことは謝罪しますわ」
 
「パーレン伯爵令嬢。
謝罪しに来てくれて、有難う!
心からのびなら嬉しいけれど、色々とはいったい全体なんなのかしら?
ご令嬢は、素直ではないのね。
どちらの方に、その性格は似ましたのかしらね?!」

よもやの返しに、ここに居た一同は驚く素振りをした。

「娘テレーシアは、貴女に謝罪しましたわ。
公爵令嬢の方こそ、素直に受け入れるのが常識ではなくって?!
だから、他国の者は!ハッ!」

我慢できずに娘の擁護ようごし始めたが、寸前すんぜんのところで止める。

「ご令嬢は、もう成人されたのでしょう。
こういうときは、静かに見守る方が得策です。
パーレン伯爵夫人」

プリムローズはそう話すと、伯爵一家をせせら笑うのである。

スクード公爵は、ワザと怒らせているのに気づく。
そして、公爵はパーレン伯爵の表情を観察していた。

彼は王太子の座から落ちてから、社交界にはあまり出席していない。
王太子時代とは、雲泥うんでいの差。

特別な行事のみ出席する。
その場に居るか居ないかのわからないほど、ひっそりと目立つことはなかった。

「貴女が、お悪いよ!
デブは退けと、私に言ってくるから」

「私は、ただ前に通れないから少し退いてくれませんか?
そのように、貴女様に頼んだのよ。
いくら太っていてひがみ根性があるからと、そこまで被害妄想ひがいもうそうを言わないでくれませんか!」

目の前で丸い顔で丸い目をした2人に、言ってはいけない禁句を言った。

「おーおっ、お母様!!
今の話を、お聞きになりまして!
私の事を被害妄想って仰ったわ!」

「ええ、私もこの耳で聞きましたよ!
テレーシア、僻み根性も言いましたわ!」

二人は許せないと、これ以上ない形相ぎょうそうをする。

「知っておりますか?
この海の向こうの南の国では、太った方が美しいと称されてます。
理由は太っているのは食べることができるから、裕福な証拠なんですって!
殿方の全てが、細い方が好みとは限りませんわ」

話す内容は、パーレン伯爵が聞いたことがある話だと話す。

「確かに、そのような話は聞いた事がある!
太っているからこそ、それに安らぎを感じる国があるとー。
なかなかの博識ですな」

「ほう、【たで食う虫も好き好き】ですな。
人の好みは、千差万別せんさばんべつですから」

スクード公爵が、パーレン伯爵の話に続いて話された。

「父上さま、蓼とはなんですか?」

娘テレーシアが、父に意味を聞いてくる。

「蓼とは、ヤナギタデという植物だ。
茎や葉に苦味がある。
そんなものでも、好んで食べる虫もおるという例え言葉だよ」

「まぁ、旦那様!
そんなお言葉が、この世にございましたのね。
太っていて私も娘時代に陰口を言われて、すっかり意固地いこじになってしまいました」

伯爵夫人の話し方を伺うと、プリムローズは違和感を覚えた。
もしかして、私たちは誤解していたのかも?!

「話はガラリとかわるが、伯爵は王弟の子息が見つかったのはご存知か?!」

スクード公爵が、真っ向から話題にするのに驚いていた。
話題を出さずに、ゆっくりと腹の探り合いをするのではなかったの?!

「……、存じておりますよ。
私も、実の弟の息子に会いたいと願っています。
たが、私は罪を犯した。妻と婚姻したから、伯爵の身分になれたのです。
遠くからでも良い、いつか一目だけでも拝見できたらと思うのだよ」

この人は敵ではないの?
なんと、悲しげな瞳で話すのか。

「前から、疑問に思っていたのじゃ。
どうして、罪を犯されたのか玉座に相応ふさわしく人望もおありだった貴方様が…」

公爵は、この方をその様に見ていたのか。
私は、まだ上部うわべの話しか分からない。
この国で長く暮らしていて、初めて理解が可能になる。

「もうあれから長い年月も経つし、時効になるか。
私は隣の妻と婚姻こんいんする前に、好意を持った令嬢がいたのだ」

パーレン伯爵夫人は存じ上げていたのか、顔色は全く変わらなかった。
反対に娘テレーシアは、ビックリして父の顔を見つめていた。

彼の話では、愛した令嬢が病になり。
薬を探していたがその資金に、例の商船をおどした金を使ったそうだ。

「しかし、正直に父上である陛下に相談されたら宜しかったろうにー」

「スクード公爵、彼女は平民だった。
たまたま海賊を使い、商船を取り締まる役目を頂いた時に知り合ったのだ」

これは、悲しくもはかない恋だわ。
王太子と平民娘の恋愛は、物語なら結ばれるけど現実は無理!

プリムローズは、パーレン一家を見てため息をつきそうになる。

「それに、もう時間がなかったのだ。
彼女は出会った時には、病魔におかされていた。
どうしても、助けてあげたかったのだ。
結局は、無駄な努力に終わったがな…」

複雑な心境でそれぞれが、パーレン伯爵の若い恋の話を聞いていた。
亡くなった人を悪く言えず、娘テレーシアも暗い顔で静かにしている。

「ずっと、王太子時代から彼を好きだったのよ。
太っていて見向きもされないと分かっていたの。
王太子の身分を失って愛する人を亡くして、誰からも相手にされないから彼と婚姻できたのよ」

伯爵夫人は、全てを受け止めて愛しているんだわ。
ラファエル様のお言葉が、頭に浮かんだ。

「人を愛することは、素晴らしい事だけではない。
人はそれぞれ違います。
留学前にある人が、私に仰ってくれました。
伯爵夫人は、そこまで伯爵を愛してますのね」

その言葉に部屋にいた人たちは、この思いに何を感じたのだろうか。
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